孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

【第2話】女教皇・アベンチュリ(1)(脚本)

孤独が仰ぐ、空は青

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〇花模様
  4月16日。
天音トオル「ついに咲いたー!」
ハーキマー「お前のおかげだな」
天音トオル「いやいや、僕は何も」
天音トオル「で?ここから、どうすれば前世の記憶を思い出すことが出来るんだ?」
ハーキマー「今日の深夜、満月になる」
ハーキマー「月の力を借りよう。 3時半にもう一度ここへ来い」
天音トオル「深夜の3時半?病院、閉まってるよ」
ハーキマー「裏口の通用門を開けておく。 おばあさんも連れて来い」
天音トオル「ばーちゃんも?」
天音トオル「いや確かに一番に見せたいとは言ったけど、さすがにその時間は寝てるよ」
ハーキマー「いいから、連れて来い」
  ハーキマーは、いつになく真剣だった。

〇明るいリビング
  深夜に桜を見に行く。
  こんな意味不明な提案、
  絶対に却下されると思っていたが
  ばーちゃんは意外とすんなり承諾した。

〇病院の入口
天音トオル「夜の病院・・・怖っ」

〇中庭
「あ、いた。おーい、ハーキマー!」
天音トオル「ばーちゃん。この子が、一緒に桜の世話をしていたハーキマーだよ」
天音鈴子「・・・久し振りね、ハーキマー」
ハーキマー「鈴子・・・元気そうで何よりだ」
天音トオル「え?二人は知り合いなのか?」
天音トオル「ん?その犬は?」
  桜の木の前に立つハーキマーの後ろに、見慣れぬ白い大きな犬がいた。
アベンチュリ「こんばんは。アベンチュリと申します」
天音トオル「犬が!しゃべった!」
ハーキマー「アベンチュリは、女教皇を司る精霊だ」
天音トオル「じょきょうこう?」
アベンチュリ「トオルさん。私の首輪についている羽根と本の飾り、見えますか?」
天音トオル「・・・モフモフしてて見えない」
アベンチュリ「本には、この地上全ての生き物の過去と未来が記録されています」
天音トオル「過去と未来・・・じゃあ、羽根には何が?」
アベンチュリ「時空を超えた前世からの魂の記憶が。これを「アカシックレコード」と呼びます」
アベンチュリ「私はこれら全てを守る精霊なのです」
天音トオル「過去、未来、前世からの記憶・・・アカシックレコード・・・もしかして・・・」
天音鈴子「そう。貴方の前世の記憶は、このアベンチュリが保管してくれているのよ」
天音トオル「は?」
天音トオル「・・・ばーちゃん?」
天音鈴子「貴方の前世の記憶。取り出して保管してほしいとお願いしたのは・・・私だから」
天音トオル「ちょっと待って。話が見えない。 一体どういうことだ?」
ハーキマー「トオル。そろそろ時間だ。 説明するより、記憶を戻した方が早い」
アベンチュリ「ではトオルさん、そして鈴子さん。桜の木に手をついて目を閉じて下さい」
天音トオル「ばーちゃんも?」
ハーキマー「いいから早く」
  ハーキマーに促され、僕とばーちゃんは桜の木の幹にゆっくり手をついた。
  すると桜は、柔らかい光に包まれた。

〇花模様
  アベンチュリがブツブツと唱え出す。
  すると、アベンチュリの首輪についていた羽根が浮かび上がって大きくなった。
  大きくなった羽根から光がいくつも飛び出し、桜の花に吸い込まれていく。
(この感じ・・・前に桜に触れた時にきたアレだ。映像が頭に流れ込んでくる・・・)

〇木の上
ハーキマー「こんなところで何してる」
???「あなた、だあれ?」
ハーキマー「私は魔術師の精霊・ハーキマーだ」
???「まじゅつし~?それってえらいの?」
ハーキマー「めちゃくちゃ偉大だ。ある程度のことなら、私には何でも出来るのだ」
???「ほえ~!スゴイ!じゃあハーキマー、この桜を今すぐ咲かせるのだー!」
ハーキマー「はあ?まだ2月だぞ?」
ハーキマー「こんな時期に桜が咲いたら、皆ビックリしてSNSで大拡散されてしまうぞ」
???「かくさん~?」
???「え~、今すぐ見せてあげたいのに~」
ハーキマー「見せる?誰に?」
???「この病院で知り合った男の子!」
???「私の・・・好きな子なの」
ハーキマー「来月まで待てば普通に咲く」
???「その子の手術がね、来週なの」
???「この桜が咲いたら、あの子も手術がんばろう!って気持ちになるんじゃないかなぁ」
ハーキマー「ったく。1回限りの大サービスだぞ?」

〇花模様
???「ハーキマー!この前はありがとう。あの子の手術、無事に成功したよ!」
???「あ!来た!トオルくん!」
トオル(10歳)「こ・・・こんにちは」
???「トオルくん、退院が決まったんだよ!」
ハーキマー「退院か。良かったな」
???「ねえ、トオルくん!来年も一緒に桜を見に来ようよ!ハーキマー、いいでしょう?」
ハーキマー「私はずっとここにいるわけじゃないぞ」
トオル(10歳)「じゃあ桜が咲いたら、皆でここに集まろうよ!三人で桜を見るんだ」
???「いいね!じゃあ私、ハーキマーへのお供え物を持ってくる係~!」
ハーキマー「おいコラ、私は神でも仏でもないぞ」

〇黒
  思い出した。
  前世の僕も、この桜の下で、
  ハーキマーに出会ったんだ。
  退院してからも、僕は毎年、
  春になると病院を訪れた。
  あの女の子と一緒に。
  満開の桜の木を囲んで、
  三人で他愛も無い話をした。

〇明るいリビング
  そして・・・8年後。
???「ねえ、トオル!見て見て? ハカマ、似合ってる?」
トオル「あぁ。もう卒業か~。 僕はようやく大学生になるっていうのに」
???「ふふ、私は年上だし短大だからね。先に社会人になって待ってるね?学生くん?」
トオル「子ども扱いすんなよな~! たった2歳年上なだけじゃんか」
???「2歳は大きいよ~?」
???「あ、ねえ、今日の卒業式。 トオルは何時ぐらいに来てくれるの?」
トオル「式が始まるまでには行くよ」
トオル「ちょっと・・・寄るところがあるから」
???「ふーん?」
トオル「あ、卒業祝いに、今夜は焼き肉おごる」
???「焼き肉?やったあ!」

〇宝石店
  僕は、とある宝石店へ来ていた。
トオル「よし。今日こそプロポーズ・・・!」
  指輪を受け取り、外へ出た瞬間。

〇渋谷のスクランブル交差点
  大きな衝撃が僕を襲った。
  赤く染まる視界。
  遠くなる意識。
  僕の記憶は、そこでプツリと途切れた。

〇中庭
???「ハーキマー!ねえ、ハーキマー! いるんでしょう?」
ハーキマー「なんだ、お前か。 今日はひとりか?トオルは?」
???「トオルが・・・交通事故に遭ったの。この病院に運ばれたんだけど・・・」
???「即死だった・・・」
ハーキマー「即死・・・そんな・・・嘘だ・・・」
???「ハーキマー!お願い・・・ 一生のお願いよ!トオルを生き返らせて!」
ハーキマー「・・・お前の気持ちは分かるが・・・ それは・・・無理だ・・・」
???「そんな・・・そんな・・・私・・・トオルがいないと生きていけない。私も死ぬ!」
???「そうすれば、またトオルと一緒にいられる・・・今すぐトオルのそばへ行く!」
ハーキマー「おい、こら待て!分かった・・・分かったから・・・とりあえず落ち着け!」
???「止めないで!」
???「トオルがいない世界で・・・」
???「どうやって生きていけばいいかなんて・・・私には分からないもの!」
ハーキマー「・・・」
ハーキマー「・・・ひとつ・・・方法がある」
???「・・・何?教えて!」
ハーキマー「トオルの生まれ変わりを待つんだ」
???「生まれ変わり・・・?」
???「生まれ変わったトオルは・・・私を見付けてくれる?私に気付いてくれる?」
ハーキマー「トオルの記憶を取り出し、保管しておく」
???「記憶を・・・取り出す?」
ハーキマー「そうだ。生まれ変わっても前世の記憶があれば、お前たちはきっとまた出逢える」
???「トオル・・・トオル・・・」
???「私、待ってる。 いつまでも・・・貴方を待つよ」

〇黒
  目に熱いものがこみあげてくる。
  光はおさまり、僕は静かに目を開けた。
  隣では、ばーちゃんが涙を流し
  僕の方を見つめている。
  あの女の子は・・・
  天音鈴子。
  僕の・・・ばーちゃんだった。

次のエピソード:【第3話】女教皇・アベンチュリ(2)

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