エピソード2(脚本)
〇女性の部屋
菅原 樹「冴子! ベッドの下に隠れろ!」
俺は声を潜めて叫んだ。
高橋 冴子「う、うん」
冴子は俺の言うとおりにベッドの下に潜り込んだ。
その直後、白衣の男性が部屋に入ってきた。
吉沢 秀治「・・・・・・!」
菅原 樹「・・・・・・」
吉沢 秀治「・・・きみは?」
菅原 樹「菅原です。 菅原樹・・・」
吉沢 秀治「ああ・・・、菅原さんの所の・・・」
菅原 樹「・・・はい」
吉沢 秀治「私は吉沢。 君のお父さんとは同僚に当たる人間だよ」
菅原 樹「はい・・・」
小さな島だ。
名前は知らなかったが、みたことのある顔だった。
吉沢 秀治「1階の光景・・・、 見たかい?」
菅原 樹「・・・はい」
吉沢 秀治「・・・で、 なにがあったのか、君は知ってるのかい?」
菅原 樹「・・・いえ。 僕が来たときには、もう・・・」
吉沢 秀治「・・・そうか」
吉沢 秀治「ここの娘の冴子ちゃんとは、同級生だったね?」
菅原 樹「・・・はい」
吉沢 秀治「彼女、 ・・・見なかったかい?」
菅原 樹「・・・いえ」
俺は悟られないように、目をそらさず、まっすぐ彼の顔を見ながら答えた。
吉沢 秀治「・・・そうか」
菅原 樹「・・・あの」
吉沢 秀治「うん?」
菅原 樹「なぜ・・・、 ここへ?」
吉沢 秀治「ああ・・・。 冴子ちゃんのご両親が会社に来なかったからね。 それで、様子を見に来たんだ・・・」
菅原 樹「・・・そうですか」
吉沢 秀治「ところで・・・、」
菅原 樹「・・・はい?」
吉沢 秀治「ベッドの下に何かいるようだが・・・?」
菅原 樹「え・・・? そんなことないです・・・」
吉沢 秀治「・・・ほう。 君はベッドの下をすでに確かめたのかい?」
菅原 樹「・・・え? いや・・・、 そんなことは・・・」
吉沢 秀治「そうか・・・。 じゃあ、私が確かめてみるよ」
菅原 樹「・・・・・・」
俺は狼狽し、何もできなかった。
吉沢さんが確かめるまでもなく、
観念したように、冴子がベッドの下から出てきた。
吉沢 秀治「・・・冴子ちゃんだね?」
高橋 冴子「・・・はい」
冴子は消え入るような声でつぶやいた。
吉沢 秀治「一所に研究所に行こうか・・・? いろいろ話も聞きたいし」
高橋 冴子「・・・・・・」
菅原 樹「け、警察は呼ばなくていいんですか・・・?」
吉沢 秀治「・・・警察か。 私は、詳しい事情を知らないのだが・・・、 それをしたら、冴子ちゃんにとって良くない結果とならないかね?」
菅原 樹「・・・・・・!」
俺は戸惑った。
どうすればいいのか、さっぱりわからない。
菅原 樹「研究所が・・・、 冴子を助けてくるのですか・・・?」
吉沢 秀治「・・・保証はできない。 ただ、最善を尽くそう」
俺は黙って、冴子を見た。
冴子はうつむいたまま、俺の手を握り締めてきた。
それが拒絶の意思だと俺には感じられた。
だが・・・、どうすればいいのだ?
菅原 樹「あの・・・、 冴子と2人で話をする時間をくれませんか?」
吉沢 秀治「いや、急いだほうがいいだろう。 警察が来てからでは遅い」
菅原 樹「・・・そうですか」
俺は、冴子を見た。
冴子は、強く俺の手を握り締めてきた。
吉沢 秀治「じゃあ、行こうか。 冴子ちゃん」
冴子はかぶりを振り、俺の後ろに隠れようとした。
吉沢 秀治「・・・困ったな」
菅原 樹「・・・冴子」
どうしたらいいのか・・・?
警察を呼べばいいのか・・・?
わからない・・・。
ただ、吉沢さんの強制的でない態度が、すこし俺に安心感を与えた。
菅原 樹「吉沢さん・・・」
吉沢 秀治「・・・うん?」
菅原 樹「お、おれも、冴子に付き添っていいですか・・・?」
吉沢 秀治「・・・そうだね」
吉沢は少し考えた後、
吉沢 秀治「まぁ、いいだろう」
俺は、冴子の手を握り返した。
菅原 樹「冴子、大丈夫だよ・・・」
囁くようにつぶやいた。
冴子は、ちいさくうなずいた。