閑話〜雪乃と圭子〜(脚本)
〇古いアパートの部屋
月白雪乃「・・・はぁ。 うまくいかないなぁ・・・」
今回の一件が、怪我人の出ないうちに手打ちとなったのだけが救いだった。
月白雪乃(本来なら、私一人の勝手な単独捜査で済ませるべきだったんだよね・・・)
しかし、この世界は異形の脅威や未だ解明され尽くしていないテラによる能力など、多くの障害が散在している。
新大特区から離れたこのような追憶街の僻地では、様々なリスクが跳ね上がる。
独りで何かを行うことには限界があった。
月白雪乃(だけどほとんど私用みたいなものを班の仕事としちゃう度胸もなくて・・・)
月白雪乃(結局一番曖昧で中途半端な形でみんなを巻き込んで・・・ ホント、何やってるんだろう・・・)
明日香と灯が許してくれたとはいえ、二人を傷つけ、知らないうちに危険にまで晒してしまったことに変わりはなく。
雪乃は罪悪感と自己嫌悪で、うまく寝られそうになかった。
何度目かのため息を吐いた、その時だった。
赤銅圭子「やっほー雪乃、なんかおつまみない!?」
月白雪乃「・・・私鍵かけたはずなんだけど」
赤銅圭子「持ってるし!!」
赤銅圭子「ねー、なんか食べるものちょーだいよ。 さっき居酒屋で美味しい酒見つけてさぁ。 瓶ごと買ってきたんだよ!!」
赤銅圭子「ほれほれ〜 あ、雪乃も呑む? しっかたないなー!!」
月白雪乃「言ってない。 ・・・はぁ、今日はもう疲れたからさ、悪いけど自分の部屋で呑んでくれる? この下の階でしょう?」
赤銅圭子「あっは、冷たっ!! さすが雪乃、冷気操るの上手ねぇ」
月白雪乃「ねぇ圭、お願いだから・・・ 明日は烏羽邸に行かなきゃだし・・・ これから班長としてしっかりしなくちゃいけないの」
月白雪乃「寝不足でコンディション悪いなんてなったら、目も当てられない・・・!!」
赤銅圭子「だーいじょぶだってぇ」
赤銅圭子「あの2人だって、隠し事が以外のところでは雪乃が真面目に誠実に向き合ったからこそ、今回の件も許してくれたんじゃん」
月白雪乃「だったら尚更、これからはもっときちんとしていかないと・・・!!」
赤銅圭子「だーめだめだめ そんなんじゃあたしの息が詰まるわぁ」
月白雪乃「そんなこと言って・・・」
赤銅圭子「雪乃」
ふっと、圭子の声のトーンがひとつ下がる。
とても優しい、穏やかな声だ。
赤銅圭子「大丈夫」
月白雪乃「・・・・・・」
部屋の中に沈黙が訪れた。
夜の海の中のような、心地よい、沈黙。
部屋の時計の針が動く音だけが響いた。
雪乃はしばらく沈黙の中で心を落ち着かせた後、落としていた視線をふと上げてみた。
赤銅圭子「あ、おつまみ作る元気出た!? あたし雪乃の卵焼き食べた〜い」
月白雪乃「もう、圭っ!!」
赤銅圭子「んひー♪ これやっぱ美味しいわー!」
月白雪乃「もう・・・」
月白雪乃「それ呑んだら、ちゃんと自分の部屋帰って寝てよ?」
赤銅圭子「ほいほーいっ」
雪乃は小さく笑った。
罪悪感は消えなくても、これからの事を前向きに考える気持ちにはなれた。
月白雪乃「まったく・・・」
雪乃は、機嫌良く酒瓶を空にする隣人を眺めながら、今日の卵焼きには圭子の好きなチーズを入れてあげようかなんて事を考えた。