#1 記憶消去 ―Reset―(脚本)
〇研究機関の会議室
フィーチャーテーブル──
そこは殿堂プレイヤーや全勝者同士による対戦が行なわれる、カードゲーム大会の最前線
全プレイヤーの目標であり、憧あこがれでもあるその舞台──
『メイジ・ノワール』世界大会決勝
決勝進出者ファイナリストとして、フィーチャーテーブルに着席した駿河秋人(するが・あきと)は──
スポットライトの眩まばゆい光に目を細めた
たかがカードゲーム
所詮は〝運ゲー〟
負けるたびに愚痴り、引きの悪さを、ゲームシステムを呪い・・・・・・
それと同じく。
いや、それ以上に──
こうしたら勝てるんじゃないかと淡いい期待を抱いて、持てるカードを引っかき回し、紙の束を握にぎりしめ──
歯車が噛かみ合ったようにカチリ、と的中したときのうれしさ、高揚感
誰も注目していなかったカードの組み合わせで、ライバルたちの度肝を抜く爽快感。
ひとつのミスが敗けに繋がる緊張のなか──
震ふるえる指先でカードを操り、活路を切り開いていく勝利の喜よろこび──
あんなにドキドキしていたはずのゲームプレイは、しかし──
いつしか自分を追い込む重荷になっていた
カードパックをむくときのあのハラハラは、ただの作業になり──
強いレアカードや箔押フォイルしカードは、使い捨ての消耗品になった
負けたらあとがない選手を追い詰め、投了させることになんの罪悪感もなくなり──
自分よりも弱いプレイヤーにイラだち、気がつけば自分の周りには誰もいなかった
ぐるりと囲む中継のカメラ──
表情のない審判(ジャッジ)の目
相手を屈服させてやるというような、酷薄な目つきの対戦者
駿河秋人(これが――自分の追い求めていたものなのか?)
秋人は空虚な胸の内を眺ながめ、呆然とした
ジャッジ「キミ、イヤホンを外して」
駿河秋人「・・・・・・」
しかし、秋人はジャッジを無視し、スマートフォンを操作した
ハイレゾフォーマット対応のプレイヤーを起動して、〝それ〟を流す
――キュゥイン
高周波が耳の奥で鳴ったのを最後に──
駿河秋人との意識は暗転した
好きなことであっても、夢中になりすぎるあまりに、気づけばそれがプレッシャーになり逃げ出したくなることってありますね。そんな主人公の様子に共感しました。しかしそれを乗り越えてふたたびやってみたくなるのはやはり天命なのでしょう。