いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第10話「待ってるだけじゃ嫌」(脚本)

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〇大樹の下
  第10話
  「待ってるだけじゃ嫌」
  反射的に口をつぐんだ唇に──
  ちゅっ
  ヴィクターが、キスをした。
ローズ「っ・・・!?」
  どっ どっ
  心臓が、激しく音を立てる。
ヴィクター「──いなくなったら、どうしようかと思った」
ヴィクター「君のいない世界でどうやって生きていこうって・・・」
ヴィクター「ずっと不安だった」
ローズ「ご・・・ごめんなさい」
ローズ「盗賊のところからなかなか抜け出せなくて・・・」
ヴィクター「・・・本当に、無事でよかった」
ヴィクター「元気な姿を見れただけでも、わざわざ屋敷に忍び込んだ甲斐があったよ」
ローズ「あ・・・」
ローズ(そうよね、こんな時間にいるんだもの 正面から入ってきたわけじゃないはずだわ)
ローズ「ど、どうして忍び込むなんてこと?」
ローズ「昼間にきてくれればよかったのに 正面から堂々と・・・」
ヴィクター「それはできないよ」
ヴィクター「忘れたの? 僕は犯罪者なんだよ」
ローズ「あ・・・」
ヴィクター「実家からは追われる身だし、もともと僕の家は君の家と折り合いが悪い」
ローズ(そ、そうだったわ・・・ ヴィクターは私のうちを襲ったハロウズ家の人間)
ローズ(それに今は、ハロウズ家の嫡男を殺した殺人犯ってことにもなってる)
ローズ(理不尽な結婚から逃げ出してきた親戚の私ならともかく──)
ローズ(叔父様はきっと、ヴィクターのことまで助けてはくれないわ・・・)
ローズ(それに私とヴィクターの関係だってよく思わないかもしれない)
ローズ(下手をすれば引き裂こうとするかも・・・)
ローズ(ん? でも待って)
ローズ(最初に叔父様に助けを求めようと言い出したのはヴィクターよね?)
ローズ(ということは・・・)
ローズ「・・・ヴィクター あなた、最初からこうするつもりだったのね?」
ヴィクター「・・・」
ローズ「叔父様に私だけを預けて・・・」
ヴィクター「ああ そうすれば、君の安全は確保されるからね」
ローズ「でも、これじゃまた離ればなれだわ!」
ヴィクター「ごめん でも、こうしてまた会いにくるから・・・」
ローズ「ヴィクター・・・」
ローズ「ねえ、私・・・もう嫌なのよ 待つだけは嫌」
ローズ「それじゃハロウズ家の屋敷から逃げ出す前と変わらないもの・・・!」
ローズ(あのときも・・・ いいえ)
ローズ(その前から、私はヴィクターがきてくれるのを待つだけだった)

〇養護施設の庭
  お父様もお母様もいて、まだ幸せだったあの頃──
ローズ「ねえ、今日もきてる?」
ヴィクター「きてるよ」
  あの頃も、私は待っているだけだった。

〇大樹の下
ローズ「でも、もうそれじゃ嫌なの 自分の足で歩くことを知ってしまったから・・・」
ヴィクター「それなら、君も僕に会いにきたらいい」
ローズ「え?」
  ヴィクターは私に、手のひら大の紙切れを差し出した。
  そこには見覚えのない住所が記されていた。
ローズ「あなた、ここに住んでるの?」
ヴィクター「ああ」
ローズ「じゃあ、明日にでも会いにいくわ!」
ヴィクター「待ってるよ」
ヴィクター「そうだ 君にひとつ忠告」
ヴィクター「君がサイラスを殺したことは、ここでも黙っておいた方がいい」
ローズ「え・・・どうして?」
ヴィクター「言っても君にメリットがないからだよ」
ヴィクター「あの事件はすべて僕のせいにして 君と僕は何の繋がりもない──」
ヴィクター「そういうことにしておこう それが君のためだ」
ローズ「でも、あなたは私を庇ってくれただけなのに・・・」
ローズ「これ以上あなたに罪を負わせるようなことはしたくないわ」
ヴィクター「君はここにいる間、叔父上の庇護を受けなくちゃならない」
ヴィクター「そのためにも、君に不利になる情報は伏せておいたほうがいいんだよ」
ヴィクター「わかるね?」
ローズ「でも・・・」
ヴィクター「ローズ」
ローズ「・・・わかったわ」
ヴィクター「よかった それじゃ、僕はそろそろいくよ」
ヴィクター「君も見つかる前に部屋に戻ったほうがいい 見送りはいいから・・・」
  私は彼が裏口のほうに消えていくのを見届け、
  静かに部屋に戻った。

〇城の客室
  翌日
ローズ(よし!)
  使用人にこっそりと持ってこさせた町娘の服に着替えた私は、
  昨日、ヴィクターからもらったメモをスカートのポケットにしまう。
  貴族の娘は普通、外出のときには従者がつくものだが、
ローズ(これなら貴族に見えないわよね? 一人で歩いてても変じゃないはずだわ)

〇城の廊下
  そ~・・・
ローズ(誰もいないわよね?)
  音もなく部屋を出た私は、辺りを警戒しながらそろそろと廊下を歩く。
  すると──
叔父様「どこにいくんだ? ローズ」
ローズ「あ、叔父様!」
  廊下の曲がり角から、叔父様が現れた。
ローズ(見つかっちゃった・・・)
ローズ「こ、こんにちは叔父様」
叔父様「どこかに出かけるのか?」
ローズ「え、ええ お天気がいいから、ちょっとお出かけしようと思ってたんです」
叔父様「その格好でか?」
ローズ「ええ、まあ・・・」
ローズ「し、しばらく盗賊団で平民の格好をしていたせいで、ドレスだとなんだか落ち着かなくなってしまって・・・」
叔父様「何か入用なのか? それなら誰かを買いに出させるが」
ローズ「そ、そういうわけではないんですが ちょっと街を散策しようかと・・・」
叔父様「供もつけずにか?」
ローズ「ほ、ほら私、盗賊団と現れたときにずいぶん注目されてしまったでしょう?」
ローズ「だからこれ以上目立ちたくなくて・・・」
叔父様「ローズ」
ローズ「は、はい」
ローズ(まずい、怪しまれた?)
叔父様「妻と話し合って決めたんだが・・・」
叔父様「君にはしばらく家にいてもらおうと思う」
ローズ「え? ええ・・・」
ローズ「叔母様には昨日、しばらくこのお屋敷で暮らすようにと言われましたが・・・」
叔父様「そうではない」
叔父様「単刀直入に言うと、外出禁止ということだ」
ローズ「え・・・?」
叔父様「だから、大人しく部屋に戻りなさい」
ローズ「ど、どういうことですか? 外出禁止って・・・」
ローズ「私、何かしましたか?」
叔父様「そういうわけじゃない しかし、君の将来を思ってのことだ」
叔父様「詳しくは夕食の席で話そう」
叔父様「私は仕事があるから、これで失礼するよ」
叔父様「屋敷の中は自由にしていいが 決して敷地の外には出ないように」
叔父様「それと、その服は今すぐ着替えるんだ」
叔父様「いいね?」
ローズ「そ、そんな・・・!」
  一方的に言うと、叔父様はさっさと廊下を歩き去ってしまった。
ローズ(ど、どうして!? また閉じ込められなきゃいけないの!?)
  第10話「待ってるだけじゃ嫌」終
  
  第11話に続く

次のエピソード:第11話「君のため」

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