ヴァンバスター

真中 真(まなか まこと)

ヴァンバスター(脚本)

ヴァンバスター

真中 真(まなか まこと)

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〇黒背景
  怪事件
  過去には、原因不明の不可思議な事件のことを指していたが
  近年では、人間を超える力を持つ人間
  通称『怪人』の犯行による怪事件が多発
  怪事件は、『怪人事件』と呼ばれるようになった──

〇港の倉庫
  とある港
リヒト「君かい?怪人になりたいというのは?」
???「・・・」
リヒト「いいだろう。これをあげるよ」
???「これは?」
リヒト「怪人の血液だよ」
リヒト「それを飲めば、君も怪人になれる」
リヒト「力が欲しいんだろう?」
リヒト「悪事を為す、力が」
リヒト「それを飲めば、そのための力が手に入る」
???「・・・」
???「ゴクンッ!」
???「これで・・・いいのか?」
リヒト「ああ、すぐに反応が表れる」
???「か・・・身体が・・・!!」
???「これが・・・怪人・・・」
リヒト「うまく身体に、適合したようだね」
リヒト「さぁ、君は力を手に入れた!」
リヒト「その力を、どう使うかは君の自由だ!!」
リヒト「ただし・・・」
リヒト「『ヴァンバスター』には、気を付けるんだよ」

〇取調室
高島 正義「お前がやったんだろう!!」
倉田 銀二「何度も言っているだろう?刑事さん」
倉田 銀二「俺は、やってねぇって」
高島 正義「嘘をつくな!」
倉田 銀二「嘘なんかついてねぇよ」
倉田 銀二「嘘だと思うなら、証拠を見せてくれよ」
高島 正義「くっ!」
倉田 銀二「あんたも黙ってないで、何とか言ってやってくれよ、橘さん!」
橘 利明「・・・」
倉田 銀二「俺は、十年前あんたに捕まった」
倉田 銀二「そして刑期を終え、心を入れ替えてシャバに戻ったんだ」
倉田 銀二「その数日後に、たまたま、あんたの奥さんと子供が何者かに殺された」
倉田 銀二「もちろん、犯人は俺じゃねぇぜ?」
倉田 銀二「最近噂の怪人の仕業じゃねぇのか?」
倉田 銀二「・・・ククッ!どんな気分だ、橘さん?」
倉田 銀二「正義感の強いあんたが、為すすべもなく大切な家族を失った気分は?」
高島 正義「貴様ぁ!!」
倉田 銀二「痛てぇ・・・!!」
橘 利明「どうしたんだ?」
高島 正義「分かりません。急に脚を抱えて痛がっている様子ですが・・・」
倉田 銀二「あ・・・脚が・・・!!」
高島 正義「脚に・・・切り傷!?」
倉田 銀二「た・・・」
倉田 銀二「助けてくれぇ──!!」
高島 正義「倉田が、バラバラに・・・!」
橘 利明「一体・・・」
橘 利明「何が起きたんだ・・・!?」

〇国際会議場
  怪人事件対策本部
橘 利明「・・・以上が、事の顛末の全てです」
警察庁長官「ふむ・・・」
警察庁長官「被疑者が突然、刃物で斬られたかのようにバラバラになった・・・か」
警察庁長官「被疑者以外に取調室にいたのは、君たち二人だけだな?」
橘 利明「はい、間違いありません」
高島 正義「ですが、二人とも凶器は所持しておらず、おかしな動きはしておりませんでした!」
高島 正義「このことは、監視カメラの映像でも確認済みです」
橘 利明「・・・もしかしたら、姿を消せる『怪人』の犯行かもしれません」
警察庁長官「『怪人事件』・・・か」
警察庁長官「これが『怪人事件』であるならば、あの男の助けを借りざるを得ないな」
警察庁長官「あの男を──」
警察庁長官「『ヴァンバスター』を呼べ!!」

〇警察署の廊下
高島 正義「橘さん!」
橘 利明「何だ?」
高島 正義「『ヴァンバスター』とは、何者ですか?」
橘 利明「君には、まだ話していなかったな」
橘 利明「ヴァンバスターは、簡単に言うと」
橘 利明「怪人を倒す怪人──だよ」
高島 正義「怪人を倒す怪人!?」
高島 正義「怪人事件解決に、怪人の力を頼るんですか?」
橘 利明「そうだ」
橘 利明「近年、怪人事件は、増加するばかり」
橘 利明「そして、その怪人一体一体が人間の想像を超える力を持っている」
橘 利明「もはや、警察だけの手には負えん」
橘 利明「我々は、ヴァンバスターに頼らざるを得ないのだよ」
橘 利明「高島!」
高島 正義「はい!」
橘 利明「今回の怪人事件、お前にはヴァンバスターの監視役になってもらう」
高島 正義「監視役ですか!?」
橘 利明「ああ、そうだ」
橘 利明「警察も、ヴァンバスターを信用しているわけではない」
橘 利明「彼を動かすには、監視役が必要なんだ」
橘 利明「その監視役を、お前に任せる」
高島 正義「そいつは、危険なやつなんですか?」
橘 利明「昔は・・・な」
橘 利明「だが、過去の事件が原因で、今は怪人としての力を失っていると聞く」
橘 利明「これから、ヴァンバスターに会いに行ってくれ」
橘 利明「彼には、私から話をつけておく」
高島 正義「・・・分かりました」

〇殺風景な部屋
高島 正義「お前が『ヴァンバスター』か?」
???「ヴァンバスター・・・」
???「怪人を倒す怪人・・・」
桐生 バルト「自分でそう名乗ったことはないが」
桐生 バルト「君たち人間が、呼びたいように呼べばいい」
高島 正義「『桐生バルト』・・・人間としての名前もあるそうだな」
桐生 バルト「そうだよ。どちらかと言うと、そっちの方が気に入っている」
高島 正義「俺は、高島正義。今回の怪人事件でお前の監視役になった」
高島 正義「事件解決のために、お前の力を借りたい」
桐生 バルト「やれやれ、怪人としての力は失っているというのに、人使いが荒いものだ」
桐生 バルト「いや、怪人使い・・・か」

〇取調室
倉田 銀二「助けてくれぇ──!!」

〇殺風景な部屋
高島 正義「監視カメラの映像はここまでだ」
桐生 バルト「ふむ。状況は理解した」
桐生 バルト「犯人が分かったよ」
高島 正義「本当か!?」
桐生 バルト「犯人は、取調室にいた人物だ」
高島 正義「・・・何だと!?」
高島 正義「ふざけるな!俺や橘さんを疑っているのか!?」
桐生 バルト「いいや、疑ってなどいないよ」
桐生 バルト「確信している」
高島 正義「・・・信用できないな」
高島 正義「お前、怪人なんだろう?」
高島 正義「怪人をかばって、俺たち人間に罪をなすりつけるつもりじゃないのか?」
桐生 バルト「信用されないのは、慣れているよ」
桐生 バルト「証拠を見せよう」
高島 正義「あるのか!?」
高島 正義「証拠があるなら教えてくれ!!」
桐生 バルト「高島君・・・だったね」
桐生 バルト「僕と取引をしないか?」
高島 正義「取引?」
桐生 バルト「そうだ。僕がこの怪人事件を解決する代わりに」
桐生 バルト「君に頼みたいことがあるんだ──」

〇港の倉庫
高島 正義(取引・・・か)
高島 正義(あいつの言うとおり、港に来たが)
高島 正義(本当にこれでいいんだろうか・・・)
橘 利明「高島君!」
高島 正義「橘さん。来てくれてありがとうございます」
橘 利明「どうしたんだ?私をこんなところに呼び出して」
高島 正義「いえ、呼び出したのは私ではなく・・・」
桐生 バルト「私ですよ」
橘 利明「ヴァンバスター!」
橘 利明「・・・どういうことだ?」
桐生 バルト「怪人事件の犯人が分かったんですよ」
橘 利明「・・・本当か!」
桐生 バルト「はい。それを今から説明します」
桐生 バルト「ただし、最初に断っておきますが、僕が話すのは、推理でも何でもない」
桐生 バルト「取調室の映像を観て、すぐに怪人の正体が分かりました」
橘 利明「何だって!?」
桐生 バルト「怪人の手がかりが映っていましたから」
桐生 バルト「いえ、正確には、“映っていなかった”から・・・ですね」
橘 利明「どういうことだ!?」
桐生 バルト「君たち人間は、怪人について知らなすぎる」
桐生 バルト「だから、こんな簡単なことにも気付かない」
橘 利明「勿体ぶらずに、早く言え!」
桐生 バルト「怪人と人間を見分ける方法があるんですよ」
桐生 バルト「怪人は──」
桐生 バルト「鏡に映らない」
橘 利明「鏡?」
桐生 バルト「そう。怪人の肉体を得た人間は、代わりに魂を失い」
桐生 バルト「その姿は、二度と鏡に映ることはない」
桐生 バルト「映像で確認しましたが、取調室に小さな鏡がありましたね」
橘 利明「被疑者を確認するための、マジックミラーか!!」
桐生 バルト「そこに、あなたの姿は映っていなかった」
橘 利明「・・・偶然、鏡に映らない角度だったんじゃないか?」
桐生 バルト「そうかもしれませんね」
桐生 バルト「ですが、何も過去の映像で証明する必要はない」
桐生 バルト「これは、私が怪人を特定するために持ち歩いている鏡です」
桐生 バルト「ご覧のとおり、怪人である私は、鏡に映らない」
桐生 バルト「そして、人間である高島君は鏡に映っている」
桐生 バルト「さて、あなたはどうでしょうね、橘さん?」
橘 利明「言い逃れはできない・・・か」
高島 正義「橘さん・・・本当なんですか!?」
橘 利明「ああ、私が倉田を殺した・・・」
橘 利明「この怪人の力でな」
高島 正義「どうして怪人なんかになったんですか?」
橘 利明「・・・倉田を殺すためだ」
橘 利明「あの男は、過去に私が逮捕したことを恨んでいた」
橘 利明「そして、その仕返しに私の妻と息子を殺したんだ」
橘 利明「だが、証拠がなかった・・・」
橘 利明「証拠がなければ、法で倉田を裁くことはできない」
橘 利明「倉田が、罰も受けずにのうのうと生きていくなど、私には耐えられなかった」
橘 利明「だから、私は力を欲した!!」
橘 利明「倉田に罰を与える、怪人の力を!!」
高島 正義「・・・そんな」
橘 利明「残念だが、怪人であることを知られた以上、お前たちを生かしておくことはできない」
橘 利明「まずは、ヴァンバスター!!」
橘 利明「お前から死んでもらう!!」
高島 正義「桐生──!!」

〇港の倉庫
高島 正義「もうやめてください!橘さん!!」
高島 正義「あなたは、奥さんと息子さんを失ってから変わってしまった・・・!!」
高島 正義「俺には、想像もできない絶望を味わったんでしょう!!」
高島 正義「でも、それでも強く生きて欲しかった」
高島 正義「父親のいない俺にとって、あなたは父親のような存在だった!!」
橘 利明「・・・」
高島 正義「俺のことを、もっと頼って欲しかった・・・」
橘 利明「もう・・・手遅れだよ」
高島 正義「そうですね・・・だから、せめて俺の手で・・・」
高島 正義「あなたを倒します!!」
橘 利明「その拳銃でか?残念ながら、ただの弾丸など、私には効きはしない」
橘 利明「何っ・・・!?」
橘 利明「高島・・・お前、まさか・・・」
高島 正義「・・・ただの弾丸は効かない」
高島 正義「だけど、銀の弾丸なら有効──なんですよね?」
高島 正義「桐生に聞きました。今回の事件の真相も、怪人を倒す方法も!」
橘 利明「クッ・・・まだだ!!」
橘 利明「私は、こんなところで終わらない!!」
「いいや、終わりだよ」
橘 利明「ヴァンバスター!お前は、確実に殺したはず・・・!!」
桐生 バルト「怪人の力を失ったままの僕なら、死んでいただろうね」
桐生 バルト「だが僕は、銀の弾丸で飛び散った君の血を吸って、復活した」
桐生 バルト「怪人である、君の血をね」
橘 利明「私の血を吸って、怪人の力を取り戻すことが狙いだったのか!!」
桐生 バルト「そうだよ。力を失い、幽閉され続けていた僕にとって、今回の事件は、またとないチャンスだった」
桐生 バルト「だけど、怪人の力を失った状態では、怪人を傷つけることもできない」
桐生 バルト「だから、高島君に取引を持ちかけたのさ」
桐生 バルト「僕が事件を解決する代わりに、犯人の怪人を銀の弾丸で撃つように」
橘 利明「復活したから何だというのだ!!」
橘 利明「また、お前を切り刻むだけだ!!」
桐生 バルト「・・・」
橘 利明「なっ!?・・・何故攻撃が効かない!?」
桐生 バルト「おいおい、聞いていなかったのかい?さっき、言っただろう?」
桐生 バルト「怪人である君の血を吸って、僕は復活したんだ」
ヴァンバスター「力を失っていたときの僕とは違う!!」
ヴァンバスター「元どおりとはいかないが、力の一部を取り戻したんだ」
ヴァンバスター「もはや、君は──」
ヴァンバスター「僕の敵ではない!!」
橘 利明「くっ・・・!!、強すぎる・・・」
ヴァンバスター「これで、終わりだよ」
橘 利明「なっ!?」
橘 利明「怪人化が解けた・・・?」
橘 利明「何をした!?」
ヴァンバスター「吸わせてもらったのさ」
ヴァンバスター「君の身体の中にある、怪人の血をすべて」
ヴァンバスター「僕の目的は果たした」
ヴァンバスター「もはや、君に用はない」
桐生 バルト「あとは、君が裁かれるだけさ」
桐生 バルト「人間の、法とやらでね」
橘 利明「くっ・・・!!」

〇港の倉庫
リヒト「・・・」
リヒト「あーあ、残念」
リヒト「僕の新しいおもちゃは、負けちゃったかぁ」
リヒト「やるじゃないか、ヴァンバスター」
リヒト「いや──」
リヒト「我が息子、桐生バルト」
リヒト「力も取り戻したようだし、これから面白くなりそうだ」
リヒト「この世界から、怪人はいなくならないよ」
リヒト「人間がいる限りね──」

〇殺風景な部屋
桐生 バルト「やぁ、君か」
高島 正義「橘さんは、警察に自首したよ」
高島 正義「これから、罪を償っていくってさ」
桐生 バルト「そうかい」
桐生 バルト「それで?今日は、何をしに来たんだ?」
桐生 バルト「また、怪人事件かい?」
高島 正義「・・・いや、違う」
高島 正義「今日は、謝りに来たんだ」
桐生 バルト「僕に?」
高島 正義「ああ、そうだ」
高島 正義「今回の事件、お前が、犯人は取調室にいた人物だと言ったとき」
高島 正義「俺は、お前を信じなかった」
高島 正義「お前が怪人だという理由だけで、だ」
高島 正義「悪かったな。許してくれ」
高島 正義「・・・?何をそんなに驚いているんだ?」
桐生 バルト「いや、そんなことで僕に謝りに来るなんて」
桐生 バルト「これまで、僕を人間のように扱う人間なんていなかったから」
桐生 バルト「・・・君は、珍しい人間のようだ」
高島 正義「人を珍獣みたいに言うな!」
高島 正義「人間には、いいやつも、悪いやつもいる」
高島 正義「お前を見て、怪人も同じじゃないかって思ったんだ」
桐生 バルト「・・・」
桐生 バルト「君には、僕がいいやつに見えたのかい?」
高島 正義「違うのか?」
桐生 バルト「・・・違うね」
桐生 バルト「僕は善でも、悪でもない、ただの──」
桐生 バルト「怪人さ」

コメント

  • 怪人は鏡に映らないとか、銀の弾丸で仕留めることができるとか、桐生が怪人の血で復活するとか、吸血鬼の要素が強い設定がダークファンタジーとミステリーの融合感や雰囲気を高めていて読み応えがありました。

  • 最後のバルトの一言がなんてクールなんでしょう!善でも悪でもないといいながら、人間の持つ悪を上手く裁いていくかけがえのない怪人の一人だと思います。人間が存在する以上、怪人はなくならないという彼の父親の言葉にも納得です。

  • 怪人の能力を手に入れて人間の悪を栽培した橘さんに同情します。良い怪人、悪い怪人の2種類が居れば、そこには必ずバトルが伴いますね。

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