いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第9話「自由に別れを告げて」(脚本)

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〇噴水広場
  第9話
  「自由に別れを告げて」
叔父様「おまえたちの要求は、飲めない」
ローズ「え・・・」
叔父様「領地の治安を守るのは領主の責務だ」
叔父様「盗賊がのさばっているのを放置するわけにはいかない」
叔父様「もちろんローズのことは助けてやりたいが・・・」
チェスター「ふん ま、そう都合よくはいかねぇか」
チェスター「じゃあこれでどうだ?」
チェスター「おまえたちはこの娘と引き換えに、人質を解放する」
チェスター「で、今日のところは俺たちが街を出るまで、そっちからは手を出さない」
チェスター「これなら後日、改めて俺たちを捕まえにこれるだろ?」
チェスター「どうだ? この娘の値打ちとしては妥当なところじゃねぇか?」
叔父様「・・・」
叔父様「わかった それで手を打とう」
叔父様「ただしおまえたちも余計な寄り道をせず すぐ街を出るんだ」
叔父様「もちろん暴力や略奪もなし いいな?」
チェスター「OK 決まりだな」
チェスター「ほら、いけよ 嬢ちゃん」
  チェスターが私の背を押し、
  捕まった盗賊たちの縄が解かれる。
「お頭ぁ!」
  盗賊たちは無事、仲間と合流し。
叔父様「ローズ! 怪我はないか?」
ローズ「え、ええ ありません」
叔父様「そうか! よかった・・・!」
チェスター「じゃ、俺たちはもういくぜ」
チェスター「また会うことがないように祈ってるよ ご両人」
叔父様「いや、おまえとは近々また顔を合わせるだろう」
叔父様「それがおまえの最期のときだ! 覚悟しておけ・・・!」
チェスター「おお、怖」
チェスター「ま、楽しみにしてるぜ、領主サマ」
チェスター「じゃあな」
  盗賊団が引き返していく。
ローズ「あ・・・」
  ──今の私は、解放されたばかりの人質。
  だから、お世話になったチェスターたちに今日までのお礼を言うことも、
  別れのあいさつをすることもできない。
  それが、なんだか少し──
ローズ(・・・寂しい、わ)

〇城の客室
  数十分後
  叔父様のお屋敷に案内された私は、
  用意されていたきれいなドレスに、久しぶりに身を包んだ。
ローズ(きれいだけど・・・ 久しぶりに着るとなんだか窮屈ね)
叔母様「よく似合ってるわ! ローズ」
  着替えを手伝いにきてくれた叔母様――叔父様の奥様が、短くなった私の髪を梳く。
叔母様「恐ろしい思いをしたわね・・・ 髪もこんなにされてしまって」
叔母様「本当に、やつらに何もされなかったの?」
ローズ「ええ、髪以外は」
叔母様「もう! レディーの髪をこんなにしてしまうなんて信じられないわ!」
叔母様「本当に野蛮な人たち!」
ローズ「でも、髪は叔母様がこうして整えてくれましたから・・・」
叔母様「当然よ! 美しいヘアスタイルは淑女の基本ですもの」
叔母様「でもあなたが無事で本当によかったわ」
叔母様「家族を二人も殺されたらたまらないもの・・・」
ローズ「え?」
ローズ(殺されたって・・・ どういうこと?)
叔母様「実はね、ローズ 私は昔、あの男に弟を殺されているの」
叔母様「盗賊団のリーダー・・・ チェスターっていったかしら?」
ローズ「え・・・」
叔母様「もう十年以上前のことだから、あなたが知らないのも無理はないけどね」
ローズ「うそ・・・ ど、どうしてそんなことに?」
叔母様「あの男は、弟が自分の妹を襲ったとか言って、弟を殴り殺したのよ」
叔母様「バカな男よね そんな見え透いた嘘ついて」
叔母様「貴族の子弟が平民の娘を襲うわけないじゃない!」
叔母様「あの男はその罪で街を追われて 今では有名な盗賊なのよ」
ローズ(そ、そうだったんだ チェスターにそんな過去が・・・)
ローズ(でも・・・チェスターが本当に意味もなく人を殺したのかしら?)
ローズ(きっと何か事情があったんじゃ・・・)
ローズ(たとえば・・・そう)
ローズ(叔母様の言った通り、叔母様の弟が本当にチェスターの妹に手を出したとか──)
ローズ「・・・チェスターの妹はまだこの街にいるんですか?」
叔母様「いいえ あの男が裁きを受けずに森に消えたあと すぐに一家全員街を出ていったと聞いたわ」
ローズ「そうですか・・・」
ローズ(それなら、当時のことをたしかめるのはもう難しいわね・・・)
ローズ(いや・・・)
  ・・・真実が、一体なんだというのか。
ローズ(チェスターが罪人としてこの街を出ていったことに変わりはないわ・・・)
  罪人となったチェスターは、森──人の世界の外に逃れ、
  法に守られることを放棄して、自分の身一つで生きていくしかなくなった。
ローズ(それだけが、たしかなことで・・・)
ローズ(でも、だとしたら──)
  サイラス・ハロウズを
  殺した私は、どうなるの?
ローズ「っ!」
叔母様「ローズ?」
叔母様「あ・・・ごめんなさい こんな話、今言うことじゃなかったわね」
叔母様「あなただってショックを受けてるのに・・・」
叔母様「ご、ごめんなさいね 今日はゆっくり休んで」
ローズ「あ・・・はい ありがとうございます」
ローズ「・・・」
  考えると恐ろしくなり、私はベッドに寝転んで、
  思考を放棄して、ゆっくりとまぶたを閉じた。

〇城の客室
ローズ「ん・・・」
ローズ「はっ」
  気がつけば、夜になっていた。
ローズ(ああ・・・あのまま寝ちゃったんだわ おかげで変な時間に起きちゃった)
ローズ(目も冴えてるし、しばらく眠れそうにない・・・)
ローズ(少し夜風にあたろう)

〇大樹の下
  私は窓を開け、窓枠に肘をついてぼんやりと庭園を眺める。
ローズ(明日からヴィクターを探さなきゃ)
ローズ(無事に街に着いてるといいけど・・・ でもどうやって探したらいいんだろう)
ローズ(・・・ん?)
  月明りの届かない木陰の下に、
ローズ「!!」
  人影が、見えた。
ローズ(うそ・・・侵入者!? 叔父様たちに知らせたほうがいいかしら!?)
ローズ(でも目を離すのも怖いし──)
  そう思いながら硬直していると、
  その人物が、影の下から歩み出てくる。
ローズ「──!!」

〇城の客室
ローズ(ヴィクター!!)

〇大樹の下
ローズ「ヴィクターっ・・・!」
ヴィクター「ローズ!」
  ぎゅっ
  私は彼の腕の中に飛び込む。
ヴィクター「もう会えないかと思ったよ! でも・・・よかった、無事なんだね?」
ローズ「ええ! あなたも元気?」
ヴィクター「ああ 君よりずいぶん早く街に着いて・・・」
ヴィクター「ずっと、君を探してた」
ヴィクター「盗賊に捕まってたってきたって聞いたけど、大丈夫?」
ヴィクター「その・・・ひどいことされたりとか」
ローズ「大丈夫よ! あの人たち、本当はそんなに悪い人じゃ──」
  盗賊たちとの日々を話そうと開いた唇の前に、
  す、とヴィクターが人差し指を立てた。
ローズ「?」
  反射的に口をつぐんだその唇に──
  ちゅっ
  ヴィクターが、キスをした。
ローズ「っ・・・!?」
  第9話「自由に別れを告げて」終
  
  第10話に続く

次のエピソード:第10話「待ってるだけじゃ嫌」

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