君と私とまあるいこころ

はじめアキラ

君と私とまあるいこころ(脚本)

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〇一人部屋
  朝起きたら、部屋に怪人がいました。
  いや、自分で言っていても“何でそうなった”と思うが。実際、そうとしか言いようがないのだからどうしようもない。
  そいつはどうやらマンションのベランダから入ってきたようで、私のベッドの横で土下座せんばかりに頼み込んできたのだった。
イリアゲート(怪人形態)「すまぬ、御婦人!我を匿ってはくれぬか!?故郷の者から追われているのだ!」
上代莉那「え、えええ・・・・・・?」
  私はぽかーんとするしかない。慌てる彼を宥めてどうにか説明を求めれば、彼はどうやら宇宙人なるものであるらしい。
  故郷で罪を犯して投獄されるところを、慌てて地球まで逃げてきたというのだ。
  2メートルを超す長身、屈強な体、まるで鎧をまとっているような装備。私は率直に思った――特撮ヒーローみたい、と。
  確かに異形ではあるのだが。その見た目は、特撮モノが大好きな三十四歳のオタク女子には結構刺さったのである。
上代莉那「・・・・・・べ、別にいいけど」
  私はしどろもどろになりながら言った。
上代莉那「そ、その。私、あんまお金ないから食費とか、結構ないし。そんなに良いご飯食べさせてあげられないよ?料理もヘタだし・・・」
イリアゲート(怪人形態)「心配には及ばぬ!料理は我がそれなりに得意であるぞ」
イリアゲート(怪人形態)「勉強も好きだから、インターネットを使わせて貰えれば結構地球人の味覚に合わせた食事は作れるつもりだ」
上代莉那「そ、そう?それなら・・・・・・」
  そんなわけで。突然ですが私、上代莉那《かみしろりな》。本日から謎の宇宙人?怪人?との共同生活が始まりました。
  なお結構、紳士的であるようです。

〇黒背景
  怪人氏は、名前をイリアゲートと名乗った。
  極めて短時間だけ、人間の姿に変身できるというので、ごく近所のスーパーへの買い出しと料理を担当して貰うことになった。
  私にとっては、実に有りがたい話である。実は家でテレワークの事務をやっている私は、仕事でも会社に通勤するということがない。
  そして、買い物も最低限しかしないことにしている。その訳は単純明快、出かけたくないから。
  ――出かけたくない理由が、私にはあったから。

〇玄関内
イリアゲート(人間形態)「ただいま!」
  人間の青年の姿で、両手にスーパーの袋を持って言う彼。
イリアゲート(人間形態)「いやあ、人間は毎日これだけの買い物をしなければならなくて大変だな」
イリアゲート(人間形態)「我ら惑星クオンタムの者達よりずっと食べなければならんようだ」
上代莉那「そうなの?」
イリアゲート(人間形態)「うむ、我らは地球人の十分の一程度の食事でいい。排泄行動も必要ない。だから燃費は良いのだが・・・・・・」
イリアゲート(怪人形態)「いかんせん、この見た目であるからな。なかなか地球に馴染むのは難しいのだ」
  話しながら、彼の姿が怪人形態に戻る。一日に一度、どんなに頑張っても一時間しか人間の姿にはなれないらしい。
  というのも、地球人に変身するのは相当エネルギーが要るという。
イリアゲート(怪人形態)「莉那よ。おぬしが我を匿ってくれたこと、本当に感謝する」
イリアゲート(怪人形態)「流石に、間違ったことをしたつもりもないのに投獄されるのは御免こうむるのだ」
上代莉那「イリアゲートは何をしたの?私には、貴方は悪い人には見えないんだけど」

〇刑務所
イリアゲート(怪人形態)「我はクオンタム陸軍に所属していたのだが・・・・・・捕虜を逃がしてしまってな」
イリアゲート(怪人形態)「あのまま劣悪な環境で病人を捕まえておいたら死んでしまっていた」
イリアゲート(怪人形態)「軍規違反とわかっていたが、それを見過ごすのは己の正義に悖ると思ったのだ」

〇玄関内
  おぬしもそうだろう?とイリアゲートは言う。
イリアゲート(怪人形態)「おぬしも、己の正義に忠実であるべきと思ったがゆえに、我のような得体のしれない怪人を匿ってくれたのであろう?」
イリアゲート(怪人形態)「・・・・・・心より感謝するぞ、莉那。この恩はけして忘れぬ」
上代莉那「・・・・・・そんなこと、気にしなくていいのに」

〇黒背景
  それは心からの、言葉だった。
上代莉那「本当に。・・・・・・気にしなくていいんだからね」

〇玄関内
  そんな彼との生活が続いた、ある日のこと。仕事で、ちょっとしたトラブルが起きた。
  向こうが提示してきたテンプレート通りの形式で文書を出したのに、
  あちらの都合で、ギリギリのギリギリになって形式変更を言いだしてきたのだ。
  しかも、間に合わなければ今月の給料に含まないとまで言ってきた。
  出来高制のライターの仕事である。これが通らないのは生活に直結してしまう。
  どうにか私は間に合わせたものの、謝罪の一つもない会社に心底うんざりしてしまったのだった。
上代莉那「ごめん、ちょっとだけ・・・・・・散歩してくる」
イリアゲート(怪人形態)「散歩?おぬしは出かけたくないのでは?」
上代莉那「たまには出かけるよ、私だって。ちょっと外の空気、吸ってくる」

〇マンションのエントランス
  時刻は夜の十時。この時間は、マンション付近に人気はない。誰かと顔を合わせることもないと、そう思ったのだ。
  ところが。エントランスを出たとこで、不良の少年少女達に見つかってしまったのだった。
不良男子「おい、見ろよあの女!すっげー顔じゃん!」
上代莉那「!!」
不良女子「マジだー。ブッサイク!ぎゃはははははっ」
  私は、凍りつくしかなかった――なんで今日に限ってマスクを忘れてしまったんだろう。
  そう、私がなるべく外に出ないようにしていた最大の理由。それは、私自身の顔が原因だった。
  元々、お世辞にも整っていると言える顔立ちではなかったのである。
  それなのに、幼い頃の交通事故で顔面を骨折し、さらに酷い有様となってしまった。
  私は、誰よりも醜い顔をしている。テレビでも、通行人でも、私より醜い奴を見たことはただの一度もない。
  ――そんな顔がコンプレックスで、地元でいじめられすぎて一人で都会に出てきたのだ。
  そして東京でも、可能な限り人と会わないような仕事を選び、
  イリアゲートが来る前は買い物さえ可能な限りネットスーパーで済ませていた。
  こうなることは、最初からわかっていたはずなのに――。
不良男子「ふげぶっ!?」
不良女子「ひぎゅっ!?」
  次の瞬間。私を笑っていた不良の少年少女達が、揃って吹っ飛んでいた。
  え、と思った時にはもう、私の前には広い背中と美しいマントがある。
イリアゲート(怪人形態)「おっと失敬。あまりにも煩い蠅であったので、つい平手をかましてしまった」
  イリアゲートだった。しかも――怪人の姿。少年少女達は悲鳴を上げて、バケモノ!と叫ぶ。
不良男子「な、な、なんだよお前!?ば、バケモノ!何で、俺達をっ・・・・・・!」
イリアゲート(怪人形態)「我もまだまだ未熟でな。言葉で教育するより先に手が出てしまった」
イリアゲート(怪人形態)「・・・・・・確かに我は、おぬしらとはまるで違う見た目だろう。しかし、おぬしらにバケモノと呼ばれる筋合いはないな」
  ふん、と彼は鼻を鳴らして言う。
イリアゲート(怪人形態)「見た目がバケモノであることがなんであろうか。おぬしらのように、心がバケモノであることと比べたら些末な問題よ」
イリアゲート(怪人形態)「こんな姿の我を無償で助けてくれたこの娘の心は、おぬしらよりよほど美しいぞ。恥を知るが良い」
  少年少女達は、捨て台詞を吐いて逃げていった。後に残された私は、ただぽろぽろと涙を零すしかない。
上代莉那「何で、助けてくれるの。隠れてたいんじゃなかったの」
上代莉那「なんで、怪人の姿のまんまで、バレるのわかってるのに、何で私なんかのために」
  イリアゲートは知らないだろう。私が、最初の最初から彼に救われていたことなど。
  この見た目の私を、まったく気持ちがらずに笑顔を向けてくれた彼。それだけで、どれほど私が嬉しかったかなど。
イリアゲート(怪人形態)「おぬしは、我が地球に来て初めてできた友だ。友を助けるのに、理由が必要だろうか?」
  彼は大きな手で、私の頭を撫でてくれた。
イリアゲート(怪人形態)「さあ、家に帰ろう。紅茶が飲みたくなったんだ、付き合ってはくれんか」
上代莉那「・・・・・・うん」
  怪人であることなんて、関係ない。大切なものはきっと心の内にある。
  私は涙を拭って、そっと彼の手を取ったのだった。

コメント

  • 優しい怪人と、心無い地球人。
    この話を読むと、某アイドル2人の『地球の〜男に〜飽きたところよ♪』という歌詞を思い出します(年は聞かないで♡)
    よし、地球を捨てて、イスカンダルへ行こう。(あっちは美女の星ですが…)

  • 自分自身若い頃は、内面よりもまず外見を気にして人のことをこんなふうに言うことはなかったにせよ服を着飾ったり、外から見える姿に必死だったと思います。歳を重ねて大切なものがわかるようになった今は、このふたりのような素晴らしい人間関係を築いているつもりです。こういう繋がりこそが心を穏やかにし、幸せな気持ちにさせてくれます。

  • 心温まるラストに感動です。莉那さんとイリアゲートという、誰よりも繊細で美しい心を持った2人の出会いは偶然ではなく運命と感じたくなりますね!

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