エピソード10〜後悔に沈んだ記憶 暗闇の10年〜(脚本)
〇校長室
上田「リオ先輩のテレポートは・・・自分しか飛ばせないものだった・・・?」
学長バルバロッサ「そうじゃ。昔からずっとそうじゃった」
学長バルバロッサ「貴様は何となく気づいていると思うが・・・わしは、この国の人間ではない。リオもな」
学長バルバロッサ「わしとリオは元々とある国で、王族に仕えていた一族じゃった」
学長バルバロッサ「魔法で王族の身を守る役目を持っていたんじゃ」
上田「お、王族に仕えるって・・・。学長にそんな経歴があったとは・・・」
学長バルバロッサ「そうじゃ。わしは特に魔法の力が強かったから、王族からも大層信頼されていたんじゃぞ?」
学長バルバロッサ「そして、世代を経て・・・。やがて、リオも王族を守る任務に就くこととなった」
学長バルバロッサ「・・・テレポートという力は珍しくての」
学長バルバロッサ「初めてリオが自分をテレポートした日。リオも、わしも、リオの両親も大変大喜びじゃった」
学長バルバロッサ「こんな希少な魔法が、わしら一族の子に授かるだなんて、と」
学長バルバロッサ「王族もリオの魔法を知り、リオを称賛したもんじゃ」
学長バルバロッサ「テレポートがあれば、王族の身に何があっても、すぐその場から逃すことができる」
学長バルバロッサ「王族を守る魔法として、これ以上最強の力はないのではないか・・・とな」
学長バルバロッサ「正直、わしも鼻が高かったよ。王族に仕える一族としては、王族の役に立つことが何よりの幸せじゃからな」
学長バルバロッサ「そうして、わしらはリオの魔法に浮かれていた。だから、気づかなかったんじゃ」
学長バルバロッサ「リオは自分しか飛ばせない。人を飛ばすことができないという事実に・・・な」
学長バルバロッサ「わしも、リオも、王族も、全ての人々が、その事実に気づいていなかった」
学長バルバロッサ「リオは、人を飛ばそうと思ったことはなかったからの」
学長バルバロッサ「「あの日」が来るまで・・・」
上田「「あの日」・・・ですか。何かがあったんですね」
学長バルバロッサ「・・・あれは、寒い寒い冬のことじゃった」
学長バルバロッサ「王様の孫がデパートに行きたいと言い出しての。孫の護衛として、リオが選ばれたんじゃ」
学長バルバロッサ「その日は、リオにとって初めての護衛じゃった」
学長バルバロッサ「ちょうど、その孫とリオは同級生で、友達だったからの」
学長バルバロッサ「いつもは、わしら一族の他に、王族の家来も護衛に就くのじゃが、その日は違った」
学長バルバロッサ「せっかく友達とデパートに行くのに、護衛がわらわらいると落ち着かない、と王様の孫は言い出してな」
学長バルバロッサ「結局、王様の孫の護衛はリオ1人だけが就くことになったんじゃ」
学長バルバロッサ「・・・今思えば・・・。わしが、こっそり彼女たちを見張っていれば良かったと思うよ」
上田「もしかして・・・王様の孫が襲われたんですか?」
学長バルバロッサ「いや、そうではない」
学長バルバロッサ「崩壊したんじゃよ。・・・リオたちが行ったデパートが、な」
上田「ほ・・・崩壊ですか?そんな、急にどうして・・・」
学長バルバロッサ「なんてことはない。ただの老朽化じゃ」
学長バルバロッサ「知らず知らずのうちに、デパートの内部が脆くなっていた。崩れるのも時間の問題だったようじゃな」
学長バルバロッサ「デパートは当時、建て替えを検討していたようじゃが。・・・一足、遅かったな」
学長バルバロッサ「運悪く、リオたちはそのデパートの崩壊に巻き込まれた・・・という訳じゃ」
上田「そんなことが・・・」
学長バルバロッサ「デパートが崩れ出した際、リオはテレポートで、友達と共にデパートから脱出しようとした」
学長バルバロッサ「今まで人を飛ばしたことはなかったが・・・自分ならできるだろう、とリオは思った」
学長バルバロッサ「リオは、デパートの崩壊に怯える友の肩を抱いて、テレポートを実行した。その結果・・・」
学長バルバロッサ「リオだけが・・・デパートの外に脱出。友達は、デパートに取り残されてしまったんじゃ」
上田「・・・・・・っ!」
学長バルバロッサ「王様はその事実を知り、リオを非難した」
学長バルバロッサ「王族を差し置いて、自分だけテレポートで逃げた、卑怯な奴だ・・・と」
学長バルバロッサ「もちろん、リオはそんなつもりはなかった。ただ、テレポートしようとしたけどできなかっただけじゃ」
学長バルバロッサ「リオは王様にそれを説明しようとしたが、王様は全く耳を貸さなくての」
学長バルバロッサ「・・・ついに、わしら一族もろとも、忠誠心がないとみなされ、その国から追放されることとなったんじゃ」
上田「・・・そ、そこまでするんですか、王様は・・・」
上田「学長も、学長の祖先も、今までずーっと王族に尽くしてきたはずなのに・・・」
学長バルバロッサ「・・・覚えておけ、上田」
学長バルバロッサ「人生は、一度の失敗で、今までの信頼が全て崩れることもあるんじゃ」
学長バルバロッサ「王様は、孫を大層溺愛していたようじゃからの」
学長バルバロッサ「そんな孫を傷つけられて・・・リオや、リオを生んだ親、さらにはリオを育てた親族に対しても恨みを抱いた」
学長バルバロッサ「リオを取り巻く全てのものが許せなかった。だから追放されたんじゃ」
学長バルバロッサ「・・・リオは、自分しか飛ばせない。わしがそれに早く気づいていたら、あらかじめ王族にそれを伝えることができた」
学長バルバロッサ「わしが・・・リオの魔法をもっと調べていれば、こんなことには・・・」
上田「・・・それじゃあ、王族は今も誤解したままなんですね?」
学長バルバロッサ「そうじゃ。リオが、王様の孫をテレポート「しなかった」・・・そう思っておる」
学長バルバロッサ「実際は「できなかった」・・・。しかし、それを伝えても王族は全く信じてくれないんじゃ。「言い訳するな」と言うんじゃよ」
学長バルバロッサ「そうして、王族からの信頼を失ったわしらは、逃げるようにその国から出て行った」
学長バルバロッサ「しかし国から出て行く道中、王族に深く心酔している輩が、「このまま生かしてはおけない」とわしらを襲い始めた」
学長バルバロッサ「わしらは魔法を駆使して奴らの攻撃を避け、必死に、必死に、ただただあてもなく逃げた」
学長バルバロッサ「・・・気づいたら、生きていたのはワシとリオだけになっていた」
上田「・・・そうして・・・2人で、この国に辿り着いたんですね」
学長バルバロッサ「そうじゃ。流石にこの国には奴らは追っては来なかった」
学長バルバロッサ「わしらはこの国で、誰とも関らずひっそりと生きて、ひっそりと死のう・・・最初はそう思ったんじゃがの」
学長バルバロッサ「それでは、リオがあまりにもかわいそうだと思ってな。魔法を使う団体を作ることにしたんじゃ」
学長バルバロッサ「魔法を使って、成功体験を積み、リオの自尊心を上げていこう」
学長バルバロッサ「そして、同年代の友達を作り、楽しい人生を送ってもらおう。そう思った」
学長バルバロッサ「まあ、魔法を使う団体をいきなり世に出しても騒がれるだけじゃからな。非公開サークルとして設立することにしたんじゃ」
学長バルバロッサ「人が多くて多様な団体が集まる大学なら、謎のサークルを作っても、そんなにみんな気にしないだろうと思ったのでな」
上田「確かに、色んなサークルありますもんね。自分たちで自由に作ることもできますし」
上田「大学を作るなんて目立つことするなあと思ってましたけど・・・。学長には、ちゃんと考えがあったんですね」
学長バルバロッサ「そうじゃ。我ながら良い考えだと思ったんじゃ」
学長バルバロッサ「・・・しかし。王族は、わしらを追放してもなお、わしらのことが許せないままだった」
学長バルバロッサ「わしら一族を壊滅させないと気が済まない。そう思った王様も、やがてこの国に来たんじゃ」
学長バルバロッサ「そして、その王様が作ったのが・・・聖裁大学という訳じゃ」
上田「そうか・・・。学長たちを追いかけて、わざわざ蔵杏大学の隣の地区に大学を作り、似たようなサークルを作った・・・」
上田「それは全て、学長たちへの復讐のため、ですね」
学長バルバロッサ「そういうことじゃ。それで手始めに、蔵杏大学の設備を破壊し始めたんじゃ」
学長バルバロッサ「大学を崩壊させて、わしらの居場所をなくすためにの」
上田「じわじわと学長たちを追い詰めようとしたんですね・・・」
上田「・・・ところで・・・デパートの崩壊に巻き込まれた王様の孫は、どうなったんですか?」
学長バルバロッサ「・・・・・・・・・・・・それについては、よくわからん・・・が、」
学長バルバロッサ「亡くなった・・・と噂で聞いたことがある」
上田「・・・そうですか・・・」
学長バルバロッサ「ずいぶん大規模な崩壊じゃったからの。仮に生きていたとしても、身体中に治らない傷が残ったままなんじゃないかの・・・」
上田「それは・・・痛々しいですね」
上田「今学長が話したことは、魔界同好会のメンバーは知っているんですか?」
学長バルバロッサ「シキブしか知らん。シキブとその家族には、この国に来たときから色々と世話になっていての」
学長バルバロッサ「役所での手続き、大学の設立・・・それら全てを援助してもらったんじゃ」
学長バルバロッサ「シキブは、リオとも積極的に会話してくれての」
学長バルバロッサ「本当、彼女たちには感謝してもしきれんわい」
学長バルバロッサ「・・・話は以上じゃ」
学長バルバロッサ「これ以上は、もう話したくない」
上田「・・・わかりました。こんな「特別枠」である俺にも話してくれて、ありがとうございます」
学長バルバロッサ「・・・ふっ。それだけ、貴様の存在が大きくなっているということじゃ」
学長バルバロッサ「10年前、誤解から全ての悲劇は始まり、今もなお誤解が続いている・・・」
学長バルバロッサ「その誤解という名の呪縛を、解かねばならん。リオのためにも、な」
学長バルバロッサ「そして、その呪縛を解いてくれるのは・・・」
学長バルバロッサ「・・・上田。貴様だと思っておる」
学長バルバロッサ「この前も言ったと思うが、改めて貴様にお願いしたい」
学長バルバロッサ「どうか・・・。王族とわしら一族を、救ってほしい・・・」
学長バルバロッサ「失った時間は戻せん。過ぎ去った過去は変えられんが・・・」
学長バルバロッサ「みんなの心の闇を振り払い、これからの人生を笑って過ごせるようにしてほしい・・・」
学長バルバロッサ「みんなが真実に向き合い、前を向いて歩けるように・・・協力してくれ・・・!!」
上田「・・・任せてください」
上田「俺が、全て解決します。俺が、みんなの未来を・・・変えてみせます!!」
凄いヘビーな過去話、深く読み入ってしまいました。物語全体がグンと深みを増した感じですね。今話の最中、女装だとかの設定が頭の中から消えて無くなっていましたw