いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第8話「人質ローズ」(脚本)

いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

今すぐ読む

いつか薔薇色の走馬灯
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇山道
  第8話
  「人質ローズ」
  手に手に松明を持った盗賊団が、ぞろぞろと夜の森を歩く。
チェスター「まさか貴族のお嬢さんだったとはな」
チェスター「まあ、女だってのは薄々気づいてたが・・・」
チェスター「道理でなんにもできねぇくせに 気位ばっか高いはずだ」
ローズ「え・・・ 私って気位高い?」
チェスター「なんだ、自覚ねぇのか? おまえずっと」
チェスター「『なんで私がこんなこと!』」
チェスター「って顔してたぞ」
ローズ「そ、それは・・・ だってそう思ってたもの」
チェスター「そういうとこだよ」
盗賊団の男「お頭、こいつが女だってわかってたなら なんで教えてくれなかったんですかぁ?」
チェスター「言ったらおまえら手ぇ出すだろ」
盗賊団の男「たしかにそうっスね! ハハハハ!」
ローズ(もう・・・ 相変わらず下品だわ)
  この下品さにはいつまで経っても慣れない。
ローズ(でも・・・みんな根っからの悪人ってわけじゃないのよね)
ローズ(一緒にいる間は親切だったし・・・)

〇森の中の小屋
ローズ「やった! 当たった!」
盗賊団の男「だんだん命中率上がってきたな!」

〇山道
ローズ(まあ髪を切られたことだけは許さないけど・・・)
ローズ(・・・って、あれ?)
ローズ(前から女って気づいてたってことは・・・)

〇山中の川
  あのとき・・・
  パサッ
ローズ「・・・え?」
  ──すでに私が女だって、わかってたってことかしら?

〇山道
ローズ(それなら・・・)
ローズ「チェスター どうしてあのとき私の髪を切ったのよ?」
チェスター「あ? だから、人毛は高く売れるからだって言ったろ」
ローズ「本当に?」
チェスター「それ以外に何があんだよ」
ローズ「そ、そう」
ローズ(もしかして私を守るために・・・)
ローズ(私が余計なトラブルに巻き込まれないように、目立つ髪を切り落としてくれたんじゃ?)
ローズ(なんて思ったけど・・・)
ローズ(考えすぎかしら?)

〇山の中
  2時間後 明け方
チェスター「少し休憩するぞ」
  屈強な盗賊団といえど、夜通し歩き続けるわけにはいかない。
  盗賊たちは足を止め、私も地面に腰を降ろす。
  そして、隣に座ったチェスターに、
ローズ「ねえチェスター」
  ふと、前から気になっていたことを尋ねてみる。
ローズ「あなたたち、どうしてこんな森の中で盗賊なんかやってるの?」
チェスター「あん? そりゃ、いろいろあるんだよ」
ローズ「いろいろって?」
チェスター「ここのやつらはみんな帰る場所のねぇやつらだからな」
チェスター「こうやって食っていくしかねえんだよ」
ローズ「帰る場所がないって・・・どういうこと?」
チェスター「だから、いろいろあるんだって」
チェスター「しょうもねぇことして街にいられなくなったやつもいるし」
チェスター「悪いことなんかひとつもしてねぇのに、領主や神官どもに理不尽に土地を奪われて住む場所をなくしたやつもいる」
ローズ「そ・・・そんなことがあるの?」
チェスター「あるんだよ ま、貴族のお嬢サマには想像できないかもしれねぇけどな」
ローズ(みんな事情があってここにいるのね・・・)
ローズ(それなのに私、ずっと見下すような態度ばかりとってた・・・)
ローズ(・・・嫌なヤツだわ、私って)
チェスター「つーか、あんたも同じじゃねぇのかよ? お嬢サマ」
ローズ「え・・・わ、私?」
チェスター「ローズ・メイウェザーって名前 どっかで聞いたことあると思ったら」
チェスター「ちょっと前に都の屋敷が襲われて、そのまま拉致されたっていうご令嬢じゃねぇか?」
ローズ「・・・知ってるの? 私のこと」
チェスター「そりゃ、でかい事件だったからな この辺りのやつらはみんな知ってるぜ」
チェスター「都から逃げてきたのか?」
ローズ「ええ あそこには頼れる人もいないから・・・」
ローズ「ヤングットの叔父のところに助けを求めにいくところだったの」
チェスター「ふうん お嬢サマも大変なんだな」
ローズ「・・・あなたたちほどじゃないわ、きっと」
ローズ(私には頼れば助けてくれる人がいる)
ローズ(でもこの人たちには・・・)
  しんみりしていると、チェスターが仕切り直すように言う。
チェスター「ところで、そろそろ街についてからの段取りを決めたいんだが」
ローズ「あ、そ、そうね」

〇空
  チェスターとの話し合いが済んだあと、私たちは再び歩き出し、
  約束の正午に間に合うように、ヤングットの街を目指す──。

〇空
  正午

〇噴水広場
  ヤングットの街
  到着した広場には、すでに大勢の人が集まっていた。
町人「盗賊の処刑か」
町人「これで街も安全になるわ!」
町人「一安心じゃのう」
  広場に設置された断頭台の隣には、縄で縛られたふたりの盗賊と処刑人が立っている。
盗賊団の男「あっ、お頭だ!」
盗賊団の男「やっぱりきてくれたんだ!」
処刑人「・・・」
  そして──
叔父様「よくきたな」
  チェスターの前に、この地の領主である私の叔父が歩み出る。
チェスター「領主サマがわざわざこの俺をご指名だっていうんでな」
チェスター「遠路はるばるきてやったぜ」
叔父様「おまえはこの街から出た大悪党だからな 一度はこの目で拝んでおきたかったんだ」
叔父様「もっとも、おまえの姿を拝めるのは今日が最初で最後になりだそうだが──」
チェスター「それはどうかな?」
叔父様「ふん 強がっても無駄だぞ」
叔父様「おまえが仲間を見捨てられない性分なのは調べがついている」
叔父様「さあ、仲間を無事に返してほければ大人しく断頭台に──」
チェスター「まあそう焦るなって こっちの話も聞けよ」
チェスター「じゃないと後悔するぜ?」
叔父様「・・・何?」
チェスター「こっちもむざむざ殺されにきたわけじゃないんでな」
チェスター「おーい オジサマに顔見せてやれよ、お嬢ちゃん」
  盗賊たちに両脇を固められて、私は叔父様の前に連れ出される。
ローズ「叔父様・・・」
叔父様「・・・?」
チェスター「こいつ・・・森をさまよってたところを拾ったんだが、あんたの姪だって言ってる」
叔父様「姪・・・?」
叔父様「あ! まさかローズか?」
ローズ「はい、叔父様 私です、ローズ・メイウェザーです」
ローズ「叔父様・・・」
ローズ「どうか私をお助けください!!」

〇山の中
  数時間前 森の中
チェスター「ところで、そろそろ街についてからの段取りを決めたいんだが」
ローズ「あ、そ、そうね」
チェスター「ローズ おまえは俺たちに捕まって、無理やり連れてこられたってことにしとけ」
ローズ「え? ど、どうして?」
チェスター「その方が取引もスムーズだろ」
ローズ「まあ・・・ そうかも?」
ローズ(貴族の世界じゃ悪い噂は命取りだし 私にとってもその方がありがたいわね・・・)
  盗賊と慣れ合っていたとわかれば、あとで誰に何を言われるかわかったものではない。
チェスター「つーことで、おまえさんは悲劇的な人質役を全力で演じてくれよな」
ローズ「えっ」

〇噴水広場
ローズ「叔父様、怖い・・・! 助けて・・・ぐすん」
ローズ(こ、こんな感じでいいのかしら? 悲劇的って・・・)
チェスター「領主サマよ この娘を返してほしければ、仲間をこっちに渡すんだな」
チェスター「それと、今後俺たちに決して手を出さないと約束してくれ」
叔父様「おまえたち・・・! 人質なんて卑怯な手を!」
チェスター「先にその手を使ったのはどっちだよ! ったく、自分のことは棚に上げて・・・」
  叔父様は私とチェスターの顔を交互に見比べ──
  決心したように、口を開く。
叔父様「ローズには悪いが──」
叔父様「盗賊よ おまえたちの要求は、飲めない」
ローズ「え・・・」
  第8話「人質ローズ」終
  
  第9話に続く

次のエピソード:第9話「自由に別れを告げて」

コメント

  • うそーー!まさかの作戦失敗!?物語を読み進めていくうちに、私もチェスター君が魅力的に見えてきました。展開が素敵です。次の話も楽しみ!

成分キーワード

ページTOPへ