マイノリティープライド

宮田そら

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宮田そら

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〇ダイニング(食事なし)
  そうだ
  昔話をしよう
  え? 昔話?
  興味はないかい?
  いいよ。聞かせて
  せっかくだしこの子にも聞かせてあげたいから
  おとぎ話のような話さ
  口調も少し変えて・・・
  お話させて頂きます
  準備はよろしいですね?
  ふふふ。何よそれ
  変なの
  ・・・変かな
  でも語り聞かせるんだから
  このぐらいがちょうどいいだろ?
  その題名は?
  そうだな
  彼の名前、忘れちゃったんだよなあ
  え! 忘れたの?
  今思うとすごく長くてダサかったのは覚えてる
  ええ!
  でも聞いてくれ
  これは僕にとって大事な物語なんだ

〇魔界
勇者アルト「やっと追い詰めたぞ!  ディアブロ!」
怪人ディアブロ「よくここまで来た さあ、私が相手だ!」
勇者アルト「世界の平和のためここでお前を倒す!」
怪人ディアブロ「甘い!」
勇者アルト「か、身体が動かない!」
怪人ディアブロ「アルトよ ここまで来たことには敬意を表する」
怪人ディアブロ「しかし、これで幕切れだ!」
勇者アルト「がはっ!!」
怪人ディアブロ「悪くはなかったがまだ俺の力には及ばなかった」
怪人ディアブロ「ああ! これではっきりとした! 俺は最強だ! この世で一番強い存在だ! フ・・・フハハ・・・フハハハハハ!!」
  ディアブロは勝利の味に酔いながら踵を返す。
  次の瞬間ーー、
怪人ディアブロ「な、なんだと・・・」
勇者アルト「俺は負けない! どんなにお前が強くても、俺はみんなの思いを背負ってここにいるんだ!」
勇者アルト「食らえ!!」
  アルトの剣がディアブロの心臓を穿つ。
怪人ディアブロ「私が・・・負ける? そんなこと、そんなことがあって たまるかあああああ!!」
勇者アルト「終わりだ!! ディアブロ!!」
怪人ディアブロ「ば、馬鹿なあああああああ!!」
勇者アルト「勝ったんだ俺 ディアブロをやっと倒したんだ!」

〇男の子の一人部屋
和樹「ディアブロ負けちゃった 大好きだったのに」
  昔から怪人が好きでした
和樹「いつも僕の好きなキャラクターは最後に負けちゃうなあ」
  でも怪人はいつも負けてしまうのです
  主人公とか勇者とかヒーローとか
  キラキラしたものに淘汰されるための存在
和樹「もう日付回っちゃった そろそろ寝ないと・・・」
和樹「明日、学校か ・・・嫌だなあ」
和樹「行きたくないな 行っても・・・どうせ辛いし」
  ・・・怪人はいつもやられてしまうのに
  どうして逃げ出さないのだろう
和樹「ディアブロだって逃げてたら生き延びれたかもしれないのに」
  それでも彼は逃げませんでした
  それはどうしてでしょう?
和樹「ディアブロが逃げてくれたら 僕だって逃げれるのに・・・」
  物語の演出のためでしょうか
  ただの舞台装置だからでしょうか
  その理由をぼんやりと考えながら
  僕は憂鬱な朝に向けて目を閉じるのです

〇シックな玄関
和樹「・・・行ってきます」
和子「行ってらっしゃい」
和樹「・・・お母さん」
  思いきって母に伝えてみようかとも思いました
  学校に行きたくない
  逃げてしまいたいと
和子「なあに?」
  でも、どうしても出来なかったのです
和樹「・・・ううん なんでもない」
和樹「行ってきます」
和子「・・・」

〇教室
和樹「・・・僕の机」
  何かをしたわけでもない
  何かをしようとしたわけでもない
隆太「よお、かずき 机に『死ね』って書かれてるじゃんか」
隆太「誰がこんなことしたんだろうな 全くひどいことするやつがいるもんだな!」
和樹「隆太君・・・」
和樹「ひどいよ」
隆太「おいみんな! かずき泣いてるぞ! 赤ちゃんみたいにえんえん泣いてる!」
隆太「おい! みんなもっと笑えよ! なあ! 面白いだろ!」
  それなのに悪と決めつけられ
  僕は生きているのです

〇広い屋上
和樹「うう・・・」
茜「和樹君・・・」
茜「私がなんとかしなきゃ・・・」

〇シックな玄関
和樹「ただいま」
和子「おかえり」
和子「和樹・・・」

〇男の子の一人部屋
和樹「もう疲れたよ・・・」
和樹「ああ。なんだか少しだけ眠いや」

〇魔界
  か・・・
  か・・・・ず・・・
  和樹!
  僕を呼ぶ声が聞こえます
  よく耳にする声
  この声の主は一体・・・誰ですか?

〇男の子の一人部屋
和子「和樹!」
和樹「わあ! なんだ。お母さんか」
和子「今寝たら夜寝れなくなるよ ご飯出来たから一緒に食べよう?」
和樹「ごめん 今行くよ」
和子「下でご飯よそって待ってるから 目が覚めたらいらっしゃい」
和樹「あの声は・・・ 本当にお母さんだったのかな」

〇ダイニング(食事なし)
和子「ご飯おいしい?」
和樹「うん。おいしい」
和子「・・・よかった」
和樹「・・・」
和子「・・・」
和子「学校はどうなの? 楽しい?」
和樹「・・・」
和樹「・・・楽しいよ」
和樹「ごちそうさまでした 僕、部屋戻るね」
和子「うん。分かった」
和子「嘘つかなくていいのに」

〇男の子の一人部屋
和樹「はあ・・・」
  心がズキズキと痛みます
和樹「嘘をつくしかないじゃないか」

〇ダイニング(食事なし)
  小学校で上手くやっていけるかなあ
和子「どうしたの和樹? 小学生になるのが心配?」
  うん
  友達とか勉強とか頑張れるかなって
和子「和樹、大丈夫よ」
  どうしてそんなこと言えるの?
和子「和樹は母さんの子供なんだもの」

〇男の子の一人部屋
和樹「・・・僕は母さんの子供なんだ」
和樹「明日も学校か」
  ベッドに横になります
和樹「いやだなあ」
  生きるのは辛い
  明日が来てほしくない
  未来、幸せになるかは分からない
  そんな日々に嫌気がさして
  自分の命を投げ捨てようと思ったこともあります
  出来ませんでした
  不思議と怖さはなかったのですが・・・

〇ダイニング(食事なし)
和子「和樹は母さんの子供なんだもの」

〇男の子の一人部屋
  してはいけない気がしました
  自分が苦しいのに誰かを想って生きていかなければいけない
  変な感覚です
和樹「もういいや 寝よう」
  眠ると明日がやってくる
  それでもこの心の悲しみを一瞬でも消すことが出来たら
  それだけで満足でした
  僕は目を閉じました

〇魔界
  か・・・
  か・・・・ず・・・
  和樹!
  誰かが呼んでいます
和樹「誰?」
怪人ディアブロ「やあ!」
  それは夢の世界でした
和樹「え? ディアブロ!」
怪人ディアブロ「やっと会えたな」
和樹「どうして僕の名前を?」
和樹「それになんか思っていたよりもポップだ・・・」
怪人ディアブロ「知らないはずないだろ 和樹。俺はこの名前をよく知っているぜ」
和樹「え? よく知っている?」
怪人ディアブロ「ああ。だって俺のことをずっと応援してくれていたじゃないか」
和樹「応援はしてたけど・・・」
怪人ディアブロ「俺を応援してくれる人は少ないんだ。だから覚えてる。 俺にとっては大事なファンだからな」
和樹「そうなんだ・・・ なんか嬉しいな ありがとう」
怪人ディアブロ「感謝したいのは俺の方だって同じさ 君が応援してくれたから俺は最後まで戦うことが出来たんだ。感謝してる」
和樹「へへ。よかった」
怪人ディアブロ「和樹は珍しいよな」
和樹「なにが?」
怪人ディアブロ「俺のことを応援するなんてさ みんなアルトを応援するのに」
和樹「悪役が好きなんだ 小さい時からずっと」
怪人ディアブロ「へえ モノ好きな子もいるんだな」
和樹「変かな?」
怪人ディアブロ「変じゃないさ 言ったろ? 君のおかげで俺は戦えたんだ その恩人にひどいことは言わないさ」
和樹「・・・あのさ」
怪人ディアブロ「なんだい?」
和樹「どうしてディアブロは逃げなかったの? どうせやられるって・・・僕ですら分かっているのに」
怪人ディアブロ「どうせやられるか・・・ 確かにな! 俺だって実は負ける気がしてたんだぞ!」
怪人ディアブロ「物語の仕組みがそうなっているからな! 悪は正義に滅ぼされる そういう話がみんな好きなんだよ」
和樹「そんなのって・・・」
怪人ディアブロ「俺みたいな悪役は勝つことなんて出来っこないんだよ」
和樹「それなら・・・」
和樹「そう思っているなら・・・ 逃げればいいじゃないか 走ってどこかに行ってしまえばいいじゃないか!」
怪人ディアブロ「・・・和樹」
和樹「僕は・・・ディアブロが大好きだったんだ! 強くてかっこよくて・・・誰にも屈しない」
和樹「そんな姿に憧れたのに・・・ 消えてしまうなんて・・・そんなのないよ・・・」
怪人ディアブロ「ほら・・・分かってるじゃないか」
和樹「え?」
怪人ディアブロ「俺はな・・・俺自身のために戦ってるんじゃないんだ。俺を応援してくれる・・・数少ないモノ好きのために戦ってるんだよ」
和樹「・・・」
怪人ディアブロ「自分を応援してくれる人のために戦う 理由はそれだけで十分だろう?」
和樹「・・・でも」

〇ダイニング(食事なし)
和子「和樹は母さんの子供なんだもの」

〇魔界

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コメント

  • 今まであまり意識しなかったけど、悪役にも悪役なりの人生があるんだなと考えさせられました。悪だから孤独になるのか、孤独が悪を生むのか。彼らには、和樹のように味方を得てヒーローになるチャンスを与えられなかっただけの寂しい存在の一面もあるのかもしれません。

  • 悪役・怪人の立場や役割、ひいては存在価値まで丁寧に紐解き、それを苦境にある主人公の環境へ落とし込んだ深みのある作品ですね。キレイなラストで物語性も素晴らしいです。

  • とても深い素晴らしい文章だと思いました。学校での嫌な出来事、私も経験者の一人ですが、結局自分との闘いだったように思えます。嫌われ役でも孤独に戦うものを怪人に例えたところが、現実社会から少し話して考えることができて、とても効果的でよかったです。

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