不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

#3 心の形(脚本)

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北條桜子

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〇事務所
蒼井「もう一度聞くが・・・今、何と?」
アイコ「え? だから手紙を復元しようって・・・」
蒼井「無理があるだろう! シュレッターにかけられた書類は、手紙だけじゃない!」
蒼井「紙屑の山から手紙だけを探し出しつなぎ合わせるなんて、途方もない話だぞ!?」
アイコ「そんなことないよ。手紙の束は山の一番上に固まってるはずだもん」
アイコ「それを全部スキャンして、必要なものだけかき集めるのは難しいことじゃない」
蒼井(確かに、彼女の能力を以てすれば・・・しかし・・・)
蒼井「つなぎ合わせたとしても、手紙はボロボロだ」
蒼井「そんなものを渡されたところで、相手の生徒は喜ばない。ここはまず謝罪をして、書き直してもらうのが・・・」
アイコ「一生懸命書いた子の気持ちは?」
蒼井「だ、だから僕は謝罪をと・・・」
アイコ「ただ謝るだけ?」
蒼井「他にどうしようもないだろう」
アイコ「間違いをおかしたら謝る。 それは正しいよね」
アイコ「でも、ただ謝ればいいってものじゃないと思うの」
アイコ「先生が本当に悪いと思うなら、誠意を見せないと」
蒼井「それが、手紙をつなぎ合わせて復元することだと言うのか?」
蒼井「渡せなくなった手紙を返すことに、意味があるとは思えない」
アイコ「クラスの子が言ってたの。手紙って二度と同じ内容は書けないんだって」
アイコ「書き直してもらうにしても、元の手紙もあったほうがいいと思う」
蒼井「し、しかし」
アイコ「出来ることは全部やらなきゃ」
アイコ「先生の心を、形にして伝えなきゃ」
アイコ「心は見えないから・・・そこにあるって教えてあげて!」
蒼井「・・・わかった」
  僕の返答に、アイコは心底ほっとしたように小さく笑った。

〇黒
蒼井(心は見えないから、そこにあると教えて・・・か。そんな風に考えたことはなかったな)
蒼井(まさか、ヒューマノイドにそんなことを言われるとは思いもしなかった)
蒼井(だが、彼女はどこでそんな言葉を覚えたんだろうか・・・?)

〇事務所
  細かく切り刻まれてしまった手紙をかき集め、修復作業に没頭すること・・・およそ二時間。
  骨は折れたが、最初の宣言通りアイコの助けを借りて、僕は手紙を全て復元することに成功した。
蒼井「つ、疲れた・・・」
蒼井「ここ最近の業務の中で、一番疲れたぞ」
アイコ「ふふっ、蒼井先生ってば、ずっと眉間にシワを寄せてたもんね」
蒼井「まあ・・・とにかく、だ」
アイコ「・・・ん?」
蒼井「・・・かった」
アイコ「先生?」
蒼井「助かった。君がいなければ、どうにもならなかったからな」
蒼井「これで、生徒たちにも改めて謝罪が──」
アイコ「せんせぇっっっ」
蒼井「おわっ!?」
蒼井「な、な、何をしてるんだ・・・!」
アイコ「わたし、嬉しい! やっと蒼井先生の役に立てたぁ!」
蒼井「わ、わかったから離れなさい!」
  大慌てで、しがみつくアイコを引きはがす。
アイコ「ああ~、もうちょっと~」
蒼井「何がもうちょっとだ! 油断も隙もない」
蒼井(こんな所を主任にでも見られたら・・・)
  嫌な想像に思わずゾッとした。
アイコ「むぅ~」
蒼井「そんな顔をしてみせてもダメだ」
アイコ「じゃあ、他のご褒美ちょうだい」
蒼井「はぁ?」
アイコ「わたし、頑張ったもん」
  アイコの目が、強く何かを訴えかけてくる。
蒼井「・・・とりあえず言ってみろ」
アイコ「わたしね、先生とデートがしたい!」
蒼井「でっ・・・!?」
蒼井「馬鹿を言うな!!」
アイコ「どこかバカなの!?」
蒼井「仮にも、教師と生徒の立場でデートだなんて、それこそあり得ないだろう!」
アイコ「気にするの、そこなの!?」
蒼井「当り前だ!」
蒼井「とにかく、この話は聞かなかったことに──」
???「もっぺん言ってみろよ!」
蒼井「ん?」
  突然、窓の外から怒声が耳に飛び込んできて、僕とアイコは顔を見合わせた。
蒼井「今の声は・・・?」
アイコ「あっ、先生ちょっと! 誤魔化そうとしてるでしょ!?」
  追いすがるアイコを半ば無視して、窓の近くへと移動する。
  それからすぐ、僕は慌てて職員室を飛び出すこととなった。
蒼井「ヒューマノイドたちと一般生徒が、揉めてる!?」
アイコ「ほんとだ」
蒼井(くそっ! 今度は何だって言うんだ!?)
アイコ「ああ~! 待って先生、わたしも行く!」

〇野球のグラウンド
男子生徒A「お前のせいだろ!」
ヒューマノイド「ルールを逸脱する行為は働いておりません。謝罪の必要はないと考えます」
男子生徒B「はぁ!?」
蒼井「やめろ! ヒューマノイドから離れろ!」
アイコ「みんな落ち着いて~」
男子生徒B「邪魔すんなよ!」
蒼井「そういうわけにはいかない! この個体たちは大事な研究材料なんだ!」
蒼井「壊されでもしたら困る!」
男子生徒A「こっちはヒドイ目にあわされるとこだったんだぞ!?」
アイコ「ひどい目って?」
ヒューマノイド「私は、説明された通りにボールを蹴りだしただけなのですが」
男子生徒A「またそれかよ!」
蒼井「ヒューマノイドに掴みかかるな!」
蒼井「彼らの開発費・維持費にどれほどの予算を割いていると──」
アイコ「もうっ! みんなっ! ちょっと黙ってえええ!!」
蒼井「!?」
  鼓膜が破けるかと思うほどの大声が校庭に響き渡る。
  アイコの剣幕に、この場にいた誰もが押し黙った。
アイコ「蒼井先生は、先生なんだから、何があったのか落ち着いて聞く!」
蒼井「あ・・・ああ、すまない」
アイコ「みんなは、怒ってる理由を順番に説明する!」
男子生徒A「お、おお・・・」
アイコ「で、何があったの?」
  一般クラスの男子生徒が事の経緯を話し始める。
  要約すると、つまりヒューマノイドにサッカーを教えたところ・・・。

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コメント

  • 海外のSF映画とかでよく、『AIが人類を滅ぼす』というくだりはありますが、『人間同士の軋轢をAIが収める』という未来も想像出来ますね😄
    特に、アイコちゃん見たいな可愛いヒューマノイドちゃんになだめられたら、男同士の対立であれば、瞬時にお互いが仲直り出来ちゃったりとか😍

    次回のデートで、アイコちゃんと先生の仲が少しでも深まればいいなと思っています!

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