不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

#2 猛攻のアイコ(脚本)

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〇教室の外
アイコ「よ~し、そうと決まればもっと頑張らないとね!」
蒼井「が、頑張るって・・・」
アイコ「蒼井先生、恋ってね・・・戦なんだって!」
アイコ「他のクラスの子たちが言ってたの」
アイコ「アイコはこれより、蒼井先生への恋心を証明し振り向かせる戦いに挑むのです!」
蒼井(何を言って言るのかさっぱりわからない)
アイコ「先生のハート・・・射貫いちゃうから覚悟してね! じゃあ、まったね~」
蒼井「あっ、おい!」
蒼井「一般生徒の影響を受けすぎだろう・・・」

〇高級マンションの一室
  ──その夜。
蒼井「あのアイコという個体、明らかにおかしいでしょう」
蒼井「主任は彼女に何をしたんです?」
主任「何の電話かと思えば・・・人聞きが悪いなぁ」
主任「今現在検証中のヒューマノイド達に、特別なことは何もしてないよ」
蒼井「だったらどうして!?」
主任「彼女は今回のプリジェクト以前から唯一、自律学習プログラムを稼働させていた個体なんだよ」
蒼井「人格形成が進んでいるのは、設定の問題ではなくそのためだと?」
主任「それも、こちらの想定を上回るスピードでね」
主任「彼女の人格形成が早く複雑で詳細なのは、ひとえに搭載しているAIが高性能だからかもしれないなぁ」
蒼井(主任の言うことに一理はある)
蒼井(・・・が、それだけの理由で、あれほど精巧に人間の擬態ができるものなのだろうか?)

〇黒
  この時の僕はまだ理解していなかった。
  アイコという存在に、僕がどれほど振り回されることになるのかを・・・。

〇教室
  キーンコーン――・・・
アイコ「みんな、きりーつ! 先生、おはようございます! 大好きですっ!」
蒼井「はい、おはようござ──」
蒼井(ん?)
「先生、おはようございます。大好きです」
蒼井「ふっ、復唱しなくていい!」
アイコ「そうだよ~! なんでみんなまで言っちゃうの!?」
ヒューマノイド「HR時の挨拶では必ず日直の言葉を復唱するようにとプログラムされています」
アイコ「あ~しまった、そうだった~! せっかく先生への想いをアピールするチャンスと思ったのに~」
蒼井「君も、ふざけるんじゃない」
アイコ「ふざけてないよ~! だってみんなが言ってたもん!」
アイコ「好きと思った時が、好きって言うべき時なんだよって」
アイコ「だから、毎日でも毎朝でも言いたいの! 先生、大好き!」
蒼井(勘弁してくれ・・・)

〇音楽室
蒼井(一般生徒との初の合同授業か。とはいえ、今日のところはまだ見学だから・・・)
アイコ「ね、ね、わたしはどのパート歌えばいいのっ?」
蒼井「あっ、おい! 今日は見学だけだと!」
教師「まあまあ、蒼井先生。いいじゃないですか。せっかくの合同授業なんですから」
アイコ「そうだよ~! これも、わたしたちの検証に役に立つんでしょ?」
蒼井「それはそうだが・・・」
アイコ「大丈夫だよ、蒼井先生! わたしが、みんなをサポートするから! ね♪」
蒼井「君がそこまでする必要はないだろう。 それにそんなプログラムは組んでいないはずだ」
アイコ「プログラムなんて関係ないよ。 ただ先生の役に立ちたいの」
アイコ「だってわたし、先生が好きなんだもん」
女子生徒B「蒼井先生愛されてる~」
蒼井「かっ、勘弁してくれ・・・!」

〇学園内のベンチ
蒼井(ようやく落ち着けるな・・・)
アイコ「せーんせ♪」
蒼井「うわあっ!?」
アイコ「そんなに驚く?」
蒼井「き、君、いったいどこから・・・!?」
アイコ「先生の行動パターンは、だいたい調査済みだからね」
アイコ「先生は、疲れた時は緑に癒されたくてここに来る・・・でしょ?」
蒼井(AIの行動予測の正確性をすっかり失念していたな)
蒼井(今後は別の場所もランダムに混ぜていかないと・・・)
アイコ「先生、お疲れ様」
蒼井「ん・・・?」
蒼井「お、おい・・・なんだこの手は?」
アイコ「んー? イイ子イイ子~」
蒼井「やめなさい。子供じゃあるまいし」
アイコ「恥ずかしがらなくていいんだよー。 他に誰もいないんだから」
蒼井「そういうことではなくて」
アイコ「わたし、先生を癒せる存在になりたいの」
蒼井「・・・・・・」
蒼井(感情表現の幅がどんどん深く微細になっていく・・・)
蒼井(いくら高性能のAIを搭載しているとはいえ、ここまで人間に近づけるものなのか・・・?)

〇事務所
アイコ「先生、先生!」
蒼井「また君か」
蒼井「用もないのに職員室まで来るなと、何度言えばわかるんだ」
アイコ「用ならあるよ。 先生のお手伝いに来たんだもん」
蒼井「必要ない」
アイコ「蒼井先生じゃなくて、こっちの先生へのお使いなんですぅ」
蒼井「お使い?」
蒼井(学園の教師あてに?)
アイコ「はいコレ! みんなから預かってきたよ♪」
蒼井(大判の封筒・・・? よくわからないが、生徒の代わりに持ってきただけか)
教師「悪いね、アイコ君。うちのクラスの子たちときたら本当に・・・」
アイコ「ううん。みんなわたしが職員室に行きたがってるの知ってるから、協力してくれてるだけなの」
教師「ははは。君がここに来るのも、だんだん恒例になってきているからね」
蒼井「お騒がせしてすみません。君も、用が済んだならさっさと退出しなさい」
アイコ「えーもう少しいいじゃん~。わたし、蒼井先生のお手伝いもしたいよ?」
蒼井「邪魔になるから結構だ」
アイコ「もう~、先生のケチ!」
蒼井「あのなぁ」
教師「だったら、アイコ君にもうひとつ用事を頼んでもいいかな?」
アイコ「もっちろん!」
蒼井「待ってください。あまりうちのヒューマノイドを甘やかされては困ります」
教師「彼女たちは本来、人間の補助をするものなのでしょう? だったらいいじゃないですか」
蒼井「そうは言ってもですね」
教師「いや実は、シュレッターしなきゃいけない書類が山とあるんですが、この後、部活への顔だしが3つもあるものでして」
アイコ「はいっ! アイコ、蒼井先生と協力してシュレッターしますっ」
蒼井「おい、何を勝手に──」
教師「すみませんがお願いしますね! これが廃棄分の書類なので!」
  そう言って、慌てて職員室を飛び出して行く教師。
  彼のデスクには、廃棄と書かれた段ボールいっぱいに書類が積まれていた。
蒼井「これを全部か」

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コメント

  • アイコちゃんがどうやって先生の心を射止めるのか(?)気になりますね…!

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