エピソード3(脚本)
〇大樹の下
悪魔さん「私の馬鹿! バカバカバカ!」
私は木に頭を打ち付けていた
悪魔さん「なんで私ちょっと天使と仲良くなってんの!? あれから毎日夕食作ってもらってるし!」
だって料作上手なんだものあいつ!
この間食べたカニ鍋また作ってくれないかしら・・・
悪魔さん「はっ!? 絆されるな私! 消えろ煩悩!」
消えろ私のあいつへ芽生えつつある何か!
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あの、だ、大丈夫ですか? 血が・・・」
悪魔さん「誰!? 不審者!?」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「ふ、不審者は深夜の公園で木に頭を打ち付けているそちらでは・・・」
悪魔さん「黙りなさい! 今私は気が立ってるの! どっかいかないと110番するわよ!!」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「ひっ! し、失礼しましたぁ!!」
悪魔さん「ガルルルルッ!!」
悪魔さん「・・・・・・あの子どこかで見たことがある気がするわね、気のせいかしら?」
〇古いアパートの一室
天使さん「起きてください。学校遅刻しますよ?」
悪魔さん「うーん・・・あと五分」
天使さん「まったく、最近夜中に部屋を抜け出して何をしているのですか?」
悪魔さん「己と戦っているのよ・・・ うう、眠いぃ」
〇学校の校舎
キーンコーンカーンコーン
〇教室
悪魔さん「やっと昼休みね!」
天使さん「ええそうですね。 それではお弁当にしましょうか」
今日も天使の作るお弁当はおいしそうだ
でも、私には使命がある!
悪魔さん「私はちょっと用事があるから! あんたは一人で弁当食べてなさい」
天使さん「懲りない悪魔ですねぇ」
悪魔さん「ちょ、襟首掴まないで! はな、離しなさいよ!」
天使さん「悪さをしようとしている悪魔を天使として見過ごすわけがないでしょう?」
最近はいつもこうだ。
せっかく落とし穴よりも効率のいい悪事を思いついたのにぃ!!
悪魔さん「なんでよ! 私はただ、気の弱そうな子にワサビ入りケーキをそっとプレゼントして、苦しむ姿を陰から見守りたいだけよ!」
これなら先生にバレる確率は低い。
ふふふ、悪魔の力を取り戻すのよ!
天使さん「はいはい、私の翼が治らないうちはさせませんからね」
悪魔さん「治ったら治ったで邪魔する癖に!」
天使さん「うふふ、それも天使のお仕事なので」
悪魔さん「この悪魔ぁ!」
私、いつになったら地獄に帰れるの?
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あ、あの~・・・」
天使さん「どちら様ですか?」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あ、わ、私・・・」
ん? この声、聞き覚えがあるわ
悪魔さん「あんた、昨日の――不審者!!」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「ち、違います! 私は同じクラスの赤坂熊子です。その、昨日鬼気迫る様子で木に頭をぶつけて血を流していたので心配で──」
天使さん「夜中にそんな奇行を? 何故ですか?」
な、何故って聞かれたらそりゃ──
悪魔さん「う、うっさいわね! 別に天使の事なんて気にしてないんだからね!」
私はそっぽを向く
天使さん「なるほど、私を出し抜けないから物理的に頭を鍛えて頭突きで倒そうと? 無謀な」
悪魔さん「さすがにそんな馬鹿じゃねぇわよ?」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「お、お二人は仲良しさんなんですね?」
天使さん「まあ、そうですね」
悪魔さん「そ、そんなわけないでしょ! 適当なこと言うんじゃないわよ天使!!」
調子が狂うから、この話は終わり!
終わりよ!!
悪魔さん「そんで、あんたなんなの? 何の用?」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あ、そうでした。天使さんは名簿で確認できたのですが、あなたの名前がどこにもなくて――よければ知りたいなって」
悪魔さん「・・・うぇっ!?」
天使さん(『悪魔さん? 名前も無しによく学校に潜入できましたね?』)
悪魔さん(『うっさい! 悪魔の力がなくても認識改変くらいできるわ! 人間みたいな名前は一流悪魔には必要ないからつけないの!』)
天使さん(『名前がないから店長がダメバイトって呼んでいたのですね?』)
悪魔さん(『いや、あれは何故かそう呼ばれていたわ』)
天使さん(『なるほど――ちなみに私は天使天使(あまつかてんし)って名前を付けましたよ』)
悪魔さん(『だっさ! やーい、変な名前~』)
天使さん(『名無しさんに言われたくないです』)
赤坂熊子(あかさかくまこ)「えっと――よろしければお友達になりたいのですが・・・だめですか?」
その時、私の脳裏に浮かんだのは初めてのお友達!
という蠱惑のフレーズではなく、ワサビ入りケーキだった
天使さん「熊子さん、何故ワサビ入りケーキしか作れないこの子とお友達になりたいと?」
こいつ、余計なことを!!
赤坂熊子(あかさかくまこ)「わさ? そ、それは・・・」
悪魔さん「黙りなさい天使! 熊子さん・・・だっけ? ここはうるさいから二人っきりにならない?」
ふふん! この子気弱そうだし、押しに弱そうだし、優しそうだし、総じて弱そう――勝機ありね!
赤坂熊子(あかさかくまこ)「え、天使さんとはいいのですか?」
悪魔さん「いいのよこいつは」
天使は突然目をつぶった
仲間外れに怒ったのかしら?
天使さん「――ええ、私はいいです。 お二人でどうぞ」
・・・え? ひきとめないの? 私悪いことするわよ? いいの? 心読まないの?
天使は笑顔を崩さない
不気味すぎる・・・
悪魔さん「ま、まあいいわ! いきましょう熊子さん」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あ、は、はい・・・」
私は一抹の不安を覚えながら、ワサビ入りケーキを隠し持って教室を後にした
〇学校の屋上
悪魔さん「じー・・・」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あの、何故そんなに見つめてくるのですか? 私、何かしましたか?」
名簿に私の名前がないことに気付いたこの子は普通の人間じゃないのかもしれない。
と思ったけど、見ててもわからないわ
悪魔さん「いや別になんでもないわ」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「それじゃあ、そろそろお名前を教えてくれませんか? 私、クラスメイト全員とお友達になるのが夢なんです!」
この子、頭の中小学生なのかしら?
悪魔さん「す、素敵な夢ね」
まあ、同調しておいてあげないとケーキ食べさせられないわよね!
赤坂熊子(あかさかくまこ)「はい! ここ数日ずっと話しかける機会を伺っていたんです! 昨日も偶然を装って公園に――あ、なんでもないです!」
・・・今、この子とんでもないこと言った?
悪魔さん「ねえ、偶然を装ってって今──」
まさか昨日の夜は・・・
赤坂熊子(あかさかくまこ)「そ、そんなことより、お名前を教えてください! 名前を知らずにお友達は名乗れません!」
何かしらこの子、気弱そうだと思ったのにぐいぐい来る・・・こわっ
赤坂熊子(あかさかくまこ)「何でもしますから!」
悪魔さん「・・・」
え? この子今、なんでもって──
悪魔さん「しょ、しょーがないわね! 私のことはそうね・・・アクマさんとでも呼びなさい!」
チャンスよ! 大チャンス!
鴨がネギ持って向こうからやって来たわ!
赤坂熊子(あかさかくまこ)「アクマさんですね! わかりました!」
ふふん! 素直なのは良いことよ
私はワサビ入りケーキを差し出す
悪魔さん「さっきなんでもって言ってくれたわよね。友情の証にこのケーキを食べて苦し――感涙してくれる?」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「はい!」
・・・す、素直過ぎじゃない? もっと疑ってもいいのよ? 大丈夫?
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あー・・・ん!」
悪魔さん「ちょ! そんな一口でいったら・・・」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「あ、このケーキ、おいし・・・」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「からああ!? ひいぃいん!」
のたうち回る熊子さん
うわぁ、人間に食べさせるとこうなるんだ。でも・・・ちょ、ちょっとおおげさすぎよね?
悪魔さん「い、いい悲鳴よ熊子さん! 表情もすばらしいわ! さあ、もっと苦しんで!」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「がらいよう。苦じいよう! なんで、どうじでごんなごとをアクマさんなん──」
恨めし気に倒れた熊子さんはピクリとも動かなくなってしまった
悪魔さん「・・・え? う、嘘でしょ? もしかして、死ん──」
私はなんてことを・・・初めてできたお友達をこの手で
悪魔さん「人間はこんなにももろかったのね。 だから天使は私に悪事をはたらかせないように・・・」
熊子さんの体から黒い瘴気が噴き出した
〇学校の屋上
それは、私が求めていたエネルギー。
負の感情。悪魔の力の源だった。
そうか、熊子さんが苦しんだから──
悪魔さん「やった、やったわ! 熊子さん、あなたの犠牲は無駄にならないわよ!!」
赤坂熊子(あかさかくまこ)「死んで、ないで・・・す(ガクッ)」
幻聴が聞こえた気がする。
きっと罪悪感のせいだ
悪魔さん(そうよね熊子さん、ごめんね。 ありがとう。あなたのことは忘れない・・・地獄に帰るまでの間は)
私は倒れ伏す熊子さんに両手を合わせて念仏を唱える。
・・・これで供養よし!
悪魔さん「さあ、来なさい悪魔の力! 私と一つに!」
安定の暴走空回りの悪魔さん、見ていて微笑ましく思えてきましたw ここで新登場の謎の同級生さん、その正体が気になりますね!
キャラクター同士のわいわい掛け合いが面白い!ぐいぐいくる子、クラスに1人くらいいましたね笑