読切(脚本)
〇葬儀場
黒川マコト(疲れがとれない──)
黒川マコト(どんなに寝ても、体が重い・・・)
黒川マコト(今、何曜日だっけ・・・・・・?)
月300時間以上の残業──。
非正規の業務委託契約社員である僕は、この葬儀会社でもう何日も休みなく働いている──。
しかも月給19万円
安い給料から税金、保険料を引かれたら何も残らない・・・・・・
ブラック企業に搾取されていることは〝わかって〟いた。
でも、あまりに疲れすぎて、将来のことを考えるのも、もう億劫だった・・・・・・
こんなに毎日が苦しいならいっそ──
黒川マコト「はあ・・・・・・・」
ブラック企業をなぜ訴えないのか? なぜ辞めないのか?
もうニュースもよく見ていないけど──
近頃の日本では死者が急増し、火葬場には休みなく稼働しづづけている
僕が辞めたら、葬儀が滞って、死者が溢れて大変なことになる──
本来、非正規の僕がそんな使命感を持つ必要はないのだろう
でも──
僕にはできなかった
だって目の前に死体が積まれ──
毎日遺族が押し寄せ──
対応を迫られるからだ・・・・・・
(ゴクリ・・・ゴクリ・・・)
僕はエナジードリンクとコンビニのおにぎりとフライスナックで空腹を満たし、終わりのない葬儀業務に追われる
黒川マコト「・・・・・・」
黒川マコト「──味がしない」
黒川マコト「コーヒーの苦味も、おにぎりの塩気も、エナジードリンクの甘みも、唐揚げの油気も感じられない・・・」
黒川マコト「・・・・・・」
時間はもう午前2時を回っていた。
黒川マコト「・・・そろそろ帰らなきゃ」
〇薄暗い廊下
葬儀会社を出ようとしたそのとき──
黒川マコト「・・・!?」
黒川マコト「あの・・・・・・いったい・・・・・・」
清掃員のようなツナギ服を来た男たちが数名、葬儀会社に押しかけてきた。
彼らのツナギには、『死研』とプリントされていて──
死学研究員「死学研究所の者です。本施設は〝清掃対象〟として認定されました」
黒川マコト「清掃・・・対象?」
死学研究員「失礼ですが・・・あなた、〝不死症症候群(ノーライフシンドローム)〟を発症されていますよね?」
黒川マコト「不死症・・・?」
死学研究員「ニュースはご覧になられていないようですね・・・」
死学研究員「いずれにせよ──」
死学研究員「あなたはすでに〝死んでいる〟し、この葬儀会社も倒産しています」
黒川マコト「え・・・?」
死学研究員「気づかなかったんですか? 〝死んでいること〟に?」
黒川マコト「死んで・・・? この僕が・・・」
死学研究員「死んでもなお働くとは、労働者の鏡ですね」
死学研究員「いずれにせよ、あなたは〝清掃対象〟です。疫病感染の防止のため、処分させていただきます」
黒川マコト「ちょ! ちょっとまって──」
死研を名乗る清掃員が僕を拘束しようとしたそのとき──
僕の目の前に現れた黒い霧が視界を覆い、そして──
僕の意識は飛んだ・・・
〇牢屋の扉(鍵無し)
ヘルネゲーター「貴様が防腐処理を施された、完璧な器か」
黒川マコト「う、うあああああああああ!」
ヘルネゲーター「死者が何を恐れるか」
黒川マコト「あ、あの・・・僕はいったい・・・」
ヘルネゲーター「コンビニ飯とエナジードリンク、カフェインの大量摂取で──」
ヘルネゲーター「貴様の身体は〝腐らない〟不死者となった」
ヘルネゲーター「我は貴様を器と見込んで契約を申し入れる・・・」
ヘルネゲーター「我が名はヘルネゲーター──原初の悪魔だ」
黒川マコト「すみません・・・何を言っているのか・・・」
ヘルネゲーター「簡単な話だ」
ヘルネゲーター「お前は死してもなお、生前の惰性で社畜として働きつづけていたということだ」
黒川マコト「じゃあ・・・僕はやっぱり死んで・・・」
僕は首の脈を自分で確認してみた
黒川マコト「・・・・・・」
黒川マコト「・・・・・・死んでる」
疲れがとれない──
何の味もしない──
それは僕がすでに〝死んでいた〟からで──
ヘルネゲーター「悲観することはない」
ヘルネゲーター「貴様の〝腐らない〟不死者の身体は、このヘルネゲーターがもらい受ける」
黒川マコト「そんな! 僕は死んだかもしれないけど・・・」
黒川マコト「こうして生きて・・・」
ヘルネゲーター「不死症候群(ノーライフ・シンドローム)」
ヘルネゲーター「今、世界中でこの疫病が蔓延し、死者が溢れている」
黒川マコト「僕は・・・その不死症候群を患った・・・ということですか・・・」
ヘルネゲーター「そうなるな?」
ヘルネゲーター「最凶悪魔の力が欲しくはないのか? 我を受け入れよ」
黒川マコト「・・・・・・」
黒川マコト「・・・・・・嫌です!」
ヘルネゲーター「ほう? 人間風情が我を拒むというのか?」
ヘルネゲーター「この絶対的! 圧倒的な我のパワーを!」
黒川マコト「そんな力・・・僕には必要ありませんから」
ヘルネゲーター「人間──」
ヘルネゲーター「後悔しても遅いぞ?」
黒川マコト「結構です──僕はこのまま・・・」
黒川マコト「死にたい・・・」
黒川マコト「仕事から解放されて、ラクになるのなら・・・」
ヘルネゲーター「残念だ──」
ヘルネゲーター「せっかく〝腐らない〟不死者の器を持っているというのに・・・」
ヘルネゲーター「宝の持ち腐れだな・・・」
ヘルネゲーター「もっとも? 〝腐らない〟ようだが?」
黒川マコト「・・・」
そうして──
僕の視界はふたたび暗闇に包まれて・・・
〇薄暗い廊下
黒川マコト「あ、あれ?」
死学研究員「対象は〝防腐処理〟で腐らない貴重なサンプルだ。確保しろ」
黒川マコト「やめてください! 僕はこのまま安らかに、ラクになりたいんだ!」
死学研究員「ウダウダうるせーなア!!!」
黒川マコト「・・・・・・」
死学研究員「どうだ? 殴られても痛みも感じないだろ?」
黒川マコト「・・・・・・痛くない」
黒川マコト「本当に僕は・・・」
死学研究員「蹴っても!」
死学研究員「殴っても切り刻んでも!!!!」
黒川マコト「・・・・・・」
死学研究員「お前は死んでいるから痛まない」
死学研究員「だったら──」
死学研究員「罪悪感覚えることもないわな?」
死学研究員「ハハハハハッ!」
黒川マコト「骨が・・・折れたのか?」
黒川マコト「何も感覚が・・・」
黒川マコト「どうして──」
黒川マコト「僕がこんな目に・・・」
死学研究員「バーカ、お前みたいなのは生きてるときも、死んだ後も、ずっと負け組なんだよ」
黒川マコト「・・・・・・」
死学研究員「搾取され、利用されるだけの──」
死学研究員「〝家畜〟と一緒なんだよ」
死学研究員「何の努力もせず、ただ耐えてさえいればいずれ良くなっていく──」
死学研究員「そんな幻想にすがって、惰性で生きてきたツケがまわったのさ」
死学研究員「ま、せいぜい、〝腐らない〟サンプルとして、切り刻ませてもらうよ?」
死学研究員「ハハハ・・・・・・ハハハハッ!」
黒川マコト「そんな・・・」
黒川マコト(全部、僕が悪いのか・・・・・・?)
黒川マコト(非正規で資格も取らず──)
黒川マコト(何も学ばず、何も行動しなかった僕が?)
黒川マコト(僕はただ──)
黒川マコト「真面目に働いてきただけじゃないか!」
黒川マコト(それなのに・・・・・・)
ヘルネゲーター「──人間よ」
ヘルネゲーター「力が欲しいか?」
黒川マコト「・・・・・・」
ヘルネゲーター「今一度問う──」
ヘルネゲーター「力を欲するなら、貴様の胸に澱のよう沈殿しているその〝想い〟を吐き出せ」
ヘルネゲーター「さすれば、力を与えよう──」
ヘルネゲーター「ヘルネゲーター──地獄の抹殺者の破壊力を!」
黒川マコト「────」
黒川マコト「──悪いのは世界だ」
黒川マコト「それは僕の〝逆恨み〟かもしれない」
黒川マコト「でも・・・ッ!」
黒川マコト「こんな! クソッタレの!」
黒川マコト「世界が悪いッ!!!!!」
黒川マコト「あいつらを・・・」
黒川マコト「僕から搾取しようとしてきたすべての〝あいつら〟を──」
黒川マコト「ブチ殺したい!!!!!!!!!!!」
ヘルネゲーター「・・・・・・フム」
ヘルネゲーター「気に入った」
ヘルネゲーター「──力を貸そう」
そして──
僕は変身した──
〇炎
死学研究員「死研に応援を要請しろ!」
死学研究員「対象サンプルが・・・・・・ぐああああ!」
ヘルネゲーター「──負け組だって?」
ヘルネゲーター「この俺が?」
死学研究員「た、助けてくれえええええええ!」
ヘルネゲーター「俺がどんなに助けを乞うても──」
ヘルネゲーター「〝お前ら〟は助けなかったよな?」
死学研究員「お、俺も! お前と一緒なんだよ・・・・・・!」
死学研究員「非正規の雇われで・・・・・・」
ヘルネゲーター「じゃあ──」
ヘルネゲーター「──”このクソッタレな”世界を恨むんだな」
死学研究員「ぐ・・・ぐわああああああああああ!」
俺は──
ツナギ服の男たちを一瞬で〝抹殺〟した・・・・・・
〇山奥の研究所
ヘルネゲーターと融合した僕は──
世界への復讐──
逆恨みの憂さ晴らしを開始することを決意した
ヘルネゲーター「まずは死学研究所──」
ヘルネゲーター「不死症症候群(ノーライフシンドローム)とやらを喰い物にしてる連中を──」
ヘルネゲーター「抹殺する!!!!!」
そのまま死なせてやれば、何事もなかったかもしれないのに。
無害だったものを危険に変えてしまうきっかけは、いつだって他人に対するやっかみや劣等感、本人以外の負の感情。
死を排除すべき役割の「死研」が死を招き入れたのは皮肉なことでした。
死んでもなお働き続けるとは…ではなく自分が死んでいることにも気づかないほどの激務ってひどいですね…。
人間らしさのない世界で、怪人の力を使うのも仕方ないことだと思いました。
主人公の風体がいいですね