不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

#1 ヒューマノイド(脚本)

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北條桜子

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〇教室の外
アイコ「スキ」
蒼井「・・・は?」
蒼井(何を言っているんだ?)
アイコ「わたし、蒼井先生のことスキになっちゃった!」
蒼井(僕を・・・好き? そんなわけがない。 そんな感情を持っているはずがない)
蒼井(だってコイツは──!)

〇諜報機関
  ──10日前。
蒼井「どうして僕が白凪学園に異動しなければならないんですか」
主任「君が優秀な研究員だからに決まってるじゃないか~!」
蒼井「僕が行くのは筋違いでしょう。 だって白凪学園は──」
主任「我が社が誇るヒューマノイドのさらなるアップデートを目指し、新たに立ち上げたプロジェクトの検証場所だね」
蒼井「ヒューマノイドに学園生活を模倣させて感情の獲得を目指す、ですよね」
主任「そう! でも、学園の教師陣に大事なヒューマノイドを丸投げするわけにはいかないだろ?」
主任「白凪学園はヒューマノイドの特殊クラスを除けばいたって普通の高校で、他の生徒たちも教師陣もただの一般人だからね」
蒼井「だから僕に教師の代理をしろと? あり得ませんよ」
主任「それは君がヒューマノイドの感情獲得に否定的だからかな」
蒼井「っ・・・」
蒼井「ヒューマノイドが・・・」
蒼井「プログラムが感情を持つなど、不可能だ。検証自体、意味がないんです」
主任「ははは、その冷静かつ厳しい目で、ぜひともヒューマノイドたちを頼むよ」
蒼井「主任!」
主任「ともかくこれは決定事項だから。 拒否権はないんだよ」

〇教室
蒼井「・・・というわけで、今日から君たちに人間の感情を学んでもらう」
蒼井「僕は便宜上、このクラスの担任教師という扱いになる・・・蒼井だ」
  結局辞令に逆らえず、白凪学園へとやって来た僕は早くも後悔していた。
ヒューマノイド「ア、オ、イ・・・顔認証システムと一致しました」
ヒューマノイド「研究スタッフ・ナンバー012の蒼井さん・・・敬称登録を『先生』と改めます」
蒼井(皆が皆、同じ服に同じ顔つき)
蒼井(性格設定プログラムを組んでいなければ、まるで人形そのものだな)
蒼井(それより・・・どういうことなんだ)
  手元の出席簿と、並び座るヒューマノイドを何度か見比べる。
  いるべき個体が1人足りない。
蒼井「個体名『アイコ』について知っている者は──」
  ──ドタドタドタ!
蒼井「な、なんだ・・・!?」
  教室内のヒューマノイド9体が、一斉に空虚な視線を廊下へと向けた。
  その、次の瞬間だった。
アイコ「おはようございます!」
蒼井(おはようございますって・・・それにこの服、まさかこの個体が・・・?)
アイコ「あなたが先生ですか!?」
蒼井「そ、そうだけど。君は・・・」
アイコ「あっ、わたしアイコです!」
アイコ「わたし達に、感情を教えてくれるんですよね!? 楽しみだなぁ!」
蒼井「た、楽しみ?」
  アイコの口角がほんのりと上がっている。どうやら表情パーツが稼働しているらしい。
蒼井(明らかに他の個体とは違う。 性格設定がプログラムされているのか。 それもかなり詳細に)
蒼井(主任の仕業か? どうせ何かの思惑があるんだろうが、これじゃあ正確なデータが取れるかどうか・・・)
蒼井(いや、今はそれよりも)
アイコ「先生? どうかしたんですか?」
蒼井「登校時刻のプログラムは?」
アイコ「え?」
蒼井「1日のスケジュールは全てプログラムとして組み込まれていると聞いている」
蒼井「遅れてきたということは、プログラムにバグが発生しているか、あるいは──」
アイコ「先生を、驚かせたくて」
蒼井「・・・は?」
アイコ「こうすれば先生の印象に残るでしょ?」
  イタズラっ子のような笑顔を浮かべる彼女に、思わず言葉を失ってしまう。
  けれど、僕の驚きはすぐさま怒りに変わった。
蒼井「ヒューマノイドの本分は、人間の役に立つことだ。そのためにはプログラムを忠実に実行することが欠かせない」
蒼井「ヒューマノイドでありながら、プログラムを無視・逸脱した行動を取るなど、言語道断だ!」
アイコ「・・・!」
蒼井「この際だから言っておく! 僕は、君たちヒューマノイドに感情獲得など必要ないし、不可能だと考えている」
蒼井「君たちにできるのは、せいぜい人間の感情表現を学び模倣することぐらいだ」
ヒューマノイド「不可能。それはつまり100%を指しているのでしょうか? コンピューターの計算によれば──」
蒼井「ほんの1%にも満たない可能性に意味はない! そう・・・」
蒼井「この実験は無意味なんだ」
蒼井「それでも僕は研究員として、君たちの行動変化についてデータを取る必要がある」
ヒューマノイド「では、我々は何をすれば良いのでしょうか」
蒼井「プログラムに従え。人間の行動を観察し模倣するのが君たちに課された業務だ。いいな」
蒼井「それから君」
アイコ「わたし?」
アイコ「なんですか、先生♪」
蒼井「プログラムを無視・逸脱する行為は、今後一切認めない。きっちり修正しておけ」
  各個体の内部コンピューターがアップデートを行う微かなモーター音が聞こえてくる。
  そんな中、目の前に立つ彼女は『笑って』いた。
アイコ「わたし、怒ってもらったの初めてだぁ・・・!」
蒼井(何なんだこの反応)
蒼井(主任はいったい、彼女にどんなプログラムを施したんだ・・・!?)
  アイコが、瞳を模したガラス玉を輝かせ、頬に紅潮したような赤みを表出させる。
  作り出したその表情が意味するところを、僕はまったく理解できなかった。

〇まっすぐの廊下
アイコ「蒼井先生~!」
蒼井「・・・また君か」
  学園に赴任してきてから早くも1週間。
  ヒューマノイド達の様子は相変わらずだった。
  ただ1体を除いては。
蒼井「予鈴はもう鳴っただろう? どうして教室に戻っていないんだ。また遅れてくるつもりだったのか?」
蒼井(何度注意しても直らない。それに・・・)
女子生徒A「へ~、これが噂の蒼井先生? なんか先生っぽくな~い!」
アイコ「え~、先生っぽくなくなくな~い?」
女子生徒B「あははっ、アイコちゃんウケる」
アイコ「あははっ、ウケられたー!」
蒼井(いったいいつの間に、一般生徒との接点を持っていたんだ)

〇教室
女子生徒A「蒼井先生、こっちこっち!」
蒼井「お、おい! 僕は君たちの先生では──」
女子生徒B「そんなんいいから早く! アイコちゃん待ってるし!」
蒼井(アイコ? またあの個体か。 今度はいったい何だと・・・)
蒼井「っ・・・!」
アイコ「先生・・・! 髪型、どうかな?」
蒼井「どう・・・って・・・」
女子生徒B「かわいいっしょ? うちらがやったげたんだ~!」
女子生徒A「ってか蒼井先生、見とれてない?」
アイコ「本当っ!?」
蒼井「・・・そんなわけないだろう」
蒼井「それより、あと5分で下校時間だ。 皆早く帰るべきではないのか」
アイコ「む~、蒼井先生のケチ」
女子生徒B「そうだそうだ~」
蒼井(一般生徒からの影響を色濃く受けているようだな。これはいいことなのか、それとも・・・)

〇事務所
蒼井「はぁ・・・」
教師「ヒューマノイドの相手というのも、なかなかに大変そうですね」
蒼井「はぁ、まぁ」
蒼井(大変なのは、相手がヒューマノイドだからじゃない。現に問題を起こしているのはあの個体だけだ)
蒼井(繰り返されるプログラムの逸脱行為は、やはり何らかのバグが原因か? 主任に確認しないと──)
  と、席についたところで、デスクに置かれた一枚の紙きれが目に入った。
蒼井(これは・・・?)

〇黒
アイコ「放課後、体育館の裏で待ってます!」

〇事務所
蒼井(呼び出し・・・?)

〇教室の外
アイコ「先生! よかった、来てくれた!」
蒼井「何故こんな場所に呼び出したりした」
アイコ「2人っきりで、どうしても伝えたいことがあって」
アイコ「他のクラスの子に相談したらね、体育館裏に呼び出すのがいいよって教えてくれたの♪」
蒼井(また一般生徒の影響か。しかし、何故わざわざこんな場所に・・・)
蒼井「それで、何の用だ?」
アイコ「スキ」
蒼井「・・・は?」
アイコ「わたし、蒼井先生のことスキになっちゃった!」
蒼井「・・・あり得ない。そんなわけがない」
アイコ「どうして!? わたし本当に先生のことが──」
蒼井「ヒューマノイドに感情などない!」
蒼井「君のそれは、繰り返し顔を合わせることで親密度のパラメータが増幅した結果にしか過ぎない。つまり──」
蒼井「単なる勘違いだ」
アイコ「違うよ!」
蒼井「違わない。ヒューマノイドが恋愛感情を持ち得ることなど不可能だ」
アイコ「だったらわたしが証明する! わたしが先生を好きだってこと・・・!」
アイコ「ヒューマノイドにも恋はできるって、わたしが証明するよ!」
  確かな決意を宿していると、錯覚しそうなほど強いアイコの視線に気圧される。僕は、ただただ困惑していた。
蒼井(このヒューマノイドは・・・いったい、何なんだ!?)

次のエピソード:#2 猛攻のアイコ

コメント

  • 一体だけ感情をもつヒューマノイドの謎! 続きが気になります!

  • 連載スタートおめでとうございます❗

    AIロボットに自我は生まれるのか否かというテーマ記事は、子供に返ったような気持ちでワクワクしながら読んだりしています。
    当然、ヒューマノイドと人間が当たり前のように対等な立場で共存が可能なら、これほど嬉しいことはありません。
    これから物語がどのように展開し、どのような結末が待っているのか、今からとても楽しみです!

    今後も、僭越ながら応援させていただきます。

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