黒光

きらそね

王の帰還(脚本)

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〇けもの道
  怪人界(メタモラ)・森
  いつものように食材の調達をしていた
  シグラの前に──
  突如、謎の少年が現れた。
シグラ「なッ・・・!?」
シグラ(なんだコイツ、どこから──!?)
  少年はシグラに気づくなり血相を変えて──
  攻撃してきた。
シグラ(か・・・風の斬撃!?)
シグラ(さっき一瞬見えたあの紋── 魔界(ブレイツア)の者か・・・!?)
  戸惑うシグラをよそに、次から次へと繰り出される斬撃。
  シグラはひたすら剣で弾く。
シグラ「おい、落ち着け! お前ッ──」
シグラ「くッ・・・」
シグラ「落ち着けって──」
シグラ「言ってんだろうがぁあああああ!!!!!!」
  大木をも振るわせるシグラの咆哮が、
  少年の鼓膜を激しく叩く。
  顔を歪ませた少年は小さくうめいて──
  その場に倒れた。

〇森の中の小屋
  寂れた木こり小屋

〇暖炉のある小屋
  ──シグラの住まい
シグラ「・・・はあ」
???「────・・・」
シグラ「・・・・・・はあ」
シグラ(ついつい連れ帰ってきちまったが・・・)
  意識を失った少年はいまだ目を覚まさない。
  泥だらけの服、体や顔のあちこちにできた擦り傷。
  そして、シグラの”存在”に気づいたとたんに取った行動──
  狙われるか追われるかして、どこからか逃げてきたのだろうことは推察できたが──
シグラ(人間界(ヒュリア)、天界(オールラ)、 魔界(ブレイツア)・・・)
シグラ(魔界(ブレイツア)だろうなあ多分・・・)
  遥か昔に起きた大戦以後、
  4つの世界は不可侵条約を守ることで均衡を保っている。
シグラ(どんな事情があるにせよ──)
シグラ(この怪人界(メタモラ)に勝手に侵入したとわかればただではすまんぞ)
シグラ(匿ってる俺もだが・・・)
???「・・・」
シグラ「おお、起きたか」
???「っ・・・」
シグラ「っとと、待て待て。危害は加えない」
シグラ「俺の家で暴れるのだけはやめてくれ、 頼むから」
???「お前の・・・家・・・?」
???「・・・傷、治療してくれたのか」
シグラ「薬塗って布ッきれ巻いただけだ 治療なんてたいそうなもんじゃない」
???「──・・・そうか」
???「すまなかったな。気が立っていて──」
???「相手を確認することなく殺してしまうところだった」
シグラ「・・・」
シグラ「いや、まあ大丈夫だ そう簡単にくたばるほどヤワじゃない」
シグラ「それよりお前さん、ブレイツアから・・・か?」
???「そうだ──」
???「こんなところで寝ている場合じゃない」
???「どこかに転移装置はないか!? ブレイツアに戻らなければッ・・・」
???「・・・っく・・・」
???「体が・・・」
シグラ「急に動けばそうなるさ 俺の声で脳みそ揺さぶられたんだから」
???「声で・・・?」
???「ああ、さっきの魔物の咆哮のような──」
シグラ「効いただろ? だから──ホラ、もう少し休んどけ」
???「しかし──」
シグラ「いいからいいから」
???「・・・ぐ、なんて怪力だお前・・・」
シグラ「っつーかお前さん、ブレイツアから逃げてきたんじゃないのか?」
???「・・・」
???「・・・逃げてきた、というより逃がされた」
シグラ「逃がされた?」
???「──・・・そうだ」
???「僕の名はドルケモア。 ブレイツアの王の嫡子だ」
シグラ「え」
シグラ「王子様なのかお前さん!?」
ドルケモア「次期『王』だ」
ドルケモア「・・・そうだな すぐには動けそうもないし──」
ドルケモア「少し僕の話に付き合ってもらおう」

〇荒野
  ブレイツアに起きたことは──
  一言でいえば『叛逆』だった。
  欲深き上級魔族たちの策謀。
  それ自体はブレイツアではよくある話で、偉大なる王の力をもってすれば鎮圧もたやすい。
  ただ──時期が悪かった。
シグラ「寿命?」
ドルケモア「そうだ。 王の命のともしびは──」
ドルケモア「もう間もなく、消える」
ドルケモア「以前のような力は──残っていない」
シグラ「・・・代変わりの隙を突かれたってことか」
シグラ「で、親父さんがお前を逃がしてくれた──と」
ドルケモア「臣下が、だ」
ドルケモア「あの場で奴らを消し去ることなど、王の力を継ぐ僕にとっては造作もないが・・・」
ドルケモア「王城は──すなわち王の魂だ」
ドルケモア「王の御魂(みたま)を傷つけることは・・・僕にはできない」
シグラ「みたま? ・・・ああ、そういや古い文献で読んだことがある」
シグラ「『ブレイツアの王は魂を礎に城を築く』・・・だっけか? いまいちピンと来ないが」
ドルケモア「口で説明するのは難しいし、お前が知る必要はない」
ドルケモア「ともかく──」

〇暖炉のある小屋
ドルケモア「あんな奴に、父たちが──王が代々護ってきたブレイツアの地を、歴史を穢されるわけにはいかない」
ドルケモア「だから僕は、なんとしても戻らなければならないんだ」
シグラ「なるほどな。 まあ、事情はわかった」
シグラ「しかし、帰るったってなあ・・・」
ドルケモア「どこかに転移装置はないのか」
シグラ「うーむ、あるにはあるが・・・」
シグラ「現在、稼働可能なものは怪王様が管理していてな」
ドルケモア「怪王? 怪人界(メタモラ)の王か」
シグラ「そうだ」
シグラ「だが条約があるし、お前さんは不法侵入者だし、正直難しいと思うぜ」
シグラ「それに怪王様を頼るなら・・・残念ながら俺では力になれん」
ドルケモア「お前、追放者かなにかか」
シグラ「・・・察しがよくて助かる」
ドルケモア「外界といえど暮らしぶりを見ればわかる。よくある話だ」
ドルケモア「──なら『現在稼働可能なもの』以外の装置はあるか」
シグラ「・・・なくはない、が──」
ドルケモア「危険は承知で聞いている。 場所を教えてくれ」
シグラ「一人で行くつもりか」
ドルケモア「・・・ついてきてくれるのか?」
シグラ「・・・・・・」
シグラ「察しがいいのは結構だが、 俺の気持ちより先をいくのはやめてくれ・・・」

〇薄暗い谷底
  偶然か、必然か──
  シグラたちの出会った森の最深部に、転移装置の遺跡がある──。
ドルケモア「こんなところに・・・」
ドルケモア「・・・ずいぶん古いな」
シグラ「そりゃあ、廃止されてから相当の年月が経ってるからなあ」
シグラ「装置自体もちゃんと動くかわからんぞ」
ドルケモア「・・・わかっている」
シグラ「侵入者を排除するための仕掛けもある」
シグラ「本当に本当に危険だぞ」
ドルケモア「しつこい。 危険は承知の上だと言っただろう」
シグラ「止めても無駄か。 わかっちゃいたが、行くしかねえなあ」
ドルケモア「待て。・・・シグラといったか」
ドルケモア「お前まで危険を冒す必要はない」
ドルケモア「ここから先は、僕ひとりで行く」
シグラ「・・・・・・」
シグラ「気遣いはありがたいが──」
シグラ「転移装置に使われているのは、共用語じゃなく我らメタモラの言語だぞ」
シグラ「読めるのか、お前さん」
ドルケモア「・・・」
ドルケモア「・・・何から何まで迷惑を掛ける」
シグラ「はは、なぁに、乗りかかった泥船だ」
ドルケモア「泥は余計だ」

〇洞窟の深部
機械人形「──・・・」
シグラ「はぁッ!!!」
「────・・・・・・」
シグラ「らぁッ!!!!!」
ドルケモア「シグラ、僕も──」
シグラ「いらん! お前は下がってろ!!」
ドルケモア「しかしッ・・・」
シグラ「故郷のために力を温存しとけ!!!!」
シグラ「チッ、横抜けるぞ! 走れ!!!!」
ドルケモア「あ、ああ・・・!!」
  進むたびに出現する、
  対侵入者用機械人形──
  シグラは鋭い動きで破壊し、振りきれるものは振りきりながら──
  止まることなく駆け抜けていく。

〇謎の施設の中枢
シグラ「・・・っはぁ、はぁ・・・」
ドルケモア「・・・は・・・ ついた、のか・・・?」
  遺跡 最深部──
シグラ「・・・・・・」
ドルケモア「動きそうか?」
シグラ「──・・・なんとかな」
シグラ「途中でぶッ壊れたら悲惨なことになるが」
「承知の上」
シグラ「──だろう?」
ドルケモア「・・・ああ」
シグラ「よし、中に入れ」
シグラ「真ん中に立つな、もうちょっとそっち寄ってくれ」
ドルケモア「な、なぜお前まで入ってくるんだ」
シグラ「外のパネルが完全にイカれてるからだよ」
シグラ「中から操作するしかない」
ドルケモア「待て、それじゃお前まで──」
ドルケモア「いい、外から指示してくれれば僕が・・・」
ドルケモア「うっ・・・」
シグラ「できそうか?」
ドルケモア「──・・・すまない、本当に」
シグラ「おいおい お前さん、ブレイツアの王子様だろ?」
シグラ「そんなぺこぺこ謝るもんじゃないぜ」
ドルケモア「しかし・・・」
シグラ「いいんだよ」
シグラ「死なないから生きてる── それだけの奴だ、俺は」
シグラ「──・・・覚悟はいいか、王子様」
シグラ「行くぞ」
ドルケモア「ああ、・・・頼む」

〇荒野
「──・・・」
ドルケモア「成功、したのか・・・?」
シグラ「どうだろうな。 とりあえず手も足も頭もくっついちゃいるが・・・」
???「ドルケモア様!!!!」
ドルケモア「!」
???「ドルケモア様、ドルケモア様っ」
???「ご無事でなによりですぅうううう!!」
ドルケモア「ミザルカ・・・!」
ドルケモア「お前、ここで僕を──?」
ミザルカ「はいっ、指標となるようここに陣を描いておきました」
ミザルカ「ふぇええん よかったぁああああ!」
シグラ(ブレイツア人ってこんな感じなのか・・・)
シグラ(もうちょい物々しいイメージだったが)
ミザルカ「ドルケモア様、そちらの方は・・・?」
ドルケモア「メタモラで出会った──恩人だ」
ミザルカ「では、あなたがドルケモア様をここへ!?」
ミザルカ「ありがとうございますうううう!! 恩人様ぁああああっっ!!」
シグラ「どぅわッ!! 抱きつくな!! は、離れろッ!!」
ドルケモア「・・・ふふ」
シグラ「お、お前! 笑ってる場合か!? 王のことはいいのか!?」
ドルケモア「・・・ミザルカ」
ミザルカ「・・・はい。ご報告──いたします」
ミザルカ「ドルケモア様が転移なされてからすぐ、王は・・・自ら命を絶たれました」
ドルケモア「・・・そうか」
ドルケモア「では王城は奴の手に落ちたのではなく、王の意志で瓦解したのだな」
ドルケモア「・・・さすがだ、父上」
ミザルカ「今はゴルヴェールが城を築き、玉座についております」
ドルケモア「・・・城はどこだ」
ミザルカ「あちらです」

〇島
  ミザルカが指した先──
  黒い海に浮かぶ島に、影のような巨大な城が築かれていた。

〇荒野
ドルケモア「離れ島に築いたか」
シグラ「裏切り者ってのは・・・臆病になるからな」
ドルケモア「──馬鹿め」
ミザルカ「ドルケモア様・・・」
ドルケモア「ミザルカ」
ドルケモア「・・・名で呼ぶな」
シグラ「なッ・・・!?」
  森で遭遇した時とは比べものにならないほどの”力”が──
  闇を切り裂く鮮烈な閃光が──
  地面を走り、海を裂いて、島ごと城を吹き飛ばした。
ドルケモア「僕は──『王』だ」
ミザルカ「・・・っ」
ミザルカ「我が王よ── ・・・お帰りなさいませ」

〇謎の施設の中枢
  数日後──
  ブレイツア・転移装置
ドルケモア「こたびは本当に助かった」
ドルケモア「すべてお前のおかげだ、シグラ」
シグラ「なに言ってやがる、 すべてお前さんの力だろう」
シグラ「しかしいいもん見せてもらったなあ あのトンデモ攻撃はもちろんだが──」
シグラ「『魂で城を築く』・・・か」
  島を吹き飛ばした直後──
  激しい地鳴りとともに勢いよく地面が盛り上がったかと思うと、そこには立派な城が築かれていた。
  ドルケモアの体は玉座に──まるで根を張るように鎮座し、呼びかけにもなんら反応しなくなった。
シグラ「てっきり死んじまったのかと思ったが」
ドルケモア「城の一部になっただけだ」
ドルケモア「体の自由は効かないが、精神体ならばこうして見送りに出ることもできる」
ドルケモア「・・・シグラ」
ドルケモア「しばらく居てもいいのだぞ」
シグラ「いや、遠慮しておくよ」
シグラ「ここの飯は俺には合わん。どうにも血なまぐさくってな」
ドルケモア「メタモラ人が草食というのは驚いた」
シグラ「菜食文化と言ってくれ」
ミザルカ「んん? あれえ・・・?」
ドルケモア「どうした、ミザルカ」
ミザルカ「なぜか、メタモラが座標設定できなくなってるんです」
ミザルカ「拒絶シールドが張られてる・・・?」
シグラ「ああ・・・」
シグラ「転移装置を起動したこと、怪王様にバレたかな・・・」
ドルケモア「・・・草の飯はしばらくお預けか」
シグラ「なんで嬉しそうなんだ、お前さん」
ドルケモア「ふふ。僕──いや、私は」
ドルケモア「お前が好きだからな」
シグラ「・・・懐かれても困るぞ、おい」
  シグラが故郷の土を踏むのは、
  もう少しばかり、先のよう──。

コメント

  • 「魂で城を築く」という世界観が独特で素敵です。種族が違っても互いを思いやって唯一無二の関係性を築いた二人も、「魂で友情を築いた」と言えるかもしれませんね。

  • 王子様はとっても良い怪人に出逢いましたね。怪人もお人好しなのか最後まで王子のお手伝いしてしまいました。怪人が菜食文化とは笑っちゃいました。

  • 最後次期王がシグラに言った言葉がとても感動的でした。種のちがうもの同志が、お互いの内面本質を見極め、警戒心から解放されことって本当に心洗われます。

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