THE・BLOOD・DIAMOND(脚本)
〇荒野の城壁
列島大震災を経て、この国は無法地帯となった。
そして地震で呼び覚まされたかのように、地中深くから生きた化石と称される怪物達が姿を現した。
体内に宝石を宿し人を襲うその『宝石獣』は人々に恐怖と恩恵を与えた。
力あるものは溢れるほどの宝石を手に入れ巨万の富を得、力なきものは爪牙の餌食となった。
後にジュエルラッシュと記録される時代の出来事である。
〇怪しげな酒場
モヒカンズ「ひひひ。いいじゃねえか酌くらいよ」
メイド「や、やめて下さい」
モヒカンズ「なんだ?こっちは客だぞコラ」
ミドリ「この子はまだ入って間もないんです。少しお手柔らかに頼みます」
モヒカンズ「ババアは引っ込んでろ!」
ミドリ「・・・」
ヒロ「ね、姉ちゃん!」
先生「大丈夫だ。ああいう手合いには慣れてるさ」
先生「それに下手に手を出して組に睨まれたら」
ヒロ「やめろーっ!」
先生「お、おい!」
モヒカンズ「何だクソガキ?」
ミドリ「こ、子供相手に何をするの!」
『ああ子供だ』
『だけどいい根性してるぜ』
『少なくとも見て見ぬフリしてる男どもよりはな』
モヒカンズ「ぐあっ!」
モヒカンズ「うぐっ!」
モヒカンズ「て、てめえ。何もんだ」
ガイ「俺か?ただの名もなき渡り鳥さ」
モヒカンズ「渡り鳥だと?ふざけた野郎だぜ」
モヒカンズ「ぶっ殺してやる」
『キャーッ!』
『宝石獣だ!宝石獣が出たぞ!』
モヒカンズ「おい聞いたか?」
モヒカンズ「ああ、こうしちゃいられねえ。獲物だ!」
ガイ「ふん。獲物ときたか」
ミドリ「有難うございます」
ガイ「肝の据わった女だな。あのモヒカン連中よりずっと」
ミドリ「そうですか?」
ミドリ「あいつらはマフィアのシシクラ組といって」
ガイ「化け物から町を守ってる代わりに好き放題やってるって所か」
ヒロ「凄い。何で分かったの?」
ガイ「百番煎じくらいの、よくある話だぜ」
『ぎゃああッ!』
『こいつ手ごわいぞ!』
ガイ「随分苦戦してるようだな」
ガイ「少し助けてやるか」
先生「そういう彼も百番煎じですな~」
ヒロ「うるさい!」
ミドリ「根性無しは黙ってて!」
先生「褒めてるんですよ~」
〇ヨーロッパの街並み
ロウカラット「グオ―ッ!」
ロウカラット「ギャッ!」
ロウカラット「ビャッ!」
ガイ「フッ、どいつもこいつもロウカラットじゃねえか。こんな下級宝石獣に手こずってるのか?」
ロウカラット「グゴーッ!」
モヒカンズ「バカ野郎!よく見ろ!」
ガイ「あ、あれは!」
ガイ「ハイカラット!」
モヒカンズ「町のドクターだった男だ!」
モヒカンズ「擬態が解けて来てる!畜生、逃げるぞ!」
モヒカンズ「ギャッ!」
モヒカンズ「ぐふっ!」
シシクラ「シシクラ組の面汚しが」
シシクラ「あれはサファイア級だな。見てろ、鉱化するぞ」
ハイカラット「グオオオッ!」
サファイア「コノ町ニハ俺ガ必要ナノダ・・・ソレナノニ・・・」
サファイア「オノレ・・・シシクラァ!」
ガイ「おい。どういう事だ?」
シシクラ「今は町を救うのが先じゃないのか?」
シシクラ「ジュエルハンターのガイさんよ」
サファイア「モウ何モ見エヌ・・・何モ分カラヌ・・・」
サファイア「グオオオッ!」
ガイ「チッ・・・何やら訳ありらしいが」
ガイ「悪く思うなよ化け物!」
〇空
〇怪しげな酒場
ヒロ「その時ズキューンと眉間を一撃!」
ヒロ「俺見てたんだ!この人凄腕だよ!」
ヒロ「なあ俺にも銃を教えてくれよ!俺が強くなりゃシシクラ組にもデカい顔されなくて済むんだ!」
『おいおいガキんちょが何言ってんだ?』
『鉄砲は玩具じゃないぜ。ははは』
ガイ「そうだ。お前にはまだ早い」
ヒロ「・・・」
ガイ「代わりにこの町の男全員に教えてやる」
ガイ「そして命懸けで女子供を守りやがれ!このろくでなしどもが!」
ヒロ「ガイ・・・」
『ははは。参ったな』
『ミドリ。お勘定』
ヒロ「じゃ、じゃあ俺の代わりに街を守ってくれよな」
ヒロ「ジュエルハンターなんだろ。ここにいたら食いっぱくれないぜ。なあ姉ちゃん」
ミドリ「・・・え?」
ミドリ「そ、そうね。私からもお願いするわ」
ガイ「・・・」
ミドリ「ヒロ。銃はいいから上で本でも読んでなさい」
ミドリ「都会で働くには学が必要なんだから」
ヒロ「本なんて・・・俺はここでいつまでも姉ちゃんを守ってやるんだ」
先生「はいはい。お勉強の時間ですよー」
ミドリ「ねえ、一杯おごるから一曲聴かせてくれない?」
ミドリ「今日は大事な男(ひと)がいなくなっちゃったからさ」
ガイ「大事な人?」
ガイ「ま、まさか!」
先生「あなたが責任を感じる必要はない。町を救ってくれたんだから」
ガイ「・・・」
ミドリ「恨んでなんかいないわ。ただ少し寂しくなっただけ」
ガイ「分かった」
ガイ「一杯おごってくれ」
ミドリ「・・・ありがとう」
〇ヨーロッパの街並み
先生「ほほお~これがハイカラットのジュエル。初めて見ましたよ」
ガイ「教えてくれ。あのハイカラット。いやドクターとやらに何があった?」
ガイ「人間に擬態して世の中に溶け込む知的上級宝石獣ハイカラット」
ガイ「あのドクターとやら、ミドリの恋人だったんだろ?なら敵性型とは思えない。何故暴走したんだ?」
先生「ハンターならご存じでしょうが。ハイカラットは感情の昂ぶりによって擬態が解ける」
先生「ドクターはシシクラに立ち退きを迫られていたんです」
ガイ「立ち退き?」
ガイ「すべてはこいつを集めるためか」
先生「ドクターの正体が宝石獣だと目星をつけたシシクラは彼を追い込んで暴走させた。彼だけじゃない。これまで何人も。何匹も」
先生「シシクラは町の全てを知り尽くしている。宝石獣の疑いをかけた者を追い込んでその正体を曝け出させる」
先生「えげつない連中ですよ」
モヒカンズ「じゃあお前も追い込んでやろうか?」
先生「ひ、ひいっ!」
モヒカンズ「ジュエルハンターガイ。ボスがお呼びだ。面を貸してもらおう」
ガイ「断ったら?」
モヒカンズ「酒場の女とガキに絡む連中が増えるだけだ」
ガイ「マフィアの下っ端も随分忙しい事で」
モヒカンズ「ああ?」
ガイ「いいだろう。遊んでやるよ」
モヒカンズ「遊びでも口のきき方には気をつけとけよ。大怪我するぜ」
ガイ「かすり傷なんて日常さ」
〇魔王城の部屋
シシクラ「どうした?お気に召さないかね?」
ガイ「あの酒場のハンバーガーに食いなれてるんでね」
ガイ「それに血の味も抜け切れてねえようだぜ」
シシクラ「それはすまんな。早急にシェフを始末するとしよう」
シシクラ「血は血で贖うのが俺達の流儀だ」
ガイ「はいはい。食べりゃいいんだろ食べりゃ」
シシクラ「何でこの町に来た?」
シシクラ「知ってるんだろう?ここが第四管区最大の宝石獣の出現ポイントだと」
ガイ「・・・」
シシクラ「善人面装っててもようはコイツが目的ってわけだ」
シシクラ「上級宝石。ならば俺達の利害は一致する」
シシクラ「シシクラ組が擬態を炙りだしお前が殺す。分け前は折半。こっちは犠牲を出さずに済むしお前は調べる手間が省ける」
ガイ「話にならねえ」
シシクラ「さすがに腰が引けたか。なら護衛もつけて」
ガイ「足手纏いって意味だよ」
ガイ「頭の悪い追い込み方しやがって。そんなやり方してたら町が滅んじまうぞ」
シシクラ「そしたら次の町に移りゃいい。お互いただの宝石集めの商売人じゃねえか」
ガイ「ふん。商売か」
ガイ「お前達は上級宝石の本当の価値を分かってない。だから馬鹿なんだ」
シシクラ「善人面の次は哲学者面か。虫唾が走るぜ。若造が」
ガイ「同感だよ。老害」
シシクラ「お帰りだ」
ガイ「丁重に送らせてくれたまえ」
ガイ「無駄に手下を失いたいなら構わないけどな」
モヒカンズ「ボ、ボス・・・」
シシクラ「いいだろう。言う通りにしておけ」
シシクラ「今日のところはな」
シシクラ「ドクターの女・・・ミドリと言ったか」
シシクラ「『ツガイ』かも知れんな。ククク・・・」
〇ヨーロッパの街並み
『一ヶ月後』
ヒロ「屋根直りそう?」
ガイ「ああ。ちょちょいのちょいだぜ」
ヒロ「ガイは何でも出来るんだな~」
ヒロ「憧れちゃうな~」
ヒロ「その調子でお姉ちゃんの事もよろしくたのむぜ!」
ヒロ「俺ドクターってちょっと苦手だったんだよ」
ヒロ「何考えてるか分かんないっていうか不愛想っていうか」
ヒロ「まあ姉ちゃんも不愛想だけどね」
ガイ「ん?」
ヒロ「どうしたの?」
ガイ「・・・」
ガイ「何でもない」
ガイ(そろそろって訳か・・・)
〇後宮の一室
ガイ「・・・」
ミドリ「あ。それ」
ミドリ「先生がアキラにくれた教材」
ミドリ「ただのおとぎ話だけどね」
ガイ「ブラッドダイヤモンド。宝石獣の王の話か」
ガイ「かつて人々は自らが手に入れた宝石の呪いを受けて地下深く封じ込められた」
ガイ「強欲な古代人の成れの果て。それが宝石獣」
ミドリ「ブラッドダイヤモンドは、最も強い呪いを受けた王様」
ミドリ「呪われた全ての古代人のため、永遠に泣き続ける紅き瞳の王」
ミドリ「何もかも単なる伝説よ。怪物は怪物」
ガイ「だがたった一つ本当の事がある」
ミドリ「え?」
ガイ「宝石の呪いは同時に力となって人に継承される。集めれば集めるほど純度が高くなればなるほど」
ミドリ「まさかそれがあなたの強さの秘密?」
ガイ「これでドクターも俺と共に生きる」
ミドリ「・・・」
ガイ「怖いか?俺が・・・」
ミドリ「・・・」
ミドリ「いえ。その力が町を、私とヒロを守ってくれてる」
ミドリ「怖くなんかない。私はガイを信じる」
ミドリ「信じてるわ!」
ガイ「やっと思い切り笑ってくれたな。ミドリ」
ミドリ「あなたのおかげよ」
ガイ「小便!」
ミドリ「・・・もう」
ミドリ「思い切り笑う・・・か」
〇幻想3
ミドリ「確かに思い切り笑うなんてなかったかもね」
ミドリ「笑うことすら私達は怖かった」
ミドリ「怒らないように、泣かないように、笑わないように」
ミドリ「でも貴方が守っていてくれたからヒロだけは健やかに育ってくれた」
ドクター「・・・」
ミドリ「どうしたの?」
ミドリ「何が言いたいの?」
〇後宮の一室
ミドリ「火事!?」
ミドリ「ヒロ!」
〇英国風の部屋
ミドリ「ヒロ!大丈夫!?」
ミドリ「・・・え?」
ミドリ「ヒロ・・・」
ミドリ「・・・どうして?ヒロ!ヒロ!」
「おいおいそんなもんか?」
ミドリ「え?」
ガイ「弟死んでんだぜ。もっと昂れよ」
ガイ「宝石獣なんだろ。お前も」
ミドリ「ガイ・・・?」
ガイ「おっと。この火事は俺のせいじゃねえぜ。多分シシクラだ」
ガイ「まあ何もかもアイツらのせいにできるのは好都合か」
ガイ「怒りや恐怖じゃ足りねえ。感情の昂ぶりには愛が必要なんだ」
ガイ「『絶望』へと直結する『愛』がな」
ガイ「早く正体現せよ。火事に巻き込まれちまうだろ」
ガイ「この化け物がよ!」
ミドリ「あ・・・ああ」
ミドリ「ああああああーーーッ!」
エメラルド「ヒロ・・・ヒロ・・・」
ガイ「安心しろ」
ガイ「すぐ弟の所に送ってやるぜ!」
エメラルド「ヒロ・・・」
ガイ「俺は強くなる」
ガイ「もっともっと強くなって、沢山の人や町を守ってやるんだ」
ガイ「怪物でもマフィアでもねえ。宝石は、俺にこそふさわしい」
ヒロ「・・・姉ちゃん」
ガイ「死にぞこないがもう一匹」
ヒロ「・・・姉ちゃん」
ガイ「そのしぶとさ。お前も宝石獣ってわけか」
ガイ「じゃあ一緒に町を守ろうぜ」
ガイ「この俺の力となってな!」
ヒロ「・・・姉ちゃん」
ガイ「な、なんだ。その目の輝きは?」
『ブラッドダイヤモンド』
『呪われた人々のため、永遠に泣き続ける紅き瞳の王』
ガイ「まさか・・・」
〇幻想3
ブラッドダイヤモンド「・・・」
ガイ「お前がそうなのか」
ガイ「ふふふ・・・」
ガイ「ははははは!最高だぜ!」
ガイ「その力!俺達人間の為に」
ガイ「・・・え?」
ガイ「ああ・・・く、首が・・・」
ガイ「ひい、ひい、首が、血が、止まら・・・」
ガイ「ば、ばけもの・・・」
ブラッドダイヤモンド「姉ちゃん・・・姉ちゃん」
ヒロ「姉ちゃん・・・姉ちゃん・・・」
『ヒロ君!ヒロ君!』
〇英国風の部屋
先生「ヒロ君!」
先生「!?」
先生「こ、これは一体?」
ヒロ「先生・・・先生・・・」
ヒロ「うあああああッ!」
先生「大丈夫だ!もう大丈夫だ!逃げるぞ!」
〇ヨーロッパの街並み
モヒカンズ「宝石獣は現れないようですね」
シシクラ「そうか」
シシクラ「まあ『外れ』もあるさ」
モヒカンズ「ガキだけは家庭教師が助け出したみたいですが、どうしましょう」
シシクラ「捨てておけ。いずれ野たれ死ぬ」
モヒカンズ「例のハンターはまだ脱出できてねえようですぜ」
シシクラ「それは心配だな」
シシクラ「ククク・・・ハハハハハ!」
〇黒
そして、十年が経った。
世界は変わらない。
だが、人は変わり続ける。
変身し続ける。
〇中世の街並み
旧都、東京
『宝石獣だ!』
『宝石獣が出たぞ!』
ロウカラット「ビャッ!」
ロウカラット「ギャッ!」
ヒロ「痛いか・・・」
ヒロ「すまない。楽に逝かせてやるからな」
「おいおい参っちゃうな~」
マイト「お前さんか?最近僕ちゃんのシマを荒らしてる新参者のハンターってヤツは」
ヒロ「町を守るのにシマも何もないだろう」
マイト「あるんだな~それが」
マイト「と、いうわけだ」
マイト「かかってこいよルーキーハンター」
ヒロ「お前は何か勘違いをしている」
マイト「あ?」
ヒロ「俺はハンターじゃない」
マイト「鉱化だと・・・」
マイト「こりゃいいや。面白くなってきた!」
マイト「いくぜ化け物!」
ブラッドダイヤモンド「化け物か・・・」
ブラッドダイヤモンド「せめて怪人と呼んでくれ」
JEWEL・EYE
宝石やカラットという指標が、いかにも大人のための怪人ストーリーといった趣でユニークですね。ガイが漢気あふれるヒーローでミドリとヒロを守り抜くかと思いきや、ラストで本性を表してヒロが覚醒するという怒涛の展開がすごかったです。
宝石っていうポピュラーなものが強さの指標になっているのはすごく面白いと思いました!
でも強い弱い、高い安いがわかってしまうと人間の悪いところが見えてしまうんだなぁと感じました。
宝石のレベルによって強さが決まっているのが面白い。宝石の硬さと輝きは人間にとって永遠の魅力であり、また、同時に欲望という怪人との戦いでもあります。