読切(脚本)
〇教室
──"不安"を取り除いて"安心"を与える"安心屋"
ミコ「あの山にある神社に、大きな不安を抱えて参拝すると出会えるらしいよ」
ミコ「なんでも、代償さえ払えばどんな不安でも解消してくれるとか」
ナギ「えー、じゃあ"彼氏ができない"っていう私の悩みも解決してくれるかな?」
そんな都市伝説・・・私は全く信じていなかった。
〇教室
終業のチャイムが鳴り、放課後になる。
わたし「ねぇ、タケル。今日はこのあと暇?」
今日こそは部活も、塾もないはず。
そう思って、声をかけたが
タケル「ごめん、今日はちょっと用事があるんだ」
タケル「今度ちゃんと埋め合わせするから!」
そう言って、タケルは早足で帰ってしまった。
最近、こういうことが多い。
付き合い始めた頃は、部活があってもその後で一緒に帰ったりしていたのに。
ここ最近は一緒にいる時間が減っている気がする。
ナギ「あーちゃん今日暇な感じ?」
わたし「・・・ごめん、今日は帰る」
ナギ「ん、りょー」
少し迷ったが、遊びに行く気分にもなれずまっすぐ帰ることにした。
〇可愛らしい部屋
わたし「・・・はぁ」
ベッドに横になり、ため息が漏れる。
わたし「タケルの・・・バカ」
忙しいならせめて理由くらい教えてくれたっていいのに。
わたし「ねぇ、どうすればいいのかな?」
もちろん、ぬいぐるみから答えは返ってこない。
でも、そう口に出さずにはいられなかった。
ぐるぐると巡る思考の中、私はゆっくりと眠りについた。
〇教室
ナギ「ねぇ、彼氏ができたの!」
ナギ「私の彼氏、タケルくんです!」
タケル「そう、改めて紹介されるとなんか照れるな・・・」
ナギ「どれもこれも、"安心屋"のおかげ!」
ナギ「もう、いまは不安なんて何一つない感じ!」
〇可愛らしい部屋
わたし「・・・・・・!」
逃げ出した先は・・・わたしの部屋!?
さっきまで教室に居たはず・・・
わたし「・・・あっ」
いまのは夢か・・・。
なんてひどい夢だったのだろう。
わたし「夢・・・だよね?」
ショックのあまり断片的にしか思い出せないだけで、現実だったのだろうか?
いや、さすがにそんなはずはない。
ない・・・よね?
こんな時間に確かめる方法も思いつかず、このまま寝ようとする。
いや、たとえ真昼間だとしてもどう確かめるんだ?
ナギかタケルにLineする・・・?
なんて送ればいいのよ?
「あなた達、付き合ってるの?」
付き合ってても付き合ってなくても、なんだか私がバカみたいじゃない?
わたし「ねぇ、どうすればいいの・・・?」
私のつぶやきは夜の沈んだ空気に薄められて消えていった。
〇綺麗なダイニング
母「あら、今日は早いのね もしかしてデート?」
普段の休日は昼まで寝ている私が起きてきたことに驚いてるようだ。
わたし「ちがうよ、今日はなんもない」
早起きなのではなく、単純に眠れなくて起きてただけだ。
母「じゃあ、ちょっと買い物頼んでもいい?」
わたし「え、急ぎなかんじ?」
まぁ、特にやることなんてないんだけど。
母「急いではないけど、もうすぐきれそうだから」
わたし「・・・おこづかいくれる?」
母「まったく・・・しょうがないわね」
やった。言ってみるもんだな。
母「はい、お釣りはお小遣いにしていいけど、あんまり変なブランドの買わないでね」
わたし「はいはーい」
買うもののメモと一万円が渡される。
わたし「・・・ちょっと少なくない?」
母「上手に買い物できれば、3000円くらいは余るはずよ」
いくつかのお店を回って買い物しないとお小遣いはなくなりそうだ。
これは、安請け合いだったかな・・・。
〇アーケード商店街
わたし「洗剤買った、コーヒー買った・・・と」
リストに購入済みの印を入れていく。
買う順番も考えないと、かさばったり重いものを持ちながら歩き回ることになる。
リュックに入る小さめかつ、その店での買い物が少ないところから回っていく。
わたし「さすがわたし、完ぺきな買い物・・・!」
やはり、買い物というのは気分転換になるようで
悪夢にうなされて低かったテンションも徐々に回復してきている気がする。
わたし「今日は約束できなかったけど、来週とかはタケルとお出かけしたいな・・・」
そんなことを考えていた矢先、
・・・タケル!?
タケルのことを考えていたら偶然タケルに会うなんて!
これはきっと運命!
わたし「タケ・・・・・・」
呼ぼうとした声が出なくなる。
タケルは一人じゃなかった。
隣の女の子は・・・知らない。
見たことがない。
おそらく同じ学校ではないのだろう。
楽しそうに笑いながら二人で歩いている。
お互いに、手を繋ぎながら。
内蔵がギュッと締め付けられ、吐き気のような何かがこみ上げてくる。
〇入り組んだ路地裏
たまらず、わたしは脇道に逃げ込む。
早足で、どこに向かうでもなく歩き続ける。
頭の中はグシャグシャで、心の中もボロボロで。
頬を伝う涙にも気づかず、ただ歩き続ける。
少しでも遠くに行きたくて。
少しでも離れたところに行きたくて。
──何から逃げてるのだろうか?
タケル?女の子?それとも現実?
・・・なんでもいい、とにかく遠くへ──
〇森の中
無我夢中で歩き続ける。
思考はずっと同じことのループ。
・・・あの子は誰?
タケルとどんな関係?
私はどうすればいいの?
繰り返し、繰り返す。
まるで、カラクリ人形のように。
ぐるぐる、ぐるぐると。
わたし「ねぇ、どうすればいいの・・・?」
〇古びた神社
気づけば、見慣れぬ建物の前にたどり着いていた。
わたし「ここは・・・神社?」
人の気配はないが、ぼんやりと灯籠のあかりが着いている。
その微かな明かりに、誘蛾灯に惹かれる羽虫のごとく吸い寄せられていく。
わたし「あ、山の上の神社・・・・・・!」
物心ついてからは引っ越しをしていない私だが、この神社は初めて来た。
???「ようこそ、お嬢さん」
不意に後ろから声をかけられ、体が大きく反応してしまう。
???「失礼、驚かせてしまったかな?」
人・・・じゃない!
???「怖がらないで頂きたい。 ・・・といっても難しいですか」
警戒の姿勢のまま、じりじりと後ずさる私を見て、彼は言う。
わたし「な、何者なの・・・?」
???「・・・私は、なにか激しい不安を抱える人の不安を取り除く存在」
???「────"安心屋"ですよ」
〇古びた神社
安心屋「・・・なるほど、それはたしかに不安ですね」
わたし「でしょう?」
安心屋は、見た目に反して聞き上手だった。
気づけば、最近あった色々を話してしまっていた。
タケルと会えないこと、他の女の子といた事。
わたし「タケルはもう、私のことなんてどうでもいいのかな・・・?」
実はあの女の子と付き合いはじめてるとか。
わたし「・・・はぁ」
でも、全部吐き出したら少し楽になった気がする。
先程の吐き気のような重圧はだいぶ感じなくなってきていた。
わたし「ありがとう。話していたら少し楽になったわ」
わたし「さすが、安心屋ね」
安心屋「いえいえ、そんなことありませんよ」
安心屋「あなたの不安は──その男と女なのですね」
すうっと、気温が下がるような感覚。
聞き上手な柔らかな声音から一転、凍てつくような冷たさで彼はそう言った。
わたし「え、いや、そうなんだけど・・・」
安心屋「つまり、その二人が居なくなれば"不安"が無くなるということ・・・!」
わたし「は・・・何を言ってるの・・・?」
安心屋「私は安心屋。 あなたの不安を取り除いて差し上げましょう」
さっきまで話しやすいと感じていた笑顔だが、今は底しれぬ恐ろしさを感じる。
わたし「え、ちょっと意味わからない・・・」
戸惑う私などお構いなく、安心屋は立ち上がると空を仰いだ。
安心屋「すぐ済みますので、ここでお待ち下さい」
こいつ・・・タケルを殺しに行く気だ!
止めなきゃ・・・
だめ、体が震えて力が入らない・・・!
わたし「・・・・・・だめぇ!!」
振り絞る声も、奴を止めることはかなわず・・・
???「・・・・・・でだ!」
安心屋「グェッ・・・!」
脇から出てきた人物に蹴り飛ばされ、安心屋は悶絶している。
???「・・・だ・・・じょ・・・か?」
わたし「・・・えっ?なに?」
脇から安心屋を蹴飛ばした男に話しかけられるが、
声が小さすぎて聞き取れない。
???「・・・つは怪人、・・・との後悔を吸い取り力に・・・」
断片的にしかしか聞き取れないが、どうやらあの安心屋は怪人らしい。
???「やつを・・・してくる こ・・・じっとしていてくれ」
とにかく、ここでじっしていろということなので頷いて答える。
彼は私に優しく笑うと、怪人と対峙した。
〇古びた神社
勝負はあっけなかった。
男がなにやら人型の紙のようなものを怪人に貼り付けると、
急に怪人は苦しみだし、最終的に消えていった。
同時に、あたりが明るくなり、夕暮れの空が見えるようになった。
???「ふぅ・・・」
わたし「あ、あの・・・ありがとうございました」
あんなことがあった直後なので、見知らぬ男に警戒しつつも、
助けてくれたことへの感謝は伝えておく。
???「・・・や、・・・れが・・・べきこと・・・」
・・・声が小さい・・・!
彼の言葉に注意深く耳を傾ける。
???「・・・奴は人の後悔を集めるために、人の手助けをするフリをしてから裏切るんだ」
???「・・・器用な怪人だよ」
わたし「怪人・・・?」
???「ああ、世の中には怪人が居る」
???「その多くは、目立たないように過ごしているがね」
わたし「そう・・・なんだ」
実際に巻き込まれていなければ、こんな話は信じなかっただろう。
しかし、あの安心屋。
怪人と言われれば納得だ。
わたし「ところで・・・あなたは?」
???「・・・ああ、まだ名乗っていなかったね」
???「・・・たしは・・・アンシンヤ・・・」
あ、安心屋・・・・・・!?
???「・・・コホン 私は堂安真也、陰陽師だ」
ドウアンシンヤ・・・
ドウ、アンシンヤ・・・
全くもって奇妙な話に、思わず笑いそうになってしまった。
〇教室
結末その1──
安心屋は怪人だった。
まあ、そのことは二人に言う必要も無いだろう。
〇明るいリビング
結末その2──
女の子はタケルの妹だった。
ミサ「妹のミサです」
・・・彼女とかじゃなくてよかった。
わたし「それでタケル、家に呼び出してまで話したかったことって何?」
わたし「もしかして、ミサちゃんの紹介だった?」
タケル「いや・・・その・・・」
タケル「──俺たち、別れよう」
結末その3──
タケルにフラれました。
〇古びた神社
わたし「他の女の子といるだけで嫉妬されると、重すぎて嫌だなんて!」
わたし「こんなに私がタケルのことを想ってたのに、ひどいと思わない?」
アンシンヤ「それは・・・重いと思うよ」
わたし「アンシンヤさんもそっち派? 私だけが変なのかなぁ・・・」
アンシンヤ「それより、なんで君はここにいるんだい・・・?」
フラレた私は愚痴を吐き出すために、あの神社に再び訪れていた。
なんとなく、この人なら愚痴を聞いてくれそうな気がしたから。
アンシンヤ「まったく・・・ここは遊び場じゃないんだけどなぁ・・・」
迷惑そうな素振りを見せながらも、強く追い返そうとしてこないアンシンヤ。
そんな彼が、私は少しだけ気に入り始めていた。
彼と共に、また後日別の怪人に出会うことになるのだが。
それはまた、別のお話──
善悪を明確に考えろと言われれば、明らかに怪人を討った方が「安心」なのでしょう。しかし、怪人がやろうとしたことが根本的な解決にならないかといわれたら、決して否定できないところにこの作品の奥深さがある、そんな風に感じました。
もともと不安にさせるような行動をしておいて、心配したら重いだなんて、勝手ですよね!きっと安心屋さんみたいな人のが幸せになれると思います。
効果音とストーリー展開がとってもマッチしていてどんどん読み進められる感じでした。悪の安心屋を見抜いた人間の安心屋、私もきっと興味を惹かれると思います。