エピソード1(脚本)
〇大きい研究施設
研究所襲撃の一報を受けた俺が到着した時、
そこは既に火の海と化していた
どうやら俺の救援は遅かったようだ
いたるところから、殺戮の音がする──
悲鳴を上げさせているのは、
本来それを聞き、それを上げる者を護るはずのヒーローたち
”正義”と”悪”の逆転が、そこでは起こっていた
〇黒背景
組織の壊滅は、俺にとって正直どうでもよかった
危惧していたのは、常用していた薬の入手経路が断たれること
その薬は、この醜い姿から本来の姿へ戻るための薬
それが入手出来なくなるということは、
この醜悪な姿での生活を余儀なくされるということ
そして、俺の不安は現実となり──
〇広い厨房
篠塚 輝一「ふー・・・・・・」
篠塚 輝一「片づけはこれで終わりかなー」
俺は怪人の姿のまま、日々の生活を送ることとなった
昔バイトしていた洋菓子店の店長に、運よく拾われた俺は
見習いとして日夜、お菓子作りに精を出していた
篠塚 輝一「──さてと」
篠塚 輝一「今度の新商品の試作でもするかー」
店長「あ、きーちゃん!!」
篠塚 輝一「どうしたんです、店長?」
店長「ウフフ、あなたにお客さんよ~」
篠塚 輝一「客・・・あー」
店長「早く会いに行ってあげてー」
篠塚 輝一「店長のあの表情・・・ 間違いないな」
篠塚 輝一「俺に会いに来る人なんて、 そもそもひとりしかいないか」
〇カフェのレジ
篠塚 輝一「・・・やはり、石見さんでしたか」
石見 彩夏「こ、こんにちは。篠塚さん!!」
〇黒背景
石見 彩夏(いわみ あやか)
近くの大学に通う学生で、
洋菓子店サンフラワーの常連
その正体は、『シャドウメイガス』に対抗する組織『スパークルナイツ』の一員、スパークルガーネットだ
〇大きい研究施設
あの夜、火の消えた研究所で、俺は彼女に出会った
研究所襲撃に参加していたのだろう
彼女の戦闘服には、激しい戦闘の跡が見てとれた
彼女は、討伐対象であろう俺を見つけても、戦おうとはしなかった
そして、いくつか話をした
本来の姿に戻れなくなったことを告げると、彼女は「ごめんなさい」と涙を流した
〇黒背景
──俺には、彼女の涙の意味がわからなかった
何故、襲撃した相手に同情するのだと
──彼女は、その後も俺のことを気にかけてくれ、店によく顔を出すようになった
〇カフェのレジ
石見 彩夏「すみません、お仕事中に」
石見 彩夏「お呼び立てするつもりはなかったのですが・・・」
篠塚 輝一「はは、店長が勝手に、止めるのも聞かずに呼びに行っちゃったんでしょ」
石見 彩夏「・・・・・・・・・はい」
篠塚 輝一「気にしないでください、ちょうどひと段落ついたところだったんで」
篠塚 輝一「どうせ暇ですしね!!」
店長「暇で悪かったわねぇ~」
篠塚 輝一「す、すみません・・・・・・」
篠塚 輝一「そもそも、お客さん少ないのって俺なんか雇ってるから、みんな不気味がって・・・」
篠塚 輝一「いてっ!!」
店長「その話は言わない約束でしょ?」
店長「私はあなたの腕を見込んで雇ってんの!!」
店長「言いたい奴には勝手に言わせとけばいいのよ」
篠塚 輝一「店長・・・・・・」
店長「ま、この店がお客さん少ないのなんて元々だけどね~」
篠塚 輝一「ははは・・・」
店長「というわけで」
店長「閑古鳥鳴いてる洋菓子店には、従業員をだらだら雇ってる余裕なんてないの」
店長「今日はもういいから、ふたりでデートでもしてらっしゃい」
〇住宅地の坂道
石見 彩夏「追い出されちゃいましたね・・・」
石見 彩夏「すみません、私が押し掛けたせいで・・・」
篠塚 輝一「石見さんのせいじゃないですよ」
篠塚 輝一(まったく店長ったら・・・)
「デートって・・・・・・」
「!!」
「・・・・・・・・・」
石見 彩夏「・・・そ、そういえば きーちゃん、って呼ばれてるんですね」
篠塚 輝一「え? ああ、下の名前が「きいち」だから──」
石見 彩夏「わたしも呼んじゃおうかな ・・・・・・・・・きーちゃん」
篠塚 輝一「え、あ、えっと・・・」
石見 彩夏「・・・す、すみません。 迷惑でしたよね」
石見 彩夏「ちょっと調子に乗っちゃって・・・」
篠塚 輝一「・・・・・・石見さん」
石見 彩夏「・・・はい?」
篠塚 輝一「俺にそんなに、気を使わなくていいんですよ」
篠塚 輝一「前にも言いましたが、 俺はむしろこの怪人の体でありがたく思ってるんです」
篠塚 輝一「感覚が鋭敏になったおかげで、味覚も鋭くなりましたし」
篠塚 輝一「店長にこき使われまくっても、疲れ知らずですしね!!」
篠塚 輝一「石見さんのせいで、 この体のままだなんて」
篠塚 輝一「そんなに気に病まないでください」
石見 彩夏「すみません──あ」
石見 彩夏「なんか謝ってばっかりですね」
石見 彩夏「ありがとうございます」
篠塚 輝一「はい!!」
石見 彩夏「では、もう気を使いません!」
篠塚 輝一「え?」
石見 彩夏「きーちゃん、はさすがに恥ずかしいんですけど・・・」
石見 彩夏「下の名前で呼んでもいいですか?」
篠塚 輝一「それも恥ずかしいけど」
篠塚 輝一「まぁ好きに呼んでもらっていいですよ」
篠塚 輝一「輝一でも、きーちゃんでも」
石見 彩夏「・・・ありがとうございます。 ・・・・・・輝一さん」
ドォーーーーーン!!!!!!
石見 彩夏「爆発音!?」
篠塚 輝一「これは・・・駅のほうですね」
石見 彩夏「行きましょう!!」
篠塚 輝一「え!? は、はい!!」
〇駅前広場
市民「きゃああああ!!!!!!」
市民「た、助けてくれぇーーー!!!!」
「うわあああああああ」
スレートホーン「ハーッハッハッハッ!!」
スレートホーン「逃げろ逃げろ!!」
スレートホーン「このスレートホーン様から逃げられる もんならな!!!!」
篠塚 輝一「・・・これまた随分と古典的な怪人が いたものですね」
スレートホーン「なんだぁ、テメェ・・・ああ」
スレートホーン「そのだせぇナリは、”メイガス”の残党か」
篠塚 輝一「そういうあなたは組織で見たことはありませんね」
篠塚 輝一「野良怪人ですか」
スレートホーン「こんな力があるのに、組織の命令に従ってなんていられるかよ」
スレートホーン「で、何の用だよ」
スレートホーン「同じ怪人のよしみで見逃してやってもいいが、邪魔するつもりなら・・・」
篠塚 輝一「・・・石見さん、戦えま──」
石見 彩夏「・・・・・・・・・!!」
篠塚 輝一(震えてる・・・・・・?)
篠塚 輝一「・・・・・・」
篠塚 輝一「石見さん!!」
石見 彩夏「は、はいっ!?」
篠塚 輝一「俺が奴と戦います!」
篠塚 輝一「その間に逃げ遅れた人たちの避難を!!」
石見 彩夏「で、でも、私も一緒に・・・!!」
篠塚 輝一「──戦うの、怖いんですよね?」
石見 彩夏「────っ!!」
篠塚 輝一「無理に戦わなくていいんです」
篠塚 輝一「俺が戦闘を、石見さんが避難誘導を」
篠塚 輝一「やれることをやりましょう!!」
石見 彩夏「・・・わかりました」
石見 彩夏「でも、輝一さんも無理しないで────」
スレートホーン「俺様を無視するんじゃネェっ!!!!」
石見 彩夏「輝一さん!!」
篠塚 輝一「っ! 何のこれしき!お返しです!!」
スレートホーン「ぐおっ!?」
篠塚 輝一「ね? 私も意外と戦えるんですよ」
石見 彩夏「・・・はい!!」
石見 彩夏「絶対戻ってきますので、ご無事で!!」
篠塚 輝一「さてと・・・ 石見さんが戻ってくる前に終わらせますか」
スレートホーン「・・・テメェ、生意気なマネを。 ぶっ潰してやる!!」
〇駅前広場
篠塚 輝一「さっさと終わらせるつもりでしたが、 思ったより頑丈ですね・・・」
スレートホーン「くっ、テメェただの雑魚怪人じゃねえな!!」
スレートホーン「こうなったら・・・!!」
篠塚 輝一「────あれは!?」
スレートホーン「この強化薬で!!」
篠塚 輝一「させません!!」
スレートホーン「ぐぁああ!!」
スレートホーン「きょ、強化薬が!! テメェ、返しやがれ!!」
篠塚 輝一「返す? これは元々、メイガスの開発した薬です」
篠塚 輝一「取り返したにすぎません!!」
〇開けた交差点
石見 彩夏「さあ、ここまでくれば大丈夫!」
石見 彩夏「でも、できるだけ遠くに逃げて!」
市民「あ、ありがとうございます」
市民「あ、あなたは逃げないんですか!?」
石見 彩夏「私はまだ助けなきゃいけない人がいるから────」
市民「あっ!!」
〇開けた交差点
石見 彩夏「はぁ、はぁっ・・・・・・」
石見 彩夏(輝一さん、大丈夫かな・・・!?)
石見 彩夏(輝一さんがどれくらい戦えるのかわからないし、早く戻らなきゃ────)
石見 彩夏(でも────)
石見 彩夏「戦えるのかな、わたし・・・・・・」
〇駅前広場
デミ=ブライト「ふむ──」
デミ=ブライト「やはり落ち着きますね、 『本来の姿』は────」
スレートホーン「変身した、だと・・・!?」
スレートホーン「テメェ・・・一体なんなんだよ!」
デミ=ブライト「・・・・・・」
デミ=ブライト「────デミ=ブライト、 とだけ名乗っておきましょうか」
スレートホーン「デミ=ブライト・・・!?」
スレートホーン「あの薬で姿変わる奴なんて、 聞いたことネェぞ!!」
デミ=ブライト「・・・貴方の質問に答える義理はありませんね」
デミ=ブライト「私に、あまり時間はないようですので」
デミ=ブライト「私の質問に答えてもらう時間が なくなっては、困りますからね」
デミ=ブライト「────あの薬、 一体どこで入手したのですか?」
デミ=ブライト「生産工場が破壊され、 入手できなくなったはずですが」
スレートホーン「ケッ!! 誰がご丁寧に答えるか────」
スレートホーン「がぁぁぁあっっ!!」
デミ=ブライト「ええ! そうこなくては!! 素直に答えるとは、思っていませんとも!!」
デミ=ブライト「私は久方ぶりに力を振るえることに、喜びを感じているのです!!」
デミ=ブライト「力ずくでお聞きしますので、 是非私を愉しませてください!!」
スレートホーン「ヒッ・・・!! く、来るなぁぁぁぁ!!」
デミ=ブライト「ふむ・・・」
デミ=ブライト「その程度の攻撃では、 かすり傷ひとつ負わせられませんよ」
〇黒背景
・・・・・・
〇大きい研究施設
女性「あなた、あなたーー!!」
女の子「パパ―、どこにいるのー!?」
その襲撃の夜、内部の凄惨な様子に耐え切れなくなったわたしは、一組の親子に出会った
石見 彩夏「あの、大丈夫ですか──」
女性「あ、夫がこの建物の中に────っ!」
女性「この人殺し!!!!」
石見 彩夏「────!!」
女性「あんたたちがこんなことをしなければ──!!」
女の子「パパを・・・パパを返してっ!!」
石見 彩夏「────!」
〇大きい研究施設
篠塚 輝一「研究所がこの様子なら、もう本来の姿に戻る薬は手に入らないでしょうね・・・」
〇黒背景
もし、あの時──
あの襲撃に、わたしが少しでも疑問を抱いていたら?
あの親子や、輝一さんに悲しい思いをさせずに済んだ?
怪人倒すことが、正しいことと信じて戦ってきたけど
その人たちにも家族や、生活があって──
わたしがそれを踏みにじったんだ──
わたしが戦うことで、また誰かの普通が壊れてしまったら──
〇開けた交差点
石見 彩夏「怖い・・・でも・・・・・・!!」
石見 彩夏「今、輝一さんを助けられるのは、 わたししかいないんだから──!!」
〇駅前広場
スレートホーン「ぐぁ、ガ・・・」
デミ=ブライト「流石にやりすぎてしまいましたか・・・」
「何故こんなところにお前が・・・」
石見 彩夏「デミ=ブライト!!!!」
デミ=ブライト「・・・・・・」
石見 彩夏「ここにいた・・・・・・ 他の怪人たちはどうしたっ!?」
デミ=ブライト「・・・・・・」
石見 彩夏「だんまりか・・・ 今日こそ決着をつけてやる!!」
デミ=ブライト「いきなり攻撃とは、なんとも行儀の悪い」
石見 彩夏「あいにく、お前とゆっくり話すつもりはない!!」
石見 彩夏「私から仲間を・・・ 兄さんを奪ったお前と!!」
デミ=ブライト「・・・・・・」
デミ=ブライト「────事情があった、と」
石見 彩夏「・・・え?」
デミ=ブライト「私にそうするだけの、 やむにやまれぬ事情があったと」
デミ=ブライト「そう考えたことは、ないのですか?」
石見 彩夏「そんなことあるわけ────」
〇大きい研究施設
〇駅前広場
石見 彩夏「────ッ!!」
デミ=ブライト「まぁ────」
デミ=ブライト「そんなもの、ないんですがね!!」
石見 彩夏「ぐぅっ────!!」
石見 彩夏「くっ・・・!! 卑怯な!!」
デミ=ブライト「貴方にとって、私は倒すべき仇敵」
デミ=ブライト「・・・・・・ただ、それだけです」
デミ=ブライト「それでは」
デミ=ブライト「────また、いつかお会いするかもしれませんね」
石見 彩夏「!?」
〇見晴らしのいい公園
篠塚 輝一「・・・・・・時間切れ、か」
篠塚 輝一「やはりあれ1つでは、1時間と持たないか」
篠塚 輝一(強化薬の備蓄がどこかにあるのか)
篠塚 輝一(あるいは新たな製造工場があるのか・・・ 突き止めなくては──)
篠塚 輝一(・・・・・・気になるのはそれだけじゃないな)
篠塚 輝一「石見さん・・・」
〇駅前広場
あのまま戦っていれば
俺はこの姿を石見さんに見せることになった
真実を知られることになった
・・・俺はそれをためらった
〇見晴らしのいい公園
篠塚 輝一(石見さんは俺が『人間の姿』に戻れなくなったと思ってる)
篠塚 輝一(でも違うんですよ・・・ 人間の姿なんてとうの昔に捨てました)
篠塚 輝一(本当の私はデミ=ブライト、 あなたの仇敵でしかない)
篠塚 輝一(でも・・・)
篠塚 輝一「この感情は、なんなんでしょうね・・・」
怪人とヒーローの戦いが一旦終結したその後のストーリーって珍しいので興味深く読みました。外見や立場が違うことですれ違い続ける二人の姿が切ないですね。
まだ助けたい人が、ってところで込み上げるものを感じました。
過去に行ったことは変えることができません。
それを背負って生きて行く強さが必要ですよね。
本来こんなにまで純粋で良識のある二人が事実上、敵対する間柄にあるという設定が、複雑ゆえ逆に興味をそそりました。願わくば、一つ壁を乗り越えてほしいですね。