行き詰まる3人の物語

ヤマ

エピソード9(脚本)

行き詰まる3人の物語

ヤマ

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〇総合病院
  警察病院にて

〇警察署の医務室
飯野恵一(いいの けいいち)「栄田英子、日井美衣・・・ へえ、彼女らそんな名前だったんですか」
飯野恵一(いいの けいいち)「雨の日の夜に偶然見かけて、 とにかく苦しむ顔を見たかっただけなので、 彼女らの素性は知らないんですよ」

〇SHIBUYA109
  きっかけは10年ぐらい前に出くわした通り真事件でした。
  目の前で二十歳ぐらいの女性が刺されて倒れてました。
  血を流して苦しむ彼女を見た時に、自分の中で何かが目覚めたんですよ。
  あの顔が見たい。もっと見たいってね。

〇黒
  でも、しばらくの間は市販の包丁を眺めながら、通り魔事件の時のことを思い出す・・・
  そうやって我慢してたんです。
  そうやって、お守りのように
  包丁を常に持ち歩くようにしてたんです。

〇ゆるやかな坂道
  でも・・・
  あれは7年ぐらい前のことですかね
  仕事の帰り道、自宅マンションに向かう途中の道でね、一人でトボトボ歩く若い女を見かけたんです
  雨なのに傘もささないで歩いてました
  チラッと見たら、その顔が酷く辛そうに歪んでたんですよ
  それを見た時にね、私の中の何かが一気に弾けたんです
  夜中でしかも雨だったから、他に人も居ない。
  こんなチャンスは滅多に無いでしょう。
  気が付いた時にはね、いつも持ち歩いてた包丁で彼女を滅多刺しにしてました
  その直後はすごく興奮してました。
  でも、すぐに冷静にもなりました。
  「ああ、ついにやってしまった。どうしよう」ってね

〇開けた高速道路
  それで、咄嗟の判断で彼女の死体を近くのガードレールの下に放り投げました
  ちょうど、何メートルもある崖になっていて、その下にはずっと手付かずの雑木林があるのを知ってましたから

〇黒
  それでもしばらくは不安でしたよ。
  いつ警察が私の元に来るんじゃないかって怯えてました
  でも、どれだけ経っても警察が来る気配は無くて・・・・・・
  それで、「ああ、自分は大丈夫なんだ」って確信しました。

〇警察署の医務室
飯野恵一(いいの けいいち)「以来、雨の日には若い女を滅多刺しにするチャンスを伺うようになったんですよ」
飯野恵一(いいの けいいち)「え?今まで何人をやってきたかって?」
飯野恵一(いいの けいいち)「ちょっと、正確に全部思い出すのは難しいですね。旅行とか出張先でやったのも結構ありますし・・・・・・」

〇警察署の医務室
飯野恵一(いいの けいいち)「それはそうと、あの藤本真って女の子、 本当は何者なんですか?」
飯野恵一(いいの けいいち)「私の過去や殺人を見てきたかのような内容の漫画を持ち込んできたんですよ。 私しか知らないはずのことを知ってたんです」
飯野恵一(いいの けいいち)「本人は夢で見た内容を漫画に落とし込んだとか言ってましたけど、そんなわけないですよね」
飯野恵一(いいの けいいち)「ねえ、本当に何者なんですか?」

〇警察署の入口
  警察署にて

〇取調室
出居実羽(いでい みわ)「夫の出居大輔は女関係にだらしない人で、 それは結婚しても娘が生まれても変わりませんでした」
出居実羽(いでい みわ)「私と夫は毎日のようにケンカをしていました。 原因は主に夫の浮気問題でした」
出居実羽(いでい みわ)「娘が見ている前で、夫が私に手をあげることもありました。 もうずっと、何年もそうやって過ごしてました」

〇シックなリビング
  あれは・・・7年前のことです。
  当時、夫は20代の若い女の子に熱を上げていました。
  そのことで毎日のようにケンカしてました。
  あの日、夫は「彼女とは別れてきた」と言ったのですが、私は「またその場しのぎの嘘ばかり言って!」と怒ったんです。
  いつものケンカが始まるのかと思ったのですが、いきなり夫が倒れたんです。
  娘の実波が、背後から夫を包丁で刺したんです
  実波は、倒れた夫に何度も何度も包丁を突き刺しました。
  「お母さんを苦しめる悪い人だから、罰が当たって当然なんだ」
  と娘は笑いながら言いました。
  これまでの私たちの有り様が、
  娘をこんな風にしたのだと後悔しました。

〇農村
  私は、夫の遺体をひとまず実家の地下倉庫に隠しました。
  ど田舎の、何年も放置されていた倉庫だったので。

〇モヤモヤ
  そうして、これからどうすれば良いのかと頭を抱えました。
  ですが、ほどなくして、夫と浮気相手の女が二人でどこかへ駆け落ちしたらしい、との噂が出回っていることを知りました。
  夫と同じタイミングで、相手の女も行方不明になったことから、周囲の人間がそんな風に噂していたみたいです。
  私としては予想外のことでしたが、この噂に乗っかることにしました。

〇取調室
出居実羽(いでい みわ)「夫の遺体は時間をかけて地下倉庫の土の下に埋めました」
出居実羽(いでい みわ)「娘にも、夫の件は全て忘れるように言い付けたのですが・・・ 今更こんなことになるなんて・・・」
出居実羽(いでい みわ)「7年我慢して夫の失踪宣告を出して、 それで手に入れた保険金で娘を大学に通わせることもできたのに・・・・・・」
出居実羽(いでい みわ)「え?当時の夫の浮気相手の女のことですか?」
出居実羽(いでい みわ)「その人が同じようなタイミングで行方不明になったとは聞いてますが、私は何も知りませんよ」
出居実羽(いでい みわ)「本当です。彼女については、 本当に何も知らないんです」

次のエピソード:最終話

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