エピソード2新しい仲間(脚本)
〇旅館の受付
知床くんだりまでやって来た俺は、夜のミーティングルームに向かった。
片やメンズ5人のテーブル、片やかわいいレディース5人。
ほぼノータイムで、いい匂いのしそうなレディーステーブルに向かう。
仲良くなるどころか、話せもしないんだろうな、と思いながら・・・
と、その時だった。
小田「あっ、ここ空いていますよ」
メンズテーブルの1人に声かけられた。
真田伸一「あっあっああ。ど、ど、ども」
笑顔がひきつるのが分かる。
うら若き乙女が────!!
ユースホステル主人「皆さん、当ユースホステルにお越しいただき、ありがとうございます」
ユースホステル主人「ここら辺は自然の宝庫です。ぜひ北海道ならではの自然を堪能してください」
ユースホステル主人「そして北海道といえばラーメン。ここにもおいしいラーメン屋があります」
ユースホステル主人「駅の中にあるラーメン屋はめちゃくちゃうまいので、ぜひ食べていってくださいね」
ミーティングはあっという間に終わり、皆が寝支度にかかる。
〇安アパートの台所
歯を磨いていると、さっき声をかけてくれたメンズから再び声をかけられた。
小田「こんばんは。さっきは僕達のテーブルに来てくれてありがとうございました」
真田伸一「あ、い、いいえ。こちらこそありがとうございました」
小田「もう寝てしまいます?」
真田伸一「いえ、まだ起きてます」
小田「もしよろしければ、僕らの部屋に遊びに来ません?」
真田伸一「あ、お友達と一緒だったんですね」
小田「さっきのテーブルの5人衆ですよ」
俺は部屋に遊びに行くことにした。
まだ眠くもないし、部屋に戻ってもやることがない。
〇旅館の和室
小田「ただいま。お客さんですよ〜」
真田伸一「こんばんは。失礼します」
佐藤「佐藤っていいます。 さっきは僕達のテーブルに来てくれてありがとうございました」
真田伸一「あ、ど、どうも」
山口「山口っす」
真田伸一「真田です。はじめまして」
宮崎「真田さんですね? 宮崎です」
宮崎「で、俺達の先輩上野さんです」
上野「ども。上野っす」
真田伸一「真田です。よろしく」
真田伸一「皆さん、同じ大学なんですか?」
上野「鹿児島の大学で、コイツら全員俺の後輩なんスよ。で、鈍行漫遊会ってサークル部員なんスよ」
全員出身地は違うらしい。しかも九州ではないらしい。
その連中が同じ鹿児島くんだりの大学に集結。俺は人との出会いのミラクルを感じた。
上野「真田さんはどこ出身なんですか?」
真田伸一「俺、実家は東京なんスけど、今福島で大学生やってます」
上野「へぇ、面白いですね。ふつう逆じゃないっすか。田舎がイヤだから憧れの東京へ・・・みたいな」
そっか。フツーそういうもんなんだ。
上野「大阪にも福島ってあったよな、佐藤」
佐藤「ありましたよ。前回の漫遊会の旅で行ったじゃないですか。電車で通過しただけだったけど」
小田「俺知らないっす。鈍行漫遊会として行った旅じゃないっすよねー?」
上野「いや、鈍行漫遊会で行った旅だよ」
上野「まぁ、しょうがあんめえ。小田は女子とばかり遊んでいるからな。俺達とはたまにしか絡まねえし」
「ハハハハハ」
小田「イヤ、俺は福島県っす。東北地方です」
上野「そうなんだ?で、明日からどこに行くんすか」
小田「離島に。礼文島に行こうか、と」
小田「上野さん達はどちらに行くんですか?」
上野「とりあえず明日はレンタカーで色々回ろうかな、ってとこだなぁ」
佐藤「上野さん。俺達には荷物多すぎて、乗り切れないかもですね」
上野「乗せるんだよ!」
上野「乗んなかったら佐藤、お前はボンネットか歩きな。ハハハハハ!」
佐藤「いやホント勘弁してくださいよ、上野さん」
「ハハハハハ」
佐藤「そういえば、ここのお父さん、さっきミーティングでうまいラーメンのこと言ってましたね」
佐藤「どうです、上野さん。 真田さんと明日一緒に食べに行きません?」
上野「お、いいねぇ。 何?佐藤のおごり?」
佐藤「絶対イヤです」
佐藤「上野さん、あとせっかくなので皆で記念写真を撮りましょう」
記念写真を撮ってお開きになった。知らぬ間に日付が変わっていた。
こんな時間までこんな大勢と喋ったのは生まれて初めてだった。
人付き合いなんて鬱陶しいから好きじゃなかった。
でも仲間って良いものかもしれないってちょっとだけ思った瞬間だった。
〇ラーメン屋のカウンター
ユースホステル主人「皆さん、また遊びに来てね。良い旅を! いってらっしゃい!」
行ってきます!
ラーメンがめちゃくちゃ美味かった。
食事が済んでから彼らはレンタカーで市内観光。俺は日本最北端へ。
〇船着き場
2日後俺は稚内の港にいた。行き先は勿論日本の北の果て、礼文島である。
礼文島の桃岩荘というユースホステルである。
なんでも、日本3バカユースホステルとして、マニアの間で有名らしい。
真田伸一「あ!えー!」
上野「真田氏、また会えて嬉しいよ」
真田伸一「お、おお!う、上野氏!だっけ?」
上野「そうっすよ。真田氏ひどいなぁ。名前くらい覚えましょうよ。ペット共も一緒っすよ」
別にオメエの名前なんか覚えてらんねえよ。
それに後輩のことをペットとか言うな!
とか、ここまで言いかけたけど、それほど仲良いつもりはなかったのでツッコミは入れず。
小田「真田さん、こんにちは。 覚えてます?」
真田伸一「おお!またお会いしましたね。小田さん」
上野「小田よかったなぁ。真田氏に名前覚えてもらってよ」
「真田さん、ご無沙汰です。元気?」
真田伸一「皆さん、来てくれてありがとう!」
昔の諺に旅は道連れ世は情け、とかいうヤツなかったっけ。
上野「佐藤が真田氏に会いたがっていたんすよ」
上野「俺も礼文にちょっと興味あったし」
船がゆっくり動き出す。
一人旅どころかヤロウ6人旅だな。
まぁ、これも良かろう。
知床で掴み損なった愛とロマンスは掴めるのかなぁ。
などと思いながら俺は海を見つめるのだった。
気ままな一人旅のはずが、気が付いたら友人が!これも旅の醍醐味ですよね。エリアごとの移動時間が10時間コースだなーと思いながら読むと、また面白さが増してきます!