《エデン》

草加奈呼

エピソード7 脱走(脚本)

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〇牢獄
  アクイアナの町
  
  収容所
  あんた・・・。
  何しでかしたんだ・・・?
  青年は風華に近づき、顎を持ち上げて品定めするように見た。
風華「えっ・・・? あの・・・?」
  フン、ちゃんとすりゃ上玉じゃねぇか。
  そんな女が、どうして捕まったんだ?
「おい、吹雪! まさかおまえ、 そんなガキにまで手を出すつもりか!?」
  向かいの牢屋から、ヤジが飛ばされた。
吹雪「誰が手ぇ出すかよ! こっちはそれどころじゃねぇんだ! くっそ~・・・、時間がねぇってのに、しくったなぁ・・・」
吹雪「おい、あんた、なんか持ってないのか? ナイフとか・・・」
風華「・・・・・・・・・」
風華「あるのは、この身だけです。 わたしに出来ることがあれば、 なんでも言ってください」
吹雪「・・・・・・・・・」
吹雪「・・・あんた、よほどいいとこのお嬢さんなんだな・・・。調子狂っちまわぁ・・・」
  再び、吹雪は床に座り込んだ。
  そして、懐から光る玉を取り出した。
  宝玉は、仄かに銀色に輝き、熱を帯びていた。
風華「そっ、それは宝玉では!?」
吹雪「な、なんだ!?」
風華「その宝玉は、あなたの物ですか!?」
吹雪「そ、そうだと思うが・・・、 生まれた時から持ってたみたいだし・・・ で、これがなんなんだ?」
風華「あなたは・・・、自分がアイ=リーン様の子孫だということを、ご存知ないのですね?」
吹雪「俺が・・・、 あのアイ=リーンの子孫・・・?」
  吹雪は、思い出したように宝玉を握りしめ、壁に向かって手のひらを向けた。
  少し気を集中させると周りの空気が集まり、冷たい気の集まりになった。
  それを壁に押し付けるようにすると、石の壁はたちまち凍りつく。
風華「やっぱり・・・! あなたは自然の力を使えるのですね!」
吹雪「これが、自然の力だったのか・・・。 妙な術だとは思っていたが・・・。 それならっ・・・!」
  吹雪は、凍った壁に向かって拳を撃つ。
  脆くなった石壁が、一撃で崩れた。
吹雪「・・・逃げるぞ!」
風華「は、はいっ!」
「吹雪! てめー、1人だけ逃げやがって!」
吹雪「悪いっ! ちょっと急用が出来ちまった! そっちはそっちでなんとかしてくれ!」
「なんだと、こらーっ! てめっ、待ちやがれ!」

〇城門沿い
  アクイアナの町
  
  町外れ
  警備兵の目を盗み、どうにか町のはずれまでやって来た。
  すでに夜が明けており、逃げ出すには明るすぎた。2人の衣服はボロボロで、とりあえず格好をなんとかしようと、吹雪が提案した。
吹雪「あんた、金持ってるか?」
風華「いえ・・・」
吹雪「・・・チッ、俺も小銭しかねぇ」
吹雪「しょうがねーな。衣服はちょろまかすとして・・・、問題は風呂だな」
風華「あの・・・、 ちょろまかすって・・・?」
吹雪「あんたみたいなお嬢さんが知るべき言葉じゃねぇよ。ま、全部俺にまかせておけ」
吹雪「そうだ、あんたの名前、聞いてなかったな。俺は吹雪だ」
  冷気の使い手 吹雪《ふぶき》
風華「私は、風華です。あなたと同じ、 アイ=リーン様の子孫です。 吹雪さん、よろしくお願いします」
吹雪「よし、風華。俺のことは『吹雪』でいい。 敬語もなしだ」
風華「わかったわ、吹雪」
  その後、二人は“ちょろまかしてきた”衣服に着替え、なるべく目立たない宿を探した。

〇小さな小屋
  アクイアナの町
  
  宿屋
  町中は警備が厳しくなっていた。ざわめく人ごみを避け、なんとか宿にも入り込んだ。
  風華は、事の経緯を吹雪に説明した。
  魔術の封印を解いた者がいること、その者がセ=シルの子孫であること、なぜセ=シルの子孫が魔術の封印を解いたか、
  自分たちアイ=リーンの子孫の宿命、
  そして、仲間である紅蓮たちのこと・・・
  いろいろだ。
吹雪「で、これからどこへ行くつもりなんだ?」
風華「仲間を探しに、モステアへ戻ろうと思うの」
吹雪「モステアか・・・。 俺としては、ジェストール側へ向かいたかったんだが、そういうことなら仕方ねぇな」
吹雪「しかし、モステア側へ出るには、通行許可証がいるぞ。俺は、ジェストール側のしか持っていない」
風華「通行許可証・・・」
風華(大臣を探し出せれば、そちらもなんとか なるかもしれない)
吹雪「とりあえず、その汚れた格好をなんとかしろ。先に風呂入って来い」
  着替えた衣服は新品同様でも身体は汚れたままだった。
  風華と吹雪は、交代でシャワーを浴びた。
風華「・・・すぅ」
  風華は、疲れ果てて寝台に横になるなり、
  眠ってしまった。
吹雪「あん? なんだよ、寝ちまったのか。 もっといろいろ訊きたいことあったのによ・・・」
吹雪「・・・ていうか、無防備すぎだろ・・・」
吹雪「まあ、信用されている・・・と 思っておくか・・・」
  数時間後
  窓から町の様子を窺っていた吹雪は、
  警備兵の動きに敏感に反応した。
吹雪「おい、起きろ!」
風華「あっ・・・」
風華「ごめんなさい。 昨夜寝てなくて、つい・・・」
吹雪「それはかまわない。休息も必要だ」
吹雪「それより、警備兵の動きが怪しい。 ここへ来るかもしれないから、あんたは 1人でモステア側の門へ行ってほしい」
風華「えっ、吹雪はどうするの?」
吹雪「俺は後で行く。 言ってなかったが、俺はお尋ね者でな。 政府には顔を覚えられてるんだ」
吹雪「今のあんたなら、怪しまれずに宿を出る ことが出来るだろ。金を渡しておくから、 普通にチェックアウトしろ」
吹雪「俺は今から逃げる。門で落ち合おう」
  衣服と一緒に盗んできた金を風華に渡し、
  吹雪はすぐさま窓から飛び出した。
風華「吹雪! ここは3階・・・!」
  吹雪の身を按じ、風華は窓から身を乗り出したが、吹雪は身軽に民家の屋根を伝い、そして消えた。
風華(私も行かないと・・・!)

〇城門沿い
  アクイアナの町
  
  モステア側 関所
  2人はモステア側の門で合流した。
  しかし、ここを通過するにはやはり通行許可証か身分証明になるものが必要だった。
吹雪「参ったな・・・。 なんとか許可証を発行できないと・・・」
風華「あの建物は何?」
吹雪「ああ、あれはおそらく、 モステアからの避難民がいる建物だな」
風華「私、あそこに行ってきます。 もしかしたら、知っている人がいるかも」

〇戦線のテント
  避難民のテント
風華(怪我人もたくさんいる・・・ みんな、カートのせいで・・・ ごめんなさい・・・)
風華(大臣は・・・? もし、いなかったら・・・)
  風華が奥に進むと、ようやく見知った顔を見つけた。
風華「グリス大臣・・・!」
グリス大臣「まさか・・・風華様!?」
グリス大臣「行方不明と聞いておりましたが・・・ よく、ご無事で・・・!」
  2人は、再会を喜び合った。
グリス大臣「風華様、陛下のことは、 真に残念です・・・」
グリス大臣「ですが、風華様だけでもこうして元気に おられる。私、少し落ち着きましたら、 モステアに戻って復興を考えております」
グリス大臣「風華様、何卒お力添えを・・・」
風華「グリス大臣、私は・・・ カートを追わなければなりません」
風華「そのために、宝物庫の鍵を私に預けて ほしいのです。神具が、必要なのです」
グリス大臣「・・・わかりました。 鍵は、風華様にお渡ししましょう」
風華「それと、モステアへ入るための通行許可証がありません。仲間の分も含めて、なんとか発行出来ないでしょうか?」
グリス大臣「許可証は発行に時間がかかりますので、 私についてきてくだされば、 モステア側へ行く事ができます」
グリス大臣「ただ、その方法ですと、この混乱が収まるまでこの町に入る事ができませんが・・・」
風華「かまいません。 後は、自分たちでなんとかします」

〇草原の道
  アクイアナの町
  
  関所外
  グリスの大臣という地位を借り、風華と変装した吹雪は町の外へ出ることが出来た。
吹雪「まさか、モステアのお姫さんだったとはな・・・。俺を捕まえないのか? 俺は、お尋ね者だぞ」
風華「私にそんな権利はないし、吹雪はこれから 一緒に旅をする仲間だわ」
風華「もし他の人が吹雪を捕まえようとしても、 私はあなたを仲間として、守ります」
吹雪「ははっ、根性のある姫さんだ」
吹雪「よっし! それじゃ、行くとするか!」
  吹雪はどこからか手に入れた武器を構え
  歩き出す。風華も、それについて行った。
  離れ離れになってしまった紅蓮や雷火を
  含め、仲間であるアイ=リーンの子孫は
  4人。
  あと半分が、この世界のどこかにいる。
  いつかきっと、近いうちに巡り合うことを
  祈って、2人はモステアへと向かった。

次のエピソード:エピソード7.5 番外編ジェルバーンと愉快な仲間たち

コメント

  • 銀髪くん、期待に応えてくれました。
    やはり風華ちゃんは不運なようで強運ですね!
    でもちょろまかしはアカンよw

  • なんと!銀髪さんもアイ=リーン様の子孫でしたか。吹雪さん、すごく頼りになりそうでホッとしました。紅蓮と雷火との再会はなるのか。他の仲間達との出会いは…ってあと半分ということは4人!
    8人の仲間を探しながらの旅とは、ちょっと某RPGを思い出しましたw

  • セ=シル側は一気に来たのに、アイ=リーン側は先が長そう。頑張れー!

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