行き詰まる3人の物語

ヤマ

エピソード5(脚本)

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〇商店街
  翌日

〇レトロ喫茶
  13:00 喫茶「隠れ家」
羽留賢以(はる けんじ)「よお、大赤字経営者」
増田朔(ますだ はじめ)「何だよ、超絶ブラック経営者」
羽留賢以(はる けんじ)「この間の依頼の件、報告書はまとまったか?」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、今夜にでもお前の事務所に持っていこうと思ってたんだが」
羽留賢以(はる けんじ)「じゃあ手間が省けたな。今、貰って行ってやるよ」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、別に良いけど」
増田朔(ますだ はじめ)「お前、わざわざここに書類を受け取るためだけに来たわけじゃないよな?」
羽留賢以(はる けんじ)「ご名答。可哀想な赤字経営マスターの為に、 ささやかながら調査仕事のご依頼を追加で持ってきてやったのよ」
増田朔(ますだ はじめ)「はあ。一応、話だけでも聞いておくか」
羽留賢以(はる けんじ)「まあ喜べ。今回もお手軽案件だぞ。 その割に金払いが良いときたもんだ」
増田朔(ますだ はじめ)「ほう。で、内容は?」
羽留賢以(はる けんじ)「なんてことはない。個人の素行・信用調査だ」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ・・・ でも、そのタイプは何日か店を閉めて 張り込まなきゃいけないんだよなあ」
羽留賢以(はる けんじ)「何日か分の店の売り上げよりも、 この一件の依頼の方がよっぽど金になるだろうがな」
増田朔(ますだ はじめ)「う・・・・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「それで、どこの誰のことを調べれば良いんだ?」
羽留賢以(はる けんじ)「この女の子」
増田朔(ますだ はじめ)「え?」
  羽留が差し出してきた書類を見て、
  増田は思わず目を見開く。
増田朔(ますだ はじめ)「藤本真?」
羽留賢以(はる けんじ)「ああ。今ある情報は顔写真と名前だけ。 アンタは、この女の子の素性を調べてこの書類の空欄を埋めてくれ」
増田朔(ますだ はじめ)「依頼者は?何が目的なんだ?」
羽留賢以(はる けんじ)「散英出版の飯野恵一って男だ」
増田朔(ますだ はじめ)(飯野恵一・・・昨日、あの子が忘れていった名刺の奴だな)
羽留賢以(はる けんじ)「聞けば、この女の子は漫画家の卵らしくてな」
羽留賢以(はる けんじ)「まあ、出版社としては採用する前に 信用調査をして反社会的勢力との関わりが無いことを確認しておきたい」
羽留賢以(はる けんじ)「そんなところだろうさ」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、なるほどね。まあ、納得できるか」
羽留賢以(はる けんじ)「とは言え、この顔で反社は無いと思うがな」
増田朔(ますだ はじめ)「本当にな」
羽留賢以(はる けんじ)「まあその分、型通りの調査で済む 容易い案件だろう。どうだ?」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、分かった。引き受ける」
羽留賢以(はる けんじ)「じゃあ、明後日までに報告書を用意しておいてくれ」
増田朔(ますだ はじめ)「信用調査にしては期限が短いな」
羽留賢以(はる けんじ)「向こうさんが急ぎなんだとよ。 でも、今回のなら2日どころか1日でも事足りるんじゃないか」
増田朔(ますだ はじめ)「そうかもな」
羽留賢以(はる けんじ)「じゃあ、よろしく」
  羽留が立ち去った後、
  増田は改めて『飯野恵一』の名刺を見た。
  新規の作家を起用するにあたっての単純な反社チェック。
  そう言われてしまえば納得してしまいそうになるが・・・
増田朔(ますだ はじめ)(そんなことで大金出して調査会社に依頼を出すか?)
増田朔(ますだ はじめ)(ましてやあの子は、いかにも真面目で大人しそうな印象なのに。 昨日だって、飯野の名刺を見ながら無邪気にニコニコしてたし)
増田朔(ますだ はじめ)(反社チェックなんて必要なさそうだがな)
増田朔(ますだ はじめ)(それに、ちょっと気になるのが、 会社名義ではなく個人名義での依頼ってとこだが・・・)
増田朔(ますだ はじめ)(まあ、とりあえずは型通りに仕事をこなすとするか)

〇レトロ喫茶
  14:30
藤本真(ふじもと まこと)「すみません、マスターさん」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、藤本さん。忘れ物を取りに来たのかな」
藤本真(ふじもと まこと)「はい」
増田朔(ますだ はじめ)「はい、どうぞ」
藤本真(ふじもと まこと)「ああ、ありがとうございます。・・・良かった」
増田朔(ますだ はじめ)「そんなに大事な書類なの?」
藤本真(ふじもと まこと)「封筒の方は別に・・・ボツ原稿ですから」
増田朔(ますだ はじめ)「原稿?」
増田朔(ますだ はじめ)(知ってるけどね。 中身見ちゃってるからね。 コピーも取っちゃってるからね)
藤本真(ふじもと まこと)「実は漫画家を目指してまして。 これはボツを喰らった原稿なんです」
藤本真(ふじもと まこと)「それで、一から描き直して持ち込みに行ったら、こちらの編集さんが名刺をくれたんです」
藤本真(ふじもと まこと)「私の作品について、もっと詳しく聞きたいって」
増田朔(ますだ はじめ)「へえ。出版社の人に興味を持ってもらえたのか。良かったね」
藤本真(ふじもと まこと)「ありがとうございます」
増田朔(ますだ はじめ)「因みに、どんな内容なの?」
藤本真(ふじもと まこと)「基本的には刑事物なんですけど、 好きな女の子を滅多刺しにする犯人の心理に重点を置いてみたんです」
藤本真(ふじもと まこと)「そしたら、この飯田さんって編集の方に興味を持ってもらえて」
増田朔(ますだ はじめ)「おうふ・・・君、結構エグい内容をニコニコしながら喋るんだね」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、すいません」
増田朔(ますだ はじめ)「いや、作り話だからね。別に良いんだけど」
藤本真(ふじもと まこと)「とにかく、ありがとうございました。 じゃあ、私はこれで」
増田朔(ますだ はじめ)「あー・・・ちょっと待って」
藤本真(ふじもと まこと)「はい?」
増田朔(ますだ はじめ)「せっかくだし、コーヒーの一杯でもどう?」
藤本真(ふじもと まこと)「ああ、すいません。せっかくなんですけど、 今日はこの後すぐバイトの予定なんです」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、そうなの」
藤本真(ふじもと まこと)「じゃあ、また来ますね」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、よろしくね」
増田朔(ますだ はじめ)(忘れ物をエサにして呼び寄せるまでは良かったけど、店内に引き留める作戦は失敗か)

〇レトロ喫茶
  しばらくしてから、店の扉が慌ただしく開かれた。
青井聖樹(あおい せいじゅ)「増田さん、またあの子がお店に来たって本当ですか!?」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ。でも、もう帰っちまったよ。バイトがあるってさ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ああ、入れ違いでしたか」
増田朔(ますだ はじめ)「でもまあ、また来てくれるってよ。 昨日のお前の件もフォローしといてやったから、多分大丈夫だろ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ、そうなんですね。良かった。 ありがとうございます」
増田朔(ますだ はじめ)「それから、あの女の子の名前も分かった」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「本当ですか?」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ。名前は藤本真。 素性については、これから調べる」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「調べる?」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ。調査会社から、 彼女の素性について調べるよう依頼を受けた」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?素性って・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、そんな大袈裟なもんじゃない。 型通りの信用調査だ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そうですか」
増田朔(ますだ はじめ)「何か分かったらお前にも教えてやろうか」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「良いんですか?」
増田朔(ますだ はじめ)「知りたいんだろ?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「でも、増田さんが守秘義務を破ることになるんじゃ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「そうなんだよな。本当は駄目なんだが・・・ まあ、刑事事件の捜査協力って名目のもとで教えてやるよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ、ありがとうございます」

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