エピソード4(脚本)
〇街中の道路
店じまいをした後、雨が降りしきる中、
増田はとある場所に向かった。
それはビジネス街の一角にあるコンビニだった。
そこでは大学生の出居実波(いでい みなみ)という女性が働いている。
彼女は椎野千佳子とともに失踪した男・出居大輔の娘だった。
椎野千佳子の行方を捜すことは、
出居大輔の行方にも焦点が当たることになる。
出居大輔の妻・実羽(みわ)は、何も知らないの一点張りだった。
他所に女を作って消えた夫のことなど、知りたくもないだろう。
しかし、娘はどうだろうか。
可能性は低いが、もしかしたら娘となら連絡を取っているかも知れない。
念の為の確認として、増田は彼女に会いに行くことにした。
〇コンビニのレジ
22:00 某コンビニ
出居実波(いでい みなみ)「いらっしゃいませ」
増田朔(ますだ はじめ)「失礼。君が・・・出居実波さん?」
出居実波(いでい みなみ)「え・・・そうですけど、何か?」
缶ビールと適当なつまみを買う素振りを見せながら、増田はレジカウンター越しに店員の女性に話しかけた。
当然ながら、彼女は不審者でも見るような目で増田を見る。
増田朔(ますだ はじめ)「気を悪くさせて申し訳ない。俺は調査会社の人間なんだが」
出居実波(いでい みなみ)「調査会社?」
増田朔(ますだ はじめ)「そう。7年前に失踪した君のお父さんの行方について、何か知らないかと思って」
出居実波(いでい みなみ)「・・・・・・・・・・・・」
出居実波(いでい みなみ)「知るわけないでしょ、あんな人!」
増田朔(ますだ はじめ)「そうか。なら良いんだ。嫌なことを聞いてしまって申し訳ない」
出居実波(いでい みなみ)「ちょっと、失礼します!」
明らかに不機嫌な顔つきになって、出居実波は店の奥に隠れてしまった。
彼女は現在19歳だから、12歳の時に父親が失踪したことになる。
それも、不倫の果ての逃避行。
思春期の女の子にはさぞや辛いことだっただろう。
だから、これぐらい拒絶に満ちた反応をするのも無理のないことだ。
増田朔(ますだ はじめ)(この様子だと、娘を通じて出居大輔の居場所を特定する線は無しと判断して良いだろう)
増田朔(ますだ はじめ)(当然、椎野千佳子の行方についても手掛かり無しの結論になる)
増田朔(ますだ はじめ)(これで、椎野千佳子の行方についての調査は本当に完了、てことで良いか)
増田朔(ますだ はじめ)(家族はそれを望んでるし、 俺としてもお手軽調査で済んだし、 まあこれで良いんだろう)
〇コンビニのレジ
そんなことを考えながらレジカウンターで待機していると、
奥に隠れた出居実波の代わりの店員が現れた。
藤本真(ふじもと まこと)「お待たせしました。お会計の方、承ります」
増田朔(ますだ はじめ)「あ、君・・・・・・!」
藤本真(ふじもと まこと)「え?」
増田朔(ますだ はじめ)「よく、ウチの喫茶店に来てくれる人だよね」
藤本真(ふじもと まこと)「あ!あのお店のマスターさん」
藤本真(ふじもと まこと)「いつもコーヒーに砂糖多めにしてくれて、ありがとうございます」
増田朔(ますだ はじめ)「いや、それは全然良いんだけど・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「今日はごめんね。俺の知り合いがびっくりさせちゃったみたいで」
藤本真(ふじもと まこと)「ああ・・・はい。思ってたよりびっくりしました」
増田朔(ますだ はじめ)「あの件については俺の方からしっかり注意しておいたから、 よかったらまた懲りずに来てくれると嬉しいな」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、はい」
増田朔(ますだ はじめ)(うーん、反応が微妙だな)
増田朔(ますだ はじめ)「そうそう、忘れ物があったんだけど」
藤本真(ふじもと まこと)「え?」
増田朔(ますだ はじめ)「誰かの名刺、テーブルに忘れていたよ」
藤本真(ふじもと まこと)「え?ああ、しまった・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「大丈夫。ちゃんと保管してあるから」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、ありがとうございます」
増田朔(ますだ はじめ)「それから、大きめの封筒も忘れ物として預かってるから」
藤本真(ふじもと まこと)「え?ああ・・・あの原稿、 無いと思ったらそちらに置き忘れてたんですね」
増田朔(ますだ はじめ)「名刺と一緒に保管してあるから、 いつでも取りにくると良いよ」
藤本真(ふじもと まこと)「ありがとうございます。 早速、明日にでも取りに伺います」
増田朔(ますだ はじめ)「分かった。じゃあ、待ってるよ。藤本さん」
藤本真(ふじもと まこと)「え?どうして私の名前を?」
増田朔(ますだ はじめ)「その名札に書いてあるから」
藤本真(ふじもと まこと)「ああ、そう言えばそうですね。失礼しました」
増田朔(ますだ はじめ)(結構、抜けてる感じの子なのかな。 青井と話して会話が噛み合うのかどうか不安になってきた)
増田朔(ますだ はじめ)「そうそう、こっちの方こそ 自己紹介をちゃんとしていなかったね」
増田朔(ますだ はじめ)「俺は増田朔、どうぞよろしく」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、はい。どうも・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「そうだ、藤本さん」
藤本真(ふじもと まこと)「はい?」
増田朔(ますだ はじめ)「最近、 雨の日の夜に若い女性が滅多刺しにされる という事件が連続して発生してるから、 帰り道には気を付けて」
増田朔(ますだ はじめ)「もう一人の女の子にも伝えておいてくれるかな」
藤本真(ふじもと まこと)「はい。分かりました。 お気遣いありがとうございます」
〇街中の道路
こうして会計と会話を済ませて、増田はコンビニを出た。
外は相変わらず雨が降っていた。
来た時よりも雨足が強まっているようだった。
〇コンビニのレジ
出居実波(いでい みなみ)「さっきの人、帰った?」
藤本真(ふじもと まこと)「うん。でも、そんな嫌な人じゃなかったよ」
出居実波(いでい みなみ)「藤本さんにはそうなんでしょ。 でも、私にとっては嫌な人」
藤本真(ふじもと まこと)「そうなの?」
出居実波(いでい みなみ)「うん。調査会社の人らしくてさ、 7年も前に消えた父親のことを聞きに来たのよ。客のフリして」
藤本真(ふじもと まこと)「調査会社の人?」
藤本真(ふじもと まこと)(喫茶店のマスターさんのはずだけど)
出居実波(いでい みなみ)「あーあ、せっかく頑張って忘れるようにしてたのに」
出居実波(いでい みなみ)「・・・・・・思い出しちゃったじゃない」
藤本真(ふじもと まこと)「でも、決して悪い人ではないと思うよ」
藤本真(ふじもと まこと)「さっきも、雨の日の夜に女の人が滅多刺しにされる事件が発生してるから、 帰り道には気を付けるようにって注意してくれたし」
出居実波(いでい みなみ)「へえ・・・・・・滅多刺しかあ」
藤本真(ふじもと まこと)「今日は雨だし、この後バイト上がったら、 駅まで一緒に行かない?」
出居実波(いでい みなみ)「そうだね。そうしよっか」