君だけの怪人

サカミキ

必要悪の秘密結社(脚本)

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〇黒
  四半世紀前
  
  まだ20世紀だった頃の話

〇入り組んだ路地裏
  私生児だった俺は、母親に捨てられ施設で育った。
  
  十八で施設を出て数年
  相変わらず碌でもない生活を送っていた。
取り立て屋B「まーつもーとさん」
松元「や、やべ」
取り立て屋A「ちょいちょい どこ行くの? 借りたもんは返して貰わんと」
松元「すいません 今、金無くて」
取り立て屋B「舐めたこと言ってんなよ」
取り立て屋A「まあ落ち着けよ で、松元さんどうすんの? 体で払う?」
松元「・・・」
取り立て屋B「そーいやコイツ親兄弟いないらしいっすよ」
取り立て屋A「そりゃー都合がいいねぇ いい体してっし」
取り立て屋B「じゃ、あそこ連れてきますか?」
松元「えっ、ど、どこへ」
取り立て屋B「身寄りが無い若くて体格いーヤツ連れてくと高く買ってくれるとこがあんだよ」
松元「売られた後は?」
取り立て屋B「知らねぇよ」
取り立て屋A「臓器売られるとか、マグロ船乗せられるとか どうなっちゃうんだろうね」
松元「必ず返しますから」
取り立て屋B「当てあんのかよ」
松元「そ、それは・・・」
取り立て屋A「残念だけど、アンタに選択肢無いから」
松元「うっ」

〇黒背景

〇手術室
松元「うっ、うぅー」
???「おめでとう 改造成功だよ」
松元「改造!? あっ!! 俺の肝臓」
???「ククッ・・・ 大丈夫だよ。臓器は全部揃ってる 体が資本の仕事だからな」
松元「アンタ誰だよ?」
???「お前の飼い主だ」
???「ほれ、ソレ押してみろ」
怪人マツモト「えっ、えー なっ、何だコレ!?」
???「だからさっき言っただろ 改造成功だって」
怪人マツモト「成功って何がだよ!?」
???「お前を買い取って 怪人にしてやったんだよ」
怪人マツモト「元に戻せ!」
???「おっと」
怪人マツモト「うわぁぁー」
???「反抗的な態度はいただけないな お前は私の犬なんだから」
怪人マツモト「くっ」
???「何があった!」
悪の組織 部下A「侵入者です! お急ぎ下さい」
???「ちっ 行くぞ!」

〇ビルの地下通路
???「他の奴らは?」
悪の組織 部下A「すでに新しいアジトに移動済みです」
???「そろそろココもバレると思って アジトを移しておいて正解だったな」
ヒーロー榊「まて!」
???「待てるかバカ おい、そこの怪人行け!」
怪人マツモト「えっ、俺!? 何で!?」
怪人マツモト「イテッ! 何すんだよ!」
怪人マツモト(俺なんで戦ってるんだ)
???「この隙に行くぞ!」
悪の組織 部下A「はい」
???「爆破しろ!」
悪の組織 部下A「でも、まだ怪人が・・・」
???「気にするな、怪人の代わりならいくらでもいる」
悪の組織 部下A「は、はい」
ヒーロー榊「危ない!」

〇ビルの地下通路
怪人マツモト「だ、大丈夫か? お前、俺をかばっくれたのか?」
ヒーロー榊「だ、大丈夫だ! とりあえず、ここから出るぞ」
絋平「その格好じゃ目立つ 早く元に戻れ」
怪人マツモト「ど、どうやって?」
絋平「なんだお前、怪人なったばっかか? 変な機械渡されたろ?」
怪人マツモト「あ、あぁコレ?」
絋平「そこ押して」
松元「あ、ありがと」
絋平「行くぞ」

〇レトロ喫茶
絋平「なるほどね 借金のカタに売られて 知らない間に怪人にされたわけね」
松元「あ、ああ さっきのおかっぱが悪の組織のボスなのか?」
絋平「わからない ボスの正体は見た者によって印象が違う 男なのか女なのか 変装なのか替え玉なのか」
松元「なんで、助けてくれたんだ?」
絋平「悪いヤツには見えなかったから」
絋平「怪人には、金や権力の為に進んでなる奴もいれば 弱みを握られたり騙されたりして無理矢理 怪人にされるヤツもいる」
絋平「俺は、そういう怪人まで倒したくはないんだ」
松元「すごいな、アンタ でも、俺なんて助ける価値ないよ」
絋平「じゃ、折角助かったんだし その力を誰かの為に使ったらどうかな? 俺についてきてくれないか?」
松元「いや、お前ヒーローなんだし 怪人といたら色々まずいだろ?」
絋平「俺さ、そろそろヒーローやめようかと思ってて・・・」
松元「何で?」
絋平「もう三十だし」
松元「そんな理由!?」
絋平「じゃなくて 俺、悪いヤツを倒したいんだ 怪人を倒したい訳じゃない」
絋平「本当に悪い奴は狡賢く隠れてるから そういう奴らを引き摺りだして倒したい」
松元「それ、ヒーローじゃ出来ねーの?」
絋平「うん、そこをずっと考えて ズルズルとヒーロー続けてるんだけどな」
松元「そっかぁ 俺にはよくわかんねーな 空っぽだから・・・」
絋平「松ちゃん 行くとこ無いんだろ? とりあえず家来いよ」
松元(いきなり松ちゃん呼び!?)

〇実家の居間
「パパ、おかえりー」
絋平「ただいまー」
松元(家族もち!?)
絋平「松ちゃん 暫く、ウチにいてもらいたいんだけど いいかな?」
松元「えっ!? いやいや、悪いし・・・」
千明「いいわよ 離れ、空いてるし」
松元「いや、俺、怪人だし」
千明「気にしないで うちの旦那、ヒーローだし」
千紘「ねー、ねー 松ちゃん怪人なの?」
松元「う、うん」
千紘「へんしんしてー」
絋平「おっ、いいね パパも変身しよ」
怪人マツモト(・・・)
千紘「すごーい! かっこいー」

〇田舎の一人部屋
  こうして、怪人にされた俺は
  榊家の世話になることになった。
  紘さんについてまわり、ヒーローの仕事ぶりを見学した。
  紘さんは目覚ましい活躍をしていた。
  怪人の自分でも
  いつか紘さんの役に立てるように
  体を鍛えた。
  榊家に暖かく迎え入れられ、数ヶ月が経った。
松元「紘さん 何で隣で寝てるんですか?」
  松元の隣に布団を敷いて寝転がる紘平。
絋平「うん、話がしたくて」
松元「そうですか」
絋平「俺、ヒーローやめるよ」
松元「三十だからですか?」
絋平「それもあるけど」
松元「あるんだ」
絋平「松ちゃんと過ごして思ったんだ やっぱり、もう怪人と戦うのは嫌だって」
松元「悪い怪人だっているでしょ」
絋平「そうだけど どうやって良いか悪いか確かめんの?」
松元「そうですけど」
絋平「どう考えたって 怪人より怪人にするため松ちゃんを売ったような輩の方が悪いでしょ で、その親玉はもっと悪い」
松元「そうですけど」
絋平「新しい組織を作ろうと思ってる 千明も賛成してくれた 松ちゃん、手伝ってくれない?」
松元「断る訳ないでしょ」
絋平「俺、ヒーロー協会から給料貰ってて、危険手当もつくからそこそこ資金は貯まってるんだ」
松元「給料制だったの!?」
絋平「そうだけど 協会止めるともうヒーローには変身できなくなるんだ だから、松ちゃんには怪人として悪と戦ってほしい」
松元「何の為に体鍛えてると思ってるんですか!?」

〇殺風景な部屋
  翌日、一人の男を紹介される。
竹之内「研究者の竹之内だ 君の心身のケアと研究をさせて貰う よろしく」
松元「松元です よろしくお願いします」
絋平「松ちゃんも竹ちゃんもそんな固くならないで スマイル」
「了解、ボス!!」
  竹之内はヒーロー協会所属の研究員だったが
  旧知の中の紘一の誘いに乗り秘密結社に入った。

〇黒
  必要悪の秘密結社
  
  ボスが調査し、計画を立て
  松元が実行する
  
  事務的な事は千明が担当
  悪人を倒し、資金を奪う
  善良な怪人をスカウト
  
  竹之内によって、優秀な研究員や医師も揃えられ
  所属怪人も増えていった。

〇実家の居間
  組織は順調に成長していった。
  
  二年後
  榊家に男児が産まれ
  
  ヒロと名づけられた。
  子様たちも順調に成長していった。

〇黒
  榊家の人達は空っぽだった私を満たしてくれた。

〇アパートの中庭
ヒロ「まっしゃん あそぼ」
松元(坊ちゃんは今日も可愛いらしい 目に入れても痛くないとはこのことだな)
松元「いいですよ 何して遊びます?」
ヒロ「ヒーローごっこ」
松元「はは・・・ また私が怪人役ですか?」
ヒロ「だって、まっしゃんのカイジン かっこいいんだもん」
松元「いいですよ 変身しましょうか?」
ヒロ「やったー」
「きやー」
怪人マツモト「坊ちゃん ここで待ってて下さい」

〇実家の居間
千明「英くん!? 何で?」
英(はなぶさ)「紘平が悪いんだよ 俺もお前のことが・・・ くそっ! 勝手にヒーローも辞めやがって!」
怪人マツモト「千明さん」
怪人マツモト「オマエ!」
英(はなぶさ)「ちっ 紘平のヤツ怪人なんかと手を組みやがって」
ヒロ「ママー!?」
怪人マツモト「坊ちゃん 危ない!」
  咄嗟にヒロを庇う。
英(はなぶさ)「またな あいつの大切なものを一度に奪っちゃ つまらないからな」
怪人マツモト「あぁ 早く救急車を!」
ヒロ「ママー!」
千明「ヒロ・・・」
千紘(中学生)「ママ!」
千明「千紘・・・ パパをよろしく・・・」
「ママー」

〇病院の廊下
絋平「千明──」
竹之内「松ちゃん」
  竹之内に促され、絋平を残し千明の亡骸から離れる松元。
竹之内「ヒーロー協会にいた頃 英とボスは親友だったんだ」
松元「それが、何で?」
竹之内「その頃、千明さんも協会にいて・・・ 英も千明さんに惚れていた」
竹之内「ボスが秘密結社を立ち上げたとき、英も誘ったんだが あいつはヒーローでいることを選んだ なのに・・・」
松元「──言ったんだ、あいつ 『大切なものを一度に奪っちゃつまらない』 って」
竹之内「あいつの執着が、千明さんへのものなのか ボスへのものなのか・・・」
松元「あぁー 何でこんなこと──」
竹之内「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている・・・ あいつは、覗きすぎたんだ」

〇黒
  英は、殺人犯として指名手配された。

〇田舎の一人部屋
ヒロ「まっしゃん いっしょにねて」
松元「いいですよ そばにいますから、安心して眠って下さい」
  事件後、坊ちゃんと一緒にいることが多くなった。
  
  ボスも怪人の俺と一緒の方が安全だと考えたようだ。
ヒロ「ぼく、まっしゃんみたいなカイジンになって わるいやつをたおす」
松元(坊ちゃん・・・ 必ず守ります)

〇黒
  英の足取りが掴めないまま十数年が過ぎた。
  その間に、ボスは秘密結社を大きくしていった。
  
  これ以上、仲間(ファミリー)を死なせないために・・・
  ヒーロー協会と協定を結び
  所属怪人を襲われないないようにし
  悪行を働いたヒーローの討伐を請け負うことになった。
  安全を確保する為、潜入捜査員を増員
  
  時代の流れに即し諜報・IT部門を強化
  
  医療・メンテナンス室を開設
  一方、怪人の数は12名までに制限し
  
  仲間たちの心身の安全に気を配った。
  これらのことは全て相談の上決められた。
  
  こうして
  
  立派な必要悪の秘密結社が作り上げられていった。

〇研究機関の会議室
  坊ちゃんは、その麗しい容姿を買われ、俳優になった。
  
  同時に、秘密結社の潜入捜査員になった。
ヒロ「松ちゃんは過保護すぎるんだよ 怪人になりたかったのに!」
  『松ちゃん』と言えるようになった。
松元「適材適所です。坊ちゃん」
ヒロ「竹ちゃんはいいって言ってくれるのにね」
竹之内「私は、獅子の子落とすタイプなので」
  私は怪人を引退
  
  竹之内氏は研究室を後任に譲り
  
  秘密結社の幹部となった。
  今や、ボスの右腕と左腕である。
ボス(絋平)「竹ちゃん、松ちゃん 喜んでくれたまえ この程、政府の認可を得たよ」
「おぉ〜!!」
ボス(絋平)「我々のやっていることは・・・ まぁ、悪人からとはいえ強盗だったりするので・・・」
(それを言っちゃ、身も蓋も無い)
ボス(絋平)「公認というか暗認? ってとこかな」
(要は、見て見ぬフリしてやるってことですね)
千紘「英を絶対に捕まえる!」
  お嬢は、警察官になった。
  
  そして、秘密結社の怪人となった。
  警察官で尚且つ怪人のお嬢が狙われる可能性は低い。
  目下の心配は坊ちゃんである。
  坊ちゃんは、自分が俳優として有名になれば
  執着心の強い英が自ら現れるのではと考えている。
  自分自身をおとりにしている。
松元「私がマネージャーになりましょう」
ヒロ「いや、それはやめて」
松元(最近、坊ちゃんが冷たい 巣立ちの時なのだろうか?)
  『坊ちゃんを必ず守る』と誓った身だが
  
  ボスの片腕がもげる訳にもいかない。
  
  それに、私はもう怪人を引退してしまった。
松元(早急に坊ちゃんのお目付け役・・・ いや、お守りする怪人を見つけなければ!)
  The end ?
松元「──って おかっぱヤローも行方不明だし 英も捕まってない!」
  我々の闘いは、まだまだ続きそうだ!

コメント

  • おかっぱヤローに改造された松元が、ヒーローと出会ってから正義の味方として活躍するストーリーがとても斬新な発想でした。千明の仇を取ってくれ。

  • キャラそれぞれに設定があり、思いがあり、そして物語がある。ですから、こんな奥行きのある物語になるのですね。『崖っぷち俳優、怪人になる』と併せて読むとその魅力が増しますね!

  • タイトルが少しロマンチックで惹かれました。とても楽しいストーリーでした。自分の中でイメージを膨らませながら最後まで読ませて頂きました。

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