行き詰まる3人の物語

ヤマ

エピソード3(脚本)

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〇川に架かる橋
  翌日
  7年前に失踪した女性・椎野千佳子(しいの ちかこ)の行方について調査する為、
  増田は午前中から関係各所を回っていた。

〇モヤモヤ
  椎野千佳子(しいの ちかこ)【当時23歳】
  当時、大手保険会社の事務員だった。
  仕事は真面目にこなしていたが、
  同じ職場の上司・出居大輔(いでい だいすけ)【当時40】と不倫関係にあった。
  後に、その出居大輔とともに失踪する。
  駆け落ちしたものと思われた。
  不倫の末の駆け落ちとなると、
  周囲からは好奇の目で見られてしまう。
  残された家族は、千佳子に怒りの感情を持った。
  その為、形ばかりの捜索願は出したものの、
  積極的に捜すことはしなかった。
  そうして7年が経過した現在、
  相続等の問題から家族は失踪宣告を出そうとしているらしい。
  そうなると法律上は死人扱いとなるわけだが・・・・・・
  とにかく、失踪宣告を出すにあたって、
  家族としては千佳子を捜す為の努力はした、
  という建前が欲しいらしい。

〇通学路
  その為に、
  増田は椎野千佳子の交友関係を当たり、
  彼女の行方について何か知らないかどうかを確認して回っていた。

〇住宅街
  当然ながら、誰一人として椎野千佳子の行方を知る者は居なかった。

〇開けた交差点
  7年前に失踪して以来、それまでの友人知人とは一切連絡を取っていないようだった。

〇ビルの裏
  出居大輔とともに、どこかでひっそりと暮らしているのだろうか。
  そもそも、今でも彼と一緒に居るのだろうか。

〇公園通り
  分からないが・・・
  とにかく、椎野千佳子の行方について、
  「捜索はしたけど、見つけられませんでした」という形は作った。
  これで、増田の調査員としての仕事はほぼ終わりだ。
増田朔(ますだ はじめ)(思ってたよりも早く終われそうだ。 この分だと15時か16時ぐらいには店を開けれそうだな)

〇オフィスのフロア
  散英出版 オフィス
  飯野恵一(いいの けいいち)【31】
  大手出版社・散英出版の編集
飯野恵一(いいの けいいち)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
飯野恵一(いいの けいいち)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
飯野恵一(いいの けいいち)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「あの、いかがでしょうか?」
飯野恵一(いいの けいいち)「これ、君が一人で作ったの?」
藤本真(ふじもと まこと)「は、はい」
飯野恵一(いいの けいいち)「アイデアとか、キャラの造形とか、 誰かからアドバイスを受けたりとかは?」
藤本真(ふじもと まこと)「いえ、全て一人で作ってます」
飯野恵一(いいの けいいち)「ふむ。何か参考にしているものはあるかな?」
藤本真(ふじもと まこと)「ええと・・・ちょっとしたネタ帳のようなものは付けてます」
飯野恵一(いいの けいいち)「是非、詳しく話を聞きたいのだが、 今日は時間が無いな」
飯野恵一(いいの けいいち)「また、こちらから連絡するから、 次はそのネタ帳とやらも一緒に持ってきてくれないかな」
藤本真(ふじもと まこと)「は、はい」
飯野恵一(いいの けいいち)「いきなり雑誌とかに採用できるわけじゃないけど、君の作品について、是非ともじっくり話がしたい」
藤本真(ふじもと まこと)「はい!」
飯野恵一(いいの けいいち)「じゃあ、これ。私の名刺を渡しておくから。 ああそうだ、この原稿はしばらくこっちで預かってても良いかな?」
藤本真(ふじもと まこと)「はい、もちろんです!」
飯野恵一(いいの けいいち)「じゃあ、また改めて」
藤本真(ふじもと まこと)「はい!この度はありがとうございました!」

〇レトロ喫茶
  16:30 喫茶「隠れ家」
藤本真(ふじもと まこと)「うふふふふふふふふ♪」
藤本真(ふじもと まこと)(初めて出版社の人に気に入ってもらえた! 徹夜で原稿を一から描いた甲斐があった・・・!!)
藤本真(ふじもと まこと)(今日は気分が良いからか、 いつものコーヒーもすごく甘く感じるなあ)
増田朔(ますだ はじめ)(あの女の子、昨日とは打って変わって 今日はニッコニコだな)
増田朔(ますだ はじめ)(あと、相変わらず砂糖の入れ過ぎで コーヒーがシャリシャリ言ってるな)
増田朔(ますだ はじめ)(一応、あの子が来たことは青井に連絡したが・・・ 注文はコーヒーのみだし、 あんまり長居はしなさそうだよな)
増田朔(ますだ はじめ)(昨日の忘れ物の話でも振って、 少し引き留められるかな・・・)
  増田がそんなことを考えていると、
  いきなり入口の扉が賑やかに開かれた。
増田朔(ますだ はじめ)「いらっしゃ・・・あ、青井か」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「居た!いたいたいた!」
藤本真(ふじもと まこと)「え!?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「貴女、一体何者なの!? 連続刺殺事件について、何を知っているの!?」
藤本真(ふじもと まこと)「え?え?え?」
  青井は店に入るなり、コーヒー入りの砂糖を吸っていた女の子に詰め寄った。
  が、突然の出来事に女の子の方は驚いて目を丸くするばかりだった。
  当然と言えば当然なのだが・・・
藤本真(ふじもと まこと)「あの・・・何の話なのかさっぱり分からないのですが・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そんなはずないでしょ! 事件のことを知ってるから、 あんな絵が描けたんでしょ!?」
藤本真(ふじもと まこと)「はい?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ねえ、お願い! 事件について知ってることを私に教えて! 全部!!」
藤本真(ふじもと まこと)「ひいっ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「おい、青井。挨拶も自己紹介も無しにいきなりそれは駄目だろう」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ、すいません。つい・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あの、私は警視庁捜査一課の刑事で・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「すいません、バイトがあるので失礼します!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ・・・」

〇レトロ喫茶
増田朔(ますだ はじめ)「あーあ、逃げちまったよ。 まあ、いきなりあんな絡み方されりゃあな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「すみません。あの子から重要な証言が取れると思ったので、つい・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「捜査の方はどうなってる?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「進展無しでグダグダやってます。 だからこそ、あの子から話を聞き出したかったんですが」
増田朔(ますだ はじめ)「功を焦り過ぎだ。 焦ってる時は下手に動かない方が良いぞ。 絶対に碌なことにならないから」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「今まさに、碌なことになりませんでしたね」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、なってしまったものは仕方ない。 次は気を付けろ・・・て、何度目だよ、この注意」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「増田さんと一緒に仕事してた時は、 2日に1回は言われてました」
増田朔(ますだ はじめ)「相変わらずだな、お前も」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「すぐ焦って慌てて行動して失敗しちゃうんですよね。はあ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、今は後輩を引っ張る役目もあるから、 これから変わっていくものもあるだろう。 気長に頑張れ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「努力します」
増田朔(ますだ はじめ)「ところで、さっきの女の子だけど・・・ 本当に例の事件のことを知ってると思うか?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そりゃあ、もちろん」
増田朔(ますだ はじめ)「俺の印象では、本当に何も知らなさそうに見えたんだがな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「でも、それなら何で日井美衣の殺害現場そのままの絵を描けたんですか?」
増田朔(ますだ はじめ)「偶然じゃないのか」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そんな偶然があってたまりますか!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「とにかく、何としてでももう一回あの子に会って、今度は冷静にじっくりと話をしないと・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「またウチに来てくれると良いが・・・ 今回のことで寄り付かなくなるかもな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「うう・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「ウチとしても貴重な常連さんだったんだが・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「あ!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「どうしました?」
増田朔(ますだ はじめ)「あの女の子の忘れ物だ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「またですか?忘れ物をしやすい子ですね」
増田朔(ますだ はじめ)「慌ててたんだろ。今回は名刺だな。 『散英出版 編集・飯野恵一』か」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「出版社の人ですか。 漫画の原稿の持ち込みにでも行ってたんですかね」
増田朔(ますだ はじめ)「だろうな」
増田朔(ますだ はじめ)「編集者から名刺を貰ったってことは、 良い評価を受けたのかもな」
増田朔(ますだ はじめ)「今日のあの子がやたらニコニコしてて嬉しそうだったのも、説明がつく」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「へえ」
増田朔(ますだ はじめ)「もしかしたら、名刺を探しにまたここに来てくれるかも知れないな。 漫画の原稿と違って、自分で作り直せるわけじゃないから」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そうだと良いんですが・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「次は優しく話しかけてやるんだぞ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「はい」

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