第五話 華の道(脚本)
〇川に架かる橋
爆弾の入ったカバンを抱えながら、華はひた走っていた。
タロスケ「あなたはバカなんですか?」
タロスケ「せっかく天国に行けるかもしれないのに、そのチャンスを棒にふるんですか!?」
貝沢華「だって・・・」
タロスケ「まだ間に合います。そんなもの投げ出して、今すぐ、母親に会いに行きなさい!」
貝沢華「・・・ごめんね、あんたの出世、ダメにしちゃうかも」
タロスケ「そんなことはどうでもいいんです! 私はただ、あなたに悔いを残してほしくないだけなんです!」
貝沢華「だったら問題ないよ。悔いを残したくないから、あたし今、走ってるんだもん」
〇広い公園
公園にたどり着いた華は、キャッチボールをしている親子やサッカーをしている子供達に向かって、声の限りに叫んだ。
貝沢華「これは爆弾です! 早く、早く逃げてください!」
嘲笑を浮かべながら華の方を見る周囲の人々。
しかし、叫び続けることをやめない華を見とめると、訝し気な表情を浮かべながら徐々に華から離れていった。
貝沢華「もう、誰もいない・・・?」
タロスケ「今のところは」
貝沢華「そう・・・」
華は息をつきながら、その場にへたりこむ。
タロスケ「華さん? どうして、逃げないんですか?」
貝沢華「笑っちゃうくらい、足が痛いんだよ」
貝沢華「知ってるでしょ? あたしの足、まとに動かないんだよ。 もう、立てない・・・」
〇空
苦い笑いを浮かべながらそう言うと、華は掌を天にかざした。
華「めちゃめちゃ光ってる・・・綺麗」
華「・・・へへ、最期にたくさん頑張れて、よかった・・・」
〇広い公園
タロスケ「・・・人間に触れられないことを、こんなにも悔しく思うのは、初めてです」
貝沢華「タロスケ・・・?」
タロスケ「あなたはまだ、生きています。 だったら、最期まで生きることにしがみついてください!」
タロスケ「今生に別れを告げる余裕があるのなら、なんだってできるはずです!」
貝沢華「・・・・・・」
タロスケ「立ってください! 逃げて生きてください!」
唇をかみしめ、華は立ち上がろうとする。
がくがくと震える足を叩き、華は一歩でも多く、死から逃れようとあがいた。
貝沢華「はぁ、はぁ・・・」
しかし、華の背後の爆弾は無情にもその時を迎えた。
貝沢華「ああっ!」
〇白
爆発の暴風にあおられ、華の身体は吹き飛ばされる。
タロスケ「華さんっ、華さんっ!」
〇黒
そしてそのまま、華はゆっくりと目を閉じた。
〇綺麗な病室
医師「日常生活に問題はありませんが、足に後遺症が残っています」
貝沢華「後遺症?」
医師「はい。激しい運動には耐えれないでしょう」
貝沢華「そんな・・・」
華は、夢を見ていた。
あれは、雪に階段から突き落とされた直後の事。
足に後遺症が残ることを知った華は、ひどく落ち込んでいた。
そして、意気消沈する華のもとに母がやってきた。
貝沢冴子「華」
貝沢華「お母さんっ・・・!」
華は冴子の胸に飛びつき、おいおいと泣いた。
貝沢冴子「可哀そうにね、可哀そうに」
貝沢華「お母さん、あたし、あたし・・・っ!」
貝沢冴子「映画のヒロインも決まって・・・これから、もっとたくさん、稼げるはずだったのにね」
貝沢華「え・・・」
貝沢冴子「でも、いいじゃない。足が悪くなったって、今までみたいにニコニコ笑ってれば。きっとお仕事ももらえるわ」
貝沢冴子「あなた、見かけはとってもいいんだから」
貝沢華「何それ・・・お母さん、あたしのこと、そんな風に思ってたわけ?」
貝沢冴子「違うわよ、私は・・・」
貝沢華「違わない!」
貝沢冴子「華・・・」
貝沢華「もとはと言えば・・・お母さんが自分勝手にあたしに夢を託したから、こんなことになったんだよ・・・!」
貝沢華「自分は可愛くも美人でもなくて、才能すらこれっぽっちもなかったから!」
貝沢冴子「・・・!」
母はばっと右手を振り上げたが、その手はぶるぶると震えたままだった。
貝沢華「殴りたかったら殴れば?」
貝沢華「なりたくてもなれなかった綺麗な顔に、傷がつくかもしれないけどね」
貝沢冴子「あんたなんか、もう、勝手にすればいい・・・」
絞り出すようにそう告げると、母は病室を出ていった。
貝沢華「言われなくても勝手にするわよ」
〇病室
閉じたままの瞳から、涙がこぼれる。
その感触に気付くように、華は目を覚ました。
タロスケ「おはようございます。 眠りながら泣くなんて、器用な方ですね」
貝沢華「ここは・・・どこ?」
タロスケ「病院です」
貝沢華「あたし・・・? なんで、ここに・・・?」
タロスケ「結論から申し上げますと、あなたの地獄行きはなくなりました」
タロスケ「ま、天国に行くこともできないんですけどね」
貝沢華「それって・・・」
タロスケ「爆弾は公園で爆発し、大騒ぎになりましたが、死者は0人」
タロスケ「あなたは、何百人という命を救ったんです。だから、寿命が延びてしまったんです」
貝沢華「そう、なんだ・・・」
タロスケ「はい。ちなみに、私の評価も爆上がりしましたので、転職も難なくできそうです」
貝沢華「そっか、よかったね」
タロスケ「でも・・・あなたのような女性(ひと)がいるのなら、人間になるのも悪くはないかもしれませんね」
貝沢華「やめといたほうがいいと思うけど」
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面白かったです!
死神くんが段々華ちゃんの事を気にかけていく辺りなんてもう!最高でした!
これからも頑張ってください!