カリュード

織原 誠

怪人狩猟軍団・ワイルドハント(脚本)

カリュード

織原 誠

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〇繁華街の大通り
  深夜零時。
  人々が眠りにつこうとしている夜の街を七台のバイクが暴走していた。
  だが運転しているのは人ではない。
  ナイトメアと呼ばれる悪魔が男たちに取り憑いて、爆音を鳴らして暴走運転しているのだ。
ナイトメア「ヒャッハー! 誰にも俺たちは止められないぜぇ!」
  信号無視をし、横から車が来てもお構いなしに交差点を突っ切る。
ナイトメア「おらッ、邪魔だ! どきやがれ!」
???「邪魔なのは貴様らだ」
ナイトメア「ッ!? 誰だ!?」
  ナイトメアは後ろを振り返ると、ハッとした表情をした。
  暴走族のすぐ後ろから、巨大な狼に乗って街を疾駆する怪人たちの夜行が迫っている。
  ボスであるカリュードが朗々と名乗る。
怪人・カリュード「俺たちは怪人狩猟軍団・ワイルドハント」
ナイトメア「なにッ!? おまえらが噂の・・・・・・」
怪人・カリュード「ほう。我らのことを知っているか。ならば話は早い」
  やれ、と仲間に命じると狼たちはいっせいに飛びかかった。
  バイクから放り出された敵七人は道路に転がる。
ナイトメア「くそッ。よくも俺のバイクをッ」
怪人・カリュード「馬鹿を言うな。それは貴様のではないだろう」
  カリュードは暴走ナイトメアのボスと一対一で対峙する。
  一番強い敵との戦いは彼のお楽しみなのだ。
  他の敵は仲間たちに任せる。
  ナイトメアは暴走族の男たちの傲慢から生まれた悪魔だ。
  人間に取り憑いているため撃退しなければならない。
怪人・カリュード「ここで我らに狩られて死ね」
ナイトメア「ほざけッ。死ぬはてめぇのほうだッ!」
  啖呵を切った敵は拳を伸ばしてくる。
  カリュードはそれを軽くいなしてカウンターパンチを当てる。
ナイトメア「ぐぅッ・・・・・・」
  真の強者ならば今の一撃でどちらが格上なのかわかるもの。
  しかし眼前の敵にはカリュードの強さがわからないようだ。
ナイトメア「へへっ、やるじゃねえか。なら、これはどうかなッ?」
ナイトメア「オラオラオラァッ」
  ラッシュをし、最後に決め技の回転蹴りをしてきた。
ナイトメア「ドリャァッ!」
  殴りと蹴りのコンボ。
  人間であればひとたまりもなかっただろう。
  だがカリュードは怪人。敵の攻撃をすべて防いだ。
怪人・カリュード「もう終わりか?」
ナイトメア「くッ・・・・・・」
怪人・カリュード「これ以上はないようだな。では死ぬがいい」
  見せつけるように拳をゆっくりと握る。
  拳から前腕にかけて黒い雷が走る。
怪人・カリュード「狂怒爆雷拳!」
ナイトメア「ぐあああぁぁぁッッ!」
  必殺技が直撃した敵は悲鳴を上げながら爆散した。
  元に戻った人間の男が意識を失ったまま倒れている。
  ナイトメアを狩ると取り憑かれていた人間は改心する。
  男たちはもう暴走族などやめることだろう。
  だがワイルドハントは慈善事業で狩りをしているわけではない。
  狩ったナイトメアの魂を彼らは喰らうのだ。
  カリュードは、浮かぶ魂を手で握って砕くと仲間たちに分け与えた。
  食事が終わると怪人たちは再び狼に乗った。
  怪人夜行はまだ終わらない。

〇渋谷駅前
  一夜開けると人間たちは語り合う。
  またワイルドハントが街に現れたらしいと。
  彼らはいったいなにものなのかと。
  怪人たちの正体は元人間だ。
  その死後、冥界には行かず、現世に残って怪人として戦う道を選んだ。
  怪神セキガンの命を受け、カリュードは仲間を集めてワイルドハントを結成した。
  災人ヴァナルガンドを討ち取るために。
  しかし、ただ夜行をしているだけではヴァナルガンドの情報は掴めない。
  よって怪人たちは、昼間は人間に化けて情報収集をしている。
  カリュードは怪奇探偵に扮していた。

〇応接室
  名は黒牙斗真(くろきばとうま)。二十五歳の設定だ。
  今日もお気に入りの葡萄ジュースを飲みながら依頼人を待つ。
百瀬千春「黒牙さん、もっとちゃんとしたものを食べたらどうですか?」
黒牙斗真(くろきばとうま)「百瀬。おまえはなんでそんなに食いしん坊なんだ?」
  百瀬千春。十九歳。
  黒牙探偵事務所に弟子入りしてきた女子大生だ。
  怪人であっても彼女の容姿の良さはわかる。
百瀬千春「私が食べ過ぎなんじゃなくて、黒牙さんが食べなさすぎなんですよ」
  そうか? と言ってカリュードは葡萄ジュースを飲む。
百瀬千春「ほら、それですよ。ジュースばっかり飲んで」
黒牙斗真(くろきばとうま)「俺はこれで充分なんだよ」
百瀬千春「どんな身体ですか。というか、葡萄味ばかりでよく飽きませんね」
黒牙斗真(くろきばとうま)「葡萄は神が好む味だからな」
百瀬千春「葡萄が? 林檎じゃなくて?」
黒牙斗真(くろきばとうま)「ああ。本当なら葡萄酒がいいんだが──」
  すると話を遮ってコンコンとドアが鳴った。
  ノックして入って来たのは三十代の女だ。
  依頼人である。
百瀬千春「あ、どうぞ、こちらへ」
  千春が促すと依頼人はカリュードの前に座った。
  飲みかけのコップを置いてさっそく話を訊く。
黒牙斗真(くろきばとうま)「名前と依頼内容を言ってくれ」
鈴木律子「はい。鈴木律子といいます。依頼はミステリー作家である夫の調査をお願いしたいんです」
  作家に反応したのは千春だった。
百瀬千春「なんてペンネームなんですか?」
鈴木律子「有馬裕介といいます」
黒牙斗真(くろきばとうま)「百瀬、知っているか?」
百瀬千春「いえ。すみません。知らない方でした」
鈴木律子「いいんです。本人も売れない作家と自虐的でしたから。でも、最近ひとが変わってしまったんです」
鈴木律子「以前は他人の悪口を言う人ではなかったのに、毒づいたり、ネットに駄作と書き込みをしていたりして・・・」
百瀬千春「原因はなんだと思うんですか?」
鈴木律子「同期の方が書いた本が実写化されたのが原因だと思います」
黒牙斗真(くろきばとうま)(嫉妬だな)
黒牙斗真(くろきばとうま)「それで? ここは怪奇探偵事務所。夫のなにを調査してほしいんだ?」
鈴木律子「なにかに取り憑かれていないか調べてもらえないでしょうか。なんだか夫ではない人みたいで怖いんです」
  カリュードは結論付ける。
  間違いなく、嫉妬から生まれたナイトメアが取り憑いている。
  このまま放っておけば乗っ取られ、異形の姿に変わる。
黒牙斗真(くろきばとうま)「了解だ。その依頼、確かに引き受けた。あとのことは俺に任せろ」

〇西洋の円卓会議
  いつものように、千春には幻術をかけて事務所で留守番をしてもらう。
  怪人に戻ったカリュードは異空間にあるワイルドハントの円卓を訪れた。
  すでに仲間には集合をかけてある。
  最後に来たカリュードが席に着き、円卓の怪人、十二人がそろった。
  ただし一席だけ空いている。ここは怪神セキガンの席だからだ。
怪人・カリュード「すまない。遅れた」
怪人A「問題ない。ボスが一番、率先して動いているのだからな」
怪人B「ってか、ボスも物好きだよなあ。人間と探偵ごっこだなんてよ」
  まったくだ、と仲間たちは同意する。
怪人・カリュード「人間の娘に愛情があるわけではない。ペットみたいなものだ」
  黒牙斗真の容姿を美青年にしたせいか、人間の女からは好意の眼を向けられる。
  むろんカリュードに彼女たち馴れ合うつもりはない。
  ナイトメアやヴァナルガンドと無関係ならば有象無象でしかないからだ。
  百瀬千春も探偵としての箔をつけるため助手として利用しているにすぎない。
怪人A「それでボス、今回の狩りはどうするつもりだ?」
怪人・カリュード「そうだったな。皆に集まってもらったのは他でもない。嫉妬のナイトメアに関してだ」
  有馬という作家がナイトメアに化けるのは時間の問題というのを説明した。
怪人・カリュード「まず俺が探偵黒牙として有馬に接触する。完全に化けた瞬間を狙え」
「了解」
  頼もしい仲間たちと共にカリュードは葡萄酒のグラスを持って立ち上がった。
怪人・カリュード「我らが怪神セキガンに絶対の勝利を」
「絶対の勝利を!」
  葡萄酒を呷るとグラスを置いて動き出す。
  狩りの開始である。

〇アパートのダイニング
  再び黒牙となったカリュードは現世で単独行動に移る。
  依頼人の住むアパートまで行くと迷わずインターフォンを鳴らした。
  出てきた妻の律子には外に出ているよう幻術をかける。
  なかに押し入ったカリュードは、部屋でPCをいじっている男を見つけた。
  有馬は毒づきながらキーボードを乱暴に叩いている。
有馬裕介「ゴミのような駄作。文章力は低くて1ページ目で本を投げ捨てそうになった」
有馬裕介「トリックは破綻しており、犯人はすぐに誰かわかる。なぜこんな作品が高評価なのか理解不能」
  どうやら他者作品のレビュー、もとい批判を書いているようだ。
黒牙斗真(くろきばとうま)「おい。他人を嫉妬しても無駄だぞ」
有馬裕介「ア? 誰だ、てめぇ?」
  途中で見かけた夫婦で撮った写真の顔とはまったく別物だ。
  ナイトメアに意識を乗っ取られて、悪魔のごとく狂気に歪んでいる。
  もはや手遅れだ。
  カリュードは変装を解いて正体を晒す。
有馬裕介「は、ハハッ。ワイルドハントのおでましってことか!」
怪人・カリュード「知っているのならば問答無用だな」
有馬裕介「ああッ、思う存分、殺し合おうじゃないかァッ」
  有馬の身体を邪気が纏う。
  全身が漆黒に包まれ、殻を破るとなかからナイトメアが現れた。
  その瞬間、異空間から巨大な狼に乗った仲間たちが遅いかかった。
  突進して吹き飛ばすと異空間の渦へ放り込む。場所移動だ。

〇ゆるやかな坂道
  外へ転がされた敵は体勢を立て直して構える。
嫉妬のナイトメア「出て来い、インプたちよ!」
  召喚された使い魔が何体も現れた。全員同じ見た目なので雑魚である。
怪人・カリュード「インプはおまえたちに任せた。俺はナイトメアを狩る」
「了解」
  敵と一対一になったカリュードは剣を顕現させる。
  敵も負けじと斧を取り出した。
嫉妬のナイトメア「死ねぇぇッッ!」
  斧による鋭い斬りつけが飛んでくる。
  カリュードはそれを弾くと斬り返す。
  ならば、と敵は身体を空中で回しながら回転斬りを浴びせてくる。
怪人・カリュード「甘い!」
嫉妬のナイトメア「なに!?」
  剣を横にして攻撃を受け止めたカリュードはがら空きになった胴体を蹴った。
嫉妬のナイトメア「ぐあッ・・・」
  地面に転がった敵だったが素早く起き上がる。
嫉妬のナイトメア「チッ。だったらこれでどうだッ」
怪人・カリュード「むッ!?」
  敵の身体から禍々しい邪気が放たれた。
  紫がかった色の邪気は斧に纏わりつく。
嫉妬のナイトメア「断空戦斧!」
  袈裟懸けに一閃。さらに続けて反対側からも一閃。
  斜め十字の斬撃がカリュードを襲う。
  剣と腕でガードしたカリュードに攻撃がヒットする。
  だが問題ない。少しばかりの傷がついただけである。
怪人・カリュード「やるな。だがその程度の攻撃で俺は殺せない。貴様に本物の斬撃というのを教えてやる」
  柄を握りしめると剣身に黒い炎が纏った。
嫉妬のナイトメア「あ、あぁっ・・・・・・な、なんだその力は・・・・・・!?」
怪人・カリュード「愚問だな。これこそが我らワイルドハントの力よ」
  敵は戦うことを放棄して背を向けて逃げ出した。
嫉妬のナイトメア「ヒィィッ!」
  降参した相手を殺してはいけないのは人間の決め事。
  怪人にそんな甘ったれたものはない。
  ゆえにカリュードは容赦なく剣を振った。
怪人・カリュード「狂怒猛炎斬!」
嫉妬のナイトメア「ぐあああああああッ!」
  ナイトメアの身体は斬焼され、有馬の肉体から魂が離れた。
  それを鷲掴みにして砕く。
  仲間たちも雑魚を狩り尽くしたようだ。
  地面に転がる有馬にもはや用はない。
  怪人たちは巨大な狼に乗る。
怪人・カリュード「さあ、行くぞ、同胞たちよ」
「おう!」
  怪人狩猟軍団は走り出す。
  災人ヴァナルガンドを討ち取るまで、ワイルドハントは止まらない。

  終

コメント

  • 昔から特撮はヒーローが悪を倒す勧善懲悪が王道ですが、この作品の怪人たちはまさしくそれで、どこか懐かしい感じがしました。円卓の騎士を彷彿とさせるシーンも格好良かったです。

  • 単純にカッコいいなぁと感じました。
    今回はナイトメアに取り憑かれた人でしたが、他にも色々と戦ったりするのでしょうか。
    なんでもスマートにこなしてしまいそうですが笑

  • ネットの世界では、あらゆる嫉妬や羨望など歪んだ感情があふれていて、ナイトメアが巣食うにはちょうどいいのかもしれませんね。
    その人をこきおろしても、自分がレベルアップするわけでもないんですが。

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