正義と殺人鬼(脚本)
〇明るいリビング
母親「い、いや・・・!?」
母親「お、お願い・・・」
母親「命だけは・・・」
殺人鬼の怪人「・・・死ね」
殺人鬼の怪人「これで終わりだ」
〇住宅街
殺人鬼の怪人「・・・」
正義の怪人「待て」
正義の怪人「貴様だな?」
正義の怪人「近頃、子供のいる親ばかりを狙っているという怪人は?」
殺人鬼の怪人「・・・だとしたら?」
正義の怪人「──切る!!」
正義の怪人「この屑が、死ぬがいい!!」
殺人鬼の怪人「屑、か」
殺人鬼の怪人「あぁ、そうさ」
殺人鬼の怪人「俺はどうしようもないごみ屑だとも」
殺人鬼の怪人「で、だから?」
殺人鬼の怪人「どうするんだ?」
正義の怪人「正義の元に裁きを下す!!」
殺人鬼の怪人「正義、か」
殺人鬼の怪人「はっ、・・・ヘドが出る!!」
正義の怪人「──っ!?」
殺人鬼の怪人「ずいぶんと御大層な言葉だが」
殺人鬼の怪人「その言葉で何を守れる」
正義の怪人「くっ!?」
殺人鬼の怪人「正義の味方とやらを気取るなら、せめて1人でも多くの弱者を救ってみせろ」
殺人鬼の怪人「──それすら出来ないのなら」
殺人鬼の怪人「貴様はただの正義を語るだけの畜生だ」
正義の怪人「──ぐぁ!?」
殺人鬼の怪人「・・・ふん」
正義の怪人「くっ、待て!!」
正義の怪人「逃がすものか!!」
殺人鬼の怪人「・・・」
正義の怪人「貴様のような屑だけは、絶対に!!」
良治「伏せろ、正昭!!」
正義の怪人「先輩!?」
良治「誠!!」
良治「あの馬鹿下がらせろ!!」
誠「は、はい!!」
誠「正昭、こっちに!!」
正義の怪人「ふざけるな、まだ俺は!!」
誠「そんな傷で何を言ってるんですか!?」
誠「早くこっちに!!」
良治「銃弾を弾くか、化物め!!」
正義の怪人「逃がすもの──!!」
良治「落ち着け、この大馬鹿!!」
良治「つ─~~─~っ!!」
正義の怪人「あ、あの、先輩・・・」
正義の怪人「俺、今怪人化してますので・・・」
正義の怪人「殴ったら、そっちの手の方が痛いかと・・・」
良治「分かってるのならさっさと怪人化を解除しろ!!」
正義の怪人「・・・は、はい!!」
良治「この、大馬鹿野郎!!」
正昭「痛ったぁ!?」
〇総合病院
〇病院の診察室
正昭「あ、あの先生」
医者「んー、何かな?」
正昭「私はもう平気なので・・・」
医者「ふーん」
医者「世間一般では刃物で切りつけられた傷を平気とは言わないんだがね?」
正昭「いえ、しかし私は怪人化を・・・」
医者「いくら特殊な力を持っていようと人間の身体なら私の、医療の領分だ」
医者「傷口から感染を起こして地獄の苦しみを味わいたくないのなら、言うことを聞きなさい」
医者「それともあれかい?」
医者「その怪人化とやらで病気や怪我に勝てるか、試してみるつもりなのかな?」
正昭「い、いえ、すみません・・・」
医者「まぁ、確かに君が驚く程の力を持っているのは事実だね」
医者「あれだけの傷がもう塞がりかけている」
医者「無理をしなければ明日には普段どおり動けるだろう」
正昭「本当ですか?」
医者「推測だがね」
医者「・・・とはいえ、君たち怪人化能力を得た人間について詳しい事はまだ分かっていないのが事実だ」
医者「超人になったのだと調子にのると、いつか痛い目を見るかも知れないよ?」
正昭「・・・」
〇荒れたホテルの一室
殺人鬼「・・・ふん」
殺人鬼「・・・ったく、増えてきたな」
殺人鬼「・・・うめぇな」
〇オフィスのフロア
良治「・・・おい正昭、お前何してる?」
正昭「・・・え? あ、先輩!!」
正昭「昨日は負傷してしまい、申し訳ありませんでした!!」
正昭「怪我の具合も良いので、早速今日から──」
良治「切るつけられて具合が良い訳あるか!?」
良治「お前、昨日の一発だけじゃ足りないのか!?」
正昭「え?」
正昭「いえ、昨日は先輩からは2発・・・」
良治「そこじゃない!!」
良治「あれだけの怪我をして、何故次の日に普通に出勤してきているんだ!!」
正昭「い、いえ、もう傷は塞がって・・・」
良治「そんな訳──っ!!」
良治「・・・本当なんだな?」
正昭「はい、この通りに」
良治「・・・分かった」
良治「ただ様子がおかしい時はすぐに帰らせるからな」
正昭「はい、分かっています」
良治「まったく常識外れだな、その怪人化は・・・」
正昭「おかげで助かってますよ」
正昭「だからこそ、この能力を悪用する人間は絶対に許しておけません」
良治「・・・数年前から世界各地で確認され始めた怪人化現象」
良治「まだ詳しい事は分かっていないんだよな?」
正昭「はい」
正昭「分かっているのはある日突然、怪人になれるようになること」
正昭「地域、人種、境遇。 共通点は見つかっていません」
良治「幸いな事に数はかなり少なく、基本的に善人が多い」
良治「ゆえに今まで突発的な事故はあれど、事件は起きていなかったが・・・」
正昭「──殺人鬼の怪人」
良治「子供のいる家族ばかりを狙う殺人鬼が怪人化したわけだ」
正昭「そんな悪人、絶対に許しちゃおけません!!」
正昭「絶対に俺がこの手で──!!」
良治「だからと言って昨日のような勝手な単独行動は困りものだがな」
正昭「うっ!?」
良治「相手も怪人なのだからと気が逸るのは分かるが、きちんと周りと協力しろ」
良治「いつか怪我だけじゃすまなくなるぞ?」
正昭「たとえそうなったとしても・・・」
良治「・・・やはりもう一発いっておくか?」
正昭「ぼ、暴力反対!! パワハラ!!」
良治「黙れ!! 毎度毎度無茶をして俺の胃を苦しめやがって!!」
良治「貴様がやらかす毎にどれだけ胃薬と始末書を使っていると思う!?」
正昭「──ひっ!?」
正昭「そ、そうだ先輩!!」
正昭「誠は今何処に・・・?」
良治「・・・被害者の子供に話を聞きに行っている」
良治「こういう時はあいつが適任だからな」
正昭「・・・?」
正昭「あぁ、先輩顔が怖いか」
良治「あぁ?」
正昭「いえ、何でもありません」
良治「お前とは一度きちんと話を」
誠「お疲れさ、正昭!?」
誠「おま、もう平気なのか!?」
正昭「ほ、ほら先輩、誠が帰ってきましたよ」
良治「ちっ、この話はまた後でな」
良治「それで誠、何か話は聞けたか?」
誠「いえ、何も」
誠「医者が言うには精神的なショックを受けてるんだろうって」
誠「親の方も命に別状はありませんが、まだ意識は戻ってません」
良治「そうか」
正昭「あいつ、次こそは絶対に」
〇散らかった居間
〇飲み屋街
〇ビルの裏
〇散らかった居間
〇荒れたホテルの一室
殺人鬼「──!!」
殺人鬼「はぁ、くそ・・・」
〇大学病院
殺人鬼「・・・」
正昭「辛いかも知れないが、何か話してくれたら・・・」
誠「えぇ、僕は今度は医師の方に何か分かったことがないか」
正昭「っと、失礼」
正昭「すいません、前をよく見てなくて・・・」
殺人鬼「あ? あぁ、いや、こっちこそ入り口の前で・・・」
殺人鬼「──お前、まさか」
正昭「え?」
正昭「あの、私が何か?」
殺人鬼「・・・いや、すまん。 知り合いに似てただけだ」
殺人鬼「邪魔して悪かったな」
正昭「え? あの、入らなくてよろしいので?」
殺人鬼「別にいい」
殺人鬼「ちと言いたいことがあっただけだ」
正昭「・・・?」
殺人鬼「お仕事ご苦労さん」
殺人鬼「あぁ、そうだ」
殺人鬼「あの子、一度医者に見せておけ」
正昭「え?」
誠「あの、いったい何の話・・・」
殺人鬼「じゃあな」
誠「正昭、知り合い?」
正昭「いや、初対面だと思うが・・・」
正昭「あの子・・・?」
正昭「子供!?」
誠「正昭?」
正昭「・・・誠、子供の所まで急ぐぞ」
誠「っ!?」
〇病院の診察室
〇警察署の資料室
良治「それで、分かったのか?」
誠「・・・は、はい」
誠「被害者の子供の身体には傷がありました」
誠「打ち身なども、ですがそれ以外にも・・・」
誠「その、見えない箇所に、・・・古い火傷なんかも」
正昭「今までの、その、殺人鬼の被害者は、全てではありませんが児童相談所への通報歴があります」
良治「・・・つまり、あれか」
良治「殺人鬼の怪人は虐待を行っている家庭ばかりを狙っていると」
誠「・・・いったいどうして」
良治「何故、か」
正昭「先輩・・・」
良治「正昭、誠。 次に狙われそうな家庭をピックアップしろ」
誠「え!?」
正昭「先輩!?」
良治「理由はなんであれ、日本で私刑など認める訳には行かない」
良治「・・・罪は罪だ きちんと償ってもらう」
誠「け、けど!?」
良治「誠!!」
良治「・・・俺達は警察なんだ」
良治「認める訳には、いかない」
良治「病院で出会ったという男の人相書きを作れ」
良治「そいつを捕まえるぞ」
正昭「──っ」
〇通学路
殺人鬼「ここか・・・」
正昭「・・・待て」
殺人鬼「っ!?」
正昭「そのまま動くな」
殺人鬼「・・・へぇ、まさかここまで行動が早いとは」
殺人鬼「見抜けても、動き出すまでにはまだ時間がかかると思ってたんだがな」
殺人鬼「ほら、お役所仕事は腰が重いだろ?」
正昭「・・・今は仕事じゃない」
殺人鬼「あ?」
正昭「今は俺1人だ」
殺人鬼「お前・・・」
正昭「話が、したい」
正昭「何故こんな事を?」
正昭「俺達警察や児童相談所に頼るのでは駄目なのか?」
正昭「何もここまでする必要は──っ!!」
殺人鬼「・・・あぁ」
殺人鬼「お前はきっと、まっとうに育ってるんだろうな・・・」
正昭「え?」
殺人鬼「なぁ、ならなんで虐待されてる子供はいなくならない?」
殺人鬼「何故、今も子供が虐待で死んでる?」
殺人鬼「・・・なんで、誰も俺を助けてくれなかった?」
正昭「それ、は・・・」
殺人鬼「あぁ、お前個人を責めちゃいねぇ」
殺人鬼「俺が悪人だってのも間違いねぇ」
殺人鬼「・・・こんな方法しか思い付かねぇんだからな」
殺人鬼「──けど」
〇荒れたホテルの一室
〇通学路
殺人鬼「今の日本じゃ、よほどの事じゃなければ国は家庭に介入できない」
正昭「だから・・・」
正昭「だからって──」
殺人鬼「・・・俺は今からこの家の住人を襲う」
正昭「──っ!!」
殺人鬼「さぁ、ケリをつけようぜ、正義の怪人さん」
正昭「っ!!」
殺人鬼の怪人「来ないのか?」
殺人鬼の怪人「──行くぞ!!」
〇通学路
正義の怪人「おぉぉお!!」
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後半、正義の怪人と殺人鬼の怪人は戦うことをやめて押し問答に終始していましたが、その状況こそが、児童虐待は綺麗事でも暴力でも解決しないという問題の根深さを物語っているような気がしました。どちらの怪人でもいいから、まずは虐待されている子供の保護を最優先に活動してほしいです。
社会に見放され裏切られた人の気持ちは、当事者でなければわかりませんね。正義だけでもこの世は成り立たないということをメッセージとして受け取りました。
児童虐待、育児放棄等がニュースに出るのはほんの一部で、しかも取り返しのつかない事態です。何が悪で何が正義か。考えさせられたストーリーでした。