エピソード1(脚本)
〇渋谷駅前
不知火 秋奈「死ねッ!」
不知火 秋奈「死ね死ねッ!」
不知火 秋奈「怪人はみんな死ねえッ!!」
〇殺風景な部屋
不知火 秋奈「次、お願いします」
教官「そこまでにしたまえ もう訓練時間はとっくに過ぎている」
不知火 秋奈「ちぇっ」
シミュレーション用のゴーグルを私は渋々外した
教官「根を詰めすぎるのは感心しないぞ 君はまだ『イヴ』の訓練生だろう」
対怪人防衛機関。通称『イヴ』
市民の避難や怪人撃退の任務を主とする、社会の安全の基盤となる存在だ
給料は高いが死亡率も高い
好き好んで入るのは正義心の強い人か、金狙いか
不知火 秋奈(・・・私のような復讐者か)
教官「学生の本分を疎かにしてはならん 明日に備えて早く帰りたまえ」
不知火 秋奈「でも龍馬くんは・・・!」
教官「君に無理をして彼のようになってほしくないのだよ」
不知火 秋奈「・・・」
教官「逸る気持ちはわかるが体調管理は当然の義務だ」
教官「身体を壊して非常時に動けなくては本末転倒だろう」
不知火 秋奈「わかりましたって・・・」
〇駅前広場
不知火 秋奈「厳しいんだからウチの教官は・・・」
不知火 秋奈「あ・・・」
不知火 秋奈「りゅ、龍馬くん!」
辻 龍馬「・・・何か用か?」
不知火 秋奈「え、えと。久しぶりに一緒に帰らない?」
辻 龍馬「遠慮しとく」
不知火 秋奈「そ、そっか。何か用事でも」
辻 龍馬「関係ないだろお前には。放っておいてくれ」
不知火 秋奈「・・・なんでそんな言い方するの?」
辻 龍馬「存在が不快だからだ。目障りなんだよ」
不知火 秋奈「そんな・・・ひどい・・・」
辻 龍馬「じゃあな」
不知火 秋奈「待って!」
不知火 秋奈「一言だけ言わせてよ。もう話しかけないから」
辻 龍馬「なんだよ」
不知火 秋奈「うぜえのはテメエだよ。いつまで世界で一番不幸みたいにウジウジしてんだよ」
辻 龍馬「な・・・」
不知火 秋奈「私はアンタと違う。必ずお姉ちゃんを殺した怪人を殺す!」
不知火 秋奈「イヴを辞めて逃げた臆病者が偉そうにすんなバーカ! つーか暗えんだよ。死ねッ!」
タタタッ
辻 龍馬「・・・」
〇ビルの裏
不知火 秋奈「うう・・・」
不知火 秋奈(あんなこと言うつもりじゃなかったのに・・・)
〇黒
全部・・・あの怪人のせいだ
〇通学路
──半年前
辻 龍馬「秋奈ちゃあぁん! 今日も可愛いな!」
不知火 秋奈「ぎゃあッ! 飛びついて来んな! 助けてお姉ちゃん!」
不知火 遙「龍馬。妹が困ってるからやめて。抱きつくなら私にしなさい」
辻 龍馬「え、やだよ・・・コンクリートの上に平然と背負い投げしそうだし」
不知火 遙「なんですって!」
辻 龍馬「うわあッ! 助けて秋奈ちゃん!」
不知火 秋奈「だから来んな!」
私たち幼馴染三人組はこんなやりとりが日常的だった
昔の龍馬くんはアホだけど今よりもずっと話しかけやすかったし
この時は遙お姉ちゃんがそばにいて、最高の時間だった
あの時までは
〇空き地
辻 龍馬「凄えだろ! 俺イヴの戦闘訓練の成績断トツ一位だったんだぜ?」
不知火 秋奈「へー凄い。オメデトー」
辻 龍馬「棒読み!」
不知火 遙「でも普通に凄いじゃない。感心したわ」
辻 龍馬「フッフッフ、だろ? なにかあったらこの対怪人用ブレードで怪人から守ってやるぜ」
不知火 遙「コラ。特別に携帯が許されてるからって、非常時じゃない時に出さないの」
辻 龍馬「すんません・・・」
通行人「あの、ちょっと道を尋ねてもよろしいですか?」
辻 龍馬「はい。俺に任せ・・・」
不知火 遙「はいはい龍馬はどいて。どうせ現在地もわからないでしょ?」
辻 龍馬「バカにしすぎじゃね?」
不知火 遙「えーとここは・・・」
不知火 遙「・・・」
辻 龍馬「おいおい人に文句つけておいて、案内できてねえじゃ・・・」
ドサッ!
辻 龍馬「え・・・」
不知火 秋奈「お、お姉ちゃん・・・?」
不知火 秋奈「お姉ちゃん!」
通行人「ククク・・・」
不知火 秋奈「か、怪人・・・」
辻 龍馬「グッ!」
不知火 秋奈「りゅ、龍馬くん!」
辻 龍馬「馬鹿!来るな!」
不知火 秋奈「あ・・・」
反射的に近寄ろうとしたのが失敗だった
気がついた時にはもう目の前に・・・
〇黒
〇空き地
目が覚めた時には全てが終わっていた
「ごめん・・・」
弱々しい声が響く
辻 龍馬「本当に、ごめん・・・」
龍馬くんはお姉ちゃんを抱きかかえて、泣き崩れていた
不知火 秋奈(ああ・・・)
もうそこにいつもの彼の姿はどこにもない
そして・・・お姉ちゃんが亡くなってるのは明白だった
最悪な時間。地獄のような光景
声を張り上げて泣き叫びたかったけど、なんとか堪えた
今泣けば、目の前のボロボロの少年は本当に心が砕けてしまっただろうから
後から聞いた話だと、あの怪人はどうやら途中で逃亡したらしい
それから私はイヴに入った
理由なんて決まっている
〇黒
あの憎き怪人を・・・殺すためだ
〇ビルの裏
不知火 秋奈「なのにどうして・・・」
あの日から龍馬くんはイヴをやめて、人が変わったように私を遠ざけるようになった
もう笑った姿なんてあれから見たことがない
不知火 秋奈(塞ぎ込む気持ちはわかるけど・・・)
不知火 秋奈(龍馬くんなら一緒に仇を討とうとするって思ってたのに・・・)
キャアアァッ!!
不知火 秋奈「な、なに? 悲鳴!?」
不知火 秋奈(それに建物が崩れるような音も聞こえた)
不知火 秋奈(まさか・・・)
〇荒廃した市街地
不知火 秋奈「ひ、酷い・・・」
駆けつけた先には凄惨な光景が広がっていた
不知火 秋奈「みんな・・・死んでる」
不知火 秋奈「怪人はどこに・・・!」
見知らぬ少年「だ、誰か助けて・・・!」
ジーサ「クク、怯えるガキはたまらねえな」
見つけた
数十メートル先。怪人が子供の首をつかんで持ち上げている・・・!
不知火 秋奈「あいつが・・・!」
迷わず怪人の元へ駆け
携帯していた鞘からブレードを引き抜いた
不知火 秋奈(ここで・・・叩き切る!)
ジーサ「おっと危ねえ」
ジーサ「不意打ちとは卑怯な真似をするじゃねえか」
不知火 秋奈「大丈夫?」
見知らぬ少年「お、お姉ちゃん・・・」
不知火 秋奈「早く逃げて。ここは私がなんとかするから」
見知らぬ少年「う、うん!」
不知火 秋奈「よくもこんなことを・・・殺してやる!」
ジーサ「おーおーおっかねえ」
ジーサ「あのガキに落とそうと思ったが・・・ お前でいいか!」
不知火 秋奈「な・・・」
あらかじめ準備してあったんだろう
だから致命的に反応が遅れた
怪人が放った衝撃波は倒壊寸前の建物に直撃し、
巨大な瓦礫の雨が私の頭上に降って来た
不知火 秋奈(くそったれ・・・)
ダメだ。どう動いても間に合わない
不知火 秋奈(こんな・・・ところで・・・)
〇荒廃した市街地
ジーサ「ははは!うるせえ口だったが押しつぶされてすっかり閉じたようだ」
ジーサ「な・・・?」
ジーサ「だ、誰だお前・・・ というかあの瓦礫をその小娘を抱えてどうやって躱した!」
辻 龍馬「気絶しちまったか。でもちょうど良かった」
ジーサ「無視するな!」
辻 龍馬「・・・」
辻 龍馬「─────────変身」
ジーサ「・・・は?」
ジーサ「なにが、起き、た・・・」
辻 龍馬「・・・悪いな」
辻 龍馬「死体に語る趣味はねえ」
辻 龍馬「・・・秋奈ちゃん」
〇空き地
不知火 秋奈「う・・・」
ドサッ
辻 龍馬「秋奈ちゃん!」
辻 龍馬「クソオオオォ!」
???「グハッ!」
辻 龍馬「や、やった・・・」
死んだ怪人が光の灰となって消えていく
辻 龍馬(クソッ、不意を突かれてなきゃもっと早く・・・)
辻 龍馬「二人は!」
不知火 秋奈「ん・・・」
辻 龍馬(秋奈ちゃんの方は大丈夫そうだ)
辻 龍馬「遙の方は・・・」
辻 龍馬「よかった。致命傷じゃない 早く止血して助けを・・・」
辻 龍馬「うッ!」
不知火 遙「アハハッ!」
辻 龍馬「はる、か・・・?」
辻 龍馬「なんで、怪人に・・・」
「ククク、驚いてるようだな」
突如、虚空に浮かんだ魔方陣から新たな怪人が現れた
辻 龍馬「どうなって、やがる・・・」
ゼルギアス「ずっと見物させてもらったが、あまりの愉快な展開にたまらずやって来てしまったよ」
辻 龍馬「テメエは・・・!」
ゼルギアス「私はゼルギアス。人間の支配が趣味のただの怪人だ」
辻 龍馬「支配・・・?」
ゼルギアス「先の老婆は私の力で隷属化させた者でね。私の命令に従って君たちを攻撃させてもらった」
辻 龍馬「なっ、怪人が化けてたんじゃないのか!?」
ゼルギアス「私の支配におかれた者は怪人化が可能になる」
ゼルギアス「もちろん人間の姿にも自在にな」
辻 龍馬(じゃあ俺は・・・)
辻 龍馬(間接的に人を殺したってことかよ・・・)
辻 龍馬「じゃあ遙が怪人になったのもお前が・・・」
ゼルギアス「残念だが隷属化するには条件があってね。相手の傷口から怪人のエネルギーを注入する必要がある」
ゼルギアス「触れてもない私には不可能だ。私にはね」
辻 龍馬「私には・・・?」
辻 龍馬「まさか!」
〇空き地
もうあの出血の時に・・・
〇空き地
ゼルギアス「ご名答。隷属化した相手は私の力の一部が使えてね」
ゼルギアス「さて、お喋りはここまでにしよう 私も観劇に入りたいのでね」
辻 龍馬「観劇・・・?」
ゼルギアス「ククク、仲間同士の殺し合いほど端から見ていて面白い者はないだろう?」
ゼルギアス「さあ小娘よ。『あの人間を隷属化しろ』」
辻 龍馬「まさか・・・やめろ!」
不知火 遙「キシャアア!」
〇空き地
辻 龍馬「くっ!」
不知火 遙「シャア!」
ゼルギアス「どうした?反撃しなければ不利になるだけだぞ?」
辻 龍馬「んなことするか!」
怒鳴りながら横目に秋奈ちゃんの方を見る
辻 龍馬(よかった・・・秋奈ちゃんの方には異変がない)
辻 龍馬(俺も平気だし、きっと一瞬の接触じゃ傷口から体内にエネルギーを送り込めないんだ)
ゼルギアス「なるほど、仲間には手を出さない心優しい奴なのだな貴様は」
ゼルギアス「ならこちらから手を出させよう」
ゼルギアス「『そこに転がった小娘を殺せ』」
ピクッ
辻 龍馬「な!」
途端、遙が向きを変えて秋奈ちゃんの方へ駆け出した
辻 龍馬「やめろ・・・」
〇黒
やめろおおおおおおぉ!
〇空き地
世界が壊れたような気がした
辻 龍馬「あ、あぁ・・・」
秋奈ちゃんには怪我はない
だが・・・
俺のブレードは遙の身体を貫いていた
〇空き地
不知火 遙「龍馬、くん・・・」
不知火 遙「妹を・・・お願い」
辻 龍馬「遙・・・おい、おい!」
辻 龍馬「はるかああああぁッ!」
ゼルギアス「クククッ!フハハハハッ! 実に面白いものを見せてもらった」
ゼルギアス「わざわざ人間に戻してやった甲斐があったというものよ」
辻 龍馬「ゼルギアアァスッ!」
辻 龍馬「テメエは、テメエだけは!絶対に許さねえッ!」
ゼルギアス「フフ、哀れなものだ」
ゼルギアス「既に勝負はついたというのに」
辻 龍馬「う、ぐ・・・」
辻 龍馬(身体が・・・熱い)
辻 龍馬「まさか、俺が支えている間に遙が・・・」
ゼルギアス「隷属化した者は私の命令に絶対に逆らえない」
ゼルギアス「彼女はわざと刺されて貴様が呆然とした隙を狙ったのだろう」
ゼルギアス「悲劇的な結末さえも命令を遂行するための茶番にすぎなかった気分はどうだ?」
辻 龍馬「こ、この・・・!」
ゼルギアス「抗ってももう遅い さあ、『怪人化しろ!』」
辻 龍馬「ガアアアアァッ!」
ゼルギアス「おお・・・素晴らしい。過去最高の素体だ!究極の怪人といっても過言じゃない!」
辻 龍馬「・・・」
ゼルギアス「クク、さて早速その力を披露してもらおうか」
ゼルギアス「手始めに『その小娘を貴様が殺せ!』」
辻 龍馬「・・・わかったよ」
ゼルギアス「ククク・・・」
辻 龍馬「遙」
ゼルギアス「・・・は?」
ゼルギアス「な、なぜ支配者の私に・・・」
辻 龍馬「隷属化した相手はお前の力の一部を使えるんだろ?」
辻 龍馬「・・・命令されたからな 『妹をお願い』って」
辻 龍馬「なら妹を殺そうとしたお前を排除するのは当然だ」
ゼルギアス「そ、そんな馬鹿な 命令の優先権は私に・・・」
辻 龍馬「俺の大切な人の最期の願いだぞ」
辻 龍馬「それをお前の軽薄な言葉が上回るわけがねえだろうがッ!」
ゼルギアス「グアアアッ!」
〇空き地
辻 龍馬「へへ、終わったぜ遙・・・」
辻 龍馬「遙・・・」
〇黒
「ああああああぁあああああああ!」
〇荒廃した市街地
辻 龍馬「もう・・・こんな形でしか守れなくてごめんな」
ゼルギアスが消えた今でも俺の隷属化は解けてない
『妹をお願い』という遙の命令と、『妹を貴様が殺せ』というゼルギアスの命令が今の俺には重複している
相反する命令だが、その二つの命令の効力が同時に発揮する時だけ俺は怪人化できる
その条件が揃う時は・・・秋奈ちゃんが誰かに殺されそうな時
俺が殺す必要がある以上、他の誰かに綾香ちゃんを殺されるわけにはいかないからな
〇駅前広場
不知火 秋奈「必ずお姉ちゃんを殺した怪人を殺す!」
ああ、君の言う通りだ
俺が・・・殺した
怪人から守ると約束したのに、俺は守れなかった
〇荒廃した市街地
辻 龍馬「でも・・・最期の約束だけは絶対に守るから」
遙の一番の望みは君を幸せにすることだ
だけど君の一番の望みは姉殺しの怪人を殺すこと
仇の俺が生きてる限り、その目的は果たせない。君の人生は復讐でいつまでも潰されてしまう
だから、君が強くなってもう一人でも大丈夫だと思えたその時は・・・
辻 龍馬「怪人として、君に殺されよう」
前半の描写で不可解だった龍馬の言動や秋奈との関係性が、後半で全て明らかになるという構成が素晴らしかったです。龍馬がここまで複雑な立場に置かれているとは。姉の願いと秋奈の願いの板挟みになった彼が、今後どういう決断を迫られる展開になるのか気になります。
自罰的な感情でがんじがらめになるメインキャラ2人、その背景がとても悲しく語られてますね。今後2人は共に歩んでいくことができるようになるのか、切ない物語ですね。
3人の幼馴染が、怪人化という悲劇をまといながらも固い絆で結ばれていく様が、素晴らしい文章からとてもよく伝わり圧巻の表現力だと思いました。