俺、異世界に飛ばされたみたい(脚本)
〇荒野
タケル「ヒミンビョルグ・・・?」
聞いたことの無い地名だ。
ユーヤ「そうだよ? 有名な山だと思うけど」
タケル「ふーん、初めて聞くなあ」
タケル「そうだ、さっきの剣、あれ何かの手品?」
タケル「俺もやってみたい! どうやってするんだ?」
ユーヤ「あれは物質を作る魔法だよ? 珍しくもないけれど・・・」
タケル「魔法・・・」
タケル(剣出すとき、魔法とか言ってたっけ・・・?)
敵を倒すのに夢中で、気にしていなかったけれど。
魔法なんて、現実にあるのだろうか。
ユーヤ「そういえば君、違う世界の人だったけ?」
タケル「へ?」
彼女はあっと思い出したように話す。
タケル「ち、違う世界? 国じゃなくて?」
ユーヤ「だって、キミの世界には魔法無いんでしょ?」
タケル「そりゃそうだけど・・・」
ユーヤ「転生魔法、私初めてだったんだ~」
タケル「てんせい・・・まほう?」
ユーヤ「死んだ人を生き返らせる魔法だよ!」
ユーヤ「タケルは他の世界の人だったんだね!」
タケル「は? ・・・え?」
まだ理解が追いつかないが、少女の話をまとめると──。
タケル「じゃあ、俺別の世界に来たっていうのか!?」
ユーヤ「そうなるね!」
タケル「ええええええ!!」
驚きのあまり、素っ頓狂な声を出してしまった。
タケル「しかも俺ゾンビだったのか!?」
ユーヤ「心配するところそこなの!?」
的外れな俺の指摘にユーヤも困惑している。
タケル「だってさ、生き返るとか実感無くて」
タケル「大体・・・」
タケル「死人が蘇るなんてあり得るのか?」
ユーヤ「うーん、場合によるかなあ」
ユーヤ「タケルみたいに、一瞬の事故って感じのなら、できるよ!」
タケル「す、すげえ・・・」
どうやら、この世界の常識は俺の理解の範疇を超えているようだ。
タケル「やっぱり、信じられねえ・・・」
生き返ったなんて話、いきなりは納得できない。
タケル(これは夢なんじゃ・・・)
信じられず、俺は電車に轢かれたときのことを思い出す。
タケル「うっ──」
その瞬間が脳内にフラッシュバックする。
様々な人間の悲鳴。
速度を落とせずにぶつかってくる電車。
俺は吹き飛ばされて、全身を強く打ち付けた。
タケル「痛い痛い痛いっ!!」
文字通り、体が八つ裂きになるような痛みだった。
ユーヤ「だ、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込む女の子。
タケル「ああ、だいじょ・・・」
タケル「うわっ!?」
突然何者かに舐められる。
タケル「ちょ──」
驚いて振り向くと馬と目が合った。
「うわっ!?」
驚いて後ずさる。
イェンティ「ブルルルル・・・」
タケル「何だお前っ!?」
ユーヤ「イェンティ~!」
ユーヤ「大丈夫? 怪我とかない?」
イェンティ「ブォフ!」
タケル「ユーヤ・・・が連れてきてる馬か?」
タケル「なんだこいつ・・・」
タケル「って、お前脚何本あるんだ!?」
足下を見ると、第2関節あたりから、さらに脚が分かれていた。
タケル「キモッ、ムカデか!」
イェンティ「ヒュルルル・・・」
ユーヤ「こら! そんなこと言わないで!」
タケル「わ、悪かった・・・」
タケル「これも異世界の動物なのか?」
タケル「8本脚の馬なんて見たことない・・・」
ユーヤ「イェンティは、スレイプニルって種類のお馬さんだね」
ユーヤ「皆こんな見た目だけど・・・珍しかった?」
タケル「ああ、初めて見るな」
突然変異の馬かと思ったけれど、彼女の話では、よくいる種類らしい。
タケル「イェンティ、さっきはごめんな」
イェンティ「ブルルル・・・」
ユーヤ「いいよって言ってるよ~」
タケル「良かった~!」
タケル「俺はタケル。よろしく!」
イェンティ「ヒヒーン!!」
イェンティは満足げに嘶きをする。飼い主に似て優しい馬だ。
タケル「やっぱここ、元の世界じゃねえんだな」
ユーヤの魔法、氷を吐くオオカミ、8本脚の馬。
どれも俺の世界には存在しないものだった。
ユーヤ「まだ信じられない?」
タケル「そりゃあなあ・・・」
タケル「まっ、生きてるんだしいっか!」
タケル「わざわざ蘇らせてくれてサンキュなっ!」
ユーヤ「どういたしまして~、今度は命を大切にね!」
タケル「っと、そういえばユーヤはこれからどうするんだ?」
ユーヤ「えっと・・・スルトって怪物を倒しに行く途中だったの」
タケル「スルト・・・なんだそりゃ」
ユーヤ「すごく恐ろしい炎の巨人なの」
ユーヤ「村を襲われたら大変なことになるの」
ユーヤ「だから、私が倒しに行くんだ!」
タケル「そんなヤバイやつに1人で!?」
タケル「俺で良かったら、一緒に着いていっていい?」
俺が助けになるかは分からないが、彼女を放ってはおけない。
ユーヤ「えっ、でも危ないよ?」
タケル「命の恩人なんだから、何でもさせてくれって!」
ユーヤ「うーん、でも・・・」
タケル「というか、俺ここで放置されたら野垂れ死ぬぞ」
この土地のこと、俺は何も知らない。
宿無し、飯無しは厳しいものがある。
ユーヤ「ふふっ、それもそうだね~」
ユーヤ「じゃあ、タケルも一緒に来て!」
タケル「おうよ!」
こんなふうに、俺たちの旅は始まったのだった。
〇荒野
タケル「あっという間に夜が明けたな!」
ユーヤ「うん、この明るさなら大丈夫!」
ユーヤ「モンスターも襲って来ないよね、イェンティ♪」
イェンティ「ブルルンっ」
タケル「さっきの、フェンリル・・・だっけ?」
タケル「あいつみたいなのは、出てくるのは夜だけか?」
ユーヤ「うん、そうなの。モンスターは、日光に弱いんだ」
ユーヤ「だから、夜は気をつけないといけないんだよ〜」
タケル「分かった。そうする」
タケル「何か俺、手伝えることある?」
ユーヤ「うーん・・・あっ、そうだ!」
ユーヤ「狩りを手伝って欲しいな!」
ユーヤ「食糧、私の分しか無いから調達できれば!」
タケル「分かった! じゃあまたサポート頼むな」
ユーヤ「うん!」
イェンティ「ブルン!」
俺たちはそんな話をしながら、狩場まで移動したのだった。
〇森の中
俺たちは狩りをするために森に向かっていた。
タケル「ふー、歩いた歩いた!」
ユーヤ「そうだね〜!」
ユーヤ「この辺りに、草食動物とかいると思うよ〜」
タケル「ありがと! 隠れといたほうがいい?」
ユーヤ「そうだね、みんな警戒心強いし」
ユーヤ「私は魔法でトラップ作っていくね〜!」
タケル「おっけー! 適材適所、ってやつだな!」
ユーヤ「うん!」
ユーヤは、いろんな場所に立ち止まり、短い呪文を唱えていく。
タケル(ふぅ・・・刀の調子でも見ようかねぇ)
空中から出現した日本刀。こいつは消えることなく俺の手元に残っている。
タケル「全然刃こぼれしてない・・・すげぇや」
研いでみようかと、剣身を確認したが、その必要は無さそうだ。
そんなことをしている間に、ユーヤが帰ってきた。
タケル「お帰り〜、罠の設置終わった?」
ユーヤ「ただいま! うん、いろんなところに仕掛けてきたよ〜」
ユーヤ「タケルには引っかからないように、おまじないかけておくね♪」
そう言って、杖を掲げるユーヤ。
ぽうと優しい光に包まれる。
タケル「サンキュな!」
ユーヤ「どういたしまして〜、一緒に頑張ろうね!」
タケル「ああ・・・って、早速引っかかってるんじゃね!?」
ヘイズルーン「キィィィ!!」
トナカイのような動物が、ユーヤの作った罠に引っ掛かっていた。
ユーヤ「ほんとだ! あれはヘイズルーンだね」
ユーヤ「大人しい動物だよ! 私が行くね」
タケル「ほーい!」
ユーヤはゆっくりと、トナカイのような動物に近づいていく。
タケル「んっ・・・なんだあれ?」
ヘイズルーンの体から煙のようなものが、立ち昇っている。
タケル(これ、ヤバいんじゃ・・・)
本能が告げる。こいつはまともな生物ではないと。
タケル「ユーヤ! 離れろッ!」
ユーヤ「え?」
タケル「はッ!!」
俺は力の限り地面を蹴り、彼女を押し倒す。
ユーヤ「わっ!」
タケル「ご、ごめん! ケガとかない──?」
ユーヤ「うん! それより、あれ・・・」
震えながら、彼女が指を差したその先には・・・
すごく気になるラストのヒキですね、次話はバトル話が確定と言わんばかりのw 丁寧な異世界描写で、よりストーリーに没入してしまいます!