クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~

土井和人

第13話『夜のバス停で』(脚本)

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土井和人

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〇田舎のバス停
  海辺沿いの通り。
  時刻は0時を過ぎ、車も走っていない。
  古ぼけたバス停に、親子らしき女と少女が無言で座っていた。

〇川沿いの原っぱ
クララ「う〜ん」
クルル「ねえ、クララお姉ちゃん。 なんでそんなにあの親子が気になるの?」
クララ「だってあの親子、ずっとあそこに座ってるんだよ?」
クララ「さっき最終バスが来た時だって、乗らなかったし」
クルル「お金がないんだよ、きっと!」
クララ「だったらはじめから、バス停に座らないでしょ。しかもずっと俯いたままでさ」
クルル「おしゃべりくらいすればいいのにね〜」
クララ「そうなのよ! だから状況がわからないのよ!」
クララ「困ってることは確かだと思うんだけどさ」
クルル「じゃあ、おしゃべるように魔法かけてみようよ!」
クララ「なるほど! よし、私にまかせて!」
クララ「クララクララクラクララクラ〜! 親子で楽しく会話したくなれ〜!」

〇田舎のバス停
  クララが魔法の呪文を唱えると、女と少女は一瞬、不思議な光に包まれた。
  二人はハッと驚いて顔を上げる。
女「・・・大丈夫?」
少女「・・・・・・」
女「お腹空いてない?」
少女「・・・・・・」
女「喉かわいてない?」
少女「・・・・・・」
女「・・・ごめんね。 でも、私ね、お金持ってないの」

〇川沿いの原っぱ
クルル「ほら、やっぱりお金がないんだよ!」
クルル「よし、私が魔法でお家まで帰してあげる!」
クララ「待って! ひょっとして私の魔法・・・効いてない?」
クルル「え、でも今、おしゃべりしてたよ?」
クララ「だって私は『親子で楽しく会話したくなれ』って魔法かけたんだよ?」
クララ「全然、楽しい会話じゃないし、子どもは無言のままだし」
クルル「あ、ホントだ! じゃあたまたま、おしゃべりしただけってこと?」
クララ「たぶん。 でもなんで私の魔法が効いてないの!?」

〇田舎のバス停
女「お金ないって、言われてもだよね」
少女「・・・・・・」
女「私となんか、話したくないか。 そりゃそうだよね・・・」
少女「・・・・・・」
  その時、二人の姿を車のヘッドライトが照らした。
  ハッとする二人。通りかかった車が停車し、男が降りてきた。
男「どうしたんですか、こんな夜遅くに? もうバス終わっちゃったでしょ?」
女「あ、いや、その・・・」
男「困ってるなら、乗せてあげるけど?」
女「え・・・?」
男「どこまで行きたいの?」
女「・・・・・・」

〇川沿いの原っぱ
クルル「よかった〜、これであの親子、お家に帰れるね!」
クララ「いや。まだ安心するのは早いかも」
クルル「え?」
クララ「見て。あの親子、車に乗ろうとしない」

〇田舎のバス停
男「どうしたの? なんで黙ってるの?」
女「・・・・・・」
男「ちょっと、聞いてる? 乗せてあげるって言ってる──」
少女「大丈夫です!」
男「え?」
少女「お母さんとジョギングしてて、疲れて休憩してるだけなんで」
男「ジョギングって、こんな夜遅くに?」
少女「日課なんです。お母さん、私のために朝早くから夜遅くまで働いてくれてて」
少女「唯一、夜のジョギングが親子二人の時間なんです」
男「でも、0時過ぎてるし──」
少女「私、走るのが大好きで。 今度の運動会で1位とりたくて」
少女「お母さん、すっごく足が速いから、レッスンしてくれてるんです! ね、お母さん!」
女「え? ああ、うん」
少女「だから、ホント大丈夫です!」
男「・・・まあ、じゃあ、気をつけて」
少女「ありがとうございます!」
  男は車に乗って去っていった。

〇川沿いの原っぱ
クルル「な〜んだ! そういうことだったのか〜!」
クララ「いやいや、おかしいよ! だってあの親子、あそこに2時間近く座ってるんだよ!?」
クルル「すごく疲れてたんだよ。よし、お姉ちゃん、もう大丈夫そうだし行こ!」
クララ「待って! 何か話してる!」

〇田舎のバス停
女「なんであんな嘘ついたの?」
少女「・・・・・・」
女「私のこと、お母さんだなんて」
少女「・・・・・・」
女「なんで助けてくださいって言わなかったの?」
女「見ず知らずの私に連れ去られた。 なんでそう言わなかったの?」

〇川沿いの原っぱ
クララ「は・・・? あの二人、親子じゃないの・・・?」
クルル「え、お姉ちゃん、これってどういうこと?」
クララ「だから、つまりは・・・誘拐ってことじゃん!!」
クルル「え〜!? ど、どうしようお姉ちゃん!?」
クララ「どうしようって言われても!」
クルル「あ、警察の人を魔法で呼べばいいんじゃない!?」
クララ「待って! でも、なんで女の子はジョギングしてるなんて嘘ついたの!?」
クルル「きっと怖かったからだよ!」
クルル「ホントのこと言ったら、なにされるかわからないから!」
クララ「いや、でも──」
クルル「とにかく早く助けてあげないと!」
クルル「クルルクルルクルクルルクル〜! 警察の人! あの女の人を捕まえに来い〜!」

〇田舎のバス停
女「なんとか言いなさいよ」
少女「・・・・・・」
女「なんで、あんな嘘ついたの!?」
女「公園で遊んでたら、突然、見ず知らずの私に手を掴まれて、電車とかバスに乗せられて、ここまで連れて来られた!」
女「そう言えばよかったじゃない!」
少女「家に帰りたくなかったから!」
女「・・・え?」
少女「こんな夜遅くに家に帰ったら、お母さんに何されるか、わからないから」
女「・・・?」
少女「うちのお母さん。どうしようもない人で。仕事しないで、お酒ばっか飲んで」
少女「なんかあったら私を怒鳴って、叩かれて。家のことは全部、私におしつけて」
女「・・・・・・」
少女「だから突然、あなたに連れ去られて、ちょっと楽しかったんです。旅行みたいだなって」

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