クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~

土井和人

第14話『結婚詐欺』(脚本)

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土井和人

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〇レトロ喫茶
成美「ねえ、この席、覚えてる?」
隆一「・・・え?」
成美「私たちが初めて出会った席だよ」
隆一「・・・ああ、この席だったっけ?」
成美「もしも、あの時、ここのカフェが混んでなかったら相席することなんてなかったし、こうして付き合うこともなかったんだもんね」
隆一「・・・うん」
成美「隆一が『相席いいですか?』って声かけてるのに、私ボーッとしてて、全然、気づかなくてさ」
隆一「・・・・・・」
成美「あ・・・ごめんね。 そんな話する気分じゃ、ないよね・・・」
隆一「いや、こっちこそ、ごめん・・・」
成美「お母さんのことで、頭いっぱいだよね」
隆一「・・・・・・」
隆一「成美、俺を信じて欲しい・・・!」
成美「!」
隆一「俺は成美を愛してる! 結婚して、幸せにしたい!」
成美「隆一・・・!」
隆一「でもその前にどうしても母親を助けたいんだ」
隆一「そして元気になった母親に、俺たちの結婚式に出てほしいと思ってる!」
成美「私もそう思ってる」
隆一「だから、100万円貸してくれないか?」
成美「え・・・?」
隆一「あと100万円あれば、母親が手術できるんだ。この通りだ!」
隆一「なんとか貸してくれないか? がんばって働いて、必ず返すから!」

〇店の入口
クララ「やっぱり!」
クルル「ねえ、クララお姉ちゃん。 あの二人がどうしたの〜?」
クララ「実はあの男の人、別の場所でもお母さんの手術代が必要だって話をしてて」
クララ「だから私、お母さんを魔法で助けてあげようと思って、昨日の夜、男の人の後をつけていったの。そしたら──」

〇アパートのダイニング
隆一「ただいま」
母「おかえり、遅かったじゃない。 お母さん明日も仕事早いから寝るね」
隆一「はいはい、おやすみ」

〇店の入口
クルル「え〜!? じゃあお母さんが病気って嘘なの〜!?」
クララ「しかも今あそこにいるのは、昨日とは別の女の人」
クララ「つまりあの男の人は、結婚詐欺師なのよ!」
クルル「ひど〜い!」
クララ「でしょ! だから魔法で、あの女の人が騙されないように助けないと!」
クルル「あ、わかった! 私こうすればいいと思う!」
クララ「お、どうすればいいの?」
クルル「まあ見ててよ!」
クララ「ちょっと! 勝手なことしないで──」
クルル「クルルクルルクルクルルクル〜! 男の人よ、本当のことしか言えなくなれ〜!」

〇レトロ喫茶
成美「・・・わかった。 じゃあ今度会う時までに、お金用意するね」
隆一「あ、その話は、もう大丈夫だよ」
成美「・・・え?」
隆一「だってうちの母親、家でピンピンしてるから!」
成美「・・・もう、治ったってこと?」
隆一「違う違う! 元々、病気なんかしてないんだよ!」
成美「は・・・?」
隆一「嘘ついてたってこと!」
成美「さっきから、何を言ってるの、隆一・・・?」
隆一「あ、ごめん。隆一って名前も嘘なんだ! 俺の本当の名前は、吉田太郎!」
成美「はあ!?」

〇店の入口
クルル「やった〜! バッチリだね!」
クララ「何、勝手に魔法使ってるのよ!」
クルル「でも大成功だよ?」
クララ「たしかに騙されなくて済んだけど、女の人、混乱しちゃってるじゃない!」

〇レトロ喫茶
隆一「まあ突然、全部嘘だって言われてもだよね」
成美「・・・・・・」
隆一「でもこれが本当の俺だから!」
成美「・・・あ、わかった」
隆一「わかってくれた? よかったあ!」
成美「私に迷惑かけたくなくて、そんな嘘ついてるのね?」
隆一「え?」
成美「私は大丈夫だよ? 隆一を助けられるのなら、何でもするよ?」
隆一「待って。だから俺、隆一じゃなくて、吉田太郎だから」
成美「いいよ隆一、そんな嘘つかなくても」
隆一「嘘じゃないよ! そうだ、あと会社立ち上げて社長やってるって言ってたのも嘘だから。俺、無職だから!」
成美「気が動転してるんだね。 お母さんが大変なことになっちゃって」
隆一「成美、俺を信じて欲しい!」
成美「!」
隆一「俺は成美を愛していない! 結婚したくもないし、幸せにする気もない!」
成美「・・・・・・」

〇店の入口
クララ「たった数分前と、全く真逆のこと言ってるし!」
クララ「これじゃあ女の人、傷つくよ!」
クルル「でもどうして女の人、嘘だって気づかないのかな〜?」
クララ「展開がいきなりすぎるからでしょ!」
クララ「だから魔法は考えて使わなきゃダメなのよ!」

〇レトロ喫茶
隆一「はぁ。なんか本当のこと言ったら、すっきりしたよ」
隆一「じゃあ、俺、行こうかな。さよなら」
成美「分かってたから・・・」
隆一「え?」
成美「嘘だって。そんなの知ってたから」
隆一「え? 知ってたって、母親が病気じゃないってこと?」
成美「お母さんのことだけじゃない」
成美「偽名だってことも、仕事してないってことも、全部知ってたから!」
隆一「ちょっと待って。じゃあなんで──」
成美「それでもいいと思ったから!」
隆一「・・・は?」
成美「だって私、ずっと独りだったから!」
隆一「・・・?」
成美「家と会社を往復するだけの毎日で、趣味もないし、友達もいない・・・」
成美「何のために生きてるんだろうって、ずっと思ってた」
成美「そんな時に隆一と出会って。 運命だなって思った」
隆一「いやいや運命じゃないよ。 相席したのも、成美が地味な感じで、引っかかりやすそうだったからで」
成美「それでも私はうれしかった!」
成美「でも・・・ある日、偶然見てしまった。 隆一が他の女の人といるところを」
隆一「だから俺は隆一じゃないって」
成美「最後まで聞いて!」
成美「それで私、後をつけて行った」
成美「そしたら女の人と別れた後、タワマンに住んでるって言ってたのに、普通の民家に帰って行って」
成美「表札見たら、苗字も違うし」
成美「何かの間違いかなと思って、別の日にも何度か様子を見に行った」

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