コドモタチノテキ

はじめアキラ

第十五話「ナミダ」(脚本)

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〇体育館の裏
  「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
  校舎の中から、凄まじい絶叫が響いた。窓から飛び込んだ矢が、誰かに当たったらしい。
  しかもこの声。恐らく、逸見真友のもの。この角度からでは、教室の様子はわからない。
田無智(ボーガンの矢は多分一本じゃない!次を撃たれる前に、止めないと・・・・・・!)
  悲鳴を上げられるということは、少なくとも即死するような怪我はさせてないはず。と、信じたい。

〇木の上
  智は持ち前の身体能力で木を登ると、木の幹の上に座っている五月に飛びついた。
田無智「緒方、よせ!やめろっ!」
緒方五月「は、離せ!」
  彼女は突然現れた智に驚いている様子だった。全力で抵抗する少女から、必死でボーガンを奪い取ろうとする智。
田無智(くっそ・・・・・・!力なら俺の方が上のはずなのに・・・・・・!)
  火事場の馬鹿力というのは本当にあるのかもしれない。小柄な少女とは思えない、凄まじい力で抵抗される。
  彼女の指が、ボーガンの引き金を引いていた。バシュッ!と音を立てて矢が地面に突き刺さる。
緒方五月「あっ」
  しまった、と彼女の顔が固まった瞬間を智は見逃さなかった。ごめんと思いつつ、彼女の手首に手刀を振り下ろす。
緒方五月「あぐっ・・・・・・!」
田無智「璃王!」
  五月の手を離れたボーガンが木の下に落下していく。それをすぐさま走り寄ってきた璃王が拾った。
緒方五月「何でっ・・・・・・何で邪魔するの、田無君!」
  五月は凄まじい形相で、智を睨んだ。
緒方五月「あの女が何をしようとしてるか知ってる!?あいつは・・・・・・逸見真友はクラスを、自分の思い通りに支配しようとしてるの!」
緒方五月「そのためなら、人の一番大事にしてる場所を平気で踏み荒らすことも厭わない、最低の奴なの!」
緒方五月「あいつがいなくならない限り、このクラスは・・・・・・私の世界は変わらない!」
田無智「だから殺すってのか!」
緒方五月「そうだよ!それとも智君は、あんな奴に生きてる価値があるって本気で思うの!?」
  木の上でもみ合うのは想像以上に大変だった。
  五月はボーガンがなくなっても、死にもの狂いで抵抗してくる。振り落されないようにするのに智も必死だった。
  それに、やぶれかぶれになっているであろう五月が落ちないように気を付けるのも難しい。
  なんとか彼女を安全に木の下に降ろせればいいのだが、この状態ではなかなかそれも叶わない。
田無智「生きてる価値とか、そんな難しいこと俺にはわかんねーよ!」
  できることはただ。言葉で、彼女に訴えかけることだけだった。
田無智「でもな。それでも一個だけわかってることがあるんだ」
田無智「マジでお前が逸見のこと、生きてる価値がねえゴミ野郎だって思うなら・・・・・・」
田無智「そのゴミ野郎のために、お前が人生棒に振るのは矛盾してるだろ!」
緒方五月「――っ!」
田無智「小学生だろうとなんだろうと、人を殺したら一生人を殺したってレッテルが付きまとうんだぞ。お前それでいいのかよ!」
田無智「家族もみんなも巻き込むんだぞ!そりゃ、お前が自殺するよりマシな選択かもしんねーけど・・・・・・それでもだ!」
  自分は、璃王のように頭なんて良くない。
  雅のように要領も良くない。だから、気の利いた台詞なんてまったく言える自信はない。
  できることはただ、自分の思ったことを真正面から相手にぶつけることだけなのだ。
田無智「俺、馬鹿だから難しいことわかんねーよ!」
田無智「お前を下手に庇ったら変な誤解されるとか、余計メーワクかかるとか、いろいろ言われたけどやっぱりわかんねー!」
田無智「できるのはムカつくやつをぶっとばすことと、間違ってることは間違ってるって言うことだけだし!」
緒方五月「それが簡単にできるならっ・・・・・・」
田無智「ああわかってるよ緒方!簡単にできるなら誰も苦労しないよな」
田無智「でも、俺はそうしてたいんだよ。駄目なことは駄目って言える勇気を忘れたくない」
田無智「虐げられてる奴に見て見ぬふりもしたくない!」
田無智「なあ、俺が知ってるお前は・・・・・・そういう勇気を持ってる奴じゃねーのかよ!」
緒方五月「!!」
  五月の眼が、見開かれる。彼女の両手を掴んで、智はひたすら訴え続けた。
田無智「俺は馬鹿だけど、一個だけ誇れることがある。それは、すげー友達がたくさんいるってことだ」
田無智「俺が考えつかない名案も、そいつらなら考えてくれるかもしれねー」
田無智「だから、お前が助けて欲しいって言ってくれるなら、俺がそいつらに頼んでやる。お前を助ける方法を、一緒に考えてくれって言う!」
田無智「お、俺だって・・・・・・お前の話聞くくらいのことはできるんだからな!」
  辻本先生は、本気で五月を助けようとしてくれたのだろう。でも、その方法に自分達は賛同することはできない。だから此処にいる。
  自分達なりの正義を通すために、此処にいるのだ。
田無智「一人の声は小さくても、みんなで声を上げ続ければ何かは変わるはずだ」
田無智「校長室だろうが、逸見だろうが、あいつの親の家だろうが一緒に殴りこんでやるよ」
田無智「世界を変えるなら・・・・・・正面から堂々と、胸張れるやり方で変えやがれってんだ!」
  握りしめた五月の手が、震えていた。彼女の頬を、透明な雫が伝っていく。
緒方五月「・・・・・・田無君ってさ」
  震える声で、五月が言った。
緒方五月「私が、思ってたよりずっと・・・・・・ずっと馬鹿なんだね」
田無智「ど、どういう意味だよそれ」
  彼女は、もう暴れていなかった。そのまま暫く木の上で、声を殺して泣き続けたのである。

次のエピソード:第十六話「セカイ」

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