怪人のおんがえし

麻木香豆

怪人の恩返し(脚本)

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〇池袋西口公園
  これはとある昼下がりのこと
怪人ザック「かかってこい!ヨナオシジャー!」
ヨナオシジャーきつね「もう俺たちは弱くない!」
ヨナオシジャーたぬき「もう負けない!」
「僕らはあの頃の弱いヒーローじゃない!」
怪人ザック「ハーハッハッハ!」
怪人ザック「そんなこと言って、へっぽこなくせに!」
ヨナオシジャーたぬき「とりゃ!」
怪人ザック「痛っ!!!」
怪人ザック「な、なんだ今のは?!」
ヨナオシジャーきつね「とりゃっ!!!!」
怪人ザック「うわーーーー!!!!」
怪人ザック(な、なんだこいつら?!)
怪人ザック(いつの間にこんなに強く?!)
怪人ザック(だ、だめだ。必殺技が出せないっ)
怪人ザック(このままでは・・・・・・世界征服できずに・・・・・・し、し、死んでしまうっ!)
怪人ザック「はーはっはっは!」
ヨナオシジャーきつね「どうした?!怪人ザック!」
ヨナオシジャーたぬき「やられ過ぎておかしくなったのか?」
怪人ザック「今日のところはここまでだ!」
ヨナオシジャーきつね「えっ、ちょっ!最後の必殺技きめたいんだが!」
怪人ザック(やばっ、早く逃げないと!)
ヨナオシジャーたぬき「逃げる気だな!」
怪人ザック「に、逃げや・・・・・・」
怪人ザック「あばよっー!!!!!」
「待てー!!!怪人ザック!!」

〇けもの道
  怪人ザックはヨナオシジャーから命かながら逃げ出し森の中へ
怪人ザック「はぁ、ここまできたら、大丈夫だろ、はぁ・・・・・・」
怪人ザック「めっちゃ痛ぇ。養分が欲しい」
怪人ザック「養分があれば、回復してまたあいつらのいる公園へ・・・・・・いたたた」
「あのぉ」
怪人ザック「だ、誰だ?こんな森の奥に!」
菜穂子「あらー」
怪人ザック(お、女?!なぜここに?)
菜穂子「大丈夫?!」
怪人ザック「な、なにがだ?!」
怪人ザック(こいつ、俺が怖くないのか?!)
怪人ザック「それよりもなんでお主はここにいる!?」
菜穂子「いや、たまたま散歩してたから」
怪人ザック「さ、散歩?!」
菜穂子「そーなのよぉー。先日の妊婦健診でね」
菜穂子「体重減らせって言われたから歩いてたのー」
怪人ザック「妊婦さん?!」
怪人ザック「あ、おなか大きいな。確かに」
怪人ザック「1人で散歩か。日曜日に!?」
菜穂子「あ、そのね」
菜穂子「夫が私の友達に唆されて蒸発しちゃったの」
怪人ザック「唆された?!」
怪人ザック「蒸発?!」
菜穂子「声でかいんだけど!」
怪人ザック「す、すいません・・・・・・」
怪人ザック「じゃ、じゃなくて!!!」
菜穂子「私の1番の親友が夫を奪うなんて」
菜穂子「でもこのお腹の子は好きな人の子だから、守っていかなきゃ」
怪人ザック(これは深い悲しみ)
  そう、怪人ザックは人間の弱い心を養分として生きているのだ。
  人々の悲しい、マイナスの感情はたまればたまるほどパワーが強くなる
  それを利用して養分をザックの中に溜め込んで強くなっていくのである。
怪人ザック(こ、これはチャンス!)
怪人ザック(だがっ)
怪人ザック(彼女の養分を吸い取ってしまったらお腹の子は)
怪人ザック(い、いや!)
怪人ザック(今この怪我を治し、ヨナオシジャーを倒すためには養分が必要!!!)
怪人ザック(うぅ、傷が痛む!)
菜穂子「もう、さっきから大丈夫かって聞いてるでしょ?」
怪人ザック「こ、こんなのくらい!」
怪人ザック「うっ!」
菜穂子「ほら!もう。その傷見せて」
怪人ザック(ふん、傷を見たところでどうなるんだ)
怪人ザック(この手当てをしてくれているうちに!)
怪人ザック「な、なんだ?!」
怪人ザック「き、傷が治っている!」
菜穂子「少し深かったけど、もう大丈夫」
怪人ザック「お、おぬしはヒーラーか?!」
菜穂子「ヒーラー?ただ絆創膏を貼っただけよ」
怪人ザック「それにこんな容姿の俺様なのに怖くないのか?」
怪人ザック「お手当てしてる間に襲ってたかもしれないぞ!」
菜穂子「あら、襲おうとしてたの?!」
怪人ザック「いや、そうではないのだが」
菜穂子「弟が特撮好きで怪人は見慣れてたのよ。もっぱらヒーローの方が好きだけどさ」
怪人ザック「特撮?よくわからんがその弟とやらは?夫がいなくても家族は他にいるだろ?」
菜穂子「弟どころか5年前に家族は事故で死んだわ」
怪人ザック(こ、これはさらなる悲しみ!美味しい養分の素っ)
菜穂子「残された私には親友と夫しかいなかったのに」
怪人ザック(こ、これは更なる悲しみ!)
怪人ザック(養分!!!!)
菜穂子「泣いている場合じゃない。この子を守れるのは私しかいないわ」
怪人ザック(て、せっかく優しくしてくれたのに)
怪人ザック(な、なんとかしてやりたい!)
怪人ザック「そ、その。この傷を治してくれたお礼を・・・・・・したい、のだが・・・・・・」
菜穂子「お礼だなんてー」
菜穂子「別に私、たいしたことをして・・・・・・」
菜穂子「うっ・・・・・・!」
怪人ザック「どしたっ!」
菜穂子「じ、陣痛が!」
怪人ザック「陣痛!病院は?!」
菜穂子「どうしよう、まだ出産予定日まで二ヶ月なのに」
怪人ザック(まさかこのお手当のせいで?!)
菜穂子「ねぇ、今お願いしていいかしら」
怪人ザック「も、もちろん!!」
菜穂子「私を病院まで連れてって・・・・・・うっ、また!」
怪人ザック「大丈夫かっ!まかせろっ!病院だな!」
菜穂子「多分ここから30分。地図はこれよ」
怪人ザック(ふぅむ、ダッシュでは間に合わない)
怪人ザック(テレポーテーションだとせっかく回復したのにまた力を使うことになる!)
  テレポーテーションとは指定した場所まで一瞬にして移動する技であり、その際に養分を消費する
菜穂子「うううっ!」
怪人ザック(迷ってる場合じゃない!!!)
怪人ザック「よし、捕まってろ!」
菜穂子「え、あっ、はいっ!」
怪人ザック「テレポーテーション!」
菜穂子「えええええーっ!!!!!」

〇病院の入口
菜穂子「着いた!」
菜穂子「あ、ありがと!」
菜穂子「うっ!陣痛が・・・・・・」
菜穂子「病院の中まで・・・・・・あ、歩けない」
怪人ザック「ま、まじか!しっかりしろ!」
怪人ザック(また力を使うことに)
怪人ザック(でも!それはべつにいい!)
怪人ザック「捕まってろ!」
怪人ザック「ダッシュターボーーーーーーーーーーー!」
菜穂子「わぁああああ・・・・・・」
  ダッシュターボとは一定の距離を早い時間で駆け抜ける技である。こちらももちろん養分を消費する。

〇病院の診察室
産科医「さてさて、次の方ー」
怪人ザック「次はこの人だ!」
産科医「だ、だれだ!おまえは!」
菜穂子「せ、先生・・・・・・すいません」
菜穂子「陣痛が・・・・・・」
菜穂子「またっ!」
産科医「あなたはたしかまだ・・・・・・昨日検診に来たばかりですよね」
産科医「八ヶ月だから・・・・・・」
怪人ザック「早く、早く助けるんだ!」
産科医「あ、あんたはだれだ」
産科医「確かその人の夫は・・・・・・」
怪人ザック「わ、わしは・・・・・・その・・・・・・」
菜穂子「私をここまで運んでくれたんです」
産科医「そうか・・・・・・心配してたんだよ」
産科医「いい・・・・・・人? 人なのか?」
怪人ザック「・・・・・・一応、怪人だが・・・・・・」
怪人ザック「それよりも彼女を頼んだ!」
産科医「そ、そうだな。さぁそちらのベッドに」
菜穂子「あ、はい・・・・・・大丈夫かなぁ」
怪人ザック「・・・・・・あとはなにかして欲しいこととかあるか?」
菜穂子「う、うーん・・・・・・ここまで連れてきてくれただけでいいのに」
怪人ザック「いや、もっと何かしたいんだ!」
菜穂子「・・・・・・だったら」
怪人ザック「誰だ、この2人?」
菜穂子「夫と私の親友よ・・・・・・」
菜穂子「夫を見つけてここまで連れてきて!」
怪人ザック「えっ、今?!」
菜穂子「さっき瞬間移動もダッシュもできたから・・・・・・出来るのかなぁって・・・・・・」
菜穂子「うっ・・・・・・!」
怪人ザック「わ、わかった!できるぞ!」
菜穂子「えっ、冗談で言ったのに・・・・・・」
怪人ザック(ま、また・・・・・・力使っちまうがな・・・・・・)
怪人ザック(しょ、しょうがない・・・・・・)
怪人ザック「サーチ!!!!!」
  サーチとは、特定の人物や物や場所を見つけそこまでたどり着く技である。またもやこれも養分を消費する。
菜穂子「あらっ!すごい」
産科医「準備できた・・・・・・」
産科医「あれ、さっきの怪人さんは?」
菜穂子「多分戻ってきてくれると思いますけど・・・・・・」
菜穂子「また陣痛!・・・・・・ううう」

〇電器街
怪人ザック「ここか?」
怪人ザック「どこにいる・・・・・・?」
親友「ねぇー、今度あっちいこー」
夫「そうだね。あっちも行きたいなぁ」
怪人ザック「見つけたゾォおおおおお!」
夫「うわ、怖い!化け物だ!」
親友「やだ、こわーい・・・・・・何かのイベントの着ぐるみじゃない?」
怪人ザック「化け物でも着ぐるみでもないわ!」
怪人ザック「そこの女、人の男を奪いやがって!」
親友「奪ってなんかいないもん!・・・・・・だって!」
怪人ザック「言い訳するな!」
怪人ザック「お前のほうこそ・・・・・・人間に化けやがって!」
夫「えっ?」
親友「くそっ・・・・・・やはり同じ悪者同士、わかってしまうのか」
夫「えっ?悪者?どういうこと?」
怪人ザック「そいつは男たらしのマジャールだ!」
マジャール「・・・・・・はぁ、ザック。なにやってんのよ」
夫「えええっ!なに?なにこれ?」
怪人ザック「俺様の知り合いの悪者でな、怪人の俺様のように養分で強くなるのだが、こいつは男の欲望を養分として力をつけるんだ」
夫「そ、そんなぁ。もう僕ら出会って5年だろ?」
怪人ザック「この時の写真に比べてだいぶ痩せたな。5年前から関係を持っていたのか・・・・・・」
夫「い、いやぁ・・・・・・関係というか居酒屋で出会って友達になって。途中で彼女の友達に恋して・・・・・・結婚して・・・・・・」
マジャール「・・・・・・せっかくの私の養分が他人の女のものになってしまうなんて!」
夫「よ、養分?」
怪人ザック(養分吸われてたことわかってなかったな、こいつ)
夫「妻よりも気が利いて優しい子なんだけどなぁ・・・・・・そういうことだったのか」
怪人ザック(うわ、なんたること・・・・・・それよりも、マジャールをなんとかせねば!)
怪人ザック「だから彼をそそのかして逃亡したのか!彼女に子供がいるのに!」
夫「・・・・・・えっ!子供が!!!」
怪人ザック「し、知らなかったのか・・・・・・」
夫「・・・・・・僕はなんてことを!」
怪人ザック「泣くならしっかりしろ!今度父親になるんだぞ!」
怪人ザック「もうすぐ生まれる!今から行くぞ!」
夫「えっ、今から?!」
怪人ザック「テレポーテーション!」
マジャール「くそぉおおお!ザックめ!待てー!」
ヨナオシジャーたぬき「あ!マジャール!」
マジャール「あっ、ヨナオシジャー!」
ヨナオシジャーきつね「ちょうどよかったな!パワーは有り余ってる!」
マジャール「やめてーーーー!」

〇病院の廊下
怪人ザック「とう!」
怪人ザック「間に合ったか・・・・・・」
夫「・・・・・・す、すいません。てか妻にどんな顔して会えば・・・・・・」
怪人ザック「まぁ、少し気が緩んだと言っとけ。これから取り戻せ、信用を」
夫「・・・・・・は、はい」
怪人ザック「あと・・・・・・ちょっと写真の頃よりもだいぶ痩せてしまったからな・・・・・・」
夫「で、ですね・・・・・・」
怪人ザック(子育てには体力が必要だ・・・・・・心配だな)
怪人ザック(・・・・・・あの優しい女の人の好きな人なんだ。前のように戻してやろう)
怪人ザック(これが私の最後の恩返しだ・・・・・・)

〇病院の診察室
産科医「入院になるけどもしばらくは大丈夫だぞ」
菜穂子「先生、ありがとうございます・・・・・・」
菜穂子(怪人さんに無茶振りしちゃったかな)
菜穂子(もう私は1人、この子を育てるわ・・・・・・)
「菜穂子ちゃん!」
菜穂子「えっ・・・・・・この声は!」
夫「菜穂子ちゃーん、ごめんなさいっ!」
菜穂子「あ、あなた!」
夫「僕がいけなかったんだ!許してくれよ!」
菜穂子「・・・・・・て、ここまでどうやって?」
夫「な、なんか・・・・・・変な化け物・・・・・・なんか自分では怪人とか・・・・・・」
菜穂子「怪人さんっ!」
夫「・・・・・・菜穂子ちゃん?」
菜穂子「怪人さんはどこに?」
夫「なんか部屋の外のベンチに・・・・・・」
菜穂子「浮気者のあんたなんて信じられない!」
夫「えっ!?」
菜穂子「怪人さんっ!!!」
夫「菜穂子ちゃーん!」

〇病院の廊下
怪人ザック「・・・・・・」
菜穂子「怪人さん・・・・・・まさかもう・・・・・・」
菜穂子「息してない・・・・・・私が無茶振りしたばかりに」
菜穂子「もう私はあんなぐうたら浮気夫じゃなくてあなたと共に過ごしたい・・・・・・」
菜穂子「なんてね・・・・・・一目惚れしたあなたも失って辛いわ」
怪人ザック「・・・・・・!」
菜穂子「あっ・・・・・・怪人さん?!」
怪人ザック「その不幸 養分としていただきまーす!!!」
  おわり

コメント

  • やっと手に入れることができた不幸の養分が、自分に対する好意から生じた不幸だったのは、とても面白いラストでした。
    夫を奪った女の正体を見抜くくだりや、そこでヨナオシジャーを再び登場させて足止めをさせるシーンなどは繋がりを持たす展開としても見事でした。

  • 怪人ザックはいい奴ではないですか。何やってるんでしょうかヨナオシジャーは。それにしても妊婦さんはザックをうまい具合に使いましたね。

  • 最後がハッピーでこちらも嬉しくなりました。会話のテンポもよくて一気に最後まで読み進めさせて頂きました。心が繋がれると幸せですよね。

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