いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第5話「盗賊の宴」(脚本)

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〇森の中
  第5話
  「盗賊の宴」
???「あ? なんだ、おまえ?」
ローズ(この人たちのこの格好、この雰囲気 もしかして──盗賊!?)
ローズ(そうだわ・・・ お父様が言ってたじゃない!)
ローズ(森で一番危険なのは盗賊だって!)
ローズ(一人で森を歩くなんて思ってなかったから すっかり忘れてたけど・・・)
  どうやら私は、森を根城にしている盗賊たちの宴に迷い込んでしまったようだ。
ローズ(迂闊だったわ・・・!)
???「おい、なんとか言えよ!」
ローズ「ひぃっ!」
ローズ(こ、殺される!? 身ぐるみ剥がされる!?)
ローズ(それよりもっと酷い目に──!?)
???「ははは! ビビりすぎだろ、坊主」
ローズ「え?」
???「おまえみたいな小便臭いガキ、別に取って食いやしねぇよ」
???「金も持ってなさそうだしな」
???「道に迷ったんだろ?」
???「だったら今晩はここに泊まっていきな 夜に森をうろついてもいいことはねぇ」
???「おまえ、名前は?」
ローズ「え・・・ロー・・・」
ローズ(はっ!)
ローズ(な、名乗っていいの?)
ローズ(この人たちは盗賊だし・・・ 女だってバレたらいろいろと危ないんじゃ?)
ローズ(せっかく男の服も着せてもらったし・・・ うん、ここは男のフリで押し通そう)
ローズ「ぼ、僕はヴィクター」
  咄嗟(とっさ)に出てきた男の名前は、ヴィクターの名だった。
???「ふうん ヴィクター、おまえ腹減ってる?」
ローズ「え?」
???「これ食えよ」
  りんごを放り投げられる。
ローズ「あ、ありがとう」
ローズ(そういえば昨日から何も食べてなかったわ)
  よく見ると、りんごには少し泥がついていた。
ローズ(ちゃんと洗ってないのかしら? これを食べるのはちょっと抵抗あるけど・・・)
ローズ(背に腹は代えられない)
  私はマントで表面を拭い、りんごをかじった。
ローズ(!)
ローズ(おいしい・・・!)
???「うまいか? まだあるから好きなだけ食えよ」
ローズ「あ、ありがとう しばらく食べてなかったから助かるよ」
ローズ(この人たち、盗賊かと思ったけど・・・ 親切だし違うのかしら?)
???「俺はこの盗賊団の頭(かしら)のチェスターだ」
???「よろしくな」
ローズ(や、やっぱり盗賊ではあるのね!)
ローズ(でもこちらに危害を加える気はなさそうだし・・・)
  私は警戒しながらも、一晩彼らのキャンプのお世話になることになった。

〇空
ローズ(これだけ人がいれば猛獣も近づいてこないだろうし)
ローズ(追手もまさか盗賊団の中に私がいるなんて思わないわよね、きっと・・・)

〇空
  翌朝
  ドサッ

〇黒
「わ!?」
  何かが顔に降ってきた。

〇森の中
ローズ(な、何これ!?)
ローズ(布の塊・・・服かしら?)
チェスター「あっはっはっは!」
ローズ「チェスター!」
チェスター「やっと起きたか、ヴィクター」
ローズ「何だよこれ びっくりしたんだけど・・・」
ローズ「って・・・」
  私は振り落とした服の袖をつまみ上げる。
ローズ「ずいぶん汚れてるな? これ」
  よく見ると、どの服もみんな同じような汚れ具合だ。
チェスター「ああ おまえに洗わせようと思って持ってきたからな」
ローズ「は?」
チェスター「ヴィクター おまえ、しばらくここで働いてけよ」
ローズ「・・・え?」
チェスター「一宿一飯の礼だ うちじゃ誰もまともに生活の面倒見ねぇからな」
チェスター「身の回りの世話っつーの? そういうの全部おまえに任すわ」
ローズ「な、何言ってるんだよ! 急に言われても困るよ!」
ローズ「僕もいくところがあるし・・・」
チェスター「あ? 礼もせずにずらかろうってのか?」
ローズ「だ、だって昨日はそんなこと言ってなかっただろ?」
チェスター「タダとも言ってないぞ」
ローズ「そ、それは・・・ たしかにそうだけど」
チェスター「じゃ、まずはその汚ぇ服を洗っといてくれ」
チェスター「その次は食器な」
チェスター「あとで武器の手入れも教えるから 明日からはそれもよろしく」
チェスター「頼んだぜ!」
ローズ「ちょ、ちょっと!」
  勝手に言うだけ言って立ち去ろうとしたチェスターが、不意にこちらを振り返る。
チェスター「──逃げたらどうなるか わかってるだろうな?」
ローズ(殺気・・・!?)
チェスター「この森は俺たちの庭だ」
チェスター「おまえなんか一瞬で見つけ出して、身ぐるみ剥いで闇商人に売り飛ばしてやるから──」
チェスター「覚悟しておけよ?」
  チェスターはそう言うと、呆然とする私を残して今度こそ立ち去ってしまった。
ローズ(ま、まずいことになったわ・・・ これじゃヴィクターを探せない!)
ローズ(こんなことなら盗賊の世話になんかなるんじゃなかった・・・!)
盗賊団の男「よお、ヴィクター!」
盗賊団の男「おまえ、俺たちの下僕になったんだってな!」
ローズ「は、はあ!? 下僕!?」
盗賊団の男「その汚れ物・・・ まずは洗濯だな」
盗賊団の男「水辺はこっちだ ついてきな」

〇山中の川
  男につれられて水辺にやってきた私は、川沿いの石に腰を降ろした。
ローズ(はあ・・・)
  衣類を水に浸し、慣れない洗濯をはじめる。
ローズ(どうして私がこんなこと・・・)
ローズ(盗賊団の下僕になっちゃった・・・ってことは、しばらくあの人たちと一緒に暮らすってことよね?)
ローズ(はあ・・・憂鬱だわ 昨日の宴会、すごーく下品だったし・・・)
ローズ(裸踊りとか・・・ ああもう、思い出すだけで嫌だわ)
  深いため息を吐きながら、しばらくゴシゴシと汚れた衣類と格闘していると、
チェスター「よう」
ローズ「あ、チェスター ・・・何しにきたんだよ?」
チェスター「そんな嫌そうな顔すんなよ 逃げてないか様子見にきたんだよ」
チェスター「つーかおまえ、丸腰で森ん中歩いてきたのか?」
ローズ「そうだけど・・・」
チェスター「よくここまで無事だったなぁ 運のいいやつだ」
ローズ(盗賊に捕まってるのに運がいいわけないでしょ!)
チェスター「武器、分けてやろうか?」
ローズ「え?」
チェスター「いくとこあんだろ? そこまで丸腰ってんじゃ心もとねぇだろ」
ローズ「ま、まあ・・・ それはそうだけど」
チェスター「仕事終わったら俺んとここいよ」
チェスター「戦い方教えてやるから」
ローズ「えぇっ?」
  チェスターは言うだけ言うと、私の返事も聞かずに木立の中を引き返していく。
ローズ(な、何なの・・・?)
ローズ(親切にしておいて、また後で何か要求でもするつもり?)
  しかしいくら考えても、森の中に住んでいる変わり者の考えなんて、私にはわからなかった。
  第5話「盗賊の宴」終
  
  第6話に続く

次のエピソード:第6話「下僕の日々」

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