最果ての星TG86(脚本)
〇荒野
厚い分子の雲に覆われた最果ての星、TG86。
D1320「今日も収穫はなしか。この鉱山も掘りつくしてしまったし、これは参ったな・・・」
D906「風が強くなってきたわ、嵐が来そうよ。 そろそろ町へ戻りましょう」
D1320「手ぶらで帰るのは気が引ける。 もう少しだけ探索するよ」
D906「そう。私は先に帰るわね」
D1320「ああ。気を付けて帰れよ」
〇岩山
この星の資源と燃料はもうすぐ底をつく。ここで生きる生物はその日を生きていくだけで精一杯だ。
D1320「せめて息子が喜ぶような鉱物はないものか・・・」
D1320「・・・」
D1320「そういえば長老が言っていたな。 この星は近いうちに消えてなくなると」
D1320「最近、星を包むガスが宇宙空間へ流れ出している」
D1320「ガスが全てなくなると燃料切れでこの星は消えてなくなる」
D1320「我々に残された道は種の絶滅か、この星を脱出するかの二択しかないわけか・・・」
〇魔物の巣窟
D1320「ただいま」
D906「お帰りなさい。嵐は大丈夫だった?」
D1320「あぁ。どうにか避けられたよ」
D1486「パパ! お帰りなさい!」
D1320「ただいま」
D1320「お前の好物である轟石を探したが見つけられなかった。すまん」
D1320「でもほら」
D1486「わぁ! ロードン石だ!」
D906「あなた! ロードン石なんてどこで手に入れたの!?」
D1320「お前と別れたあと、禁忌の山へ登ったんだ。日が暮れかけていたから入り口までしか入れなかったがな」
D906「長老から立ち入りを禁止されている、あの鉱山へ入ったの!?」
D1320「これだけの食糧難だ。家族が生きていくためには禁忌だろうと仕方がないよ」
D1320「悪いが、このことは誰にも内緒にしておいてくれ」
D906「あなた・・・」
D1486「やったー! ロードン! ロードン!」
D1100「おや? ロードン石じゃないか。しかもこんなにたくさん。一体どこで手に入れたんだ?」
D1320「D1100・・・」
D1100「長老の息子である私には言えない事か?」
D1320「いや、そんなことは・・・」
D1100「ではこれをどこで手に入れたのか、教えてもらおうか」
D1300「おい! これロードン石じゃねぇか!?」
D1320「・・・ ここでは話せない。向こうの部屋で話そう」
D1100「わかった。では先に行ってるよ」
D1320「D1300! お前たち家族の分もたくさん採って来たからそんなにガッツくなよ!」
D1300「うおっ! まじでー!! お前ってほんといいやつだよな!」
〇薄暗い谷底
D1320「待たせてしまってすまないな」
D1100「たいして待ってないさ。 そんなことより早く教えてくれないかな」
D1100「このロードン石。どこで手に入れた?」
D1320「・・・長老には内緒にしてくれるか」
D1100「まさか! 禁忌の山に入ったのか?」
D1320「近辺の鉱山は穴だらけで資源はなに一つ残っていないんだ・・・」
D1100「だからといって禁忌の山に入るとはどういうつもりだ!」
D1320「じゃあどうしろって言うんだ! まだ食べ盛りの息子に我慢をさせろって言うのか!」
D1100「・・・」
D1100「D1486は我々種族の最後の子どもだったな」
D1100「気持ちはわかるが禁忌の山ともなればさすがに見逃せない。私と一緒に長老のもとへ行こう。悪いようにはしない」
D1320「・・・」
D1100「マンガン鉱石としては低品位だが、掘りつくしたはずのロードン石が大量に見つかったのだ」
D1100「長老への報告は避けられない。分かってくれるな?」
D1320「ああ、わかったよ・・・」
〇森の中の沼
D1100「長老。お休みのところ申し訳ありません。 ぜひ見ていただきたいものがございます」
長老「おぉ。D1100じゃないか。 よく来たな・・・」
長老「最近どうも神経が過敏でな。 ちょっと待っておれ」
〇森の中の沼
長老「これで少しは近くに寄れるだろう。 さて、見せたいものとはなんだ」
D1100「こちらになります」
長老「これは! ロードン石!!」
長老「一体どこでこれを・・・!」
D1100「見つけたのは私ではありません。 D1320です」
長老「D1320?」
D1320「お久しぶりです。長老。 お変わりなくお過ごしのご様子で安心しました」
長老「おお。D1320も来ていたのか。 息子のD1486は元気にしておるか」
D1320「はい。妻も息子もみな元気です。 これも長老が我々を守ってくださるおかげです」
長老「そうかそうか。D1486はわしが長老になって初めての子。元気でなによりだ」
長老「ところでD1320。 このロードン石はどこで手に入れたのだ」
D1320「はい。あの・・・、 申し訳ございません。禁忌の山に入りました」
長老「なに! あの山へ入ったのか!!」
D1320「も、申し訳ございません!」
D1100「長老。ここはどうか穏便に」
D1100「掘り起こされたはずのロードン石が見つかるとは稀有なこと」
D1100「禁忌を破ったD1320にはケジメとして鉱山の調査に出向させる予定です」
D1320(えっ!?)
D1100「ぜひ長老のご意向をお聞かせください」
長老「ふむ・・・」
長老「遥か昔、ある鉱山に未確認の飛行物体が不時着した。それが禁忌の山だ」
D1320「未確認の飛行物体!?」
D1100「そんな話、私は一度も・・・」
長老「ああ。誰にも言うとらんよ。 これは前長老の言いつけだったからな」
長老「あの鉱山はマンガン鉱ではない。にも関わらずロードン石が発掘されたのなら、あの飛行物体が原因かもしれん」
長老「おぬし等二人で禁忌の山へ入り、飛行物体を調査してみてはくれんか」
D1100「え! 私も、ですか?」
長老「もしかしたら資源不足の助け舟になるかもしれん。どうかこの星のために、わしの願いを聞いてほしい・・・」
「承知いたしました。長老」
長老「・・・」
〇森の中の沼
長老「・・・」
長老「魂の洗浄が行われたとて、カルマからは逃れられない我等は滅ぶべき種族だ」
長老「それはわかっておる。わかっておるが・・・」
長老「若者の未来を願わずにはいられない・・・」
〇岩山
D1100「ここへ来たのは久方ぶりだな」
D1100「この調査には星の命運がかかっている。気を引き締めていくぞ!」
D1320「ああ。もちろんだ!」
D1486「パパたち、ロードン石を取りに行くのかな?」
D1486「こっそりついていっちゃえ!」
〇洞窟の深部
D1100「深いな・・・。 ここまで来たのは初めてだ」
D1100「おい、大丈夫か?」
D1320「あ、ああ。大丈夫だ」
D1320「うわっ!」
D1100「おい! なにをしている!」
D1320「わ、悪い! 落ちてきた水滴に驚いて、つい!」
D1100「「威嚇」は外部の刺激から身を守るための能力だ。あまり過敏になりすぎると「威嚇」は威力を増す。気を付けろ!」
D1320「ああ、すまない・・・」
〇地下空間の戦艦
D1100「なんて霧だ。濃くて何も見えん」
D1100「ん!? なにかあるぞ!」
〇地下空間の戦艦
「これは・・・」
D1100「長老が言っていた飛行物体だな」
D1320「想像以上に大きいぞ!」
D1100「とりあえず中を調べてみよう」
〇コックピット
「これは・・・!」
D1320「こんな設備、見たことがない!」
D1320「あ! おい! 勝手に触っていいのか!?」
D1100「触れてみない事にはなにも分からんだろう。ん? これは・・・」
ポチッ
〇コックピット
D1100「なるほど。電源だったか」
D1100「なにを呑気に眺めている! 早く調査を始めろ!」
D1320「あ、ああ!」
ゴソゴソ、ゴソゴソ
D1320「怪しげなボタンだな。 とりあえず押してみるか」
ポチッ・・・
D1320「うわ! 地面が揺れている!」
D1100「貴様! 何をした!」
D1320「いや、俺にもわけがわからな・・・」
D1486「パパっ! 地面が揺れてるよ!」
D1320「D1486!? どうしてここに!!」
「うわーー!!!!」
〇黒背景
「いたたた・・・ 一体なにが起きたんだ・・・」
〇コックピット
D1320「おい! 2人とも大丈夫か!」
D1100「・・・ああ。私は大丈夫だ」
D1486「ビ、ビックリしたー!」
D1320「まだ揺れている・・・」
D1486「あ! パパっ! 外を見て!!」
〇宇宙空間
「・・・!」
D1320「まさか、宇宙へ飛び出した!?」
D1100「信じられん・・・」
D1486「僕、宇宙って知ってるよ! 遠い遠いお空のことだよね!」
D1320「お、おい! なんかあの星に近づいていないか?」
〇地球
「なんだ、あの青い星は・・・」
D1100「この船はあの星へと向かっているな」
D1320「まさか、最初からインプットされていたとか?」
D1100「その可能性は高い」
〇コックピット
D1100「2人とも、身体を丸めて身を守れ!」
D1100「着陸するぞー!!!」
〇コックピット
「ふーっ、どうにか着いたようだな」
D1100「おい。二人とも大丈夫か」
D1320「ああ。なんとか無事だ」
D1486「うん。僕も大丈夫!」
D1100「そうか。良かった」
D1320「ところでここは・・・」
D1486「ねぇ! 外をみて!」
〇荒廃したセンター街
〇コックピット
D1320「なんだここは・・・」
D1100「私たちの星とは景色がまったく違う・・・」
D1486「わー、楽しそう! ねぇねぇ、お外に出てもいい?」
D1320「おい! 待つんだD1486!」
D1100「! この匂い・・・ もしかして、この星は──」
〇荒廃したセンター街
D1486「わーい!」
「キャーッ! いやーっ!!」
「爆弾だ! 爆弾が出てきた!」
「爆発するの!? いやー!!」
D1486「うわっ、超音波!? 頭が痛い!」
D1320「こら! 勝手に外へ出るな!」
通行人「怪物! 怪物よー!!」
警官「住民の皆さま! 避難してください! 繰り返します! 今すぐ避難を!」
D1320「うっ! 超音波だ!」
D1320「くそ! 頭に響く!」
D1320「この小さな物体から発してるな・・・ これは機械? それとも生命体?」
自衛隊「くそっ! 街がめちゃくちゃだ!」
自衛隊「お前は一体何者だ! 地球へ来た目的はなんだ!」
D1100「2人とも早く戻れ!」
D1486「パパ! D1100さん!」
自衛隊「攻撃!? うわ―!!」
D1486「え・・・」
D1320「D、D1486・・・」
D1486「パ・・・、パ・・・」
D1320「D1486・・・! D1486!!」
自衛隊「あー、未確認飛行物体から爆弾のような球体とUMAが出現。球体が前進したため発砲」
自衛隊「UMAには発砲しておりません。引き続き対話を試みます。以上」
D1320「D1486・・・」
D1100「D1320何をしている! D1486を連れて早く戻るんだ!」
D1320「D1100・・・ 息子を攻撃した物体は生命体か? それとも機械か?」
D1100「・・・背面にコア反応はない。 詳しく調べてみないと分からないが、生命体である可能性は極めて低い」
D1320「そうか・・・」
D1320「・・・」
D1320「俺の息子に何するんだー!!」
自衛隊「ギャー!!」
D1100「おい! D1320! 落ち着け!!」
D1320「ぅぉお!!」
D1100「おい! やめろ!」
D1320「うわああ!!」
「ギャー!!」
D1100「船に戻れ! 星へ帰るぞ!」
研究員「くそっ! 一足遅かったか!」
研究員「研究所でキャッチした宇宙船からの発信コード。あれは罪を犯した魂の流れつく囚人の星、TG86のものだった」
研究員「しかしあの姿は一体・・・」
研究員「そういえば遥か昔、人間の魂と機械人形の融合実験が行われたという俄かには信じがたい話を聞いたことがあったな」
研究員「あの怪物、精神は人間かもしれない・・・」
研究員「こうしちゃいられない! 急いで博士に報告だ!」
〇コックピット
D1100「火薬で撃たれたのか・・・」
D1100「安心しろ。長老ならこれぐらいの傷はすぐに治せるさ」
D1320「良かった・・・! D1486、長老に会うまでの辛抱だ!」
D1486「うん・・・」
D1100「・・・」
D1100「あの星に降り立った時、マンガンの匂いがした」
D1100「匂いの濃さからして、あの星にはマンガン鉱山が大量にあるはずだ」
D1320「ほんとか!?」
D1100「もし発掘できれば我々はとんでもない宝の山を見つけたことになる」
D1100「マンガンを持ち帰ることができれば食糧難は解決だ」
D1100「しかし」
D1320「・・・食糧難を乗り越えても星は消滅寸前だから本当の問題解決にはならない」
D1100「・・・」
D1100「移住だ」
D1320「移住!? そんなことできるのか?」
D1100「幸いこの宇宙船はかなり大きい。五往復もすれば仲間全員運べるだろう」
D1320「であれば、息子を攻撃したあの物体は全て排除する必要があるな」
D1100「戻ったら長老に相談して移住計画を進めよう」
D1320「ああ!」
〇地球
攻撃する物体は全て排除し移住する。
そう決意した彼らは長老の指導により「威嚇」を自在に操れるようになった。
そして再びあの青い星へ降り立つことになる。種の生存のために──
意思疎通が図れない相手との衝突って、こういった悪意のない出来事からはじまるのかなと思いながら読んでいました。続編お願いします!
仮に囚人の魂だったとしても、子を守る主人公や生まれてきた最後の種である息子の純粋さに興味を惹かれました。
全てを知っていそうな長老の言葉も気になりました。
地球の存在を知ったからには異星人の襲来が始まるでしょう。果たして研究員の存在がどこまで地球の平和に貢献するのか。異星人との共存共生は実現するのか?