エピソード2(脚本)
〇住宅街
一件目
栄田英子(さかえだ えいこ)【20】
都内在住の大学生
5月25日、住宅街の裏路地にて殺害される
死亡推定時刻は22時30分頃
アルバイト先のカフェから自宅へ帰る途中だった
〇ビルの裏通り
二件目
日井美衣(にちい みえ)【22】
都内在住の会社員
6月19日、ビジネス街の裏路地にて殺害される
死亡推定時刻は22時頃
残業後、最寄駅へ向かう途中だった
〇レトロ喫茶
青井聖樹(あおい せいじゅ)「さっきの女の子が置いていった この漫画の絵、 二件目の殺害現場にそっくり過ぎるのよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「殺されてる女の子の顔も、服も鞄も 雨の中で滅多刺しにされて倒れてる姿も全部!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「現場を見た人間じゃなければ、 こんなの描けるはずがないわ!」
増田朔(ますだ はじめ)「いや待て。落ち着け 普通に偶然かもしれないだろう。 事件物のシチュエーションとしてはそんなに珍しいものでもないし」
原 玄(はら ひかる)「でもあの女の子、 大人しそうな見た目の割に リアル寄りのエグい絵を描くっスね ギャップがあって結構良いかも」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「何をバカなことを言ってるのよ、アンタは」
原 玄(はら ひかる)「あー、でも内容は割とありきたりっスね 殺人事件とそれを追いかける刑事の 男女コンビものって感じっすか」
原 玄(はら ひかる)「あ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「どうした?」
原 玄(はら ひかる)「この主役の刑事二人って、 何となく増田さんと青井さんに似てませんか?」
増田朔(ますだ はじめ)「言われてみれば確かに」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?私って実はこんな可愛いの?」
原 玄(はら ひかる)「そこはほら、漫画用にデフォルメしてるんでしょ。読者受けするように」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ぶっ殺すぞ、クソガキ」
増田朔(ますだ はじめ)「やるんなら店の外でやれよ」
原 玄(はら ひかる)「増田さんまで〜」
原 玄(はら ひかる)「つーか、俺っぽいキャラは居ないんすね。寂しいなあ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ザマァ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「じゃなくて、やっぱりあの子、事件について何か知ってるんじゃないかしら あまりにも絵面が事件に酷似しすぎてる」
増田朔(ますだ はじめ)「その考えは早計だと思うがな 何か知ってるのなら、漫画に起こすより先に警察に言うだろ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そこは・・・何か言えない事情があって、 漫画に描くことで世間に訴えようとしてるとか」
原 玄(はら ひかる)「それともまさか、 漫画のネタにするために自分でやったとか」
増田朔(ますだ はじめ)「そんな自白めいた行為をするバカがいるかよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「それにあの子、細身で背も低かったし、 犯人像からはかけ離れてるわ」
増田朔(ますだ はじめ)「犯人像はどんな感じなんだ?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「刃物の角度や力加減からして 長身の男性と思われます」
増田朔(ますだ はじめ)「そうか」
原 玄(はら ひかる)「因みに、漫画の内容は単純なストーカー殺人の話っすね うーん、もうちょっと捻りが欲しいなあ あと、主役のキャラが薄い」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「アンタ、普通に楽しんでるわね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そうだ、漫画の中では犯人はどんな奴なの? そいつに似た人間を探せばこっちの事件の犯人に繋がるかもしれない」
原 玄(はら ひかる)「いや、それが・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「?」
原 玄(はら ひかる)「犯人は黒いフードを被って仮面を付けた男なんすけど・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「黒いフードを被った男なら、防犯カメラに残ってた映像とも一致する!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「それで、顔は?」
原 玄(はら ひかる)「作中では仮面を付けたまま、 二人の刑事に追い詰められて ビルから飛び降りて死んで終わりっす」
原 玄(はら ひかる)「この犯人、自分の顔にコンプレックスを持ってる設定ですけど、 最後までどんな顔なのかは描かれずに終わってますね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「えー!?犯人の顔は分からないの?」
原 玄(はら ひかる)「敢えて、そういう狙いで作ったんでしょ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ならば、何としてでもあの女の子から直接話を聞くしかないわね」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、アレだ。 一旦この漫画のことは横に置いて、 まともに捜査をすることだな」
増田朔(ますだ はじめ)「確かに、漫画と事件との類似点が多いのは気になるが、今のところは参考程度にとどめておけ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「分かりました」
〇レトロ喫茶
増田朔(ますだ はじめ)「で、そもそもお前らは俺に何の相談に来たんだったか?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「はい。例の連続している刺殺事件について 増田さんの意見を聞きたくて」
原 玄(はら ひかる)「つーか、事件の相談って名目で増田さんに会いたかっ・・・」
原 玄(はら ひかる)「グボッ!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「実を言うと、長身の男性であること以外は犯人像が掴めてないんです」
増田朔(ますだ はじめ)「雨で物証も流れちまってるだろうしなあ」
増田朔(ますだ はじめ)「犯人は敢えて雨の日を狙ってやってるんだろうな。そこに成功体験があるから」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そうですね」
増田朔(ますだ はじめ)「滅多刺し案件となると、怨恨の線がありがちなんだが・・・ 二人とも人間関係のトラブルとかは無かったのか?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「はい。二人ともごく普通で真面目。 人当たりも良く、トラブルの話は一つも出てきませんでした」
増田朔(ますだ はじめ)「因みに、被害者の二人の共通点は?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「若い女性であること以外は何も。 全くの赤の他人で、共通の知人はおろか、接点の一つすらありません」
増田朔(ますだ はじめ)「そうか となると、通り魔的な犯行の可能性が高いな」
増田朔(ますだ はじめ)「ちょっと厄介だな 通り魔だとただでさえ追うのが難しいのに、 他県にでも逃げられたら目も当てられねえ」
増田朔(ますだ はじめ)「こういうやつは物証から辿るしかないんだが、雨で現場は流されてるし・・・」
原 玄(はら ひかる)「じゃあ、 もう一度現場付近を洗い直してみるっす」
増田朔(ますだ はじめ)「そうだな 雨であらかた流されてはいるが、 何か見落としてたものに気付くこともあるだろう」
増田朔(ますだ はじめ)「ただ・・・」
原 玄(はら ひかる)「ただ?」
増田朔(ますだ はじめ)「俺の、元刑事としての勘に過ぎないが・・・ この犯人、快楽殺人の臭いがするんだよな」
増田朔(ますだ はじめ)「だとしたら、被害者がこの2人以外にもっといても不思議じゃない」
原 玄(はら ひかる)「ええ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「いや、なんの確証も無い、ただの勘だから 気にしないでくれ」
原 玄(はら ひかる)「はあ・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ、もうこんな時間 そろそろ捜査に戻らないと・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「そうか。まあ、頑張れ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「相談を聞いてくれてありがとうございました」
増田朔(ますだ はじめ)「いや、大して役に立てなくて悪かった」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そんなことないです! あ、さっきの漫画の原稿、 コピー取らせて貰いますね」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ。まあ、本当は良くないんだろうが、 今回は仕方ないか」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「それから、さっきの女の子が この原稿を取りに来る可能性があるので、 もし来たらすぐに私に教えて下さい」
増田朔(ますだ はじめ)「分かった分かった」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「では、失礼します」
青井と原が立ち去る。
店内が一気に静かになった。
大人しいジャズの曲を聞き流しながら、
増田は次なるお客様の来店を待つ。
明日は調査仕事に出なければならないので、
できれば今日の内にある程度稼ぎたいと思っているようだが・・・
〇女性の部屋
22:10 藤本真の自宅アパート
藤本真(ふじもと まこと)(今日のバイトも疲れた)
藤本真(ふじもと まこと)(コンビニバイトって、仕事のしんどさと 時給が釣り合ってないと思う。絶対に)
藤本真(ふじもと まこと)(でも、今は何とかバイトで凌いで、 漫画家・・・とにかくイラスト関係の仕事に ありつけるように頑張らないと)
藤本真(ふじもと まこと)(とりあえず、明日、出版社に持ち込む原稿を用意して・・・)
藤本真(ふじもと まこと)「あれ?」
藤本真(ふじもと まこと)(原稿が無い!?どこかに置き忘れちゃったのかな)
藤本真(ふじもと まこと)(明日、大手の出版社の人に原稿を見てもらえる予定だったのに・・・どうしよう)
藤本真(ふじもと まこと)(いや待て。明日まで、まだ時間はある 他所で没をくらったやつを使い回すなんて 駄目に決まってる)
藤本真(ふじもと まこと)(よし、今から描き直そう 前の時にダメだった点を修正するチャンスだと思って)
藤本真(ふじもと まこと)(そうだなあ・・・犯人の心をもう少し深く掘り下げてみようかな)
藤本真(ふじもと まこと)(仮面を付けてたから、自分の顔にコンプレックスを持ってる設定にしてみたけど)
藤本真(ふじもと まこと)(今日持ち込んだ出版社の人からは、その設定の必然性が分からないって言われたんだよね)
藤本真(ふじもと まこと)(言われてみれば確かにそう。 仮面のことはさて置いて、 犯人が自分の好きな子を刺し殺す心理について、もっと・・・)
藤本真(ふじもと まこと)(もっと・・・)
〇SHIBUYA109
賑やかな表通り。
たくさんの人たちが思い思いに歩いている。
そんな中、突如として悲鳴が上がった。
恐怖に顔を引き攣らせた人達が、
方々へ走って逃げる。
見れば、フードを被り仮面で顔を隠した男が、包丁を振り回していた。
その包丁は血に塗れていた。
刺された人が倒れている。
4人か5人か、もっとか・・・
その一人が苦しそうにもがいていた。
20歳ぐらいの若い女性だった。
「痛い」「苦しい」「助けて」
血まみれになりながら、顔を苦痛に歪める。
その様を、ただじっと見つめることしかできなかった。
見つめながら、不思議な感覚が芽生えた。
その顔をもっと見たい。
血に塗れて苦痛に歪むその顔を。
もっと見せて。
もっともっともっともっと・・・!!
〇女性の部屋
藤本真(ふじもと まこと)「・・・!!」
藤本真(ふじもと まこと)(ちょっとうたた寝してたら嫌な夢を見た。 気分が悪い)
藤本真(ふじもと まこと)(でも、取り敢えずメモしておこう。 記憶が鮮明な内に)
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)(今の夢の内容、犯人の心理として使えるかな)
藤本真(ふじもと まこと)(よし、じゃあ徹夜で描くか)