第八話「セナの記憶」(脚本)
〇橋の上
気が付くと、俺は橋の上にいた。
確か、デフィジョンに掴まり、
一緒に橋から落ちたはずだったのに。
城井奏太「俺は、元の世界に帰って来たのか?」
???「奏太!」
制服姿のセナが駆けてきた。
セナが声をかけたのは俺ではなく、
後ろにいた、制服姿の”俺”だった。
城井奏太「わざわざこんなところに呼び出すなよ。 めんどくさいから」
神崎セナ「学校じゃ話しにくいことなの」
城井奏太(もしかしてこれ・・・ 中学生の、俺とセナ・・・? 俺は昔の記憶を夢で見ているのか)
城井奏太「まあ学校の連中に 彼女って思われるよりいっか」
神崎セナ「・・・またそういうこと言う」
城井奏太「え?」
神崎セナ「奏太、中学に入ってから変わったよね。 周りの目、気にするようになった」
城井奏太「別にそんなことねえよ」
神崎セナ「そういうのなんていうか知ってる? 思春期っていうんだよ」
城井奏太「あー、うっせえな。要件はなんだよ」
神崎セナ「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
城井奏太「俺はお前みたいに暇じゃないの」
神崎セナ「・・・もういい。帰る」
城井奏太「はあ? ちょっと待てよ」
立ち去ろうとするセナの鞄を、
昔の俺が手を伸ばして引っ張る。
その拍子に、セナの鞄についていた
星型のキーホルダーが外れて川に落ちた。
神崎セナ「あっ・・・!」
城井奏太「ごめん・・・。あれって、 お母さんからもらったお気に入りだろ?」
神崎セナ「そうだけど・・・いいよ、別に」
城井奏太「よくないだろ。取ってくる」
神崎セナ「いいって」
城井奏太「すぐ戻る!」
そう言うと、昔の俺は橋から飛び降りた。
ザボンという大きな音がして、
川に波紋が広がる。
神崎セナ「奏太!!」
セナが心配そうに川面を見つめる。
しばらくすると、川の中から昔の俺が
顔を出し、笑顔で右手を突き上げた。
城井奏太「見つけたぞ!」
神崎セナ「奏太の・・・バカ!」
城井奏太「え? あっ、ちょっと待てって」
俺は、
怒って立ち去るセナの後を追いかけた。
〇川沿いの道
俺の前を涙目のセナが歩く。
びしょ濡れの昔の俺が駆け付けてきた。
城井奏太「ほら。あったぞ!」
昔の俺は、星型のキーホルダーを
セナの前でくるくると回した。
神崎セナ「奏太のバカ! なんであんなことしたの!?」
城井奏太「へ?」
神崎セナ「急に飛び込んだりしたら、 びっくりするじゃない!」
城井奏太「いや、だけど早く拾わないと 見つけにくくなるかなって」
神崎セナ「・・・奏太に何かあったらどうするの?」
城井奏太「ごめん・・・ あっ、ていうかなんで呼び出したんだよ」
神崎セナ「それは・・・その・・・ 奏太に、渡したいもの、あったから」
城井奏太「渡したいもの?」
神崎セナ「もういい。一生あげない」
城井奏太「なんだよ、それ」
神崎セナ「でも、ほんとに心配したんだよ! 奏太がいなくなったら・・・」
城井奏太「なったら?」
神崎セナ「私・・・一人になっちゃう」
城井奏太「ハハハ。大げさだなぁ」
神崎セナ「大げさじゃない!」
城井奏太「?」
神崎セナ「中学でも・・・友達・・・できてないし」
そう言ってセナは俯いた。
昔の俺は、バツが悪そうに
頭をポリポリと掻いている。
気まずい沈黙が続く。
この時、俺はなんて言ったんだっけ?
城井奏太「・・・みんな知らないだけだろ。 セナの良いところや悪いところ」
神崎セナ「・・・・・・」
城井奏太「そのうちみんな気づくよ。 そしたらセナの周りには、 いつの間にかたくさんの人が集まってる」
神崎セナ「・・・奏太は?」
城井奏太「もちろん、俺も」
昔の俺はセナの手の平に、
星型のキーホルダーを置いた。
城井奏太「俺は、その・・・ いつもセナのそばにいるって言ったろ?」
神崎セナ「・・・・・・」
城井奏太「じゃ、俺は先に帰ってるから」
神崎セナ「ちょっと奏太!」
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