2.無力なママではいられない。その1(脚本)
〇児童養護施設
クロシカ「アルさん・・・出入り禁止の身で、 いったいなんのご用ですか?」
アルバス「そうツンケンしないでくれよ、ママ 用が済んだら、すぐに出てくからさ!」
アルバス「そこにいる、シタラママについて 聞きたいんだよ」
クロシカ「・・・どこにいるんですか?」
アルバス「どこって、すぐそばに──」
アルバス「あれ? ママ!?」
〇児童養護施設
シタラ(こっそり入っちゃったけど、大丈夫かな?)
シタラ(でも出入り禁止らしいし、これならあの人も追ってこれないよね)
シタラ(というか、出入り禁止っていったい なにをしたんだろ・・・)
そこのお前!
シタラ「ご、ごめんなさい!」
???「あ? なに謝ってんだよ?」
シタラ「・・・なんだ、子供か」
???「お前も子供だろ。変なやつだな・・・」
???「見ない顔だし、客か?」
???「俺、ヤラリシマってんだ リシマって呼んでくれよ!」
シタラ「えっと・・・私はシタラ、よろしくね」
ヤラリシマ「シタラ・・・それってあだ名か? 名前そのままなら、珍しいな・・・」
シタラ(そう言われても、 さっき思い出したばかりだし・・・)
ヤラリシマ「──そうだ、クロシカさん知らねえか? なかなか戻って来ないから、探してんだよ」
シタラ(クロシカ・・・さっきの女の人だよね?)
シタラ「その人なら、村の入口の方で──」
ママぁあああああ!
シタラ「え?」
アルバス「──ここにいたのか! 急にいなくなったら、心臓に悪いだろ!?」
シタラ「・・・あ、あなたは急に現れるから、 心臓に悪いんですよ!」
シタラ「そもそも、出入り禁止なのに入ってきて いいんですか!?」
アルバス「ママのためだからな。仕方がない」
シタラ(そうだった・・・! 常識の通じない変態なんだった・・・!)
ヤラリシマ「なんだ、見ない顔だと思ったけど、 アル兄ちゃんの連れかよ」
シタラ「な!? 私はこの人の連れなんかじゃ・・・」
アルバス「違うぜ。連れじゃなくてママだからな」
シタラ「ママでもないです!」
アルさーん!
アルバス「おっと・・・」
〇児童養護施設
クロシカ「──もう、アルさん! 出入り禁止だと言っているでしょう!?」
アルバス「わ、悪かったって、クロシカママ! シタラママが心配で、つい・・・」
クロシカ「心配って、まったく・・・ その子がシタラちゃんですか?」
アルバス「ああ、シタラママだ」
アルバス「近くで見つけたんだけど、 記憶がないらしくて・・・」
クロシカ「記憶が!? なんとかわいそうに・・・」
アルバス「一応確認しに来たんだが、 やっぱりここのママじゃないのか?」
クロシカ「そうですね、見たことのない子です」
シタラ「・・・あの、アルさん?」
アルバス「どうした、ママ?」
シタラ「ここに来たのって、私のためなんですか?」
アルバス「この辺で一番近い村がここだったからな 一応確認しとこうと思ってさ」
アルバス「けど、悪いなママ・・・ やっぱりここじゃなかったみたいだ」
アルバス「前に来た時も見かけなかったから、 ダメ元ではあったんだがな・・・」
シタラ「いやいや、謝ることないですよ!? すごくありがたいですから!」
シタラ(この人、変態だけど・・・ ちゃんと私のこと考えてくれてたんだ)
アルバス「騒がせて悪かったな、クロシカママ 俺もママも、すぐに出てくよ」
シタラ「・・・え? 私もですか!?」
クロシカ「待ってください、アルさん! シタラちゃんも連れていくつもりですか?」
アルバス「ああ、ママに協力するって約束したしな! 色んな所に行けば、故郷もわかるだろ」
アルバス「旅を通じて深まる親子の絆、楽しみだな!」
シタラ(私のことを考えてくれてる・・・けど、 明らかに私欲も混じってる!)
クロシカ「・・・あの、アルさん?」
クロシカ「シタラちゃんの記憶が戻ってから、 故郷に送り届ければいいのでは?」
シタラ「そう、それです! 旅はしなくていいですよね!?」
アルバス「え? じゃあ深まる親子の絆は?」
シタラ「無いものを深めようとしないでください」
アルバス「いや待て! 記憶が戻るまでって、 ママはどこで暮らすんだよ?」
シタラ「そ、それは・・・」
〇児童養護施設
ヤラリシマ「──ならさ、うちに住めばいいじゃん!」
シタラ「それは・・・でも・・・」
クロシカ「・・・リシマの言う通りですね」
クロシカ「記憶が戻るまで、村の一員として 迎え入れますよ」
シタラ「クロシカさん・・・!」
クロシカ「いいですよね? アルさん?」
アルバス「いやでも、俺と一緒にいた方が安全だぜ!?」
アルバス「世の中には、ママを連れ去ろうとする 悪い奴がいるんだぞ!」
シタラ「自己紹介ですか?」
ヤラリシマ「そんなに心配なら、アル兄ちゃんも 一緒に住めばいいじゃん!」
クロシカ「──リシマ、それはいけません」
ヤラリシマ「なんでだよ? クロシカさんだって、 アル兄ちゃんがいて助かってたろ?」
クロシカ「彼は”呪い”を集めるろくでなしです」
クロシカ「だから出入り禁止なんです 今だって、本当ならすぐにでも・・・」
ヤラリシマ「・・・もういいって 俺、先に戻ってるから」
クロシカ「・・・」
シタラ(呪い・・・?)
〇児童養護施設
クロシカ「──もう日が暮れてしまいますね」
クロシカ「とりあえず、シタラちゃんは 泊まっていくといいでしょう」
シタラ「は、はい。ありがとうござます!」
クロシカ「アルさん、あなたは・・・」
アルバス「わかってるよ、ママ 俺は出ていくから」
クロシカ「──ええ、あなたは出入り禁止ですから」
アルバス「ママ・・・離れていても、 親子の絆は繋がってるからな!」
シタラ「そんなもの繋がってませんから」
アルバス「なら繋ぐために、これを渡しておこう」
アルバス「使い方は──」
シタラ「ああ・・・ここがスイッチですよね? 大丈夫ですよ。たぶん使えますから」
アルバス「・・・なに?」
シタラ「記憶はないけど、物の使い方は わかるみたいなんです!」
アルバス「いや、そうじゃなくて・・・」
クロシカ「いつまで話すおつもりですか?」
アルバス「あー・・・話はまた明日だな」
アルバス「なにかあったら、それで呼んでくれ それじゃママたち、良い夢を!」
クロシカ「まったく・・・」
クロシカ「それじゃあ、行きましょうか──」
クロシカ「えっと・・・今更ですが、 呼び方は”シタラ”ちゃんであってますか?」
シタラ「はい! お世話になります」
クロシカ「よかった・・・ あ、私の自己紹介がまだでしたね」
クロシカ「私はクウロイシレイカ ”クロシカ”と呼んでください」
〇児童養護施設
〇暖炉のある小屋
シタラ(──今日一日、いろいろあったなぁ)
シタラ(一時はどうなるかと思ったけど、 なんとかなってよかった・・・)
「シタラちゃん、入ってもいいですか?」
シタラ「はい、どうぞ!」
クロシカ「──大丈夫ですか? なにか不便なことはない?」
シタラ「全然です! ご飯も食べて、 服も貸してもらえましたし!」
クロシカ「そう、よかった・・・」
クロシカ「記憶がなくて不安もあるでしょう なにかあれば、すぐに言ってくださいね」
シタラ(なにか・・・そういえば・・・)
シタラ「あの、アルさんのことなんですけど」
クロシカ「・・・それ以外で」
シタラ「ええ!?」
クロシカ「冗談、とも言えませんが・・・ アルさんがどうかしましたか?」
シタラ「どうして、出入り禁止なんですか?」
クロシカ「それは・・・」
シタラ「あの人、かなり変なので それが原因と思ってたんですけど──」
〇児童養護施設
ヤラリシマ「そんなに心配なら、アル兄ちゃんも 一緒に住めばいいじゃん!」
ヤラリシマ「クロシカさんだって、 アル兄ちゃんがいて助かってたろ?」
〇暖炉のある小屋
シタラ「──アルさんが嫌われてるわけじゃ なさそうでしたから」
クロシカ「・・・確かに、彼の態度が原因では ありません」
クロシカ「まあ、問題がないわけではないですが」
シタラ(それはそうだと思う)
クロシカ「ただ、良い人だとは思います 以前滞在されていた時のことです──」
クロシカ「彼は子供の世話や、村の手伝いを 積極的にしてくれていました」
クロシカ「大人や男手の足りない場所ですから、 とても助かっていたんです」
クロシカ「・・・だからこそ、信じたくなかった」
クロシカ「アルさんが”呪い”を集めているなんて」
シタラ「昼間にも言ってましたけど、呪いって?」
クロシカ「あっ・・・シタラちゃんは、 忘れているのかもしれませんね」
クロシカ「せっかくですし、お話しましょうか」
クロシカ「もしかしたら、なにか思い出すきっかけに なるかもしれませんし・・・」
シタラ「なんの話ですか?」
クロシカ「昔から伝わる”呪い”のこと・・・」
クロシカ「今でいう”スポット”や”降物”のことです」
ママでは無い男児に対しても紳士的な態度、行いを取るタイプの主人公の様でタイヘン好感を持てました。
彼の今後の活躍にますます期待致します。