第三話 田舎温泉の女神、東京を逃げ回る(脚本)
〇東京全景
俺は東京中を駆けまわった。
食べた者を『温泉ラヴァー』と呼ばれる依存症に変えてしまう悪魔の如きうどん──
温泉うどんをばらまく、とんでもない女神を止めるために。
だが・・・。
神谷竜司「くっ、もう・・・ここもダメか!」
〇ビジネス街
品川の高層ビル街のど真ん中には、渋谷と同様に間欠泉が出現していた。
その周囲では、先ほどまで真面目に働いていたであろう人々が、温泉の湯を浴びながら温泉うどんを食べていた。
女性「ああ・・・温泉とうどんがあれば仕事なんてしなくていいわ。ずるずる・・・」
男性「もう仕事なんかしない! 今日は温泉記念日だ! ずるずる・・・」
ダメだ・・・都内有数のビジネス街で働く人々が虚ろな目で温泉を賛美しながら、恍惚とした表情を浮かべている。
ここまでにミコトを探すために立ち寄った新宿や池袋もすでに似たような様相だった。
このままでは東京がうどんと温泉に汚染されるのも時間の問題だ。
ミコト「さー、うどんはまだまだあるわよ! 食べて食べて!」
神谷竜司「っ! 見つけた!」
〇うどん屋台
会社員A「うどん、もっと温泉うどんをくれぇぇ・・・!」
ミコト「あら、お客さんさっきも来てくれたよね? 大盛サービスしてあげる!」
会社員B「ありがてぇ・・・ありがてぇ・・・」
ヤバめの顔でうどんの茹で上がりを待っているのは、渋谷でうどんを食べていた会社員たちだ。
まさかとは思うが、ミコトの屋台についてきたのか?
あいつが東京を縦断している間、ずっと・・・?
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。ミコトを止めないと!
神谷竜司「ミコト!」
ミコト「えっ、竜司!? ついてきたの!?」
神谷竜司「頼む! 竜宮温泉へいっしょに帰ってくれ!」
ミコト「嫌よ! もっともっと、温泉うどんの凄さを見せつけてやるんだから!」
神谷竜司「お願いだからこれ以上東京を混乱させないでくれ! このままじゃ・・・」
ミコト「ふん、そば派のアンタに温泉うどんの実力をもっともっと見せてやるんだから。 それまでは絶対に帰らないわよ!」
そう言ってミコトは屋台とともに再び走り始めた!
神谷竜司「あっ、待て!」
俺は急いでミコトのあとを追いかける。
会社員A「あっ、お、俺の大盛りうどん!」
会社員B「追いかけるぞ!」
〇東京全景
ミコト「ふんっ!」
ゴゴゴッ!
〇川沿いの公園
──汐留
港区のオシャレなデートスポットに女神の鉄拳が突き刺さり、そこから噴き出した間欠泉がカジュアルな街並みを彩った。
ミコト「さぁ、うどんの時間よ! 食べて食べて!!」
カップルの女「ああ、おいしい・・・!」
カップルの男「君と同じくらい、温泉は素敵だ!」
会社員B「ああ、何杯でも食べられるよ・・・」
カップルの女「あんた、誰よ!?」
ミコト「さぁ、まだまだあるわよ!」
神谷竜司「まてぇぇっ!」
ミコト「もう追いかけてきたの!?」
〇東京全景
ミコト「ふんっ、ふんっ!」
ゴゴゴゴゴッ!
〇お台場
──お台場海浜公園
都会的な風景と海が人気の定番デートスポット。が、なんということでしょう。
女神の力で砂浜から温泉が噴き出し、まるで熱海のような温泉街に!
ミコト「海辺のデートでは、温泉浴びてうどんを食べるのが流行りよ!」
神谷竜司「そんなわけあるか!」
ミコト「んもう、しつこい!」
〇東京全景
ミコト「もう! ついてこないでよーっ!」
神谷竜司「そっちこそ、止まって話を聞け!!」
その後もミコトは、銀座、六本木、日比谷──東京のあちこちに温泉を噴き出させながら、屋台を引いて逃げ回った。
そして・・・。
〇築地市場
──築地、路地裏
ミコト「ぜぇ、ぜぇ・・・もう! 本当にしつこいんだから!」
神谷竜司「だって、話を聞いてくれないから・・・だろう・・・ぜぇ、はぁ・・・」
ようやく、ミコトを追い詰めることに成功したようだ。
もっとも、俺もミコトも疲れ切って息は絶え絶えだが。
ミコト「だいたい、何が悪いのよ」
神谷竜司「なにが」
ミコト「私はね、だらしない湯守のアンタに代わって、温泉を好きになってもらえるようにがんばってるの!」
神谷竜司「え・・・」
ミコト「いい? 東京のみんなが温泉うどんを食べて、温泉を好きになれば・・・」
ミコト「さびれた竜宮温泉にだって来てくれるはずよ」
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