大学2年の怪人自殺旅行

コーヒークマ

大学2年の怪人自殺旅行(脚本)

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〇車内
田中 誠人「カフカって作品あんじゃん?」
佐藤 淳也「カフカってなんだよ。カフカの『変身』のことか?」
田中 誠人「そうそうそれよ。なんか今の俺たちに似てね」
  彼ら二人は車で旅をしていた。遠くの温泉街まで向かうのだ。
佐藤 淳也「たしかに、こんなことになるとはね」
  二人は大罪を犯していた。その罪により二人は怪人へと姿を変えたのだ
佐藤 淳也「まあ、ありがたいことに他の人には普通の人に見えるみたいだし」
田中 誠人「だなー」
  佐藤の運転で高速を走る。温泉はもうすぐだった。
佐藤 淳也「パーキング寄るか?」
田中 誠人「いや、いいよ」
  佐藤は田中の言葉にひっそりと眉をひそめる。佐藤が運転手であるため、疲れが溜まっており、休憩したかったのだ。
  空気が読めない田中に苛立ちながら佐藤は少し強めにアクセルを踏んで加速した。

〇温泉旅館
  二人は温泉宿にたどり着く。今日はここで一泊するのだ。
佐藤 淳也「さっさとチェックインしよう」
田中 誠人「だな」
  二人は宿の中へと入っていった。

〇広い和室
田中 誠人「広くね」
佐藤 淳也「いただろ。それにここしか取れなかったんだ。せっかくだし贅沢しよう」
田中 誠人「だな。飯の前に風呂に行くか?」
佐藤 淳也「そうだな」
田中 誠人「それにしてもやばかったよな」
  佐藤は田中の曖昧な言葉に内心イラついた。
佐藤 淳也「やばいって何が?」
田中 誠人「こんな体になったことも。やっちまったことも。ここに泊まりに来ているのも全部さ」
佐藤 淳也「ああ」
  それはそうだと佐藤は思った。自分達は死なないほど頑丈な怪人になった。それは何度も試したから分かる。
佐藤 淳也「でも、今までと変わんねーよ」
  佐藤はそう嘘ぶいた。

〇露天風呂
田中 誠人「おー豪華。てか、お前服脱いでなくね」
佐藤 淳也「これ、体の模様だから。お前以外には裸に見えてるよ」
田中 誠人「そっか」
  二人は温泉に浸かる。
田中 誠人「溺死って試したんだっけ」
佐藤 淳也「家の風呂で試した」
田中 誠人「そっか」
  二人はしばし無言でお湯を楽しんだ。
田中 誠人「飯、何かな」
佐藤 淳也「釜飯と刺身と鍋と・・・。たしかそんなの」
田中 誠人「腹減ったなー。そう言えばさ」
  少し田中が言い淀む。
田中 誠人「餓死は試したの?」
佐藤 淳也「試してないな。まじ苦しそうだし」
田中 誠人「ふーん。そっか」

〇広い和室
  二人の部屋に食事が運ばれてくる。
田中 誠人「なんか上品な味」
佐藤 淳也「田中はさ。こういう所よく来るのか?」
田中 誠人「いやー。小さな頃の親戚の集まりぐらいかな。そういうのも嫌になって高校生ぐらいからは参加してねーけど」
佐藤 淳也「そうか」
  佐藤は茶碗蒸しを掬う。佐藤はあまりこういう所に来たことがなかった。
  親戚の集まりは10人ほどが8畳程度の部屋に集まって祖母の煮物をつつく程度しかなかった。
佐藤 淳也「この茶碗蒸し美味いよ」
  佐藤は噛まずに飲み込んでそう言った。

〇広い和室
  二人は食事の後に再び温泉に浸かった。その後部屋に戻って来ると布団が引いてあったのでそのまま就寝した。
田中 誠人「なー」
佐藤 淳也「ん?」
田中 誠人「俺とお前が先輩殺したのって、やっぱり不味いよな」
佐藤 淳也「そりゃまーな」
田中 誠人「やっぱり大学は退学かな」
佐藤 淳也「それどころじゃねーだろ」
佐藤 淳也「無期懲役か死刑か、どっちかじゃね」
  二人は大学の先輩を殺してすぐに旅に出たのだった。
田中 誠人「今頃捜査とかしてんだろーな」
佐藤 淳也「だろうな」
田中 誠人「そんでこんな怪人になっちまって」
佐藤 淳也「でも、怪人になったおかげで絞首刑でも生き残るかもしれないぞ」
田中 誠人「あー。まーな」
田中 誠人「でもさ、先輩も悪いよな。俺の好きな子を酔い潰して持ち帰ろうとしたんだぜ」
佐藤 淳也「つーか。その場でヤろうしてたよな」
田中 誠人「そうそう」
佐藤 淳也「そんでお前がキレて殴りかかって、先輩に返り討ちにされて、俺が先輩の頭に椅子振り下ろして・・・・・・」
田中 誠人「大丈夫か!?」
佐藤 淳也「・・・大丈夫」
  「死にてーな」二人のどちらかが天井に向かって呟いた。

〇広い和室
  朝、テレビをつければ殺人事件の報道。田中の布団は畳まれていた。
  外か? 田中のスニーカーもない。佐藤もスニーカーを履くと外に出た。

〇断崖絶壁
  旅館の外には崖があった。昨夜、雨が降ったのか地面がぬかるんでいる。旅館から足跡が一直線に崖の淵まで続いていた。
佐藤 淳也「ああ・・・」

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コメント

  • 「特撮」に引っ張られてヒーローを思い描くライターが多い中、この作品の発想に強く惹かれました。
    本来、怪人は人の中にあるものですし、そう捉えたとき、これほどのストーリーが生まれる。ラストの淡々とした命日の語りも、まさしくカフカの不条理をほうふつとさせます。

  • 現実と夢のはざまと、日常と非日常が絡み合っていて、最後に収束する筆力は見事です。
    こういう溶け合いは、本人たちにとっては頭の中がぐちゃっとしてるんですよね。
    それでも最終的には現実を見た彼らは立派です。

  • 現実世界にも怪人というのはいる、ただそれは私たちが想像するような怪人らしい外見ではないのかもしれませんね。人を殺めてしまう、なにか悪夢のような行いをしたならば、人間であっても怪人と言えるのでしょう。

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