第七話 先輩(1)(脚本)
〇お嬢様学校
清廉女子高等学校──
〇古い図書室
西棟二階にある図書室。
その片隅で、倫子は昼食をとっていた。
柏木倫子(やはり一人は落ちつく)
柏木倫子(三方を本棚に囲まれた空間は、ちょっとした個室感があって心地良い)
木村香織「柏木さん」
柏木倫子(クラスメイトの木村香織・・・)
柏木倫子「なに?」
木村香織「柏木さん、実はお願いがあるんだけど」
柏木倫子(お願い? 宿題を見せてほしいとか? それとも教師から用事を頼まれてその手伝いか?)
柏木倫子(貴重な昼休みを潰して今から? それとも放課後に居残りで?)
柏木倫子「どんなこと?」
木村香織「あたしの中学の先輩のことなんだけど。1コ上で、市清の二年生」
木村香織「変わった病気で、もう一週間くらい学校も休んでて」
木村香織「柏木さんなら、もしかしたら治せるかと思って」
柏木倫子「わたしは医者ではないわよ」
木村香織「柏木さんには、綾音を助けてもらった不思議な力があるでしょ」
柏木倫子「それで?」
木村香織「その先輩、もしかしたら呪いをかけられてるかも」
〇駅前広場
放課後。
清廉中央駅からバスに乗り──
〇バスの中
件の先輩の入院先にむかう。
〇大学病院
着いた先は、市街地に建つ巨大な総合病院。
〇大きい病院の廊下
木村香織「隅田先輩、香織です」
〇病室
木村香織「話してた子を連れてきました」
隅田朝美「ありがとう、香織」
朝美はベッドで布団をかぶり、ぐったりと横たわっている。
〇学校の体育館
高校では、女子バスケ部の副キャプテンをつとめるほど活動的で人望もあるらしいが──
〇病室
今の疲弊しきった姿からは想像もできない。
柏木倫子「説明は木村さんから聞いてるわ。上を脱いで見せてちょうだい」
隅田朝美「・・・・・・」
木村香織「先輩、大丈夫ですから」
朝美は上半身を露わにすると、背中をこちらにむける。
柏木倫子「ほう・・・!」
背中に、巨大な瘤ができている。
隅田朝美「良性の皮下腫瘍らしいけど、大きくなるスピードが異常だって」
隅田朝美「まだ小さいうちに二回切除したけど、すぐに新しいのができて」
隅田朝美「お医者さんにも原因はわからないって・・・」
柏木倫子(正直半信半疑だったけど、これは本物かも)
柏木倫子「動かないで」
倫子は腫瘍に右の掌をかざし、魔力でさぐってみる。
柏木倫子「・・・!!」
世にもおぞましい、強烈なイメージが脳裏に飛び込んでくる。
柏木倫子(これは・・・腐った獣の死骸?)
柏木倫子(いや、すさまじく醜い最下級の悪魔が腫瘍の中に宿ってるんだ!)
柏木倫子(なんてすごい呪いの魔法なの・・・!!)
木村香織「柏木さん、どう?」
柏木倫子「これは、呪いね」
木村香織「ほんとに?」
柏木倫子「ええ、まちがいないわ」
柏木倫子「中身は?」
隅田朝美「え?」
柏木倫子「腫瘍の中身は?」
隅田朝美「それは・・・スキャンで見てもらったけど、ただの水分とか脂肪・・・」
柏木倫子(最新の医療機器を惑わすほどの巧妙さも兼ね備えているのか・・・!)
柏木倫子(醜い悪魔は、まだ胎児の段階のように見える)
柏木倫子(これが成長を遂げた暁には──)
柏木倫子(おそらく隅田朝美は、命を落とすことになるだろう)
柏木倫子(それにしても、こんな見事な呪いを仕掛けたのは、いったいどこの何者なんだろう?)
柏木倫子「脅迫状が来てるんでしょう? 見せてちょうだい」
隅田朝美「もう服は着ていい?」
柏木倫子「ええ、脅迫状を」
隅田朝美「これが届いた次の日くらいから、症状が出はじめて・・・」
柏木倫子(差出人名はないけど、ちゃんと〝隅田朝美様〟と宛名書きされてる。切手も貼ってあるわ)
倫子は、中に入っている便箋を取り出す
柏木倫子(この短い文面からは、送り主の卑しく幼稚な精神性しか伝わってこない)
木村香織「鹿島さんていうのが、先輩の彼氏さんなんだけど」
柏木倫子「脅迫状の主に心当たりは?」
隅田朝美「鹿島くんはバレー部のエースで、女子にすごく人気があって」
隅田朝美「ファンの子はいっぱいいたんだけど、一人すごく熱心な子がいて」
隅田朝美「となりのクラスの小柴加奈恵(こしばかなえ)っていう」
隅田朝美「友達に頼んで、この手紙の筆跡を日誌からさがしてもらったんだけど、その小柴っていう子でまちがいないって」
隅田朝美「まだ本人には確認してないみたいだけど」
柏木倫子(ずいぶんと脇が甘いな。いや、その辺の女子高生ならこんなものか)
柏木倫子(この嫉妬深く迂闊な女子が、これほどの呪いを仕掛けたとは考えにくい。ということは──)
木村香織「柏木さん、先輩のこと治せそう?」
柏木倫子(今すぐここでは判断できないわね)
柏木倫子「呪いを解くには儀式が必要なの。でも準備には少しかかるかもしれないわ」
〇古いアパート
〇怪しい部屋
柏木倫子「どう思う?」
サンドル「そのたぐいの呪いは同業者の仕業だ」
サンドル「おそらく倫子より力があるだろうな」
柏木倫子「やっぱり」
柏木倫子「〈呪いの代行〉をしてるのね。脅迫状の女子が依頼人で」
サンドル「それで稼いでるんだ。典型的な魔女の生業だ」
柏木倫子「それで、わたしにこの呪いが解けるかしら?」
柏木倫子「この〈解呪〉の魔法で」
サンドル「よほどヘマしないかぎり大丈夫だ」
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