カラスが笑った

綿崎 リョウ

出会い(脚本)

カラスが笑った

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〇ショッピングモールの一階
  ────♪
  周囲に響く、私が弾くピアノの音
子ども「ママ―、ピアノー」
  子どもに見られているけど、微妙な表情。あんまり上手くない、なんて思われているのかな。
  私の名前は林檎、平凡な中学生。
  ピアニストを目指していて、コンクールにもいくつか出たことはあるけど、結果を残したことは一度もない。
  その原因は技術面もあるけど、プレッシャー弱い事。人前に出ると過度に緊張してしまう性格のせい。
  だから日頃こうやって、ショッピングモール片隅に置かれたストリートピアノで練習をしている。
  有名な場所じゃない、人もほとんど集まらない。それでもやっぱり、人前で演奏するのは緊張するから、いい練習になる。
林檎「ふう・・・」
  弾き終わって。周囲を見回すけど人の姿はゼロ。一瞬立ち止まってくれる人はいても、最後まで聴いてくれる人は・・・
  普段ならこれでおしまい、だけど。
林檎「よし」
  今日は誰か、最後まで演奏を聴いてくれる人が来るまで弾き続けると決めている。
  もちろん、順番を待つ人がいたら交代するけど。どうせここで弾こうなんて人はほとんどいないから。
  ────♪
  あ、ちょっと間違えた。
  練習だと上手く弾けるのに。
姫乃「・・・・・・」
  新しいお客さん、制服からすると、この辺の高校のお姉さんかな?
姫乃「・・・・・・」
  じーっと、リアクションもなく、無言のまま私を見つめて。
林檎「・・・と」
  弾き終わったけど。お姉さんに意識がいっていたおかげか、余計な緊張もなく上手に弾けた気がする。
  パチパチ
  ピアノの余韻が消えると同時に、音が聴こえる。
林檎「あ・・・」
  私を見つめていたお姉さんが、手を叩いてくれている。
  ただの社交辞令みたいなものかもだけど。
  拍手を始めてもらえた。嬉しくて、顔が熱くなる。
姫乃「・・・ねえ」
林檎「は、はい」
  は、話しかけられちゃった
姫乃「あなた、いつもここで弾いているの?」
林檎「そ、そうです」
姫乃「ふぅん」
  考え込むような表情。
  もしかして、順番を待っていた?
林檎「あの、次弾きますか?」
姫乃「・・・私は、弾かなくてもいいわ」
  ピアノ、弾けるわけじゃないのかな。
  美人さん、すらりとした綺麗な指。
  凄く、絵になりそうな人なのに。
姫乃「ピアノ、好き?」
林檎「そ、それはもちろん」
  好きじゃなければ、誰にも聴かれない場所で弾き続けたりはしない
姫乃「私ね、あなたの演奏が好きよ」
林檎「え、あ、ありがとうございます」
  私の演奏が好き、そんなことを言ってもらえたのは初めてだ。
姫乃「また、聴きに来るわね」
  そう言い残して去っていくお姉さん。
  残された私は、まだ少しドキドキしていて。
林檎「・・・もう少し、弾いていこうかな」
  また会えるかな、お姉さんに。

次のエピソード:謎の演奏者

コメント

  • 楽器を弾くことって技術ももちろん大事だけど、その演奏にどれだけ気持ちを吹き込むことができるかだと本当に思います。私は小さい時からエレクトーンを習いある程度の資格はとったけど、大分歳を重ねた今の方がいい演奏ができるのではと思います。残念ながら技術は遠のきましたが。主人公の彼女に一筋の光があたったこと、とても嬉しいです。

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