謎の演奏者(脚本)
〇ショッピングモールの一階
また来る、その言葉は嘘じゃなくて。
翌日、いつものようにピアノを弾いていると、本当にお姉さんはやってきてくれた。
私が演奏する、お姉さんがそれを聴いてくれる。
終わると拍手と、言葉少なにだけど褒めてくれて。私はお礼にぎこちなくお辞儀。
会えることが嬉しくて、その翌日も私はピアノの元へ。
お姉さんもそこにいて、演奏を聴いてもらう、その繰り返し。
楽しくて、堪らなくて。
私は毎日欠かさずにピアノの元へ行くようになっていたのだけど────
林檎「ふぅ」
だけど今日は、掃除当番があったせいで少し遅れちゃった。
お互いに名前も知らない、毎日のピアノだけが唯一の繋がり。
一日でも途切れてしまうとそれが切れてしまう気がして。その繋がりを失くしたくなくて、私は小走りでピアノの元へ向かう。
────♪
林檎「あれ?」
近づくにつれて、音が聴こえてくる。
珍しい、他の誰かがピアノを弾いてる?
────♪
綺麗な音。
きちんと調律もされていない、小さなアップライトピアノのはずなのに。私には絶対に出すことのできない、素敵な音。
誰、誰が弾いているの?
気づけば私は、その音の主を知りたくて、全力で駆けだしていた。
林檎「わぁ・・・」
ピアノの周りには、人垣。
私の演奏をつまらなそうに聴いていた子どもの、普段素通りする大人たちも。立ち止まって静かに演奏に耳を傾けている。
そして、その中心で煌びやかな音を奏でていく演奏者は。
林檎「お姉、さん」