流刑地の怪人

星谷光洋改め、『天巫泰之』

流刑地の怪人(脚本)

流刑地の怪人

星谷光洋改め、『天巫泰之』

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流刑地の怪人
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〇黒背景

〇惑星
  私は、人知れず地球のさまざまな災害や事故、犯罪をくいとめるために日夜活躍している。
  そりゃぁ、力及ばないことも多々あるが、アパートの屋上からあやまって落ちた幼児を助けたり、
  地震の規模を小さくするためにほかの惑星を念の力で少し動かして、地球への引力作用をずらしたりすることもある。
  元々は宇宙連合の監視員として、地球を、邪な異星人たちから守る役目を果たしていた。
  私は地球を見守っているあいだに、地球人に対して、過剰に愛情を抱いてしまっていたようだ。
  それが私の過ちを犯す原因だったのだ。
  委員会で、犯人の船からの攻撃に対する正当防衛だという主張は認められなかった。まったく理不尽な流刑だった。
  実際にこの世界で生きていくと、外からみていた世界とはまるでちがうのだと思い知らされた。

〇センター街
  今の地球でみた映画のようなスーパーマンとは違って、実際は正義のためにやっているわけじゃない。
  私たちはふだんめだたないように生活している。人間の姿に変身して、活動をするさいは姿を透明にして行っている。
  それは世界の歴史に刻まれるようなことが、宇宙連合から許されていないからだ。

〇宇宙空間
  マスコミに登場するような事件などおこして、身元を調べられ、正体が暴露されたりしたらほかの惑星に再流刑されてしまう。
  そう、私たちは罪を犯して、今は地球と呼ばれている監獄に流刑されてきた流刑者なのだ。
  活動は、地球と月までの範囲が許されている。
  地球は古来から、私たち以外の異星人にとっても流刑地だったらしい。
  とにかく、この地球で世のためになることをするたびにポイントがもらえて、
  ある一定のポイントがたまると故郷の星に帰ることができる。しかし、これがなかなか難しい。
  なにをやってもたいていは一点か二点。目標の一千点にはまだほど遠かった。
  事件や事故を前もって知らせる腕時計型機器のアラームが鳴ると、姿を消して空を飛び、
  現場にかけつけるのだが、実際は嫌々していることなのだ。以前は心から地球と人間を愛していた。
  長く地球に流刑され、生活しているうちに、この世界も人間も嫌いになってしまっていたからだ。
  私は地球人たちを拉致するという犯罪を犯した異星人を追跡中、委員会の指示に従わず、犯人たちの船を爆破してしまった。
  悪辣な犯罪と残虐な戦争。私はすっかり地球人類が嫌いになってしまった。

〇駐車車両
  あらゆる書類を偽造して入社した自動車販売店で、車のセールスをしているのだが、
  私たちは人の心が読めるから、あさましい本音を薄っぺらな笑顔に隠しているやつの多さには本当に驚いてしまう。
若者の客「このオプションをサービスしてくれたら買ってもいいんだけどなぁ」
  茶髪の、なんの苦労もしていないような若造が、
  にたにたしながらカタログにのってるナビゲーションを指さして言う。その腹のうちはこうだ。
若者の客((この手のやつらは、営業成績のために値切ればいくらでも安くしてくれるさ))
若者の客((そしたら友達のやつらに安く買ったと自慢してやるさ))
  なにが哀しくてこんなやつらのためにと思うと本当に空しくなってしまう。

〇東京全景

〇走行する車内
  仕事が休みの日のお昼頃だ。またもやアラームが鳴った。
  事故がおきそうなのは、どうやら私の住んでいるアパート近くの道路付近らしい。
  姿を消し、空を飛ぶなんて労力をつかうこともないだろう。私は車をとばしてかけつけた。

〇住宅街の公園
  一車線の舗装された道路の右側のほうには公園がある。
  ブランコとすべり台、そして砂場には何人かの子供たちが無邪気な笑顔で遊んでいた。
  どうやらまだ事故はおきていない。公園をなにげなくみまわしてみると、子供たちのひとりに顔みしりの女の子をみつけた。
  朝、出勤するときによく顔をあわすのだがそのたびに、「おじちゃん、おはようございます」
  なんて、かわいくあいさつしてくれる子だ。
  立場上、人づきあいも極力しないが、小さい子供にはつい警戒心もゆるむというものだ。
  ぼんやりしていると、アラーム音が緊急音に切りかわった。あわててまわりをみわたすと、
  4トントラックがふらふらと公園の芝生を乗り越え子供たちに向かっている。どうやら居眠り運転らしい。

〇走行する車内
  私は迷うことなく自分の乗った車を公園に乗り入れ、トラックに衝突させた。
  トラックはその衝撃で横倒しになり、私の車が炎に包まれるなか、割れたフロントガラスからあの子や子供たちの無傷を確かめると、
  私は一瞬にして自分の部屋に戻った。あとでみたニュースでは、トラックの運転手も無事らしい。
  無人の車の衝突もとりあげていた。もともと偽装登録の車だ。身元は不明のままになるだろう。

〇東京全景

〇簡素な一人部屋
  そんなある日、奇々怪々な出来事が起きてしまった。
  テレビの報道番組では、日本人の数百万人がカタツムリに変身してしまったと報じていた。
  カタツムリだけではなく、働きアリや蛇、狐や象に変身しているモノなど、さまざまな生き物に姿を変えていたのだ。

〇テレビスタジオ
  番組に出演していた変身をしなかったあるSF作家の玉城と、科学者の元治博士は、
  テレビの報道番組に出演をし、このたびの出来事に対してのコメントを求められていた。
  テレビ局の女性アナウンサーが、深刻そうな顔をして、玉城に訊いていた。
女子アナ「いったいどうしたこのなのでしょう。カフカの小説、『変身』ではあるまいし、」
女子アナ「人間が一夜にして、別の生物にかわるなんてことがあるのでしょうか?」
  玉城は自慢の髭をなでながら、
玉城「人間の本性が具現化されたものではないかと思うのですよ」
玉城「たとえばカタツムリになった人達が多いということは、日本が鎖国的でお家大事の国民性が、」
玉城「カタツムリに象徴されているということだと思いますね」
  玉城はそう自慢げに語ると、元治博士は、
元治博士「そんなSF映画みたいなことがあるわけがない。確かに、精神的な思いが顔の表情を変えていくことはありますが、」
元治博士「人間が一夜にしてほかの生物に変わるなんて、あまりに非科学的な話です」
玉城「ならば元治博士。なにが原因でこんなことになったのだと?」
  玉城はプライドを傷つけられ、腹を立てつつ元治博士に尋ねた。
元治博士「そうですね。あくまで仮説ですが、宇宙からのなんらかの放射線が、人間のDNAを急激に変化させたのかもしれませんね」
玉城「いや、それはおかしい。宇宙からの放射線の影響であれ、」
玉城「どうみてもカタツムリや獣の姿という、ピンポイント的な変身をさせるとは思えない」
  そう発言し終えた玉城はイノシシに変身をしてしまい、元治博士はヘビに変身してしまったのだった。

〇東京全景
  変身した者たちは、姿こそ変化はしたが、言葉も話せるし、人間としての考えも食事もできたのだが、
  自分の姿をみてパニックをおこし、暴力をふるうなどして精神的に錯乱していた。
  そのため、社会は大混乱に陥り、経済活動はほぼストップしていた。
  しかし、少数とはいえ、変身しない者たちもいた。とくに子供達が多かった。
  また、いわゆる聖職者と尊敬される人達のなかにも、少数だが、変身しない者がいた。
  だが、以前よりも品のある顔立ちになっていることが多かった。

〇銀閣寺
  その者たちは、変身しない者たちを教会やお寺に招き、避難生活をさせたり、食事の世話などをしているようすを、
  私の能力でみていた。

〇カラフルな宇宙空間
  私はどこかの異星人たちの実験だと感じ、精神波をさぐり、月だとわかり、月へと向かった。

〇砂漠の基地
  月のクレーターに設置された基地でようすをみていた異星人たちは、あまりの結果に驚きあわてているのがみえた。

〇近未来の開発室
  私は本来の姿に戻り、基地の中に入り、人間型の異星人を捕まえ、問いただした。
超人「おまえたち。ほかの星の生物に過剰な干渉が宇宙連合のルールを破っていることだとわかっているよな?」
異星人②「おまえは誰だ!!」
超人「俺は地球を監視、守護している宇宙連合の監視員だ」
  私のつまらないプライドが少し嘘をつかせた。
異星人「いや、わかった。宇宙連合のルールに抵触していることはわかっている」
異星人「私たちは、人間の脳に刺激をあたえる電波を放射させて、」
異星人「人間の本性である姿を象徴的にみえるようにする機器を作動させたら、」
異星人「多くの人間が我々のような高貴な姿にみえるだろうと思われていたが、これほどたくさんの人間たちが、」
異星人「忌まわしい姿が本質の姿であったとは予想外だったのだ。今、元の視覚に戻す放射をしたから今頃は本来の姿にみえているはずだ」
  私はやつらの話を聞いたあと、基地をまるごと破壊するため、特製の爆破装置のスイッチを入れた。
超人「きさまたち。あと24分でこの基地は爆破される。きさまたちの星に帰るのであれば、今回は罪を問わない」

〇UFOの飛ぶ空
  人間型の異星人たちは焦りながら船に乗り込み、緊急発進をした。
  そのようすをみた私は基地から飛び立とうとした。しかし、やつらは船から引力を強くする機器を作動させたらしい。

〇近未来の開発室
  私を亡き者として証拠隠滅をはかるつもりなのだろう。
  私は必死に基地からでようとしたが、どうしても体が動かない。

〇近未来の開発室
  建物が爆破されていく光景が放射状に、スローモーションのように目にみえている。
  私はそっと目を閉じた。

〇黒背景

〇宇宙空間
  気がつくと、私はきらめく卵形のポッドのなかに入っていた。ポッドが故郷の星へと向かっていくのがわかった。
  どうやら最高のポイントを獲得したらしい。罪の償いが終わり、救出ポッドのなかに転送されたらしい。
  私もつねに監視されていたようだ。
  やっと自分の故郷の星に帰れるのだと思うとわくわくしてくる。

〇基地の広場(瓦礫あり)
  地球で読んだ聖書にも大洪水がおきたと記されているが、
  地球の未来もおなじ惨事がおきて、生き残った人類も地球もすべてが霊的な存在に進化した。
  私たちの世界では悪い思いを抱くことだけが罪だから、その罪を犯すと過去の地球に流刑されるというわけだ。
  確かに地球人に対する想いが強すぎて、人間を拉致したやつらを許せなかった。それで指示に従わず、やつらを攻撃してしまった。

〇宇宙空間
  ああ、オーロラがたなびいている。
  その向こう側に私たちの世界につうじる道がある。
  地球人類の未来は決して不幸なものじゃない。愛にあふれ、喜びに満ちた世界なんだ。
  さようなら、地球の人たち。
  がんばれ、最初の流刑者、アダムとイブの子孫たち。
  fin

コメント

  • 地球人には本音と建前があって、特に日本人というのは生きる上でそれを身に着けているかもしれません。怪人が地球人を好きになってくれたのにどんどん剥がれていくメッキ、地球人として生きている私たちはやはり罪人なのかもしれません。そんなことを感じながらのエンディングでのしっくり感、心に残る深いお話でした。

  • なかなかの壮大な物語でした。聖書のアダムとイブの子孫である地球人の監視員としてよく働いてくれました。ここまで人間の本質を語るストーリーはありません。感動しました。

  • そもそも怪人自体が人智を超えていることを鑑みれば、今まで怪人が色々な神話に登場してきたのも自然なこと。
    ラストのアダムとイプの引用が秀逸で、このように感じ入りました。

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