読切(脚本)
〇地球
ことりん「ねぇ・・・」
ことりん「ねぇ、ねぇ・・・」
ことりん「ネーネー・・・ねぇってば!」
ことりん「パパ・・・パパ!・・・パパ!!」
ことりん「起きてる?」
ことりん「ねぇってば」
ことりん「眠れないよぉ」
ことりん「パパが先に寝て、どーすんのさー」
パパ「ごめん、ごめん」
ことりん「眠れないよ・・・」
パパ「そうか・・・困ったな」
ことりん「なんか、お話してよー」
パパ「お話かー」
ことりん「うん!」
パパ「何がいいかなー」
ことりん「何でもいいよ、早く、早く!」
パパ「わかった、わかった」
パパ「じゃあ、飛び方を忘れたニワトリのおはなし」
ことりん「わーい、わーい」
ここは、月の裏。
地球からは見ることができない
これは、眠れない子に聞かせる
怪人の昔話
〇惑星
パパ「昔むかし、私たちニワトリは」
パパ「トベール族と、トベナーイ族に分かれて」
パパ「喧嘩をしていた」
パパ「トベナーイ族は強くて」
パパ「トベール族は、負けそうになった」
パパ「そこで、トベール族の王様と王女様は」
パパ「娘を月から避難させた」
パパ「その時の近衛隊長が、我々の先祖だ」
ことりん「コノエタイチョー?」
パパ「お姫様を守る役目のリーダーだ」
ことりん「ふーん・・・ひいおじいちゃん?」
パパ「もっと前」
ことりん「ひいおじいちゃんの、ひいおじいちゃん?」
パパ「もっともっと前」
ことりん「・・・じゃあ、その、ひいおじいちゃん?」
パパ「もっともっともっと前」
ことりん「もう、ワカランヨー」
パパ「ごめんごめん、まあ、すごく昔」
〇落下する隕石
パパ「月から地球までは、遠くて遠くて」
パパ「みんな疲れ果てて」
パパ「道中、星のかけらで翼が折れるやら」
パパ「水や食料が無くなるやら」
パパ「お姫様も怪我をするやら」
パパ「倒れ込むように、地球に辿り着いた」
ことりん「デモ、大気圏突入ノトキ、モエナカッタ?」
パパ「おっ、急に詳しくなったね」
パパ「細かいことは気にしない」
ことりん「地球かぁ、どんなトコなんだろう・・・」
〇村に続くトンネル
パパ「日本という島の、山の中で、人間に救われ」
パパ「お姫様の怪我は、順調に回復した」
パパ「だけど、お姫様の心は、元気にならない」
ことりん「どうしてー?」
パパ「毎夜浮かぶ月を見ては、帰りたくて泣く」
ことりん「カワイソー」
パパ「一方、近衛隊長は、毎日夜明けに、月と 高らかに交信する」
パパ「月に向かって、『お姫様は無事だー』」
パパ「『そちらの様子は、どうだー』」
パパ「月からの答えは、『何とか応戦中!』」
パパ「そうして、新しい1日が始まる」
〇山間の集落
ことりん「ドンナ、マイニチ、ナノ?」
パパ「うん、助けてくれた村人のために」
パパ「自分たちの肉を削いで、分け与えたり」
ことりん「シンデシマウノ?」
パパ「そんなに、たくさんじゃないんだよ」
パパ「それに、時間が経つと蘇生するから」
ことりん「ソセイ?」
パパ「元どおりになるんだよ」
ことりん「へー、スゴイネー」
パパ「他にも、産んだ卵を分け与えたり」
パパ「くちばしで、畑を耕したり」
パパ「畑が荒らされないように、屋根で見張ったり」
パパ「一生懸命、恩返ししたんだ」
ことりん「お姫様は、どうなったの?」
パパ「そうだね、気晴らしにピクニックしたり」
パパ「面白いお話で、笑わせたり」
パパ「切ない気持ちを忘れてもらうようにした」
ことりん「デモ、ツキニ、カエレナイネー」
〇星座
パパ「それから、随分経った、ある日」
パパ「夜明けの交信で、隊長が大きく鳴いた」
パパ「『トベール族が勝ったぞー』」
パパ「『すぐに迎えが来るぞー』」
パパ「お姫様は無事、月に帰った。でもね・・・」
パパ「隊長以下、数十名は、村に残ったんだ」
ことりん「ハナレバナレニナッタノ?」
パパ「うん、そうなんだ」
パパ「お姫様と隊長は相思相愛だった」
ことりん「ソーセージソースアエ?」
パパ「いや、お互い、大好きだったんだ」
ことりん「イッショニカエレバー?」
パパ「うん、そこは、義理が人情に勝ったんだ」
ことりん「ギリギリニンジャニカッタ?」
パパ「ちょっと難しいね。例えば・・・」
パパ「パパがお仕事で疲れた時」
パパ「コトリン、お皿を片付けてくれるでしょ」
ことりん「ウン!」
パパ「それが義理」
パパ「本当はテレビが見たいのにー」
パパ「って思う・・・それが人情」
ことりん「・・・」
パパ「したいと思うことが、人情で」
パパ「しなくちゃいけないと思うことが義理」
ことりん「スコシ、ワカッター」
〇時計
パパ「近衛隊のみんなは、家畜と呼ばれて」
パパ「人間に、無くては、ならないものになった」
パパ「人間は助かるし、ニワトリは感謝されて、 うれしいし」
ことりん「メデタシ、メデタシ」
パパ「だけど、あれから1000年以上経った、今」
パパ「随分、様子が変わってしまったんだ」
ことりん「ケンカシタノ?」
パパ「うん、まあ、そんな感じ」
パパ「人間は、家畜に、もっともっと望んだ」
ことりん「ドンナコトヲ、ノゾンダノ?」
パパ「例えば、肉をもっとたくさん、もっと早く」
パパ「削られたニワトリの肉は、元に戻るのに」
パパ「50日くらい、かかってたのが」
パパ「40日・・・30日・・・もっと、もっと」
パパ「早くするために、おいしいご飯を」
パパ「いっぱい、どうぞって、だから早くって!」
パパ「蘇生が間に合わん!!」
パパ「卵にしたって、そうだ!」
パパ「1日1個でよかったのに」
パパ「朝、昼、晩に1個になって」
パパ「もっと、たくさん! って・・・」
パパ「骨がボロボロになって、身も心もヘトヘトに なって・・・」
ことりん「シンジャウヨー・・・」
パパ「悪い病気も流行って・・・」
パパ「たくさんの仲間が、次々倒れていった」
パパ「数羽病気になると、周りの何万羽が」
パパ「まとめて、殺されてしまうんだ!」
ことりん「ナンデ? ワルクナイトリモ?」
パパ「人間に病気が感染るからって」
パパ「何万羽もの仲間が、毒ガスで殺されるんだ!」
パパ「似たようなことを、人間は人間にしたことが あるから・・・」
パパ「ニワトリにも、できるのかな」
ことりん「ヒドイヨー、パパ、コワイヨー」
〇流れる血
パパ「これは・・・ひどい。ジェノサイドだ!」
ことりん「ミンナ、シンジャッタノ?」
パパ「いや、生き残ったニワトリもいた」
パパ「だけど、生き残った者たちも、地獄なんだ」
ことりん「ドウシテ?」
パパ「全体の数が少なくなると、肉も卵も」
パパ「1羽あたりのノルマが、もっとキツくなる」
ことりん「ノルマ?」
パパ「うん、決められた数のことだよ」
パパ「産まなきゃいけない卵は、1日10個が」
パパ「20個になり、30個になる・・・」
ことりん「ソンナノムリダヨー」
パパ「うん、無理だ」
パパ「追い詰められたニワトリ達は」
パパ「夜になると、集結した」
パパ「さぁて、1軒目」
〇地下室への扉
「・・・」
「・・・ん?」
「こんな時間にセールスか?」
「ばかね、そんな訳ないでしょ」
「ちょっと、見てきてよ」
「え?」
「壁からだったわ」
「玄関じゃないのか!」
「庭じゃない?」
「あぁ、ほんとだ・・・」
「間違いないわ」
「ん?」
「おい」
「屋根?」
「もー、なんなのよ」
「・・・熊?」
「嘘でしょ・・・」
「警察よ、警察」
「熊・・・じゃないぞ」
「どっちだって警察よ」
「まあまあ、待て待て」
「え・・・」
「・・・これって」
「・・・やっぱり」
「今度は何!」
「ど、うなっ、てるんだ ?」
「やっぱり、1階だわ」
「うわーっ」
「びっくりさせないでよ」
「もー、早く止めてよ」
「・・・止まらないんだ」
「ちょっと、もう・・・捨てちゃって!」
「嘘でしょ・・・」
玄関に立ち尽くす二人
ゆっくりと開くドア
広がる闇
「・・・」
「・・・」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「・・・」
・・・
静寂
ただ、静寂
ただ、ただ、静寂
「・・・なんだったの?」
「・・・」
「ぎゃあー」
〇地球
ことりん「ナンダッタノ?」
パパ「ナンダッタノカナ?」
ことりん「えっ?」
パパ「あー、いやいや、不思議だね」
パパ「そんなことが、毎日、どこかで起きた」
ことりん「ヘンナノー」
パパ「そのうち、朝、通勤や通学の人々が」
パパ「悲鳴とともに消えていった・・・」
ことりん「えっ、エェェェ」
パパ「・・・」
ことりん「ナニガアッタノ?」
パパ「うん、でもね・・・」
パパ「少しすると、消えた人々は、這い上がって くるんだ」
ことりん「ハイ・・・アガル?」
パパ「ハイ」
ことりん「?」
パパ「落とし穴だったんだねー、わははは」
ことりん「わははは・・・ジャナクテ」
パパ「いやー、落ちた落ちた、次々と」
パパ「どこもかしこも、穴、また、穴」
パパ「穴はどんどん増えて」
パパ「どんどん大きくなって」
パパ「人間だけじゃなく、自転車やバイク、車」
パパ「犬や犬小屋、そして人間小屋まで・・・」
ことりん「ニンゲンゴヤ?」
パパ「あ、いえ、家です」
ことりん「マギラワシイ、家と言え!」
パパ「ハイ・・・」
パパ「水道管は破れ、噴水のように噴き出した」
パパ「家やビルは沈み、地下鉄は迷路になって」
パパ「さすがに、人間も、調べ始めた」
パパ「夜に聞こえる、あの音のせいじゃないかと」
パパ「そして、防犯カメラは見た」
パパ「何千何万のニワトリ達が、穴を掘っていた!」
パパ「一斉に、大規模な鳥狩りが始まった」
〇地下空間の戦艦
パパ「人間達は叫ぶ!」
パパ「殺せ、 殺せ! 殺せ!!」
ことりん「ドウナッタノ?」
パパ「うん、ある日、突然、ニワトリ達が」
パパ「すっかり、いなくなったんだ」
ことりん「エッ! ドコニイッタノ?」
パパ「うん、入口の小さな、深い深い深い」
パパ「穴を掘って、地下に逃げた」
パパ「そこで、連日の猛特訓が始まった」
ことりん「エッ? ナンノレンシュウ?」
パパ「思い出せ! お前たちは何だ?」
パパ「そうだ、我らは、トベール族の末裔だ!」
パパ「思い出せ、飛び方を!」
パパ「飛べる! 飛べるんだ!!」
パパ「やがて、人間達は気づいた」
パパ「奴らは地下にいる・・・と」
ことりん「コロサレタノ?」
パパ「人間達は、穴にホースというホースを」
パパ「大量に突っ込んだ! 叫ぶ!!」
パパ「全管放出ぅーっ!」
ことりん「シンジャッタノ?」
〇スカイフィッシュの群れ
パパ「ひときわ大きな鳴き声がした」
パパ「ニワトリ達は、不思議な形になって」
パパ「間一髪! 一斉に飛び立った」
パパ「あとは、沢山の噴水が地面から噴き出して」
パパ「ニワトリ達の旅立ちを祝っているようだった」
ことりん「ダイジョウブダッタンダネー」
パパ「うん、月に向かって、飛んだ! 飛べた!」
パパ「月の裏は、地球から見えないんだ」
パパ「ご先祖様のお陰で、こうして」
パパ「今日も無事に暮らせてるんだよ」
〇地球
パパ「お話は、これで、おしまい」
パパ「さぁ、寝ない子は、地球に連れていくぞー」
ことりん「エー、ヤダヨー、オヤスミナサイ・・・」
ことりん「ボクもトベール族なんだ」
ことりん「ヨーシ!!」
ことりん「飛べるんだ、思い出せ、そりゃー!」
ことりん「・・・トベナーイ族の子? 養子?」
ことりん「・・・おやすみなさーい」
トベール族がコツコツ掘った穴は埋まったけれど、今の日本は目に見えない落とし穴がいっぱいですね。パパが仕事で遅い時お皿を出してくれる癒し系のことりん。ママの気配がないのがちと怖いかも。
ハイ、先生、質問です❣️
可愛いことりんさんは、
成長したら
パパのように立派なお姿に
なれるのでしょうか❓
あるのが当たり前になって感謝を忘れてしまってると読みながら反省…
子どもに聞かせる物語風になってるけれど深い意味あるお話でした。