月にムラクモ、花に風

さかがも

エピソード1(脚本)

月にムラクモ、花に風

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〇古いアパート
  募集 人探しを手伝ってくれる人
  電話をかけるだけの簡単なお仕事です。
  住所・年齢・経歴不問。
  
  面接・連絡先は
  
  ───
アマキ「家の前にこんな貼り紙、あったっけ?」
  昨日は無かったはずだし、その前は家にいなかった。大学生は忙しいのだ。
アマキ「バイト探してたし、連絡してみるか」
アマキ「もしもし、いま募集の貼り紙を見て──」

〇モヤモヤ
アマキ「ここは?」
アマキ「あ、すみません。あたりが急に暗くなって──」
「案ずることはない」
テンコウ「私が呼んだ。人探しを手伝ってくれるのだろう」
アマキ「バイト先の・・・人? 人間?」
テンコウ「名前はテンコウだ。人からは、我々は怪人という呼ばれ方をする」
テンコウ「と言っても人に仇なすつもりはない。他でもない、我々を怪人と名付けたその人を探す手伝いをして欲しいのだ」
  探しているのは胡蝶の姫君という、と怪人が言った
「我等が魔界の主が寵愛していた妃だ」
「だがここしばらく行方が知れず、人界にまで探索の手を伸ばされた。その斥候が私だ」
アマキ「つまりバイトの募集にあったとおりってことは理解したけど、具体的に何をすればいいんだ?」
テンコウ「君にはここにいるだけでいい。君の代わりに私が動く」

〇古いアパート
アマキ「あれっ、もとの場所に戻っ──」
アマキ「体が動かない!?」

〇古いアパート
テンコウ「今、君の体は私が支配しているからな」
テンコウ「見るほどでもなければ先程の場所に戻ってもらっていいが・・・色々と不慣れでな、出来たら解説を頼みたいところだ」
アマキ「構わないけど・・・」
テンコウ「案ずるな、ただの人探しだよ」

〇商店街

〇モヤモヤ
  テンコウが街を歩いて行くのが画面越しに見えた。

〇商店街
  いつもの商店街だけど・・・そんなに物珍しい?
テンコウ「姫君の匂いを探しているのだ」
  とはいえただ街をうろついているだけのような気がする。
シマザキ「よっ、アマキじゃねーか。課題終わった?」
テンコウ「ま、まだかかりそうかな」
シマザキ「期限今週末だぞ? こんな所で遊んでないでさっさと片付けろって」
テンコウ「あはは、そうする・・・」
テンコウ「あいつら誰だ」
  学校の知り合いだ。話しかけてきた方がシマザキで、喋らなかった方がタツタ。
  タツタは知り合いって言っても、顔見知り程度だけど
テンコウ「そうか」
  テンコウの声が少し硬いように思えた。
テンコウ「これからタツタというのと親交を深めるのは勧めないな」
  どうして、と聞き返そうとしたそのとき、
  うわあああ!
  い、今のシマザキじゃ・・・?
テンコウ「逃げよう」
テンコウ「巻き込まれると厄介だ」
  そこをなんとかならないのか? ほら、怪人の力とかで
テンコウ「今は君の姿だぞ?」
テンコウ「第一、私が得意とするのは隠遁や眩惑でな。怪人相手に、正面から渡り合うには火力不足だ」
  怪人!?
  しまった、と言わんばかりにテンコウの入った自分の口元が歪むのが判った。
アマキ「じゃあお前の手で止めさせろよ!」
アマキ「お前と同じ目的で来ているんだろ。俺達に被害を及ぼさなくたってできるって、言って聞かせないと」
テンコウ「話が通じるとも限らんぞ」
アマキ「だったら隠遁の術! とりあえず近づかないと」
テンコウ「仕方が無い」
テンコウ「”月に叢雲””──」

〇公園の砂場
シマザキ「タ・・・タツタ?」
シマザキ「お前タツタだよな? なあ、おい!」
アマキ「なんだよ、あいつ・・・シマザキもどうしたんだ。どう見てもタツタじゃないだろ」
テンコウ「あれはゴズモ。私と同じ怪人だ」
テンコウ「ゴズモの臭いはしたからな。元はタツタだったのだろうが」
アマキ「ともかく助けないと。このままじゃシマザキも危ない」
アマキ「さっきのあれ、使えないかな」
テンコウ「やれるだけやってみるが、期待はするな」
「”月に叢雲”──」
テンコウ「”花に風”ッ!」

〇狭い裏通り
シマザキ「アマキ? お前帰ったんじゃ」
シマザキ「それよりタツタが大変なんだ! いきなり膨らんで──」
シマザキ「あんなんタツタじゃねえ!」
テンコウ「そうだ。だからシマザキ、逃げよう」
アマキ「助けにいくんじゃないのかよ?」
テンコウ「無理だ。私は実戦向きではないと言っただろう。だから斥候に甘んじているわけだ」
テンコウ「ゴスモは火力が高い上に体力も無尽蔵に近い。返り討ちにあったら、ただですまないのはお前だぞ」
アマキ「だからって──」
テンコウ「ああもう、すこし静かにせんか」
  引っ込んでおれ、とテンコウの声が頭蓋に響いた。

〇モヤモヤ
アマキ「おい!」
  ため息をついて辺りを見回す。薄暗いばかりで天井も床もあったものではない。
アマキ「結局どこなんだ、ここ」
  カクリヨだ、とテンコウが姿を見せずに呟いた。
  魔界でも人の世でもない場所だ。
  私が君の体に乗り移ることが出来たのは、ここに自分の体を置いているからだな
  ここを経ずに人の世に出ようとするとああいう風になる、とテンコウが言う。
  ゴズモがやったのは姿を乗っ取り、組成を組み替えて無理矢理怪に似せる方法だな。当然負荷は元の身にかかる。
  私の様に隠形の術を使える怪人は稀だ。ほとんどの怪人はゴズモと同じ方法を取るだろうよ
アマキ「ってことは、タツタは外見だけあの姿なんだな?」
  あの面さえはがせればな、とため息をつきながらテンコウが言った。
  君も私も、ゴズモが相手では歯が立たない。それができればの話だ。
アマキ「くそっ──」
  おい、アマキ──

〇黒
アマキ「見つけた!」
アマキ「おい、お前の体は今空っぽだよな?」
テンコウ「・・・・・・」
アマキ「答えられないってことはそういうことだな」
アマキ「姿を似せるって言っていたよな。だからこの装甲、引っぺがして俺につければ・・・」
アマキ「俺がこいつになることが出来れば・・・」
  やめろアマキ!

〇狭い裏通り
テンコウ「ちッ、”月に叢雲”──!」
シマザキ「アマキ!?」

〇公園の砂場
  ”花に風”ッ!
ゴズモ「なんど、さっきから羽虫が触って邪魔くさいと思ったら、テンコウじゃないか」
ゴズモ「人の世に一番乗りの癖して、ろくに成果も見つけられない能なしめ」
ゴズモ「このゴズモ様の力をもってすれば、胡蝶の姫君を捕まえることは他愛もないことだな!」
アマキ「なんとかテンコウの姿をカクリヨから引っ張り出すことには成功したけど・・・」
アマキ「この辺りに姫君のにおいはする?」
テンコウ「いや、人間の臭いならいくらでもするが」
???「ゴズモ、お前鼻が馬鹿になったんじゃないか?」
ゴズモ「役立たずの分際で何を言うか!」
ゴズモ「ここにも、そこにも、姫様の匂いは溢れかえっているだろうが!」
ゴズモ「一匹捕まえたと思った、だがあまりにも脆くて指の間をすり抜ける! 今、ここに捕まえているのもだ」
ゴズモ「もっと集めないと」
  テンコウ、そこを代われと仮面の下が呟いた
???「お前が集めているのは胡蝶の姫君ではなく、人の命というものだ」
???「その調子でいくつ集めた。何人殺した。馬鹿にも呆れかえる」
???「姫君の故郷はここ、人の世なのだぞ。こんな狼藉が知れたら──」
ゴズモ「ええい、羽虫のごとくじゃかあしい!」
ゴズモ「邪魔立てするな。 貴様ごとき、一ひねりにしてくれるわ」
ゴズモ「覚悟・・・」
???「”月に叢雲”ッ!」
ゴズモ「また雲隠れか!」

〇雲の上
テンコウ「高くまで飛んだはいいが、どうするんだ?」
アマキ「今から考える」
  そんな悠長な、とテンコウが呟くそばから身体は落下を始めている。
テンコウ「私が出来る攻撃と言えば、移動の際の疾風にものを乗せて飛ばす”花に風”程度だぞ?」
テンコウ「術で花を出し、高速移動の制動のために使っているが・・・」
アマキ「飛んでいる花、あれも術なのか」
  見上げると空の中をひらひらと花吹雪が舞っているのが見えた。
アマキ「”月”に叢雲、”花”に──」

〇雲の上
アマキ「”花に”、」
アマキ「”花に”、”花に”、”花に”、”花に”」
テンコウ「出し過ぎだ!」
アマキ「テンコウ、足回りの強化を頼む」
アマキ「このまま突っ込むから!」
テンコウ「おい、一体何を・・・」
???「──”花に”、」

〇空
  数多の花片を連れて墜落が始まる。
  高速移動に重力加速度も加わって、速度はいや増しに高まっていく。

〇空
  その勢いに耐えかねた花片に火がともり、やがて一叢の塊になると

〇公園の砂場

〇公園の砂場
「──サヨナラだ、ゴズモ」
アマキ「テンコウ、表皮は焼いた。何か他に手立ては!?」
テンコウ「頭だ、そこが一番侵食が深くなる。タツタの頭からゴズモの表皮を切り離せ!」
  炎の中からゴズモの残骸を引きずり上げると、首筋に指を食い込ませた。
???「ぐ、ぎぎぎぎぎ」
シマザキ「アマキ!? どこに行ったんだ?」
シマザキ「げっ、また新しい怪人が──!」
  公園にシマザキが現れるのと、手元の肉塊が嫌な音を立てるのはほぼ同時だった。
シマザキ「あ、あああ、タツタの首が!!」
「畜生、タツタの首を引きちぎりやがって。誰か来てくれ! 怪人が人を!!」
???「・・・」
テンコウ「アマキ!? 呆けている場合ではないぞ、早く逃げないと」
アマキ「・・・」
テンコウ「おい、聞いているのか!? ええい、”月に叢雲”──!」

〇汚い一人部屋
???「全く世話の焼ける・・・」
  テンコウが装甲や毛皮に爪を立てると、血が噴き出すのも厭わずに引き剥がし始めた。
テンコウ「大体こんな所か」
テンコウ「幸いタツタほどの侵食はないが、養生しておけ。生皮をはいだようなものだからな」
テンコウ「私も少し姿をくらますことにしよう。君にも累が及びかねん」
テンコウ「さらばだ、アマキ」
  ──プツン
  ツーッ、ツーッ、ツーッ、・・・
アマキ「テンコウ? 待てって、もう少し話したいことが──」
アマキ「痛ててて、 ・・・こりゃあしばらく外に出られないな」

〇古いアパート
アマキ「何も書いてないや」
アマキ「ここに求人が出ていた筈なんだけどな」
  貼ってあるのは白紙一枚だ。連絡先云々は、どうやらテンコウによって幻覚を見せられていたらしい
アマキ「でも、履歴はあるから」
アマキ「よう、──」

〇モヤモヤ
アマキ「よう、久しぶり」
  暗闇の中で影が動く気配がした。
テンコウ「また来るとは思わなかったな。傷はもういいのか」
アマキ「治ってきたから出かけるところ。姿をくらますって言った割に、魔界に帰ってなかったんだな」
テンコウ「戻ろうにも居場所がないのだ」
テンコウ「ゴズモを倒したことは洩れ伝わってしまったし、姫君を連れ帰るならまだしもまだ見付かっていないからな」
アマキ「また怪人が現れるのか」
アマキ「それじゃあ提案なんだけど」
アマキ「これからも胡蝶の姫君を探すのを手伝うからさ、」
アマキ「その代わり、別の怪人が来たら──この前みたいに俺達で退散させようぜ」
アマキ「どうせ人探しが済まないと魔界には帰れないわけだし、」
アマキ「どうせ魔界に居場所なんてないんだろ」
アマキ「他に探す奴がいなければ、姫君をつれて帰れるのもお前だけってことだ」
テンコウ「君も無事で済むとは限らんぞ。行くところが過ぎるとタツタと同じようになる」
アマキ「それなんだけど、何か名前をつけないか?」
アマキ「俺が俺じゃなくなるんだろ? かといってテンコウでもないし」
アマキ「俺が消えてしまうのは構わないんだけど、今度そいつが困るわけだろ」
アマキ「身に覚えのないこととか山ほどあるだろうし」
アマキ「ほら、あれとか。”月に”──」
テンコウ「”ムラクモ”?」
アマキ「そうそれ!」
テンコウ「お前はいいのかそれで」
アマキ「誰かが死ぬよりかはましかなって」
アマキ「タツタは俺が殺したようなもんだし」
アマキ「俺の命なんどどうにでもなれ、だ。・・・それより早く探しに行こうぜ!」
テンコウ「それでいいのならば良いが」

〇古いアパート
テンコウ「痛てて・・・」
テンコウ(あいつ、もしかして全身が痛いのを私に押しつけるために取引持ちかけたんじゃないか?)
アマキ「ほらテンコウ、行こうぜ」
テンコウ「全く・・・」
  以降、怪人の姿が度々目撃されるようになる。
  それが誰であるのかは、また別の話だ。

コメント

  • 憑依系のストーリーは、事あるごとに体の主導権を表す描写が難しく、どうしても地の文が多くなりやすいのですが、怪人と主人公の会話だけで理解できるよう巧みに表現されていました。また、バトルシーンは、派手なエフェクトや効果音をやたらと使いたがるライターが多い中、この作品は必要最小限にとどめているので「月にムラクモ~」の綺麗な効果が際立つようになっています。

  • 様々な空間、次元の転換が多く見られましたが、その様も違和感なく描かれていて、結果躍動感溢れるスピーディーな展開でしたね。作中に引き込む力の強い、魅力的な作品ですね。

  • 怪しすぎるバイト広告ですよね。
    でも、そこに電話をかける彼だから、その後の展開にもついていけたのかも。
    その後の広告がなくなっても、履歴で電話をかけるところでクスッとしました。

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