特異地蔵譚

わらやま

ラーメン地蔵 対策課(脚本)

特異地蔵譚

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〇駅前広場
不動 明夫「今回のターゲットはこんな街の中にいるの!?」
識者「ああ、レミラーマ地蔵の能力によるとこのあたりらしい」
識者「その名もラーメン地蔵──」
不動 明夫「ラーメン地蔵・・・」
不動 明夫「ふざけた名前だね」
識者(お前の存在も大概ふざけているが・・・)
不動 明夫「ラーメン地蔵って言うからにはラーメン屋にいるんじゃない!?」
識者「流石にそこまで単純ではないと思うが・・・」
識者「可能性はある!! 早速食べに行くぞ!!」
不動 明夫(そういや、おじさんはラーメンマニアだった・・・)

〇ラーメン屋
不動 明夫「凄い行列だなぁ・・・ おじさん、ここはやめ・・・」
識者「うぉーー、名店『ラーメンJIZOU』の本店だぁ!! 来たかったんだよなぁ!!」
不動 明夫「おじさん・・・興奮しすぎだよ・・・」
識者「不動!!並ぶぞ!!並ぶぞ!!並ぶぞ!!」
不動 明夫「やれやれ」

〇ラーメン屋
  30分後
識者「でな・・・ラーメンJIZOUは関東を中心にチェーン展開されているんだが」
識者「そのボリュームと安さが特徴でJIZOU系なんていうジャンルも出来るくらいで」
識者「熱狂的なファンも多くて、そのファンの事を『ジゾリアン』と呼んだりもするんだ!!」
不動 明夫「へー、そうなんだぁ・・・(ずっとこの調子でうんざりだよ)」
不動 明夫「ふぅー・・・ やっと1番前か」
識者「楽しみだなぁ不動!!」
不動 明夫「そ、そうだね」
識者「いっぱい食べて午後からの活力にするぞ!!」
不動 明夫「はぁ・・・」
不動 明夫「ていうか、ラーメン地蔵みたいな変な地蔵なら、僕の力なんていらないんじゃないの!?」
識者「・・・甘いぞ不動」
識者「この前の『ふがし地蔵』の一件・・・ あっただろう」
不動 明夫「うっ、たしかに」
不動 明夫「大したことない地蔵だと思ったら」
不動 明夫「影響が広範囲で能力もえげつなかったよね・・・」
識者「ああ・・・」
識者「『周囲の人間の胃袋を腐らせ、食事が出来ない体にする能力』」
識者「その名も・・・『腐餓死地蔵』」
識者「・・・名前で油断してはいけない」
不動 明夫「じゃあラーメン地蔵も・・・」
識者「ああ、凶悪な地蔵である可能性が高いと私は思っている」
識者「決して気を緩めるな」
不動 明夫「・・・うん」
  次の方、店内へどうぞ
識者「何にせよ、まずは腹拵えだ!!」

〇ラーメン屋のカウンター
不動 明夫「そんな・・・」
識者「バ、バカな!!」
ラーメン地蔵「2名様!!いらっしゃい!!」
不動 明夫「お、おじさん!! 地蔵が普通に働いてるよ!!」
識者「ど、どういうことだ!?」
ラーメン地蔵「お客さん!!食券!!」
識者「あ、ああ・・・」
ラーメン地蔵「小らーめん 2つね ニンニクは!?」
不動 明夫「・・・無しで」
識者「・・・マシマシ」
ラーメン地蔵「あいよ!!」
「・・・・・・」
不動 明夫「ラーメン地蔵ってあいつだよね・・・」
識者「おそらくな・・・」
不動 明夫「どうする?」
識者「うむ・・・」
ラーメン地蔵「はいよ!!おまたせ!!」
識者「・・・とりあえずラーメンを食ってから考えよう」
識者「むむっ・・・これは!?」
識者「最高に美味いぞっ!!」
不動 明夫「どれどれ」
不動 明夫「たしかに美味しいね!! 豚とアブラの濃厚さをヤサイがしっかり受け止めてる」
識者「さすがは本店といったところか・・・」
識者「だが・・・」
識者「他に従業員は見当たらないから、あの地蔵がコレを・・・!?」
識者「雑誌で少し前に特集記事を読んだ時は、普通の人間が店長だったが」
識者「不動・・・地蔵念話でヤツを探ってもらえるか!?」
不動 明夫「やってみるね」
不動 明夫「ねぇねぇ」
ラーメン地蔵「うぉっ!! なんだなんだ!?こりゃあよ!?」
不動 明夫「今、地蔵念話で話しかけてるんだけどさぁ」
不動 明夫「率直に聞くけど、アンタってラーメン地蔵!?」
ラーメン地蔵「いかにも!! 俺っちはラーメン地蔵よ!!」
不動 明夫(すごい簡単に認めるな・・・)
不動 明夫「ちょっと話したい事あるんだけど、時間とれない!?」
ラーメン地蔵「ああ、いいぜ!! だがよ、俺っちのラーメンを待ってるお客さんがいっぱいいるからよぉ」
ラーメン地蔵「店じまいしてからでいいか!?」
不動 明夫「かまわないよ」
識者「どうだった!?」
不動 明夫「やっぱりラーメン地蔵だったよ。閉店後に時間とってくれるって」
識者「そんな簡単に・・・ 本当に今までにないパターンだな・・・」

〇ラーメン屋のカウンター
識者「・・・とまぁ、我々はそういう立場の者だ」
ラーメン地蔵「なるほどなぁ、特異地蔵対策課なんてもんがあるんだなぁ、知らなかったぜ!!」
識者「あなたはラーメン地蔵との事ですが、何でここでラーメン屋を!?」
識者「店長は別にいらっしゃったと思うんですが、どこに!?」
ラーメン地蔵「これにはよぉ、スープ鍋より深ぇ理由があんだよ・・・」

〇山道
  俺っちは元々普通の地蔵だったんだがよ
  ある日・・・
  一人のじいさんが俺っちを拝んできてよ
  なんでも、ラーメン研究のために旅に出たいんだが、自分の店を楽しみにしているお客さんのために店は閉めたくない
  だから、自分の代わりに店を任せられる人材を探してるとかでよ
  その祈りが俺っちを特異地蔵に覚醒させたみたいなんよ
  んで、俺っちはラーメン地蔵として
  じいさんの願いを叶える事にしたってわけよ

〇ラーメン屋のカウンター
ラーメン地蔵「で、俺っちはじいさんが戻ってくるまで店を任せてもらってるんだ」
不動 明夫「なんていい話なんだ・・・」
識者「ラーメンが紡ぐ友情だな」
ラーメン地蔵「・・・さっきの話だとあんたらは特異地蔵を探してんだろ!?」
ラーメン地蔵「俺っちはどうなんだい!?」
識者「我々の基本指針は、好戦的な地蔵や人に危害を加えた地蔵は原則破壊」
識者「政府の国家運営に有益と判断する場合は、勧誘を行うが・・・」
ラーメン地蔵「俺っちはラーメンを作る事くらいしか”のう”がないよ!!」
ラーメン地蔵「もちろん、人様に迷惑をかけたこともねぇ」
識者「・・・となると」
不動 明夫「保留?」
識者「うむぅ・・・」
識者「店長はいつ戻ってくるんだ!?」
ラーメン地蔵「それが俺っちにもわからねぇんだよ、行き先も知らないからよ」
識者「そうか・・・」
識者「ラーメンマニアの私としては、地蔵の身でここまでJIZOUの味を再現出来ている事に驚きを禁じ得ない」
識者「この店が一時的に閉店するのもジゾリアンが悲しむからなぁ」
識者「とりあえず、店長が戻ってくるまでは店を続けてくれ」
ラーメン地蔵「寛大な処置感謝するぜ!! 俺っちは美味いラーメンを作るコトしか”のう”が無いからよ!!」
ラーメン地蔵「また食いに来てくれや!!」
識者「ああ・・・」

〇入り組んだ路地裏
不動 明夫「まったく想定していないパターンだったね」
識者「うむ・・・周囲の客も、ラーメン地蔵のことは店名のJIZOUにあやかったコスプレか何かだと思っているようだったしな・・・」
識者「本当に実害が無さそうだ・・・ まあ、対応は追って考えよう」
識者「しかし、ラーメン地蔵が作ったラーメン、本当に美味かった」
識者「どこの支店の味とも僅かに異なりながらも元祖たる風格を感じる力強さ、まさにこれぞJIZOU系の本流だ」
???「よく分かってんじゃん」
識者「な、なんだアンタは!?」
ジゾリアン「お、すまねぇ!! アンタの食レポ聞こえちまってなぁ!! 完全同意だったからさ!!」
ジゾリアン「俺はここの店の常連兼ゴミ回収業の委託を受けてるもんだ」
識者「は、はぁ、そうですか」
ジゾリアン「JIZOUの本店も10年以上通ってるぜ」
識者「それは・・・すごい」
識者「あ!!それであれば伺いたいのですが・・・今は店長はいないようですが、その時と何か違いはありますか!?」
ジゾリアン「ああ・・・あいつだろ・・・ なんか違和感あるんだよな・・・」
不動 明夫「そりやぁ、地蔵だからね・・・」
ジゾリアン「いや、それは別に気にならねぇんだよ。店名に引っ張られたコスプレだろうし」
識者「あ、そうなんですか」
ジゾリアン「俺が違和感感じてるのは味とかなんだよな」
識者「味・・・やっぱり店長の時とは全然違うんですか!?」
ジゾリアン「いや、逆だよ」
ジゾリアン「全く一緒だから不思議なんだよ」
識者「と、というと!?」

〇渋谷のスクランブル交差点
ジゾリアン「俺はジゾリアンだからさ、もちろん本店以外も行くわけよ」

〇ラーメン屋のカウンター
ジゾリアン「もちろん、どこもメチャクチャうめぇんだなぁ」
ジゾリアン「でもよ、やっぱり微妙に味は店舗ごとに違うんだよな」
識者「たしかに言われてみればそうですね。そして、それが魅力でもある」
ジゾリアン「やっぱりよく分かってんなぁ!! 店長のじいさんは作り方のレシピは自分の脳内だけにあって、他店の店長にすら明かしてない」
ジゾリアン「だから、似ているようでも店舗ごと、店長ごとに味が違うんだが・・・」

〇入り組んだ路地裏
ジゾリアン「今の本店の味は、じいさんの味と全く同じなんだよなぁ」
不動 明夫「店長が教えただけなんじゃないの!?」
ジゾリアン「あのガンコじいさんがいくら店を預けるからって考えにくいけどなぁ」
ジゾリアン「いままで何十年も年末年始以外無休でやってきてるガンコもんだぜ」
識者「そんなに・・・」
ジゾリアン「あと、あいつのあの喋り方さ」
ジゾリアン「じいさんと全く同じなんだよなぁ」
識者「喋り方まで・・・」
ジゾリアン「昔一緒に撮った動画あるけど、見るか!?」
識者「是非!!」

〇ラーメン屋のカウンター
ジゾリアン「なぁ、時造じいさん!! 俺さぁ、今度結婚すんだよ」
おじいさん「本当か!?」
おじいさん「俺っちの美味いラーメンを食ってるからだなぁ」
ジゾリアン「ははっ、そうかもしれねぇなぁ」
ジゾリアン「なんかお祝いのメッセージをくれよ」
おじいさん「おいおい、俺っちはそんな事できねぇよ」
おじいさん「俺っちは美味しいラーメン作るしか”のう”が無いんだからよ!!」
ジゾリアン「はは、そのいつものセリフもらえるだけで嬉しいよ」

〇入り組んだ路地裏
識者「たしかに話し方が似ている・・・」
不動 明夫「というか一緒だね」
ジゾリアン「だろ!?」
識者「あと、少し気になったのだが、時造じいさんと呼んでいたようだが・・・」
ジゾリアン「ああ、それな。 あんまり知られてねーけど、JIZOUの由来はじいさんの本名の時造から来てるんだよ」
不動 明夫「え!?地蔵じゃないの!?」
ジゾリアン「それもあって不思議なんだよな・・・」
ジゾリアン「あんなにラーメンやじいさんの口調は完璧にコピー出来てるのに、地蔵の格好してんだから」
ジゾリアン「そもそも時造じいさんはクリスチャンだしな」
「!!!?」
識者「不動・・・」
不動 明夫「うん・・・ これはもう一度ラーメン地蔵に話を聞く必要があるね」

〇ラーメン屋のカウンター
識者「ラーメン地蔵・・・」
ラーメン地蔵「お、またアンタらか!! 俺っちは今ラーメンの仕込み中だからよ、また明日来てくれや!!」
識者「お前、さっきの話・・・ 嘘をついていただろう!?」
ラーメン地蔵「な、なんでぇ!! 薮から棒によぉ」
不動 明夫「時造じいさんはクリスチャンだった」
不動 明夫「仮に祈るとしても、対象は地蔵じゃない」
不動 明夫「さっきのアンタの話はあり得ないんだ」
ラーメン地蔵「・・・」
識者「お前はおそらく・・・」
識者「時造じいさんを・・・殺している」
ラーメン地蔵「んなっ!!」
識者「お前の能力はおそらく・・・」
識者「『対象の脳を食う事で、その知識と人格を得る事が出来る』といったところか・・・」
ラーメン地蔵「なんでぇ・・・ そこまで分かってんのかよ・・・」
ラーメン地蔵「ああ、そうさ。 俺っちは時造じいさんを食った」
不動 明夫「どうしてそんな事を・・・」
ラーメン地蔵「アンタなら分かるんじゃねーか!?」
ラーメン地蔵「特異地蔵はその本能には逆らえねぇ」
ラーメン地蔵「俺っち、ラーメン地蔵の場合は・・・」
ラーメン地蔵「美味いラーメンを作りたいという本能だ」
ラーメン地蔵「でも、殺す気はなかったんだぜ」
ラーメン地蔵「最初は作り方を教えて欲しいって懇願したさ」
ラーメン地蔵「でもよ、頑なに断り続けるもんだからよ・・・」
ラーメン地蔵「気づいた時には殺っちまってたよ」
ラーメン地蔵「それから、時造じいさんと同じ作り方で店をやってきたのさ」
識者「・・・」
識者「お前は・・・今日私たちの話を聞いていたよな!?」
識者「人に危害を及ぼした地蔵は破壊しなければいけないと・・・」
識者「何故逃げなかった!?」
識者「あんな嘘をついてまで・・・」
ラーメン地蔵「・・・俺っちのラーメンを待ってくれてる人がいるのに」
ラーメン地蔵「仕込みを放り出すわけにはいかねぇだろ」
ラーメン地蔵「それが俺っちが受け継いだじいさんの人格なんだからよぉ」
識者「・・・」
ラーメン地蔵「だがよ・・・ 俺っちにも分かるぜ、これは年貢の納め時ってやつだ・・・」
ラーメン地蔵「一思いにやってくれ・・・」
不動 明夫「抵抗・・・しないの!?」
ラーメン地蔵「へっ、言ったろ!?」
ラーメン地蔵「俺っちは美味いラーメンを作ることしか”のう”がねぇ」
ラーメン地蔵「戦闘力はねぇ 勝てるわけはないさ」
識者「・・・不動」
識者「頼む」
不動 明夫「・・・うん」

〇黒
不動明王地蔵「アンタのラーメン美味かったぜ!!」
  ・・・あばよ
  じいさんの意志を歪な形で引き継いだ時点で覚悟はしてたけどよ
  唯一の心残りは・・・
  俺っちの・・・時造じいさんのラーメンのノウハウが・・・
  この店が・・・
  終わっちまうってことだな・・・

〇ラーメン屋
  一週間後
不動 明夫「ラーメン地蔵の件は、後味の悪い仕事だったね」
識者「うむ・・・あの時はすまなかったな」
識者「しかし、近くに来たから寄ってみたが・・・」
識者「中に誰かいるぞ!?」
ジゾリアン「おお!! あんたらか!?」
識者「お前さんはあの時の!?」
識者「ここで何をしているんだ!?」
ジゾリアン「いやよー、あの地蔵みてーなやつもいなくなっちまったし、時造じいさんも戻ってこねーから」
ジゾリアン「ジゾリアン有志で店を引き継ごうと思ってな」
「え!?」
ジゾリアン「じいさんの味を完全には再現出来ねえけどよ」
ジゾリアン「ラーメンJIZOUを愛するジゾリアン達に満足してもらえるように頑張るぜ」
ジゾリアン「また開店したら、食べに来てくれよな!!」
不動 明夫「・・・たくましいね」
識者「受け継ぐってのはこういうことなのかもしれないな・・・」
識者「決して完璧では無くても、意志を・・・ 魂を受け継いで後世につなげる・・・」
識者「立派なもんだ」
不動 明夫「・・・」
識者「ああ!!どうしてもラーメンJIZOUが食べたくなってきた!!」
識者「不動!!関内店行くぞ!!」
不動 明夫「えー、今から関内行くのー」
識者「ほらほら行くぞ!!」
不動 明夫「まったく・・・」
不動 明夫「おじさんのバディの役目も誰かに受け継いでもらいたいよ」

次のエピソード:番外編 グンダー×グンダー

コメント

  • おじいさんは地蔵に店を任せることで半永久的に自分の味を提供し続けられるし、ラーメン地蔵は地蔵としての本能を満たせる…ある意味win-winな関係だったのかも…?
    考えさせられました🤔
    どこかで見覚えのあるジゾリアンと店長…(笑)

  • タイトルからネタ回かな〜?と思いきや…笑いあり感動ありドンデン返しありの神回でしたね😊
    識者のラーメンへの情熱(笑)
    面白かったです!

  • 10話目に相応しい神回だと思います!
    すごく、いい!
    言葉にならないほどツボりました、御馳走様でした🙏

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